第3話 003 第一話02



 張角の反乱軍がゆう州に差し掛かる。


 幽州の太守、漢の魯恭王の後裔である劉焉りゅうえんまさに賊軍が至ったと聞き及び、校尉である鄒靖すうせいと対応を協議した。


 「賊兵多く、我が軍は乏しい。すぐに募兵して応じるが良いでしょう」


 そこで劉焉は速攻ソッコーで義勇兵を募った。


 その榜文は涿たく県に至り、一人の英雄が生まれる。

 

 あまり読書は好まぬその者は温和で口数少なく、感情を表に出すのも少ないが、大志を抱き義侠の者との交友を好んだ。

 身長は七尺五寸、腕は膝まで届き、両耳は肩まで垂れ己の目で耳を見れる。なにそれ凄い。


 姓はりゅう、名は、字は玄德げんとく

 漢の中山靖王、劉勝りゅうしょうに連なる家系である。


 かつて劉勝の子、劉貞は武帝の時代に涿鹿亭侯に封じられたが後に酌金のとがにより爵位を失う。

 玄徳の祖父は劉雄、父は劉弘りゅうこう。父はかつて孝廉で推挙されたが早くに亡くなった。

 

 草鞋わらじ売りが家業のその家は貧しかったが、玄徳は幼くして母に孝を尽くした。


 その家の東南に大きな木が有った。高さは五丈あまり、遠くから見ると天子が乗る車のよう見えたため、相者しょうしゃは「この家から大物が出るよ」と言った。ちと適当過ぎでは?

 幼少時、子供達がこの樹で遊んでる時に玄徳は「ボクは天子だ!」と叫んだ。まあ子供の言うことだし。

 叔父の劉元起りゅうげんきはその言葉を聞き「恐ろしい子…!」と言った。

 そこで叔父は貧乏な玄徳の家を援助した。十五になって遊学し、鄭玄ていげん盧植ろしょくに師事し、公孫瓚こうそんさんとも学友となった。劉焉が募兵した時、玄徳は既に二十八歳となっていた。



 玄徳はその募兵の榜文を見て溜息をつく。

 すると一人の男が突然声をかけてきた。


「なんで大の男が国に尽くす事もせず、そんな溜息ついてんのよ?」


 玄徳が振り返り見ると身長八尺、凄い形相で、クソデカ声で、なんかもう、兎に角凄そうな男が立っていた。玄徳が名を尋ねると、


「俺の名は張飛ちょうひ 翼徳よくとく。この涿郡に住みクソデカ田んぼを持ってて酒と肉を売って暮らしている。天下の豪傑と友誼を交わすが好みだ。」


「丁度アンタが立札の前で溜息ついてんのを見てな、尋ねたんだ。」


 玄徳は男の問いに答える。


「私の名は劉備。ウチは元々漢室に連なるスゴイ家系なのだが、この反乱を聞き賊を打ち破り民を助けたいのだが、自分にそんな力は無いのだが?」


 すると張飛は言う。


「ウチはめっちゃ金持ちだ。ここらの勇士集めて一緒に黄巾ぶっとばさないか?」


 玄徳は滅茶苦茶喜び、村の居酒屋に入り一緒に酒を飲み始めた。


 二人で飲んでると、なんかもう凄そうな男が車を引き、店の前に着いた。

 中に入り、席に座ると


「ン出て来いやぁー」


 と店員を呼び叫ぶ。


 その男は身長九尺、ヒゲの長さは二尺、真っ赤な顔してもう、色々と凄い風貌で、兎に角もう凄かった。凄い。


 玄徳は同席し、その男の名を問うた。


 「ワシは関羽かんう、字は長生、後に改め雲長うんちょう。河東の解良の者だ。そこで調子のってムカつく奴が居たんでついぶっコロしちゃって、江湖こうこへと逃げていた。五~六年くらいかね?今募兵してると聞いたんで、来たのだ。」


 玄徳はその殺人犯に己の志を告げると、雲長も大変喜び、皆で張飛の家で飲むことになった。





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用語解説


ゆう

 現在の中国北部。だいたい北京、その南辺り。

劉備りゅうび 玄徳げんとく

 三国志演義、前半の主人公。

あざな

 古代の大陸では姓と名の他に字という名前を付ける慣習があった。

 本来は姓+字で劉玄徳りゅうげんとくと呼ぶのがセオリー。

中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょう

 前漢の皇族。子と孫を120人以上作ったんですって。凄いね。

酎金ちゅうきん

 祭祀での拠出金。武帝時に列候取り潰しの名目となった。

孝廉こうれん

 官吏登用試験。

相者しょうしゃ

 人相を見る人。

※兎に角もう凄かった。凄い。

 かつての中国では偉人は容貌もスゴイ!スゴイ特徴がある!という定説があった。

 そのため兎に角凄そうな容貌で描かれたり、果ては腕が膝まであったとか、首が180度回るとか、気持ちの悪い逸話が残ってたりする。

江湖こうこ

 1:官に対する民間。

 2:特定世界。特に武侠小説における特殊社会など。

 ここでは2の意。つまりは裏の世界。


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