第9話 009 第二話02



 朱儁しゅしゅんが張宝を平定した時、未だ三人の賊徒が残っていた。

 趙弘、韓忠、孫仲の三人は狂信的に張角の復讐に燃え、朝廷は朱儁にこれを討つよう命じた。


 命を受けた朱儁は軍を率いて賊徒が居するえん城に迫って攻め寄せると、趙弘は韓忠を出撃させた。

 朱儁は玄徳たちに城の西南から攻めさせると、韓忠は精鋭を率いて応じる。

 朱儁は自ら鉄騎二千を率いて城の東北に迫る。

 すると賊徒は慌てて西南を捨て東北に向かったため、玄徳は背後からこれを攻め、瓦解した韓忠は城に逃げ込んだ。


 朱儁は兵を分け全面から城を囲む。城は補給が利かなくなり、韓忠は降伏を願い出るも、朱儁は受け付けなかった。


「何故韓忠を拒否するのだ?高祖劉邦りゅうほうが天下を得たその昔、よく降伏を受け入れたのだが?」


「あの時と今は違うの。あの時は項羽こううが天下を乱し、民に主は居なかったの。なので、降伏を受け入れたのね。天下が一つである今、この黄巾の反乱…その降伏を受け入れるのは良くないの。だってコイツら今まで散々やりたい放題やってきて、ただ追い詰められたから投降するだけなの。ただそれだけ。コイツら助けるの、絶対ダメな選択ね」


「なるほどわかった。今包囲は強く、投降も許されなかった賊は死地にあり、心も一つと定まらない。ましてや城の中は死人で溢れている。西北を攻め東南を開ければ賊は戦意を失い逃げ出し、楽勝と思うが?」


 朱儁は玄徳の提案を受け入れ、城の東と南を薄手にし、西と北を一斉に攻撃した。

 果たして韓忠は軍を率いて逃げ出し、朱儁と玄徳らはこれを撃破、韓忠は射殺され賊軍は潰走四散した。

 賊軍を追撃していたその時、趙弘と孫仲が軍を率いて駆け付け、朱儁が交戦するも趙弘の軍勢が多いため一時撤退した。

 趙弘はこれに乗り宛城を奪還、朱儁は十里離れた所に陣を張った。


 城を攻めようとした所、東より現る一団と出くわす。

 率いるはクソデカ頭に虎熊の体躯、兎に角凄そうな男。

 呉郡富春の孫武そんぶの子孫、姓は孫、名は堅、字は文台その人である。


 この孫堅文台そんけんぶんだい、齢十七の時に父と銭塘せんとうで海賊が商人からの戦利品を分け合っている所を見る。

 「コイツら捕まえられる」

 と父に言い、刀を持って岸に上がり、東から西へ、誰かを呼ぶかのようにクソデカ声を発した。海賊達は官兵が来たと思い込み、盗品を捨てて逃走し始めたため、孫堅は追いかけ海賊を殺した。…捕まえるのではなかったのか。

 これにより郡県に名声が上がり、校尉に推薦された。

 後に会稽で妖賊・許昌きょしょうが陽明皇帝を称し、数万の反乱を起こした。

 孫堅と郡司馬は千人の勇士を集め、州郡を併せこれを破り、許昌とその子、許韶きょしょうを処した。

 刺史の臧旻ぞうびんはその功を上奏し、孫堅は塩瀆えんとく県丞に任じられる。また、盱眙くい丞、下邳かひ丞を歴任した。


 今、黄巾の乱に際し、勇士を募り千五百の兵を以て駆け付けたのだった。




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用語解説


※劉邦(りゅうほう)

 前漢の創始者。高祖。


※項羽(こうう)

 劉邦と争った中国史上屈指のバトルマシーン。

 近年その戦術は速攻・急襲を得意としたとの説があるっぽい。


※孫堅 文台

 名門孫氏の子孫とされる勇士。序盤随一の肉体派体育会系。

 三国志中、彼自身の活躍期間は短いがその子がめっちゃ

 ハッスルして名を残すこととなる。


※妖賊

 宗教的反乱を起こす賊徒。


※許昌(人名)

 三国志では別に許(許昌)と言う地名が頻出するため注意。

 どちらかと言うとこの賊徒の方がマイナー。


※郡司馬(ぐんしば)

 郡の武官。


※盱眙(くい)

 くい、と読むらしい。難しいね。

 今も江蘇省に盱眙県として残るっぽい。


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