第37話  0037 第六話05 連合の崩壊



 翌日、董卓を追撃していた曹操が滎陽けいようで敗れ敗走してきたとの報告があった。

 袁紹は人を遣わし曹操を本陣に呼び、皆で慰労した。


 歎息して曹操が言う。


「私は国の為大義を掲げ、董卓を討とうとした。諸侯らも同じであろう。本初殿が河内の兵を率いて孟津、酸棗を臨んで圧迫し、諸侯らは成皋とその輜重を守って拠し、轘轅、大谷を塞いでそれら険要を守り、公路殿が南陽の軍を率いて丹、析に駐して武関に入り、以て三輔を睨み、皆は深溝高塁、闘う事無く天下の形勢を示し逆賊達に対する確固たる勝勢を築けた。ためらわば、天下の希望を失う事となる。私はそれが恥ずかしい」


 袁紹らは何も言えず押し黙る。

 宴が終わり、曹操は袁紹らが異心を抱いている事を悟り、軍を率いて揚州へと去っていった。


 公孫瓚こうそんさんが玄徳らに言う。


「袁紹は無能だ。時を逃せば機を逸する。我らも帰ろう」


 そして公孫瓚は陣を引き上げ北へ向かう。平原に至り、玄徳に平原相を命じ、自らは拠点の防衛に戻った。


 兗州太守の劉岱りゅうたいは東郡太守の喬瑁きょうぼうに糧食を借りようとしたが、喬瑁がこれを断ると、劉岱は軍を率いて喬瑁を攻め殺し、その兵を皆配下にした。


 袁紹も各々の諸侯が散るのを見ると、陣を引き上げ洛陽を離れ、関東へと去っていった。



 さて、荊州刺史の劉表りゅうひょう、字を景升けいしょう。彼は山陽高平出身で、乃ち漢室の宗族である。

 幼い頃より七人の名士を友とし、「江夏八俊」と号した。


(注:この七人の紹介は飛ばして良いです)

 汝南の陳翔、字を仲麟。

 同郡の范滂、字を孟博。

 魯国の孔昱、字を世元。

 渤海の范康、字を仲真。

 山陽の檀敷、字を文友。

 同郡の張倹、字を元節。

 南陽の岑晊、字を公孝。


 劉表は彼ら七人と友であり、また延平の蒯良かいりょう蒯越かいえつ、襄陽の蔡瑁さいぼう。彼らの補佐を受けていた。


 袁紹の手紙を読んだ劉表は蒯越と蔡瑁に命じ、一万の兵を以て孫堅の前に立ち塞がった。


 孫堅軍が至り、蒯越が兵を展開させ軍の前に立つ。


「…何故、蒯異度が"我の前に立ちふさがるドン・ストップ・フォーリン・ラブ"のか…」


「汝は漢の臣でありながら、何故伝国の至宝を着服するのか?速やかに明け渡し、去るがよい!」


 孫堅は激怒して黄蓋こうがいを出撃させ、蔡瑁が迎え撃つ。


 数合打ち合った所で、黄蓋の揮う鉄鞭が蔡瑁の護心鏡を正面より撃ち抜いた。

 蔡瑁は馬を返して逃走する。

 孫堅は勢いに乗り国境付近まで追撃するが、後方の山から金鼓が鳴り響く。劉表自ら軍を率いて攻めてきたのだ。


「景升殿は何故袁紹を信じ…隣県を侵すのか…っ!」


 敬礼して問う孫堅に劉表が答える。


「ん~、でもね?ほら、伝国璽を隠して、叛逆してるでしょ?んっ?」


「もし我の元にそれがあったならば、我は"刀矢の下に死を迎えるエターナル・フォース・ブリザード"であろうっ!」


「ん~、では荷車を改めさせて貰っても宜しいでしょうか?んっ?」


「…貴殿にどれ程の権利があるというのか…我を舐めて頂いては困る…っ!」


 あくまで抵抗しようとする孫堅に、劉表は身を下げる。


 孫堅が馬に乗り突撃しようとした所に、伏せていた蒯越と蔡瑁が後方より襲い掛かり、孫堅は包囲されてしまった。



 玉璽得來無用處,反因此寶動刀兵。

 畢竟、孫堅は如何に窮地を乗り切るのか。

 且聽下文分解。





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用語解説


※孟津(もうしん)

 現在の河南省洛陽市孟津区。


※酸棗(さんそう)

 現在の河南省新郷市延津県。滎陽のちょい北。植物のナツメの意味も

 あるので注意。


※成皋(せいこう)

 現在の河南省鄭州市鞏義市付近。洛陽の東、滎陽の西。


※轘轅(かんえん)

 轘轅関。洛陽付近の八つの関、洛陽八関の一つ。現在の河南省洛陽市

 偃師区付近。


※大谷(たいこく)

 洛陽八関の一つ、大谷関。現在の河南省平頂山市汝州市臨汝鎮南部。


※丹(たん)

 弘農郡丹水か?(河南省南陽市淅川県)


※析(せき)

 当時の弘農郡析県。現在の河南省南陽市。


※武関(ぶかん)

 長安南の関所。


※三輔(さんぽ)

 長安付近、関中のこと。今回も曹操のせいで解説文に苦労した。

 クソこんちくしょうが。


※袁紹らが異心を抱いている事

 すなわち己が漢朝に取って代わる乱世を望んでいるに他ならない。


※蒯異度(かいいたく)

 蒯越、字を異度。"いど"とは読まないらしい。そうだったのか…。


※敬礼して問う孫堅

 この時劉表は年長で、かつて清流派として宦官に排斥された過去と刺

 史として荊州を安定支配した実績を持つ名士である。連合の十八諸侯

 の誰よりも名声があり、精神的に格上であったかもしれない。


※護心鏡(ごしんきょう)

 鎧の中心部にある部分。心臓を守るため刃矢が跳ね返り易いよう盛り

 上がった形状をしている。作中では打撃武器である鉄鞭によりここが

 打ち砕かれたということであろう。こうした形状の急所を重点的に守

 る鎧は世界各国に見られ、ミラーアーマーと呼ばれる。



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