第18話 0018 第三話05 呂布奉先という男



 酒宴が終わり、董卓が剣を手に園門の下で立っていると、突然戟を持った男が馬に乗って門外に現れる。


「…あれは誰ですか?」


「奴は呂布りょふ 奉先ほうせんゲヒ。奴はヤバそうなんで避けましょう」


 李儒の答えに、董卓は園の中に入った。


 次の日、丁原が城外で陣を張り挑発してるとの報告が入る。

 董卓は怒り狂い、李儒を率いて迎撃する。


 両陣は向かい合かい合う。


 丁建陽の陣に見えるは髪を金冠で束ね、百花の戦袍を羽織り、唐猊とうげいの鎧甲に身を包み、獅蛮の宝帯を腰に締め戟を掲げる呂布奉先。


 丁原が董卓を指差し罵倒する。


閹官えんかんが権力を握り、国家が不幸に陥り、万民の塗炭の苦しみの中、尺寸も功無きお前が軽々しくも廃立を口にする…!朝廷を、天下を乱そうというのかっ!」


 董卓が答える間もなく呂布が一直線に駆けてくる。

 慌てて逃げ出した董卓を丁原は追撃、大敗を喫した董卓軍は三十里余り後退する。


「呂布は、とても素晴らしい人だと思います。もし彼を得たならば、天下も夢では無いでしょう」


 帷幕の前に一人が進み出る。


「ご安心下さい董卓様、私めは呂布と同郷で旧知で御座います。彼は勇猛なれど無謀、利で恩義を忘れる男です。私めが説得し、帰順させましょう」


 虎賁中郎将こほんちゅうろうしょう李粛りしゅくの言葉に董卓は喜ぶ。


「どのように、説得しますか?」


「董卓様は日に千里を駆けるという名馬、赤兎せきとをお持ちと聞きます。赤兎と金珠を以て説得すれば、呂布は必ずや丁原を裏切り董卓様の元へ走るでしょう」


 董卓は李儒に伺う。


「…どうですかね?」


「ゲヒヒ、董卓様は天下を手にするお方。何を馬一匹惜しむ事がありましょうか!」


 董卓は大喜びで李粛の策を受け入れ、更に黄金一千両と数十個の真珠、玉帯も付け加えた。


 李粛は礼物を受け取り呂布の元へと向かう。兵士たちが道で取り囲む。


「呂将軍に伝えてくれ!旧友が来たと!」


 兵が伝え、呂布は会見する。


「よう兄弟!元気か!?」


 李粛の言葉に呂布は揖礼ゆうれいして返す。


「おう李粛か!ひっさしぶりだなあ!オメー、今何やってんだ!?」


「今、虎賁中郎將に任命されてな。呂布、お前が匡扶社稷きょうふしゃしょくに勤めてると聞いてとても嬉しいよ。…いや、良い馬が居てな。山河を平野の如く、日に千里を駆ける。赤兎馬ってんだ。きっと、お前の武勇の助けになると思う。おう、連れて来てくれ」



 果たしてその馬は全身炭の如き赤。

 一切の無駄毛無く、頭より尾先は一丈、蹄より頂は八尺。

 空へ舞い上がるかのよう咆哮する。



 奔騰千里蕩塵埃,渡水登山紫霧開。

 掣斷絲韁搖玉轡,火龍飛下九天來。





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用語解説


※丁建陽(ていけんよう)

 丁原。字は建陽。


※戦袍(せんぽう)

 陣羽織。


※唐猊鎧甲(とうげいがいこう)

 狻猊さんげいの鎧。伝説上の獅子を模した鎧。


※閹官(えんかん)

 宦官。


※虎賁中郎将(こほんちゅうろうしょう)

 皇帝直属の宮殿衛士。戦時には騎兵などに充てられた。


※更與黃金一千兩

 暴虐な董卓ではあるが意外と部下には太っ腹でプレゼント好き。


※拱手(きょうしゅ)

 中国の敬礼。手を前に組み合わせての礼。


※揖礼(ゆうれい)

 拱手してのお辞儀、挨拶。

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