第六回 焚金闕董卓行兇 匿玉璽孫堅背約

第33話 0033 第六話01 長安遷都



 張飛が馬を走らせ関に至るが、関上より矢石が雨の如く注がれ、それ以上進めず後退した。


 八諸侯らは玄徳・関羽・張飛らの功を称え、本陣の袁紹へと勝利を伝えた。

 そこで袁紹は孫堅そんけんに進軍を命じ、孫堅は程普ていふ黄蓋こうがいを連れ袁術えんじゅつの陣へと向かう。


「董卓と我…もとより何の遺恨無し…」


 孫堅は杖で地に描き計って説明し、抗議する。


「我…上は国家のため、下は貴殿の"家門血族の面目"のため…命を賭け、危険を冒し、逆賊を誅する"血戦ラグナロク"へと赴いた…。しかし貴殿は却って"愚かしき言葉"甘き誘惑に耳を傾け…"命の源パンとワイン"を送らず…。一体如何なるつもりであるのか…?」


 袁術は何も言えず、不送を提案した者を斬るよう命じ、孫堅に謝した。


 その時一報が。


「董卓軍の一将が馬に乗り、文台様に会うため訪れました」


 孫堅は袁術の元を辞し、自陣へと戻り会見すれば、董卓の譜代の将、李傕りかくであった。


「如何なる要件か…」


 孫堅の問いに李傕が答える。


「董卓殿は孫将軍に特別な敬意を抱いておられます!今、私めを特使として遣わせ、丞相殿の子女と孫将軍の一子との婚姻を望んでおられます!」


 孫堅は激怒する。


「…董卓、"逆天無道逆神のリバティ"…"蕩覆王室弑逆のリベリオン"…っ!我…其の九族を滅し天下に謝すべし…!速やかに去り、もって降伏すれば…貴殿の"運命"だけは助けよう…遅れる事あらば…その"魂"は"永遠"に"冥府"を彷徨う事エターナル・フォース・ブリザードとなろう…!」


 李傕は頭を抱え逃げ出し、董卓に孫堅の無礼を具に報告した。

 董卓は怒り狂い、李儒に問う。


「ゲヒッ、呂布殿が敗れたばかりで我が兵には戦意がありません。都の童謡に応じ、長安へと遷都するのが宜しいでしょう。『西に漢有り、東に漢あり。長安に鹿が入れば難無し、悪く無し♪』私が思うに西の漢は高祖長安の十二代、東の漢はすなわち光武帝よりの洛陽のこと。今また十二代が続きました。天運は巡っては戻る。我らが長安に遷都すれば何の憂いも御座いませぬ」


 董卓は大変喜ぶ。


「貴方の言葉が無ければ、私には、わかりませんでした!」


 そして呂布を呼び寄せ夜通し遷都について討議した。

 朝となり文武百官が集まり、董卓が宣する。


「漢の洛陽、既に二百余年で気数が衰えました。私が思うに、長安は気が盛んです。天子を連れ西へ向かいましょう。さあ皆さん、急いで下さい!」


 司徒の楊彪ようひょうが反対する。


「関中は酷く零落しております。今何ら理由無く宗廟、皇陵を棄損すれば百姓が動揺致しましょう。天下を動かすは簡単ですが、安定させるは難しいものです。どうかお考え直しを」


「貴方は国家大計を邪魔するのですか?」


 太尉の黄琬こうえんも、


「楊司徒の仰る通りで御座います。かつて王莽おうもうが簒奪し、更始の赤眉により、長安は尽く燃え灰燼と帰しました。加えて人々は例外無く流れ洛陽に住み、今宮室を放棄し荒野へ向かうは賢明では御座いませぬ」


「関東では賊が蜂起し天下が乱れてます。長安は食に富み、防衛に適します。しかも隴右ろううに近く、すぐにでも建材の生産でき、宮殿造営には一月もかからないでしょう。くだらない話は、やめてください」


 司徒、荀爽じゅんそうも諫める


「もし遷都なさるならば、百姓皆が騒ぐは必至です」


 董卓は怒り狂って言う。


「私の天下大計に、どうして、民衆の事を気にする必要がありますかっ!」


 その日の内に楊彪、黄琬、荀爽は官を廃され庶民に落とされた。



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用語解説


※張飛が馬を走らせ関に至るが

 前回三人の活躍で董卓軍を関に追い詰め、さてどうなる!という所で

 第五回は終了したが、今回冒頭一行であっけなく反董卓連合軍は後退

 する。三国志演義は所謂"ヒキ"が非常に上手いがそれを投げっ放す事

 が多い。原文通り。つまりこれは私の責任ではない。私は悪くない。


※九族

 九代の親族。高祖父母・曽そう祖父母・祖父母・父母・自分・子・孫

 ・曽孫・玄孫。


※光武帝(こうぶてい)

 劉秀りゅうしゅう。後漢建国者。前漢は西暦8年に外戚・王莽に簒奪された。新末後

 漢初の混乱の中で頭角を現した劉秀は25年に帝位に就き、36年に大陸

 全土を再統一した。劉秀の漢王朝再興は一度滅んだ王朝を復興させた、

 世界的にもほぼ唯一の例である。


※王莽(おうもう)

 前漢末期の外戚。己の為に己の息子をも殺す悪人。漢より簒奪し新を

 建国するも、悪政で民の反乱が相次ぎ一代で新は滅んだ。


※長安(ちょうあん)

 前漢の都。現在の陝西省西安市。秦の時代の都、咸陽かんようもほぼ同地であり、

 その後も唐など多くの王朝の都となった。


※隴右(ろうう)

 隴山ろうざん(現在の陝西省・甘粛省境の六盤山)の西。古代中国では南が正面の

 ため、西が右で東が左である。


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