第八話 王司徒巧使連環計 董太師大鬧鳳儀亭

第44話  0044 第八話01 董卓の栄華



「今孫権が死にその息子は皆幼く、この情勢に乗り速やかに軍を進め江東を平定すべきです。もし敗兵をこのまま返せばやがて力を取り戻し荊州に災いをもたらすでしょう」


 蒯良かいりょうの策に劉表が返す。


「ん~っ我が将、黄祖こうそが囚われています。彼を棄ておけません」


「黄祖殿一人棄て江東を取る…考えるまでもないでしょう」


「黄祖は私の腹心。棄てるは不義です、んっ!」


 そして劉表は孫堅の遺体と黄祖の身柄の交換を約束して桓楷かんかいを返す。


 劉表は黄祖を取り戻し、孫策は霊柩を迎え、その敗軍は江東に帰還し曲阿きょくあにて父を葬る。


 喪事が終わって孫策は拠点の呉へ戻り、謙虚な態度で人材を集め、四方の豪傑賢人がその元に集うのであった。



 さて、長安の董卓は孫堅が死んだことを知る。


「私の患い事が一つ消えました!…彼の息子は何歳ですか?」


「十七でございます」


 董卓は孫策を気にせず益々驕り高ぶり己を"尚父しょうほ"と称し、天子の近衛と僭して宮殿に出入りする。弟の董旻とうびんを左將軍・侯に、甥の董璜とうこうを侍中として禁軍を全て統率した。董氏の宗族は長幼を問わず皆侯に封じた。


 董卓はまた長安から二百五十里に、二十五万の人夫で郿塢びうを築城した。その城郭は長安の如くに高くして厚く、倉庫には二十年分もの糧食を蓄えた。民間から少年美女八百人をその中に入れ、金玉、彩帛、珍珠が積み重なること数限りなく、親族は皆そこに住んだ。董卓は郿塢と長安を半月、または月一回往来し、公卿は皆門外で出迎えた。


 董卓はよく道中で帳を張り公卿らと酒宴を催した。

 ある日、董卓が門を出て百官皆が宴で見送ると、偶々北方よりの降伏兵数百人が連行されて来た。董卓は座前で降伏者の手足を切り、またある者は目を潰し、または舌を引き抜き、そしてある者は大鍋で煮るよう命じた。

 その叫びは天を揺るがし百官は戦慄し箸を止めるが、董卓は笑って楽しんだ。


 また、ある日董卓が宮中で百官を集め宴を設けた折、酒も周った頃に呂布が入ってきて董卓の耳元で囁いた。


「ははは、なるほど!」


 董卓は呂布に命じ席上の張温を引っ張り下がらせた。百官は皆失色し、程なくして、侍従が一つの盆を持ってくる。上に乗るは張温の頭である。

 百官皆、体より魂が飛び出る程に驚愕する。


「ははは、皆さん驚く事はありません。張温は袁術と結び、私を害そうとしました。その書簡が誤って我が息子奉先の元に届き、それ故に斬りました。何もしてない皆様は、何も恐れる必要など、ありません!」


 衆官皆、ただただ黙って解散するだけであった。





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用語解説


※曲阿(きょくあ)

 現在の江蘇省鎮江ちんこう丹陽たんよう市。呉の少し西。


※尚父(しょうほ)

 伝説の太公望の尊称、師尚父ししょうほになぞらえてると思われる。


※郿塢(びう)

 董卓が築いた城。董卓の力を示す壮大な城であったようだが、その短

 い砂上の権力の如く歴史の中に消えていった。現在の陝西せんせい宝鷄ほうけい

 県にてその遺跡が高速道路工事の折に発見されたそう。


※彩帛(さいはく)

 艶やかな絹。珍珠は真珠。ちなみに金玉きんぎょくとは黄金と翡翠のことであり、

 決して男性の急所の事ではない。ちなみにね。


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