第15話 015 第三話02 宦官の滅亡



 張譲ちょうじょうらが何進かしんを殺し、いくら待てど出て来ないため袁紹は門の前で叫ぶ。


「将軍の車を出せ!うぇぃっ!」


 張譲らは何進の首を放り投げ、告げる。


「何進は謀反を起こそうとしたため誅殺した。…貴様らは大人しく従うならば許してやろう」


「うっ…うぉうぇぇい!?おのれ宦官どもっよくも何進殿を殺したな!皆の者、これより悪逆な宦官どもを誅殺するっ!!」


 何進の武将、呉匡ごきょうが青瑣門に火を放ち、袁術は兵を率いて宮庭に突入する。

 兵は宦官と見ると、長幼の別なく皆殺し始めた。

 続いて袁紹と曹操も突入し、趙忠、程曠ていこう夏惲かうん郭勝かくしょうら四人を翠花楼の前で斬り殺し、肉泥にした。南無。

 宮中の火焔は天まで昇る。

 張譲、段珪、曹節そうせつ侯覧こうらんらは太后と皇帝の劉弁、陳留王の劉協を連れ北宮へと逃げ出した。

 官を辞した盧植はまだ都に留まっており、宮中の事態を知り鎧に身を包み楼閣の元へと駆けつけていた。何太后を引っ張り逃げる段珪を見るなり叫ぶ。


「おいクソ段珪!太后をどこへ拐す気だ!ファ〇ク!」


 段珪は踵を返して逃げ出し、盧植は窓より身を乗り出す太后を助ける。


 呉匡は内庭に押し入り、何苗かびょうを見つけ抜刀して叫ぶ。


「何苗よ!貴様も何進様を殺した同罪だっ!」


 兵士も叫ぶ。


「この兄殺しの逆賊めが!この兄殺しの逆賊めが!」


 何苗は逃げようとするも四方を囲まれ、なます斬りとなった。南無。


 袁紹もまた手分けして兵士に宦官らを殺すよう命じ、長幼問わず皆を殺し、髯が無いために誤って殺された者も多かった。

 一方曹操は宮殿の消火に努め、張譲らの捕縛、及び少帝を保護するための派兵を何太后に請うた。


 張譲と段珪は少帝と陳留王を連れて燃え盛る宮殿を逃れ、夜の中、北邙山へと逃走していた。


 三更頃、背後より歓声と共に追手が大挙する。


「逆賊め!止まらぬかっ!」


 河南中部掾吏えんり閔貢びんこうが叫ぶと、張譲は遂に、河に身を投げるのであった。


 少帝と陳留王は事態を飲み込めず、声を上げる事も出来ずに川辺の草中に伏していた。

 帝達を見つける事無く軍馬が去り、帝らは四更頃まで隠れ、霜が降りた空腹の中で抱き合い、泣いていた。誰かに気付かれたようで、思わず声を飲み込む。


 陳留王が帝に告げる。


「このまま長く留まる事は出来ません…。どうにか、活路を見出しましょう」


 そして二人は互いの服を結んで岸に昇る。昏い大地は荊に満ち、行く道も見えない。


 その時突然、数千の蛍の群れが光を成して、二人の前を指し示す。


「天が我ら兄弟を助けたもうた!」


 光を追いかけ漸漸ようようと二人は進む。


 五更に至り、足の痛みで動くもままならず、山影の干し草の端に二人は横たわる。干し草の前には一軒のあばら家が。


 家主は二つの日輪が村の後方へと落ちる夢に、飛び起き外を見る。


 裏手の干し草の、天へと昇る紅い光に慌てて見ると、そこには二人の子が横たわっていた。

 家主は問う。


「あんらぁ、君らはどこン子ね?」


 帝は答えられず、陳留王が帝を指して言う。


「彼は今上陛下です。十常侍の騒乱に遭い、逃れてきました。私は弟の陳留王です」


 家主は驚いて拝し、


「…私めは先の朝廷、司徒崔烈さいれつの弟、崔毅さいきに御座います。十常侍の売官に嫌気が差し、こちらにて隠棲しておりました」


 そうして崔毅は二人を家に招き、酒食を供するのであった。





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用語解説


※貴様らは大人しく従うならば許してやろう

 この状況でここまで強く出るのは相当にズレていると言える。

 何進を殺めれば決して自分達の命は無い状況であり、ともすれば、

 彼らは本当に気が触れてしまっていたのかもしれない。にゃんにゃん。


※翠花楼(すいかろう)

 洛陽宮にあった楼閣の一つ。


※剁為肉泥(タイジクデイ)

 三国志演義原文ではストレートな表現が割と頻繁に見られる。こわい。


※北宮

 洛陽宮は北宮と南宮の二つに分かれ、二宮を結ぶ連絡橋があった。


※髯が無いために誤って殺された者

 宦官には髯が無いため。


※北邙山(ほくぼうざん)

 洛陽東北にある山。後漢王侯が多く葬られた。北山とも。


※三更・四更・五更

 三更=深夜0:00時頃。四更=2:00時頃。五更=4:00頃。


※掾吏(えんり)

 下級官吏。


※漸漸

 漸うと。々は日本独自の国字であるため中国では存在しない。


※司徒

 司空・太尉と並ぶ三公の一。

 後漢の三公は長く実務における最高官僚であった。


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