第17話 0017 第三話04 董卓の提案



 董卓は何進かしん兄弟配下の軍を併合し、その全てを支配下に置いた。


「私は皇帝を廃し、陳留王を立てたいのですが、如何ですか?」


 董卓の問いに李儒りじゅが答える。


「ゲヒヒ。今宮廷に主は居ないゲヒ。状況が変わらぬうち百官を招集して廃位を提言し、従わぬ者は斬り殺しましょう、我らを盤石にするためには仕方ない犠牲ゲヒ!」


 董卓は喜び、次の日には閣僚全てを招いて宴会を開く。

 公卿百官、皆董卓を畏れ出席せぬ者は居なかった。

 皆が到着して席に座った後、董卓は園門の下で悠然と馬を降り、帯剣したまま席に向かう。


 酒が数巡し、董卓は酒と雅曲を止めさせ、厳しい声で宣する。


「皆様、私に一つ、考えがあります。どうか御静聴下さい」


 皆が耳を傾ける。


「天子は万民の主、威儀無くば社稷しゃしょくを真っ当する事は出来ません。今上陛下はアホの子で、陳留王殿程に賢くはありません。私はアホの帝を廃し、陳留王を帝に立てようかと思います。皆様、如何でしょうか?」


 百官は聞き終わるも、誰も声を上げる事が出来なかった。


 すると席に居た一人が机を前に押し出し、立ち上がる。


「不可!不可!そのような大言、よくぞ言えるものよ!一体何様のつもりか!天子は先帝の嫡子であり、一体何故、何の落ち度無く廃位を口にせねばならぬのか!?…己は反逆者となるつもりかっ!」


 それは荊州けいしゅう刺史しし丁原ていげんであった。

 董卓は怒り狂う。


「私に従う者は生き、逆らう者は、死にます」


 董卓が剣を抜き、丁原を斬ろうとしたその時、李儒は丁原の後ろに居るかなりヤバそうな男に気付く。とにかくガチでヤバそうな目で此方を睨んで、かなりヤバイ。


「まあまあ!今日は楽しいレッツパーリィ、まつりごとを語る場では御座いません!また別の機会にでも、決して遅くは無いゲヒヒ!」


 周りの者は皆、丁原に馬に乗り去るよう勧める。


「…私が言ったことは、間違ってますか?」


 董卓の問いに盧植が答える。


「…大董卓閣下様の間違いで御座いますな。昔、殷の太甲が政治を乱した折に伊尹いいんはこれを桐宮に追放しました。昌邑王しょうゆうおうが帝位に就き二十七日、三千に昇る暴虐のため霍光かくこうに廃されました。今上陛下は幼くとも聡明仁智、分毫ふんごうの過失も御座いませぬ。大董卓閣下様におかれましては外郡の刺史であり、基より国政に口を差し挟む資格も御座いませぬ。また、伊尹、霍光のような才も御座いませぬ。聖人曰く、『伊尹ならば良し、そうでなくば簒奪さんだつに過ぎぬ』。…つまりはお前何様だよ、タヒねバーカ、百回タヒね!…という感じで御座いましょうな。ファ〇ク。」



 董卓は激怒し、剣を抜いて盧植を斬り殺すため足を踏み出す。


盧尚書ろしょうしょは海内の人望があります!彼を殺せば天下の非難を浴びますぞ!」


 議郎の彭伯ほうはくが諫め、董卓はその手を止める。


「廃立につきましてはこのような酒席ではなく、また日を改めましょう」


 司徒の王允がなだめ、こうして百官は皆、解散した。





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用語解説


※殷(いん・商)

 前17世紀~紀元前1046に存在した古代王朝。半ば伝説的であったが

 殷墟で甲骨文字が発見されるなど、考古学的研究が進んでいる。


※太甲(たいこう)

 殷の第四代王。


※伊尹(いいん)

 殷の伝説的な政治家。国政を乱した王、太甲を追放した。


※霍光(かくこう)

 前漢の政治家。横暴を重ねた昌邑王劉賀を二十七日で廃した。


※刺史(しし)

 州の長官。牧、州牧とも。後漢時代には兵権も与えられた。


※簒奪(さんだつ)

 王侯などの位を奪い取ること。


※尚書(しょうしょ)

 上奏を扱う尚書省の長官。尚書令とも。


※議郎(ぎろう)

 最も地位が高い郎官。郎官は元は守衛の役職だったが後漢代では文官

 としての役割が大きくなり、高官への登竜門であった。

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