第28話
「問題ありますわ!」
そう言って、こちらに出てきたのは勿論カローラで、その隣には何故かアイビーがいる。
制服は来ていないけれど、ここは一応学園だ。私とポピーの視線に気がついたカローラが、その先を追った後に納得したかのように頷いて言葉を放つ。
「専属の執事ですから。勿論校内に連れて行く許可は頂きましたわ。一人では何も出来ない侯爵令嬢ですから」
嘘つけ!と叫びそうになったのを寸での所で止める。こんな人目が付く所で不敬を働こうものなら、それこそ注目の的だ。だって私は男爵令嬢~!!
「行きますわよ、特進クラスへ」
「へ?」
カローラの言葉に驚いて、今度は言葉を止める事なく変な声が出た。
特進クラス?ゲームでヒロインは一般クラスだった筈だ。特進クラスとは、それこそ上位貴族や何かしら成績を残した人物が入るクラスで、ほんのひと握りだった筈。
侯爵令嬢で更に王太子殿下の婚約者であるカローラが特進クラスなのはゲームと同じで理解出来るんだけど……。
「ポピーや私が?」
「ポピーは試験で三位の成績を収めたそうよ。一位は殿下、二位はシャルル……リズ?貴女、自分が何をしたのか理解していないの?」
ポピーの事は理解出来た。そこまでの成績をおさめるって、むしろどういう事!?
王太子は勿論、シャルルだって宰相補佐だから勉強が出来るのであって……うん、セドリックは魔術馬鹿だし、ジルベールに至っては脳筋なだけだけどね。それでも、側近であるあの二人を超えるのは凄い事だと思う。
うわ~惚れる~なんて思いながらも尊敬の眼差しでポピーを見つめると、バレたと言わんばかりに視線を彷徨わせたが……。
カローラが私に回りを見てみろと言わんばかりに視線を向けるので周囲を見ると。
「……え?何でこんな注目されてるの?」
道行く人々が視線をこちらに向けている……どころではなく、足を止め、目を輝かせて、こちらを見ながら目を輝かせて何かを語り合ってる人だかりが見えた。
「ほら……あれが噂の……」
「男爵令嬢の……」
「素晴らしいですわよね」
「この国の為に……」
このまま立ち止まってるのも怖いから、カローラの背に隠れるように歩いて教室へ向かっていると、ヒソヒソコソコソと人々の話が耳につく。
「えーっと……」
説明して欲しい。と言う意味を込めてカローラの背中をツンツンすると、カローラは小さく溜息をついた。教室に入って、一番後ろの窓際の席を選んで座ると、カローラが口を開いた。
「……王都に事業を展開したでしょう?」
「……あっ!」
その言葉で何となく……何となくだけど理解できた。
「チョコや職人だけでなく……魔道具についてもよ?」
「今更じゃないですか?既に時の人扱いになってますよ」
カローラのその言葉にノックアウトされそうになった瞬間、アイビーから追い打ちをかけられ、思わず頭を抱えてしまった。
見事に陛下から王都のタウンハウスを借りれたし、学費も一部免除してもらった。しかも収益が物凄くあって、このまま私は貴族止めても生活出来る!と思うくらいなのだけれど、貴族相手の商売でもある以上、貴族を止めてしまうと大変な事になるからとシャルルから止められた事を思い出した。
実際、私が王都に出したのは平民が買えるスイーツ店と、貴族用のカフェを出す事になったのだ。ここら辺も全部シャルルが計画してくれたものに乗った感じはあるけれど。カフェの方に至っては一ヶ月待ちだとか……。
職人も連れてきて、更にセドリックの魔道具がある。
まず最初のお披露目がショーケースの冷蔵機能だったのもあり、発明案が私という事まで噂程度に流れているのだ。
「……やってしまった感」
「まぁ……仕方ないのでは?溶けますしね」
