浮気の仕返し大作戦 中編
「で……いつ実行するんですか? 先輩」
大雑把に言えば、俺がしずくと真由葉に二股掛けていると理解させるのが今回の目的だ。
実施しようと思えば、今すぐにも行動に移すことは可能。
しかし、今は合コンの最中。
この馬鹿げた案を実行するには望ましくない。
理想で言えば、他の人目がないタイミングで行いたい。
「合コンってファミレスで話して終わりじゃないよな? この後、カラオケとかに移動するイメージなんだけど合ってる?」
「私、合コンとか行ったことないのでわからないです」
自然と真由葉に視線の矛先を向ける。
「えっと……うん、ゆうくんの認識で合ってると思う。あたしもあんまり合コン行ったことないからサンプル数少ないけど……」
「ならそのタイミングだな。理想は、ファミレスから別の場所に移動している時に、真由葉の元カレが一人になる時を見つける。その時に作戦実行したい」
「そんな上手くいくかな……?」
「あのグループには俺の友達が一人参加してる。上手くいく保証はないけど、一人になるよう仕向けることはできると思う」
それよりも問題なのは如何に自然に振る舞うか。
どうせやるなら意趣返しした方いい。
真由葉は元カレが浮気している現場を偶然目撃した。
同じように、元カレも偶然、俺らを目撃したことにしたい。
「ともかく一旦は待機ってことですね」
「ああ。あいつらがココを離れるまでは勉強してようか」
「了解です。じゃあ、さっきの続きなんですけど──」
「ま、待って! それはちょっとマズいんじゃないかなっ?」
真由葉は勉強を再開を阻止してくる。
「マズい?」
「彼がまたコッチ側に来る可能性もあるでしょ? それに距離があるとはいえ、視認しようと思えば目の届く範囲だし……だ、だからその……」
しずくはシャーペンをテーブルに置くと、胡乱な眼差しを向ける。
「万全を期すために、今すぐに先輩とイチャイチャしたいってことですか」
「どうしてそういう言い方になるかな⁉︎」
「でもそうなりますよね」
「あたしはただ……ディティールをこだわりたいだけ」
考慮不足だな。
いや、意図的に考えないようにしていただけか。
真由葉の元カレが再びこの席に近づいてくる可能性はある。
だったら、今から二股かけている設定にして立ち居振る舞った方がいい。
「イチャイチャはともかく、俺が二人と付き合ってる設定で行動した方がよさそうだな」
「だ、だよね! じゃああたしもゆうくんのとこ行くね」
ホッと安堵の息をつき、真由葉は俺側のソファへと移動を試みる。
「いやいや三人で座るには手狭なんですけど。席配置まで変える必要なくないですか」
「でもあたしもゆうくんの彼女なら、隣じゃないとおかしくないかな?」
「おかしくないです。先輩の彼女としての序列だと思ってください。同じポジションでも差が生まれるのは至極当然かと」
「あたしの序列が下で確定してるのはおかしくないかな。そこは応相談すべき箇所じゃない?」
真由葉は額に青筋を立てて、頬をヒクつかせる。
「異議は受けてないです。ね? 先輩♡」
しずくは真由葉を一瞥すると、軽い口調で俺の腕に絡んでくる。
真由葉の青筋が更に色濃く刻まれていく。
「そっちがその気ならあたしだって……」
真由葉はポツリと呟く。
テーブルの下をくぐり、強引に俺の左隣へと強引に身体を滑りこませてくる。
「ま、真由葉?」
「今だけはゆうくんの彼女でしょ。だったらこのくらいいいよね」
しずくに対抗するかの如く、俺の左腕に絡んでくる真由葉。
同年代に比べてやたらと成長した胸が激しく主張してくる。
「なっ……せ、先輩! なに私以外の子で興奮してるんですか」
「し、してねぇよ。真由葉、ちょっとやりすぎ……」
「しずくちゃんは良くて、私はダメなの?」
「それはなんつーか……とにかく三人で座る用のソファじゃないし、俺があっちに移動する。それなら問題ないだろ?」
満員電車よろしくギュウギュウ詰めだ。
しずくも真由葉も華奢だから一応問題なく座れているが、手狭なことには違いない。
それに甘い香りが双方からして、頭がクラクラする……。
「ダメです。先輩の移動は許可できません。真由葉さんが移動してください」
「ヤダ。しずくちゃんは明日以降もゆうくんの彼女できるかもだけど、あたしは今だけだし」
双方譲ることはなく、その上、俺が移動することも許してもらえない。
頭を抱えたくても腕を絡まれてて、身動きできない状態だ。
ふと視線を感じて顔を上げる。と、そこには見知った顔があった。
「えっと、なんつうか……もう死んでくれ!」
「お、おい四谷!」
涙目になりながら駆け足でトイレへと向かう四谷。
一番よくないタイミングで四谷に見られた気がする……。
後で四谷の手を借りたかったんだけど、話を聞いてくれる気がしない。
この調子で大丈夫だろうか……。
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