第40話 0040 第七話03 界橋の戦い



 次の日、公孫瓚は左右に隊を分け翼の如く展開する。

 騎馬は五千余り、大半が白馬である。


 公孫瓚はきょう族と戦ったおり、全て白馬で編成し先鋒としたため「白馬将軍」と称され、羌人は皆之を見るだけで逃げ出した。それ以来彼は白馬を多く用いるのである。


 袁紹は顔良がんりょう文醜ぶんしゅうを先鋒とし、それぞれ弓兵を千与えて左右に分けた。

 左軍は公孫瓚の右軍を、右軍は左軍を射つよう命じる。

 そして麹義きくぎに八百の弓兵、一万五千の歩兵を与え陣を配し、袁紹は後方で自ら数万の兵で迎え撃つ。


 公孫瓚は始め趙雲ちょううんを用いようとするも趙雲を知らぬ腹心が軍を分け後方に配し、厳綱げんこう将軍を先鋒とした。公孫瓚は中央に、馬に乗って橋の上に立つ。隣に金糸で「帥」の字を縫った緋色の旗を垂直に掲げる。

 辰の刻に擂鼓を響かせ、巳の刻に至っても袁紹軍は動かず。麹義は弓兵を遮箭牌に伏せさせ、合図を待った。

 厳綱が鼓を鳴らして麹義に突撃した時、麹義は接近するまで待たせ、一斉に合図を鳴らす。八百の弓兵が一斉に矢を射ち放つ。厳綱は踵を返すも麹義により一刀の下に斬られ、軍は大敗する。


 左右の軍が救援しようとするも顔良・文醜軍の矢を受け阻まれる。

 袁紹は本軍を前進させ、麹義の馬が橋に至り、旗手を討ち緋色の繍旗を斬り倒した。

 公孫瓚は旗が倒れるのを見ると橋の下へと逃走する。

 麹義は軍を率いてそのまま後軍へと向かい、偶然鉢合わせた趙雲が馬を走らせ麹義へと挑む。数合もせぬうちに麹義は身を貫かれ馬より崩れ落ちた。趙雲は一騎敵陣へと馬を走らせ無人の野を行くが如くに貫き廻る。

 公孫瓚も軍を返して戻り、袁紹軍は潰走した。

 袁紹は初めの回報で麹義が旗を斬り倒し敗兵を追撃してると聞いていたので田豊でんほうと共に数百人の戟兵と数十の弓兵を率いて馬に乗り出で笑う。


「ははっ♪公孫瓚何するものぞっ!」


 すると突然目の前に突撃してくる趙雲が。

 弓兵が弓を構えるも趙雲は数人を刺し殺し、袁紹軍は逃走を始める。

 公孫瓚の軍が後方から取り囲むと慌てて田豊が袁紹へと伝える。


「殿!牆中しょうちゅうへとお退がり下され!」


 袁紹は兜を地に打ち付け叫ぶ。


「ふぉぉおおーう!大丈夫たる者、戦の中に死を厭わずっ!ふぉぅっ!ふぉぅっ!ふぉぉおおおおぉーうっ!!」


 軍兵は必至となり抵抗して趙雲の突入を阻み、やがて本軍が包囲し、顔良もまた軍を率いて救援に駆けつけ挟撃する。趙雲は公孫瓚を守って包囲を突破し界橋へと退却した。

 袁紹は兵をあげ進軍しまた橋へと至り、川へ落ち水死する者は数え切れなかった。


 袁紹が追撃するも五里もせぬうち背後から喊声が沸き起こる。

 兵を率いて飛び出でるは劉玄徳、関雲長、張翼徳の三大将。平原にて両軍が戦うを聞き及び救援に来たのだ。

 三匹の馬と三つの刃、ただちに袁紹へ向かい突撃する。

 刀を落として仰天する袁紹は馬を返して必死に逃走し、橋を渡った所で兵が救援した。公孫瓚もまた軍を収めて帰陣する。


 玄徳らと見えた公孫瓚は言う。


「危い所であった。玄徳達が遠路来てくれたおかげだ!」


 そして玄徳に趙雲を紹介する。

 相見える玄徳と趙雲は互い敬愛し、その思いは捨て難いものがあった。




────────────

用語解説


※羌族(きょうぞく)

 大陸西部に居住した異民族。現在の四川省近辺に居住するチャン族が

 その系統の一つと言われる。後に西夏などを建国した。


※辰の刻・巳の刻

 午前7:00~9:00・9:00~11:00。


※遮箭牌(しゃせんはい)

 矢を防ぐ盾


※牆中(しょうちゅう)

 垣根を張った陣中。


────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る