第25話  0025 第四話06 二人のカーニバル



 三日後、成皋せいこう地方に着く。既に陽は落ちつつある。

 曹操が林の奥に鞭を向けて言う。


「ここに呂伯奢りょはくしゃと言う私の父の義兄弟が住んでます。在宅ならば一晩泊めて貰うのは如何でしょうか」


「好いですな」


 二人は家の前に至って馬を降り、伯奢が出迎える。


「手配書が周り、其方の父君は既に陳留ちんりゅうを去ったと聞き申した」


 曹操は事の次第を述べる。


「陳県令が居なくば大変な事になってましたな」


 伯奢は陳宮に礼を述べる。


「貴方でなくば我が甥、そして曹氏は族滅していた事でしょう。どうか今夜は拙宅にて安らかに、休息をお取り下され」


 そう述べ終わるとすぐに中に入り、暫くして出てきた後、


「今家には良酒が御座いませんので、西の村で買って参ります。どうかご容赦を」


 そうして呂伯奢は急いで驢馬ロバに乗り、出掛けて行った。



 曹操と陳宮が長い間座って待っていたところ、突然家の後方で刃を研ぐ音が聞こえてくる。


「呂伯奢は私の親族ではありません…。これは疑わしいので、覗き見ましょう」


 二人は草に隠れ、家の裏へ忍び行くと…声が聞こえてくる。



「 縛 っ て 殺 す の か い ? 」



「はいぃっ!先手必勝ですっ!私は死にたくないでしょうっ…!!」


 曹操と、陳宮は、


 剣を抜き、


 くりやに押し入り、


 男女問わず、


 皆斬り殺し、


 その数、八人。


 あーあ…。



 厨を捜索すると…なんということか。

 縛られ殺されんとする"豚"を発見する。



 あーあ…。


「ももも孟徳殿!猜疑で御座いますっ!誤って潔白な人を殺してしまったで御座いますよっ!?」


「おおお落ち着くでしょう!ままだ慌てる時間じゃないでしょう!?」


 二人は急いで家を出て馬で駆ける。

 二里も行かぬうち見えるは、驢馬ロバの鞍に二瓶の酒をぶら下げ手に果菜を抱える呂伯奢。


「おお?孟徳、公台殿!もう行くのかい?」


「わわ私達は罪人でしょう!?長く留まれませんでしょうっ!!」


「既に豚一頭料理するよう家人に申し付けたんじゃよ。孟徳、公台殿、是非泊まっていきなさい!戻っておいで!」


 曹操は振り返らず駆けて行くが、少しして、突然抜刀して踵を返す。


「んぅ?」


 伯奢が振り向いたその時、曹操の剣が伯奢を斬り倒した。

 陳宮が叫ぶ。


「おおわああ!何やっとんじゃあ!?先刻は誤解…今のはなんじゃあああああ!?」


「伯奢が帰れば惨状を目にするでしょう!そのままにしておく事は無いでしょう!もし追手が来たら…大変でしょうっ!?」


「むっ無実と分かって殺すは、大変な不義で御座いますっ!」



「私が!天を!裏切っても!天が私を裏切ることなかれでしょうっ!?」



 陳宮は絶句する。


 その夜数里行った後、月明りの中、宿を訪問して泊まる。

 馬にまぐさを与えた後、曹操が先に眠りに就く。


『義人と思い棄官して付いてきたが、こいつマジでヤベー奴だったで御座います…。コイツ今殺しとかないと、マジヤベーで御座います…』


 そして陳宮は…刀を抜く。



 設心狠毒非良士,操卓原來一路人。

 畢竟、曹操の命運や如何に。

 且聽下文分解。





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用語解説


※成皋郡(せいこう郡)

 現在の河南省鄭州市滎陽けいよう市。曹操は洛陽より東の譙へ逃亡してるが、

 現在の滎陽市は捉われた中牟県の東ではなく西にある。成皋地方とあ

 るので当時は東がそう呼称されたのかもしれない。成皋郡が置かれた

 のも六世紀っぽい。


※呂伯奢

 同時代の史書において曹操が正当防衛で呂伯奢の家族を殺害した旨が

 記されているが、時代を下るに連れ誤殺や呂伯奢自身をも殺したと脚

 色されていく。曹操が呂伯奢の家族を殺した実際の動機は諸説ある。


※私が!天を!

 原文では天ではなく天下の人々。こっちの方が勢いあっていいかな?

 と思って。…こんな感じで脚色されてゆくわけだ。


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