第29話
嫌です!!と全身が叫んでいるかのように、顔面蒼白で白目を剥きながらプルプルと震えているカローラを見ながら、私としては侯爵令嬢のありえない姿!なんてテロップを脳内再生していたりする。誰か写真撮って、動画作ってくれないかなぁなんて思考回路を他へ移す。
ちょっと……これは……アイビーのせいで確定したかのような王太子妃ルートになってしまうのでは?
……悪役令嬢なのに不憫すぎる。
「……ご冗談を」
物凄く嫌そうな顔をして、全身から殺気を漂わせ威圧しながら教室全体に冷気を広げたアイビーに、クラスメート達も胸の前で腕を交差させては肩を抱きしめさすっている。うん、そういう私もそんな格好してるけどね……寒い!抑えて!殺気抑えて!!
セドリックとシャルルも顔面蒼白となって震えているのが分かる。我慢しているかのように無表情で身体を抱きしめる事はしないけれど、小刻みに震えているのが見ただけでよく分かる程だ。
ある意味で変態を超える強者、アイビー。
そんな空気の中でもカローラはアイビーの殺気というより王太子の言葉で震えていて、王太子は笑い飛ばしている。
「なるほど……あくまでカローラの言う事しか聞かないと。面白い」
そう笑いながら言う王太子の興味は尽くアイビーに向いているようだ。
それを理解したかのようにカローラは顔をアイビーに向けると、アイビーも自分が原因で付きまとわれていると思ったのか、バツの悪そうな顔をカローラに向けたが、授業が始まる鐘の音により、この話は終了となった。
「……何か凄くややこしくなりそうだね。気をつけて」
隣の席からポピーがそう耳打ちしてくるのに、思わず赤面する。
学生生活!隣の席からの耳打ち!!
学生生活なんてどれくらいぶりで、青春をいくら謳歌した所で、やはり青春は心弾ませるものなんだ!なんて思いながらも、ポピーの忠告よりもこれからの楽しさに胸を躍らせていたら、ジト目のポピーと目が合った。
あ、はい。すみません。
そんな意図を伝えるかのようにポピーにだけ分かるように頭を俯かせた。
貴族令嬢、使用人や平民に対して、簡単に頭を下げてはいけません。なんて、面倒くさい決まりごと。プライドより大事な事ってあると思うんだけどな。
悪い事をしたら謝る。時に謝罪が自己満足にしかならない時もあるし、謝罪出来ないというのも、とても辛いものだ……けど、この場合は違う。
貴族は謝らない事が前提すぎて面倒くさい。
そんなくだらない事を考えながらも、私は授業を半分聞く。
――シャルルがこの国独自に合わせた簿記の授業を――
◇
休日、私はポピーと王都でデートを楽しんでいる。
「リズ。店はこっちだよ?どこ行くの?」
「うっ……」
わけではなく、きちんと事業に関して仕事をするわけです。だけど……だけど!!
学業と仕事の両立ってしんどくない!?てか二度目の青春を謳歌しまくって何が悪い!?やる残した事を全部したいのよ!!休みまでも休みじゃないとか気分転換出来ないわ!リフレッシュ出来ないわ!!遊びたいんだよ!こんちくしょぉおおお!!!
「リズ、心の声が漏れてる」
「おっと」
頭の中で叫んでいたつもりだったのに、思わず声に出ていたらしい。まぁ、それだけ私の不満は溜まっているわけだが。
仕事が大事なのは分かる!何とかイベント回避は出来ているけれど、本当に平民としてでも仕事があれば生活出来るわけだし!……いや、今の場合は逃がしてもらえるかどうかも分からないのか。国から。
そんな事を考えながら俯いていると、ポピーが溜息をつきながら私の頭を優しく撫でた。
「……じゃあ偵察だけして、終わったら王都巡りでもしようか」
「やったぁ!デートだ!!」
「あのねぇ……」
もう言うだけ無駄かも、と小声で呟きながらポピーは諦めたようだ。
男女二人で出かけるものはデートで間違いない!私がデートだと言ったらデートなんだ!!
という事で、カフェに立ち寄って店内やショコラティエやパティシエとも新しいレシピについて相談したのちに、午後からは自由時間!!
食べ歩きだウィンドウショッピングだ!うわーい!!とはしゃぐ私をポピーが制しながらも王都を巡って行く。
それなりに広さがあるからこそ、一日二日では回りきれないし、色々な店があって面白い。
「まずは何か食べようか」
そう言いながらポピーは屋台のようなものが並ぶ場所へ行くと、オススメだと言われる物をいくつか買ってきてくれた。
それを頬張りながらも、次は王都で平民にも人気で可愛い雑貨が売っているお店に連れていってくれ、他にも変わった食材を扱ってる店も案内してくれた。
「こういうのも好きそうだよね」
そう言って露天が立ち並ぶような場所にも連れていってくれたが、そろそろ私の足も疲れてきた……というタイミングでポピーが中級階級の人達が使う内装が良いと言われるカフェに行こうと案内してくれた。しかも商売人や事業主などお金を持っている人が使用する個室へと案内してもらったのだ!確かに私としても違和感がない……筈!!
大満足なデートコースに対し、店内で思わず私はポピーに言う。
「ポピーのエスコートは最高!ねぇ!結婚しよう!!」
「リズ……あんまりそういう事は言うものじゃないよ?」
私は興奮しながら言っていたが、それとは反対に呆れたように項垂れつつポピーは返事をした。
「……リズは一体何を考えてるの?」
「どういう事?」
何を問われているか分からない……と思いながらも、黒を基調としたシンプルでシックなデザインのお店ならではなのだろうか、金縁のある少し豪華なカップが引き立てられているかのように差し出された。
個室の為か、店員は紅茶を出したら素早く退室していく。
「いつも結婚結婚って言うけど……リズは逃げたいだけじゃないのかなって」
ギクッと思わず効果音がついてしまうかのように肩を上下させてしまう。そりゃ確かに逃げたいよ!結婚したらルートからは完全に外れるし!むしろ一番安全で確実な逃げ方ではあると思ってる。
そりゃ最大権力者である陛下が動いたらどうなるかは分からないと思うけれど……あ、何か不安になってきたな。
「相手は誰でも良いのなら……」
「それは違う!」
苦虫を噛み潰したかのような表情で言うポピーに、食い気味で否定した。流石に誰でも良いと言うならば言ってしまえば攻略対象の誰でも良くなるし!そもそも貴族でも良い事になるが、私はそんな事を一切思っていない。かと言って平民であれば誰でも良いと言うわけでもない。
「私はポピーが良いの!ポピーじゃなきゃ意味がない!」
そう言うと、ポピーは一気に顔を真っ赤にさせて俯いた。
「……何それ……僕みたいなのでもリズが必要としてくれるならって思ってただけなのに……ただの幼馴染程度にしか思われてないと思ってたのに……」
ボソボソと呟くポピーの声は、独り言のように言っているつもりなのかもしれないけれど、私に全部筒抜けである。
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