第41話

 壊して躾て所有して依存させて……その先に待ち受けるは快楽的な人形のようなものだと想像出来るのだが……。それは前世の知識を持つ私達だけが知ってる事で……でも、この令嬢はある程度イベントをこなしていたんだよね?まさか……?

 そう思いつつアイビーに視線を向けると、私の視線に気がついたのか不敵な笑みを見せる。え……本当怖いんだけど!?


「円満に婚約白紙……ですか?」

「あぁ、カローラに不満があったわけでもないし、アイビーが欲しいというのも変わらないが、俺はモナが良いんだ」


 ゲームイベントと違う台詞に困惑したかのようにカローラが訪ねると、王太子はそう返した。その言葉に余計困惑したかのようなカローラだが……。


「アイビーは陛下のお気に入りでもありますしね」

「あぁ、だがこのような場で宣言してしまえば陛下も駄々をこねる事もないだろう」


 私の言葉に王太子はそう返すが、駄々をこねているのは、むしろアンタだと前世大人の私が鉄拳を食らわせたくなる。……しないけど。だって言ってしまえば王太子と会いたくないと逃げまくっていたカローラだって似たようなものになるし、私もそうだ。理由は身の為だけどね!!健全で居たいからね!!


「まぁ……円満に婚約白紙出来るのであれば、こちらとしても嬉しい限りです」

「そうか!!」


 王太子との婚約白紙に嬉しいとは……思わず本音を漏らしたカローラの言葉に周囲はザワついたが、王太子は円満な婚約白紙を了承してもらったという事しか頭にないのだろう。アイビーが敵に回らないのであれば、なんて呟いている辺り、どうよ?

 そんな王太子にクロヴィス公爵は満足そうにしているし、ジルベールはアイビーと一緒に護衛出来ないのが若干不満そうだ。シャルルは楽しそうにしているし、セドリックは相変わらず笑いたいのを堪えているようだ。何このカオス。


「えーっと……追放とかは……?」

「あるわけないだろう?侯爵令嬢として、変わらず国の為に動いて欲しい。そのドレスも良いな、カローラが作ったのだろう?事業として行ったらどうだ」

「えっ……!?」


 穏便な空気にカローラが不穏な言葉をつい口にするも、王太子は突っぱねた挙句に事業展開まで口にした。それに対して驚きの声をあげたのは子爵令嬢で……あれ?もしかしてこの子……?と、少し心に引っかかった。

 しかし、そんな私の心とは裏腹に、シャルルが前に歩み出てカローラに言葉をかけた。


「そうですね。カローラ嬢の新たな発見ですね。お手伝いが必要であれば是非とも声をかけて下さい。リズ嬢のように大きな事業になりそうですね」


 少しばかり言葉の裏に含みを持たせてるのが理解できるが、それも面白いかも?なんてカローラも考えているようだ。窮屈なドレスは嫌だし、と小声で本音が漏れ出ているのが聞こえて、思わず力強く頷いてしまう。


 色んな意味でゲームのイベントから外れている卒業パーティなのだが、子爵令嬢はどこか焦っている様子でもある。


「え?追放しないの?私いじめられて……」

「それはないない!カローラ嬢はアイビーで手いっぱいだし!」

「証拠もないのに言うものではありませんよ……何もしていない証拠なら沢山ありますけどね」


 ミモナ子爵令嬢の言葉にセドリックは笑いが堪えきれなくなったのか、大声を上げて笑いながら返し、シャルルに至っても言葉に何か裏を含ませるように返した。まさかシャルル……得意のストーカーでもしてるのか!?


「カローラ嬢はそんな人ではないですよ」

「俺に嫉妬する性格でもないしな」


 ジルベールと王太子まで擁護する為、子爵令嬢は唇を噛み締めてグッと堪えているかのようだ。そんな中、私の存在に気がついたのか、私と目が合うと、子爵令嬢は驚きで目を見開いている。小刻みに震える口からはアンタは……という声にならない声が聞こえる。


「彼女はリズ・ルデウル男爵令嬢で、今人気のチョコや魔道具を開発した事業者ですよ。ミモナ令嬢も商品はご存知でしょう?」

「よく強請っているからな」


 シャルルの言葉にクロヴィス公爵が返す。……私の商品が好きなのか、そうか。何か複雑なんだが?

 二人の言葉に驚いたかのように子爵令嬢は視線を私やカローラ、攻略対象者達に向けてキョロキョロしているが、そろそろ周囲に居る令息令嬢達の視線とヒソヒソした声に居心地の悪さは限界だ。これ以上、目立ちたくない。


「では私達はここで……」


 カローラがカーテシーをするのに合わせて、私もカーテシーをして失礼するという意思を伝える。アイビーやポピーも合わせて礼をし、そのまま踵を返した。背後から、ちょっと待って!なんて子爵令嬢の声が聞こえるも無視だ。これ以上、醜聞を重ねたいならそっちだけでやってくれ。

 私達を避けるかのように令息令嬢達が道を開けてくれる中、人気が少なく緊張を解したいという気持ちは言わなくても一致している為か、迷う事なくバルコニーへ歩みを進める。


「あれは……何?」

「……さぁ……?」


 夜風に当たって、深呼吸をした後に出た言葉は、疑問からだった。

 私とカローラだけでなく、ポピーまでもアイビーに目を向け、何か知っているなら教えろ、と言わんばかりの状況になっている。


「まさかシャルル様やセドリック様が仰ってた、面白い事って……先ほどの令嬢の事だったりしますか……?」


 ポピーが声を絞り出すかのように問いかける。

 確かに、二人は面白い事があるから会えなくなると言っていた。まさか……その頃から攻略イベントを初めていたとか?

 ポピーの言葉に対しアイビーが不敵な笑みを浮かべた瞬間


「あ!二人とも!ここに居た!!」


 いつも空気を読まないセドリックが乱入してきた。


「「…………」」

「え、何その目」


 何とも言えない表情で、何から聞けば良いのか分からない私とカローラは、セドリックを疑惑に満ちた目で観察していたら、少したじろいだように半歩後ずさって言葉を返してきた。


「一体どういう事ですか?」


 そんな私達と裏腹に、一歩前に出たポピーはセドリックにそう尋ねると、セドリックはチラリとアイビーに視線を向けた。視線を向けられたアイビーは涼しい顔をして何もないような顔をしているが……。


「いや、前に言ってた面白い事が、これなんだよね」

「婚約白紙という、良い方向に持っていく事も出来ましたね」


 セドリックの言葉に続くようにシャルルもバルコニーへやってきた。


「ありがとうございます?」


 とりあえず何が何やら混乱しているだろうカローラも、疑問符を浮かべながら感謝の言葉を口にした。いや、疑問符があるあたりどうなんだ!?流石にポピーも苦笑しているぞ!?

 バルコニーの真ん中に私とカローラ、左にアイビーとポピー、右にセドリックとシャルルという形で陣取ると、カツカツカツカツと足早にヒールを鳴らす音がこちらに向かって近づいてくる。


「ちょっと!ヒロインが居るなんて聞いてない!!」


 そんな罵声と共にバルコニーへやってきたのは、先ほど王太子に擦り寄っていた露出狂……もとい、どっかの子爵令嬢だ。

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