第35話 0035 第六話03 曹操の敗走



 董卓が滎陽けいよう地方に到着すると、太守の徐栄じょえいが出迎えた。


「洛陽を棄てた我らには追撃が来るゲヒ。徐栄を峠に伏せさせると良いでしょう。もし奴らが来たらそのまま何もせせずそこで待たせ、その後不意打ちをかければ、奴らは二度と追撃は出来ないゲヒ!」


 董卓はその計を容れ、また呂布に精兵を率いさせ殿を命じた。

 呂布が進軍してると、曹操の一軍が追いつく。


「ははっ!こりゃあ、李儒の予想通りだゾ!」


 笑いながら兵を展開させる呂布。

 曹操が前に出で叫ぶ。


「逆賊め!皇帝を奪い、人々を連れ、どこに行くのでしょう!」


「なぁに言ってんだぁおめー!?裏切り者が寝言言ってんじゃあねえゾォ!」


 夏侯惇かこうとんが槍を持ち躍り出て、自ら呂布へと向かう。数合もせぬうち、李傕が一軍を連れて左翼より攻撃してきたため、曹操は夏侯淵かこうえんに命じて迎え撃つ。

 右翼よりまた喊声が上がり、郭汜軍が殺到する。曹操は曹仁に迎え撃たせるも敵の三軍を止められず、夏侯惇も呂布を抑えらえず隊列に戻る。

 呂布は騎兵を率いて突撃し、大敗した曹操軍は滎陽に向け敗走した。


 荒山の麓まで辿り着いた時は二更頃。月は昼のように明るく、丁度残兵を纏めるのに良かった。

 そうして飯を炊こうとしたところ、四方から喊声が上がり、徐栄の伏兵が現れた。


 曹操は慌て急いで馬に乗り逃げ出すが、まさに徐栄と出会ってしまい、反転して逃走する。徐栄が弓を射ると曹操の肩に命中し、曹操は矢を抜かぬまま走り続けた。

 突如草中に伏した二人の兵士が槍を突き、馬を貫く。曹操はひっくり返って落馬し、兵士に捕らえられてしまった。


 その時一将が馬に乗って駆け付け、兵士を斬り殺し、馬より降りて曹操を助け起こす。

 見れば、すなわち曹洪であった。


「私はもう…駄目でしょう!早く逃げろ、曹洪!」


「馬にお乗りくだされっ!私は歩きます!お金!」


「奴らに追いつかれたら、お前はどうするつもりですかっ!」


「天下に私が居なくとも、殿が居ない訳にはいきませぬっ!金!」


「…もし助かったならば…それはお前の尽力によるものでしょう…っ!」


 曹操は馬に乗り、曹洪は鎧を脱いで馬を追い走り出す。


 四更余りまで走ると、目の前には大河が。前に進めず、後方から喊声が近づく。


「再起ならず…ここまでですか…」


「諦めてはいけません金っ」


 曹洪は急いで曹操の鎧を脱がせ、曹操を背負って河を渡り始める。

 ようやく渡り切った所に追手が至り、対岸から矢を射かける。曹操らは水を汲んで走り出した。

 

 夜明けまでにまた三十里余りを走り、小丘の下で休むと、突然喊声が聞こえ、軍馬が殺到する。徐栄が上流から川を渡り追ってきたのであった。


 曹操が覚悟を決めたその時、夏侯惇、夏侯淵が十数騎を連れ飛び出し叫ぶ。


「徐栄っ我が殿に触れるなっ…!」


 徐栄は夏侯惇に向かいなおし、夏侯惇は槍を持って迎える。数合打ち合い、夏侯惇は徐栄を刺し殺し、残兵を追い散らした。

 続いて曹仁、李典りてん楽進がくしんも兵を率いて探し至り、曹操にまみえる。

 皆で無事を分かち合い、五百余りの敗兵をまとめ、河内かだいへと帰還した。



────────────

用語解説


※滎陽(けいよう)

 現在の河南省鄭州ていしゅう市滎陽市。滎(ケイ・エイ)は徐栄の栄の旧字榮(エイ)

 と似てるが別字。前者は水、後者は木。なお現在中国では地級市と県級

 市に分かれ、地級市鄭州の中に県級市滎陽がある。ちょいややこしい。


※董卓はその計を容れ

 李儒はクズだが三国志序盤最高の軍師と言え、董卓も積極的に李儒の献

 策を聞き入れる器量を見せるベストコンビである。董卓が彼の献策を聞

 き続ける限り、決して彼らが破滅する事は無いであろう。


※夏侯惇も呂布を抑えらえず隊列に戻る。

 呂布相手に一人打ち合い生き延びる夏侯惇、めちゃくちゃに強い。(確信


※天下可無洪,不可無公。

 三国志演義中、屈指の名台詞である。残念ながら、発言した者の人格に

 多少問題があるのが惜しい所である。金。この言葉は三国志正史:曹洪

 伝からの引用だそう。つまり史実らしい。お金。

 なお作者は三国志の漫画を描く目的で演義翻訳に挑んでおり、正史はや

 らない。そっちまでやるならもうキリ無いよ!


※楽進も兵を率いて

 順調に昇進してるようである。


────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る