第34話 0034 第六話02 豎子ともに謀るに足らず



 董卓が車に乗り込むと、車に向け揖礼ゆうれいする二人の者が。

 尚書の周毖しゅうひと城門校尉の伍瓊ごけいである。

 董卓が何事か尋ねると周毖が言う。


「丞相殿が長安への遷都を行うと聞き、諫めに参りました」


「私は、最初、貴方達の言葉を聞き袁紹を厚遇しました!今、袁紹が反乱を起こしました!貴方達は、奴らの一党です!」


 董卓は激怒し二人を連行して門前で斬首するよう命じた。

 そして翌日には首都移転を命じると、李儒が提案する。


「今、金も食料も不足しており、洛陽には裕福な者が多いゲヒ。籍没入官を行いましょう。袁家宗党を断罪し、その家財を得れば巨万の富を得られるゲヒ!」


 董卓はすぐに騎兵五千で洛陽の数千のあらゆる富裕家を逮捕させ、旗に「反臣逆党」と書き、尽くを城外で処刑し、その財貨を奪った。

 李傕と郭汜かくしは何百万の民を洛陽から長安まで連行した。民と兵を一隊づつ交互に配置して牽引し、谷から落ちて死ぬ者などは数え切れなかった。

 また、兵士より指相撲を強要される女性、糧食を奪われる者…その慟哭が天地を震わせた。

 遅れる者が居れば後ろに控える三千の兵の刃により路上で殺された。


 董卓はこの行軍に臨み、住家、宗廟、宮殿に火を放ち、尽くを燃やした。

 南北両宮は炎に包まれ、洛陽宮は全て焦土となった。

 また、呂布を派遣し先帝と先皇后の墓を暴き、その財宝を奪った。兵士はこれに乗り、士大夫や民の墓をも全て掘り返した。


 それら財貨を積み込んだ董卓の車は数千車に上り、天子と皇后らを連行して長安へと向かった。


 董卓配下の趙岑ちょうしんは董卓が洛陽を放棄したのを知り、汜水関を開く。

 先に孫堅が軍を率いて進軍し、玄徳らは虎牢関に入り、諸侯らもそれぞれ軍を率いて関中へと入った。


 さて、孫堅が洛陽に向かうと天まで昇る炎と地を覆う黒煙を見る。二、三百里に渡り、人も家畜も居ない。

 孫堅は火を消し止めるため先に兵を遣り、諸侯らは軍馬を郊外に駐屯させる。


 曹操は袁紹を問い詰める。


「今董卓は西に去りました。この勢いに乗り追撃するべきでしょう。何故兵を止めるのですか?」


「ふぅーっ、兵は疲弊しています!進むのは無益です♪」


「董卓は宮殿を焼き、天子を奪い、海内は動揺してるでしょう!先は知れず、天が滅びようとする今、一戦で天下が定まる時でしょう!それでも貴方達は前に進まないのですか!?…理解に苦しみます!」


 諸侯らは皆押し黙る。


「豎子…ともに図るに足らず…っ!」


 曹操は激怒して叫ぶと、自ら兵を率いて夏侯惇ら配下の者と董卓追撃に出た。



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用語解説


※籍没入官(セキボツジュウカン)

 犯罪者の家産を政府が拾得すること。


※南北両宮

 この時までの洛陽の宮殿は南北二宮あった。


※豎子ともに図るに足らず(じゅしともにはかるにたらず)

 出典は史記、鴻門之会。劉邦りゅうほうを殺さなかった項羽こううに対する、その軍師

 范増はんぞうの言葉。甘ちゃん、小僧、阿呆とは共に大事は成し得ない!とい

 う意味。この状況は兵法として、断固として追撃するべき状況である。

 ちなみに董卓の長安遷都も倫理を別にすれば戦略として理に適い、実

 際董卓らの勢力は反董卓連合の脅威から逃れ命脈を保つこととなる。


※夏侯惇ら配下の者

 原文では夏侯惇、夏侯淵、曹仁、曹洪、李典、楽進。


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