色んな事を含めて仕方ないと言ってくれてるのは理解出来るけれど、チョコミントアイス……なんて思いついたかのように呟く辺り、それ食べたいって事だよね、と思ってしまう。
「よし!じゃあ作ろう!とっとと帰って研究しよう!」
「あ!イベントはこなして下さいね」
むしろイベントから逃げる為なんですけど!?という目線をカローラに向けるも却下、と言わんばかりの鋭い瞳が二人から返される。言わずもがな、追加された一人はアイビーなのだけれど。
「今のリズに嫌味を言う人が居たら、カフェ出禁にするって公言しておけば良いんじゃない?」
「じゃあ私が悪役令嬢を全うしますわ」
ポピーの言葉も虚しく、カローラが自ら私に嫌味を言う役を引き受けようとするが……。
それこそ私達の関係を知ってる殿下相手に無理じゃないかと思いながらも、それを止める事はしない。イベント回避出来るなら大歓迎だ。
というか、カフェ出禁って程度で大人しくなるとは思わないんだけど……と思いながら周囲を見渡すと、近くに居て会話を聞いていただろう令嬢令息達が口角を引きつらせて真っ青な顔をしているのが見えた。
……マジか。
「貴女、生意気じゃなくて!?」
「あ、生チョコ食べる?」
「頂くわ。……じゃなくて!」
吠えるカローラを見事にスルーして、生チョコを進めると、それを口に含んで幸せそうな顔をしていたのは一瞬だった。
ちっ。もう正気に戻ったか。と言っても、私に嫌がらせをするつもりなんだろうが、盛大に滑っている事をカローラは気がついていない。否、気がついていたとしても、何とかイベントをこなしたくて必死なんだろうけど。
「何?カローラ嬢は要らないの?じゃあ僕がもらうね」
「食べますわ!」
「僕にも頂けますか?」
何事もなかったかのように……と言うか、生チョコが食べたいだけのセドリックはヒョイっと一つ摘み口に入れると箱ごと持って行こうとするのをカローラが止めた。シャルルも食べたいようなので、二人にどうぞ、と答える。
「あれは何の茶番だ?」
殿下がアイビーにかけた声に、カローラが目を見開くも、私にしか見えないように顔を俯かせた。
本当に今更だと思う。クラスメートも、最初は何が起きた!?と言わんばかりに驚いていたけれど、何回も続く内に、殿下が居る時だけ、生意気だとか、たかだか男爵令嬢が特進クラスにだとか言っているだけなので、今や何となく病的な発作扱いになっていたりする。
殿下が居ないと、新しいスイーツ談義をしてたりするからね。仲が良いのは周知されてるようなものだから、誰も本気になんてしていない。
「茶番?仲裁されなくて良いのですか。王太子殿下ともあろうものが」
「ただの馴れ合いだろう?」
アイビーが嫌そうな顔をしつつ、イベントをこなせとアドバイスをしているかのようだが、王太子はクックッと笑いながらこちらに割って入る様子は一切無い。
なんでぇ……他の人達も何も言わないし~……と、私にだけかろうじて聞こえる程度の声でカローラの泣き言が聞こえるが、あえてスルーさせてもらう。実際問題、入学式の時に言ったカフェ出禁が一気に噂となり駆け巡り、私に対する嫌がらせを行おうという強者が誰も居ないのだ。むしろ、私に対してにこやかに挨拶してくるし、私も新作の話をしたりして友達が増えている感じしかしない。
前世と同じように楽しく有意義な学校生活を送っているのだ。
もうここまで来ると、ヒロイン?何それ。知りませーん。と声を大にして言いたい程なのだが……。
「それよりアイビー。お前、俺の側近になる気はないか?」
「私は生涯カローラ様にお仕えします」
まさかの勧誘が始まってるー!と思ったら、次に放たれた殿下の言葉で私達は固まった。
「ならばカローラが妃になった暁にはアイビーも付いてくるのか」
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