第6話 006 第一話05


 玄徳らが広宗の盧植ろしょくの軍営に入りその来意を告げると盧植は喜んだ。


 広宗では張角軍十五万、盧植軍五万で拮抗していた。


「今私は張角を足止めし、潁川えいせん皇甫嵩こうほすう朱儁しゅしゅんが張角の弟張宝・張梁と対峙している。君に千の兵を預けるので動静を見て助けて来て?」


 玄徳は星夜に軍を率い潁川へと向かう。


 その頃、皇甫嵩と朱儁は賊軍を押し、不利な賊軍は長社ちょうしゃに退がり陣を張っていた。

 皇甫嵩らは「奴らの陣は草が多い、火攻めが良かろう」と兵に束草を持たせ暗闇の中に忍ばせた。

 深夜、大風が吹く中に一斉に火を放ち、それぞれが兵を率いて陣を攻撃した。

 火焰は天まで上り、賊軍は馬の鞍も我が鎧も着ぬままに驚き慌て四散する。

 夜明け間近には敵将張宝と張梁は敗軍を率いて逃げ出した。



 突然、尽くに紅旗を掲げる一軍が現れる。


 

 紅旗の一軍は賊の正面から退路を塞ぎ、一将が進み出た。


 身長七尺,細眼長髯。姓は曹、名は操、字は孟德。

 沛國譙郡の騎都尉、曹操そうそう 孟徳もうとくその人である。


 元は夏侯氏である父曹嵩そうすうは中常侍・曹騰そうとうの養子となり曹氏となった。

 幼名阿瞞あまん、後の曹操は幼少より狩猟や歌舞を好み、権謀術数に長けていた。

 ある時叔父が遊び惚ける曹操を見かね、父曹嵩に言いつけ曹嵩は曹操を叱る。

 曹操は一計を案じ、叔父が来た時にわざと倒れて脳血管障害を装った。叔父が驚き曹嵩を呼ぶが、曹嵩が見るに曹操は平気な様子である。


 「お前、脳血管障害は治ったのか!?」


 「私は脳血管障害ではないです。思うに、叔父は私を嫌いです」


 父はその言葉を信じ、その後叔父が何を言っても曹嵩は聞く耳を持たなくなってしまった。


 時に橋玄きょうげんと言う者が言った。

 「天下乱れる今、天賦の才無くばこれを救えない。それは曹孟徳であるかもしれない」


 南陽の何颙かぎょうは曹操を見て言った。

 「漢室まさに危うき今、天下を安んずる者は彼であろう」


 汝南の許劭きょしょうは人相見で有名であった。


 「私はどうですか?」


 曹操が彼の元に赴き尋ねるが、許劭は答えない。


 「私はどうですか???」


 しつこく尋ねると


 「平和な世では良い奴、乱れた世ではヤベー奴やな」


 それを聞いた曹操は滅茶苦茶に喜んだ。これ喜ぶの確実にヤベー奴。


 歳は二十になって孝廉に推挙され、郎官となり洛陽の北都尉となった。

 着任してすぐ五色棒を四門に設置した。

 犯罪者は身分に関わらずこれでぶっ叩いた。

 中常侍の蹇碩けんせきの叔父が刀を携え夜に行き、曹操が捕まえ、即座にぶっ叩いた。

 これにより威名が轟いた。


 後に頓丘令を経て、黄巾の乱が始まり、騎都尉に命じられる。

 そして五千の兵でもって潁川へ来たのであった。

 丁度張宝・張梁が敗走し、そこに曹操が踊り込み、数万の首級を上げ、数限りない軍備品を奪った。


 張宝らはなんとか逃げ延びるが、曹操は皇甫嵩・朱儁と共に追撃を開始した。


 且聽下文分解。



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用語解説


広宗こうそう

 現在の河北省邢台市広宗県。

※皇甫嵩・朱儁

 後漢末期の将軍。二人ともデキる男。

長社ちょうしゃ

 現在の河南省許昌市長葛市。

※火攻め

 黄巾賊は戦闘の素人のため軍法を学んだ官の将軍による火攻めや伏兵で幾度も敗北する。

※曹操 孟徳

 劉備 玄徳の終生のライバル。三国志の裏主人公とも言える存在。

 あらゆる才能に長けた天才肌だが身長だけは控えめ。

※曹氏・夏侯かこう

 どちらも漢朝の元勲の家系。

※子治世之能臣,亂世之奸雄也。

 そりゃ言い淀みますわね。しかし曹操はこの言葉に喜ぶようなアレであった。

孝廉こうれん

 郷挙里選(役人登用試験)の科目の一つ。

 推挙され郎となった後、各所に選抜される。清廉な者が推挙されるはずだが、

 後漢時にはコネが蔓延り曹操は推挙されてしまう。

※五色棒

 ならばよし!


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