第29話 0029 第五話04 華雄来来


 その夜は月白風清であった。


 深夜、軍鼓を打ち鳴らしての突撃。

 孫堅そんけんは慌てて鎧を着て馬に乗り出るが、その正面に華雄かゆうが。刃を交える両者。

 数合打ち合ってると、後方より李粛りしゅく軍が至って火を放つよう兵に命じ、孫堅軍は混乱に達し、四方に逃走し始めた。

 将軍たちは混戦の中で包囲を突破、孫堅に続くは祖茂そもだけであった。


 背後から華雄が迫る。


 孫堅は弓を取り連射するも華雄に全て躱される。再び矢をつがえると、力を込め過ぎたか、鵲画弓しゃくかくきゅうは折れてしまい、ただ弓を棄て走るだけであった。


「文台様のその頭上、赤い頭巾を目印にして奴らは追ってます。それを外し、それがしのこれを…!」


 孫堅は頭巾を外し祖茂の兜と取り換え、二手に分かれ逃走する。

 華雄軍はただ紅い頭巾の者を追い、孫堅は隘路より追手を振りきった。


 祖茂は華雄の追撃を受け、人家の庭柱に赤い頭巾を掛け、林に隠れる。


 華雄は遠くより月の光に照らされる赤い頭巾を見つけ、人家を包囲し遠くより矢を放ち、敢えて近づかぬが、やがてその計略を悟り、進み出て頭巾を掴む。

 その時。祖茂が林より飛び出し双刀を手に華雄に挑むも、華雄の大喝と共に、一刀の元に斬り捨てられた。


 闘いは夜明けまで続き、やがて華雄は汜水関に引き返す。


 程普、黄蓋、韓当ら皆が孫堅を見つけ出し、軍馬を収拾し屯営する。

 孫堅は祖茂の死に悲しみ絶えず、急ぎ袁紹に報告した。




「ふぁーっ!まさか孫文台が華雄に敗れるとは…っ!」


 袁紹は諸侯を招集し軍議を開く。皆が集うも公孫瓚のみ遅れたため、袁紹は公孫瓚こうそんさんに帷幕に入るよう催促した。


「先日、鮑信ほうしん殿の弟が命令に従わず勝手な進軍で敗北、彼と数多の軍士がその命を落としました…。そして今、孫文台も華雄に敗れました。どうしましょうかっ…!うぇぃっ!?」


 諸侯は皆口を開く者は居なかった。

 袁紹が目を上げ皆を見回すと、公孫瓚の背後に立つ三人に目が留まる。


 なんかもう、凄い容貌。とにかく凄い。なんやこいつら。


 皆が彼らを冷笑する。…お前らも冷笑系か。

 袁紹が問う。


「公孫瓚殿、貴公の後ろの者達は…?」


 公孫瓚は玄徳を呼び、紹介する。


「彼は平原県令の劉備。私の幼い頃よりの同輩、兄弟だ」


 曹操そうそうが尋ねる。


「おお!もしや黄巾討伐の英雄…劉玄徳殿ですか!?」


「うむ」


 公孫瓚の答えに曹操は玄徳への拝礼を促し、公孫瓚も玄徳の功とその出身、経緯を説明する。


「おお、漢の宗家だったとは!是非座って下さいっ!ふぅーっ♪」


 玄徳は謙虚に断るも、


「私は貴方の官爵を問うてなく、漢室の一員として敬意を表してますっ!」


 こうして玄徳は末席に座り、関羽と張飛が叉手してその後ろに立った。





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用語解説


※月白風清(げっぱくふうせい)

 月が白く輝き風がそよいでる。秋の夜の形容。


※鵲画弓(しゃくかくきゅう)

 カササギで飾られた孫堅の弓。単に鵲画とも。あんま有名じゃない。すぐ

 折れたし。


※是非座って下さいっ!ふぅーっ♪

 劉氏はこの世に数多に居り、劉備と違い正真正銘近しい皇族も多く居る。

 袁紹は劉備を諸侯の末席に遇する事で曹操と公孫瓚に配慮したと言える。


※叉手(さしゅ)

 拱手。


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