第五回 發矯詔諸鎮應曹公 破關兵三英戰呂布

第26話 0026 第五話01 曹操の挙兵



 陳宮ちんきゅうは曹操を殺そうとするが、ふと思い留まる。


『私は報国の為に彼に従ってここまで来た。ここで殺すは…不義。そのまま捨て置くべきか…』


 そして陳宮は刃を収め馬に乗り、夜明け前に東郡を目指し去って行った。


 起きた曹操は陳宮の姿が見えないので、


『私の言に、不義を感じ私を捨てましたか、まあいいでしょう。早く行かねば…長くは留まれないでしょう』


 そして曹操は夜を通し陳留へと至る。

 曹操は父親と再会し、事の次第を話し、家財を使い募兵したいと告げると、


「資金が無くば事は成せぬ。陳留には孝廉の衛弘えいこう殿が居る。彼は裕福で貧しきに施す義人、もし助けを得れば事は成せるであろう」


 曹操は酒宴を設け衛弘を招く。


「今の漢朝には主君がおらず、董卓が専権を揮い、帝を欺き民を虐げてます。社稷を扶けるための力が欲しいですが、私には無いでしょう。貴方は忠義の士、どうか助けて下さい」


「私も永く同じ思いを秘めておりましたが、未だ英雄に出会えなかったのです。孟徳殿は大きな大志を抱いております。是非、私が援助を致しましょう」


 曹操は喜び、まず矯詔きょうしょうを各地に発し、次に募兵を行い、「忠義」の二字を掲げる白い旗を作る。


 そして数日後、勇士達が曹操の元へと馳せ参じる。


 一人は性は楽、名は進、字は文謙ぶんけん。陽平衛国の者。曹操は楽進がくしんを帳前吏とした。


 また沛国譙の者、夏侯惇かこうとん。字を元讓げんじょう。すなわち夏侯嬰かこうえいの末裔である。

 彼は十四の頃より槍術を学んでいたが、師を侮辱した者を殺害し、逃亡していた。この殺人犯は曹操の挙兵を聞き、弟の夏侯淵かこうえんと共にそれぞれ千の勇士を引き連れ駆け付けたのだ。この二人は元々曹操の族弟で、曹操の父・曹嵩そうすうは元は夏侯氏、故に同族である。


 また数日後、曹氏の族弟、曹仁そうじん曹洪そうこうがそれぞれ千の兵を連れ駆け付ける。

 曹仁、字を子孝しこう。曹洪、字を子廉しれん。二人とも兵馬に長け武芸に精通している。

 曹操は大変喜び、村内で練兵をする。


 衛弘はその財を全て投じ、武具や旗を用立てる。四方より糧食を送る者も数え切れなかった。



 袁紹は曹操の檄文を受けその麾下、文武併せて三万の兵を率い、曹操と合流するため渤海を発つ。

 その曹操の檄文は。



『私は謹んで天下に大義を布告したい。董卓は天地を欺き、国を滅ぼしては主君を弑逆しぎゃくし、宮廷を掻き乱しては人々を害す。その狼戾不仁ろうれいふじんは悪と暴虐を積みあげた!今天子の密詔に従いて義兵を起こし、華夏を一掃するべく凶賊どもを誅戮する!我らが義軍が義憤をもって帝室を扶け民を救うのだ!この檄文が至ったならば、速やかに挙兵すべし!』



 第一鎮、後将軍南陽太守、袁術えんじゅつ

 第二鎮、冀州きしゅう刺史、韓馥かんぷく

 第三鎮、豫州よしゅう刺史、孔伷こうちゅう

 第四鎮、兗州えんしゅう刺史、劉岱りゅうたい

 第五鎮、河内かだい太守、王匡おうきょう

 第六鎮、陳留太守、張邈ちょうばく

 第七鎮、東郡太守、喬瑁きょうぼう

 第八鎮、山陽太守、袁遺えんい

 第九鎮、済北せいほく相、鮑信ほうしん

 第十鎮、北海太守、孔融こうゆう

 第十一鎮、広陵太守、張超ちょうちょう

 第十二鎮、徐州刺史、陶謙とうけん

 第十三鎮、西涼せいりょう太守、馬騰ばとう

 第十四鎮、北平太守、公孫瓚こうそんさん

 第十五鎮、上党太守、張楊ちょうよう

 第十六鎮、烏程侯おていこう長沙ちょうさ太守、孫堅そんけん

 第十七鎮、祁郷侯ききょうこう渤海太守、袁紹。



 その軍勢は諸々、ある者は三万、ある者は一万、二万の軍を。

 各々が文官武将を引き連れ、洛陽へと向かう。





────────────

用語解説


※孝廉(こうれん)

 郷挙里選(漢代の官吏登用制度)の科目の一つ。父母への孝行・物事へ

 の廉正さを測る。つまり孝廉に受かるくらい衛弘はイイ人。


※衛弘(えいこう)

 演義のみの架空の人物だが正史での衛茲えいじがモデルとされる。


※この殺人犯は

 どっかで聞いたような話である。


※仗義(ちょうぎ)

 義。正義。


※矯詔(きょうしょう)

 偽りの詔。偽詔。この時、既に可氏が滅び献帝劉協は幼いためこの詔を

 本当に帝から下された詔と考える者は居ない。勝てば官軍、嘘も方便。


※帳前吏(ちょうぜんり)

 帳下吏に同じ。帳下の吏とは、記録係。つまり下っ端。三国志とはこ

 の楽進が、天下の大将軍へと成り上がる物語である。(ウソである)


※夏侯嬰(かこうえい)

 約四百年前、前漢建国の元勲。


※檄(げき)

 対象を非難し、同士を集めるための文書。檄文。本来檄の一字のみで

 その意がある。


※華夏(かか)

 華とは黄帝こうていぎょうしゅんなど伝説の先王、夏とはいんの前、伝説の王朝。

 華夏とは漢へと続く中華文化とその主体である現在の漢民族のこと。

 中原・黄河流域に居住した漢王朝以前の漢民族を華夏族と称する。

 檄文中では文脈として董卓に汚された華夏を正すという意味合い。


────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る