第42話
「ヒロインが居ないなんて言ってないよ~」
セドリックがそう声をかけると、バルコニーに私達以外の人が居る事に気がついたのか、一瞬驚いた顔をして慌てるも、グッと足に力を入れてその場から逃げないようにしているのが分かった。
「……記憶持ち……?」
「そのようですよ?」
思わず尋ねる言葉が私の口から出たが、それに返事をしたのはシャルルだった。
そのやり取りに、ハッとしたかのように子爵令嬢は私達を凝視した。
「え!?何?あんた達も転生者なの!?」
「その言葉遣いは……令嬢としてアウトなのでは?」
「むしろ人としてもアウト」
子爵令嬢の言葉に、カローラが呆然として返すが、そもそもそれ以前の問題だと言わんばかりに私も返す。だって初対面ですよ?親近感がもし沸いたとしてもどうなの?てか、私達に声をかけた一言もどうなのかと思う。
「前世一体何歳で何やってたんだ……」
「中学生よ!悪い!?」
「色んな意味でアウトーーーー!!」
私の呆れた言葉に対する返答を聞いたカローラが思わず叫ぶ。叫ぶと言っても、さすが侯爵令嬢。会場の方へ聞こえるような絶叫とは程遠く、普通の会話より少し大きい程度で抑えたのは、ずっと施されている教育のおかげだろう。というより……。
「……中学生であのゲームをしたのか」
「中学生って?」
セドリックの問いに、前世での中学生という年齢を伝えると私達以外の全員が頭を抱えて項垂れたのは言うまでもないだろう。
「何?あんた達も転生者なの?」
「その喋り方は……」
「中学で年齢止まったの?」
子爵令嬢が口を開くたびに項垂れたくなる。子爵とは言えど貴族令嬢として教養は行われていたのではないのか?否、それを放棄してしまってる私が言える事でもないけれど、ここまで酷いといっそ清々しいと言うか、前世世界では教育水準が低いと思われてしまうのではと恥ずかしくなってしまう。……まぁ、この世界に比べれば低いと思うけどね!?主にマナー面に対しては!!
「失礼ね!楽しければ良いじゃない!それより転生者なのか聞いてるの!」
「前世の記憶ならあるけど?」
「同じく。日本の記憶ですけどね」
喚く令嬢の質問に答えると、子爵令嬢はフンっと鼻息荒く吐いて、腰に手を当てて胸をはる。
曰く、記憶がある癖に役割を放棄した愚か者だとか、あんなイケメン放置するなんて勿体ないとか、ゲームの世界を楽しむ事も出来ないつまらない奴だとか。
そんな事をつらつらと喚かれている中、私とカローラの口元はどんどんと引きつっていき、ポピーも呆気にとられているように口が開いていく。それとは正反対にセドリックやシャルルの笑みは深くなっていっている。
「ゲームの世界に来られるなんて素晴らしいじゃない!さすが神絵師だけあるわって感動したのよ!!」
目を輝かせてそんな事を言う子爵令嬢は理解しているのだろうか。確かに神絵師のスチルは素晴らしかったし、それなりに皆さん美形だとは思う……思うんだけど……この中学生だった子は、ゲームの全体をクリアしているのだろうか?
……あれ年齢制限どうだったかな、なんて変な方向に思考が偏ってしまう。
「ねぇ……アディエス子爵令嬢……?これ現実だと理解している?大丈夫??ゲームと違って、この後も現実は続くのよ……?」
心配になったのか、カローラが諭すように言葉をかける。この令嬢の名前を覚えていたのは、流石侯爵令嬢と言ったところか。言われた子爵令嬢は、キョトンとした顔をしたかと思うと、すぐに怪訝な表情をして口を開いた。
「え?何言ってんの?嫉妬?」
「いやいやいや!違うから!嫉妬なんてするわけないから!!」
思わず盛大な突っ込みを入れて、首だけでなく両手も左右に力強く振る。どこをどう解釈したらそうなるの!?
