第5話 005 第一話04



 日を経たず、黄巾賊将・程遠志ていえんしが五万の兵でもって涿たく郡に迫ったという報せがあった。


 劉焉は鄒靖に玄徳達を従わせ出撃させた。

 玄徳らは士気高く前進し、大興山に至り、賊軍と相見える。

 賊軍は皆髪をひらき黄色い頭巾を被っている。

 玄徳が出馬し、左に雲長、右に翼徳が展開し、鞭を揮って大喝する。


「反逆者共よ!降伏せよ!」


 程遠志は怒って副将の鄧茂とうもを出撃させた。

 張飛が蛇矛だぼうを揮うと、心臓を貫かれた鄧茂は身を翻して落馬する。はや。

 程遠志はそれを見て刀を手に馬を走らせ、張飛へ向かった。

 雲長も大刀を手に馬を走らせる。

 程遠志は不意の関羽に驚き反応が遅れ、その長刀により両断された。はっや。



 英雄露穎在今朝、一試矛兮一試刀。

 初出便將威力展、三分好把姓名標。



 賊衆は程遠志が斬られたのを見ると、を放り出して逃げ出した。

 玄徳はそれを追撃し、投降者は数え切れず、大勝して帰投する。

 劉焉は自ら出迎え、軍士達の労を労った。


 次の日、青州の太守・龔景きょうけいからの救援要請が来る。

 黄巾賊に城を包囲され、まさに落ちる所であるという。

 玄徳は劉焉と協議し「劉備、行きたい。」と言いだした。

 劉焉は鄒靖に五千の兵を与え玄徳らを青州へ向かわせた。


 賊軍は援軍を見るや、兵を分け混戦となった。

 数が少ない玄徳軍は敵わず、三十里後方に退がった。

 玄徳は関羽・張飛に言う。


「賊衆多く我らは少ない。策をもって勝つべし?」


 そして関公と張飛にそれぞれ千人の兵を分け山の左右に伏させた。


 次の日、玄徳と鄒靖は鼓を鳴らして前進し、賊軍に当たると後退させた。

 賊衆は勢いに乗り追撃するが、山を過ぎた所で玄徳は一斉に金鼓を打ち鳴らし、左右から伏兵が出撃、玄徳らも軍を反して突撃する。三路から包囲された賊軍は崩壊、追撃が青州城に至り、太守・龔景も出撃して賊軍は壊滅した。

 ここに青州の包囲は解かれた。



  運籌決算有神功、二虎還須遜一龍。

  初出便能垂偉績、自應分鼎在孤窮。



 龔景が軍を労い終わり鄒靖が幽州に戻ろうとすると、


「広宗で中郎將ちゅうろうしょう盧植ろしょくが賊の頭領・張角と戦ってるらしいが?」

「私の師匠なので助けたいのだが?」


 と玄徳が言い出した。自由だな。

 そうして玄徳らは鄒靖と別れ、元の義勇軍五百人を連れ広宗へと向かう。


 且聽下文分解。




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用語解説


※程遠志

 黄巾賊の将軍。

 正史には存在しない、演義で創作された架空の人物。

 大志を抱き旅立つ主人公達が物語において初めて戦い

 瞬殺される敵が、程遠い志、と。

※はっや

 三国志においてその一騎打ちの描写は割と簡潔な描写が多い。

 でも演義はまだ良い方で、作者は昔、封神演義の訳を読んで

 そのあまりにあっけなさ過ぎる描写にビビったことがある。

※英雄露穎在今朝、一試矛兮一試刀。

 演義において、文中度々詩が挿入される。 

 筆者の語学力じゃこれらの詩を訳すのは難しいんでそのまま載せます。

 古代中国のカマのような武器。相手を打ちつけたり引っ掛けて使う。

※青州

 現在の山東省・山東半島一帯。古代九州の一つ。

※関公

 関羽のこと。後世において神として祀られる関羽は三国志演義中、

 随所で関公と特別に呼称される。

※鼓・金鼓

 軍太鼓。打ち鳴らして指示を伝える。

※盧植

 劉備の師。

※中郎将

 官職。一軍を統率する将軍。不逮捕特権を持つなど割と高官。


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