そんな私に信じられないとでも言いたげな子爵令嬢は目を大きく見開いている。え!?何で!?それに気がついたのだろうカローラが静かに口を開いた。
「……茨のラビリンス……エンディングを見たの?」
「全ルート攻略したわ!!」
「そう……そしてこれは逆ハーレムエンドね?」
「そうよ!!」
ここのシャルルやセドリックが居る事も忘れたのか、声高に子爵令嬢は答え、その答えに対して二人はとても面白そうな者を見る目で眺めている……あぁ……なんと言えば良いのか……。
「あのねぇ……」
信じられないと言った様子で頭を片手で抑えて呆れ返っているカローラの前にアイビーが出て、説明は私が、と満面の笑みで口にすると、頭痛でもするのかカローラはお願いと一言だけ返して一歩下がった。
「うわー!イケメン!!」
アイビーの顔を見て、前のめりになってそんな事を口にした子爵令嬢だが、アイビーが冷めた視線で刺すように目を向けると、その冷たさに動きが止まった。
アイビー相手に、変な動きをしてはいけない……そう思って私も一歩ポピーの方に下がると、ポピーも私の手を取って、繋いでくれた。あー落ち着く。
「まず茨のラビリンスですが、絵と台詞が合ってないようなゲームで、歪んだ18禁どころかSMに近いゲームですよね。それを中学生が平然と行っていた事も驚きですが、ヒロインに自ら成り代わった事も考えが足りない証明でしかありませんね。だからこそ、攻略対象達を貴方へ嗾ける事も楽でしたが」
おいコラ。カローラは気がついてないようだが、アイビーよ、お前今一体何を言った!?
自分も転生者かのようにスラスラと語る姿は、まだ詐欺師のようだなとしか思わないけど、けしかけたって何だ!?ちょうど良く生贄を見つけたから変わりに攻略してもらおうってか!?何かシャルルやセドリックが小さく頷いてるけれども!!なにそれ神様!いや邪神様!大魔王様!アイビー様!!ありがとう!ありがとう!!ありがとう!!!
「…………」
「………………」
心の中でだけで唱えてたのに、読まれたかのようにアイビーがこちらに刺すような視線を向けた為に思わず視線を背けてしまう。
……大魔王が悪かったのだろうか。でも間違ってるとは思わない。
「ドエスな王太子はヒロインを壊し所有し、ひれ伏せさせて人形のように従順に躾するでしょうし、ジルベール騎士団団長補佐は暴力による屈辱に染まらせ、痛みを快楽に変える程の事をするでしょう。シャルル宰相補佐も恥ずかしい……あ、貴方のその格好は既に露出狂でしたね、まぁ見事なストーカーを繰り広げてくれるでしょう」
「誰が露出狂よ!!」
「あえて口に出されるものを聞かされるのは居た堪れないですね」
子爵令嬢が反論するけど、その通りだとしか思えない。あんな格好に憧れていたのだろうかとさえ思える露出だ。若さ故なのか……?
シャルルは自分の性癖をあえて再度聞かされた事に少しだけ苦笑している。
「セドリック魔術師団長も囲って拘束してくれるでしょうし」
「うん、あえて聞かされるのって笑えないよね」
セドリックもそんな事を言うが、笑えないと言いつつ笑っているのがセドリックらしいなとも思える。
「それが何だって言うの!?」
「だから、これは夢物語でもなくて現実なんですよ」
アイビーがそう言えば、セドリックが子爵令嬢に向けて魔道具を放ったかと思ったら麻縄のような物が出てきて、子爵令嬢を縛り上げる。
「なっ!?」
「淑女としてあるまじき格好になっていますねぇ」
倒れた子爵令嬢の足はあらわになり、胸の布も少なかった為か、完全に露出しそうな程に溢れている。
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