第43話
二人の本領が発揮されるのか……なんて思わず俯いて現実逃避をしたくなる。あぁ……美しい絵姿の二人がよろしくない行動を起こして、よろしくない台詞を吐くのなんて見たくない……見たくないぞぉ……現実として目の前で起こって欲しくないぞぉ!!これ以上進みませんように!!
そう願う私の心を汲んでくれているのか、セドリックもシャルルも、それ以上行動を起こすような事はせず、一歩踏み込んだアイビーが更に言葉を紡いでいく。
「公爵に至っては否定して心をズタズタにした挙句、身体に傷をつけ穴をあけて……最終的には手足をなくすんでしたよね?それが貴方の未来ですね」
「……えっ……?」
アイビーの言葉に、初めてそれを知ったかのように驚き、目を見開いて呆然とする子爵令嬢は、こちらに視線を向けるも、私達も苦笑して頷くしか出来ない。
絶望したかのような子爵令嬢は何故か焦ってシャルルやセドリックの方を見ると、二人は満面の微笑みで頷いた。
「……え……」
口から小さく漏れ出た声は、本当にそれを予測していなかったかのようで、不安に震えるようだった。
「まぁ性癖の捌け口が出来たと思えば面白いというか十分ですね」
「共有ってのも、なかなか面白いよね。まぁ本人が望んでいるんだし?」
「っ!!!」
追い打ちをかけるようにシャルルとセドリックもそんな事を言う。二人は二人で真っ当な性癖だとは思っていなかったようだし、子爵令嬢が自ら籠の中に飛び込んできたかと思えば、それならばと思ったのだろう。
……私達から指摘された後というのもありそうだけど。
子爵令嬢は、やっとこれが現実だと気がついたのか、盛大に顔が引きつっている。いや、遅いだろ。
「……どれだけマゾなの……?」
「マゾって域なのかしら……?」
「……自虐趣味?」
思わず呟いた言葉にカローラとポピーも答える。自虐……うーん自虐?
「自殺希望者と変わりないかと」
「「「それだ」」」
アイビーの言葉に私達三人は声を合わせて盛大に頷いた。自らダルマになりたいなんて奇特な人、私は前世も今世も合わせて知らない。否、目の前に一人居たか。
あんなヤバイ公爵も攻略するって凄いよね~なんてセドリックが言う横でシャルルも頷いたかと思うと、二人は冷えた眼差しで子爵令嬢を眺めて言った。
「ま、結婚はしないけどね」
「満たすためだけの道具ですね」
どうやらシャルルとセドリックは、自らヒロインとなる位置に飛び込んで来た餌を面白いものと認識して興味を抱いたようだ。
王太子の側近という役割をしっかりとこなして監視していると、私達が言っていた通りに自分達に対して攻略していく中では、まだ予言の中に身を置いているという楽しさを味わっていただけのようだったが……クロヴィス公爵を攻略した辺りで、そういう人種だと理解し便乗したとの事だ。
更に王太子も攻略したのならば、ジルベールも諭して便乗させたと二人の口からハッキリ告げられた。
「な……」
攻略したつもりが、まさか攻略に便乗されていたとは思わなかったのか、ミモナ子爵令嬢は目を見開き、口をパクパクさせて驚いている。
「これは……円満解決……なのかしら?」
「事業がんばろう!」
疑問的に首を傾げるカローラに、私は考える事を放棄して、自分の未来だけを考えて言葉を口にした。
自分で選んで攻略したのならば、それは自分が選び掴み取った未来である。第三者である私に口をはさむ権利もなければ、考えるだけ無駄というもの。……頭が回らなくて、ゲーム感覚でしかなかったのは自業自得でしかない。自分の未来くらいは自分で考えないと。
「ちょ……ちょっと待ってよ!」
「考える頭を持ってたでしょうに……」
「選んで行動したのは自分でしょう」
素晴らしい神絵師のスチルしか考えなかった、目先の美貌にとらわれた挙句に攻略したのは自分でしかない。人は常日頃から選択ばかりの毎日だ。無意識のうちにでも選び取っているのは自分自身でしかない。それが積もり重なり未来へ連なっていく。
「だって……!」
肩を震わせて涙を流す子爵令嬢だが、それは今更でしかない。だっても何もないのだ。言い訳をしたところで時間は戻らない。
かわいそうだという同情心がないわけではないが……正直、関わる事によって自分の未来がどうなるか分からなくて怖い。ここからはゲームにない世界になるのだから。
「助けてよ!」
「無理よ」
「自分が大事」
パーティ会場に戻ろうとした私達に、そう声をあげた子爵令嬢に対して、私もカローラも即答する。
その返事に対して絶望の表情になるけれど、こればっかりは仕方ない。自分の力で何とかしてほしい。
「行こうか」
「行きましょう」
ポピーとアイビーがエスコートの為に出してくれた手を取り、私達は会場に戻っていく。
「見捨てる気!?」
そう喚く子爵令嬢の声が背後から聞こえ、ヒールの鳴る音が聞こえたが……。
「いや、逃がす気ないよ~」
「むしろ逃げられませんよ」
セドリックとシャルルの楽しそうな声により令嬢は小さな悲鳴を上げた後に、私達を追いかけてくる様子はなかった。
うん……頑張れ……?
どう頑張るのか分からないながらも、心の中でそう祈りつつ……。
「「円満解決~!!」」
私とカローラはハイタッチをして、これからの未来に胸を弾ませた。
卒業後、私もカローラも王都に残って事業に精を出している。新商品をバンバン出してヒットしまくってる私はともかく、カローラもカローラで前世知識を生かして様々なデザインのドレスを作り出してはヒットしている。王妃様御用達ともなっていて、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
……まぁ、前世での色んな国にある民族衣装とかも参考にされてて、見ているこっちは複雑な反面、とても楽しんでいるわけだけど、貴族令嬢にも合うように露出を抑えた新しいデザインに変えているあたりは流石だと言わざる負えない。
「え?今なんて……?」
そんな中、本日はカローラの屋敷にて前世で覚えている事を披露して新しい商品を作り出すぞ!の会を開催していたら、シャルルとセドリックと何故かジルベールが訪ねてきたのだ。ちなみにジルべールはアイビーに手合わせを申し込んで無理やり?というよりカローラに諭されて庭へ出て行った。ポピーは皆にお茶を入れてくれている。
「ですから、子爵令嬢のご報告を」
「あー……耳栓ほしい」
「魔道具で高性能にしてね」
「何それ詳しく」
シャルルの言葉に私がそんな返し方をすればカローラも乗ってくる。一名、目を輝かせて前のめりになっているのはスルーだ。
「……王太子の婚約者が別の者になったのは気にならないのですか……?」
「純潔じゃないからとか言いそう」
「とりあえず王妃になっても問題なく政務が出来た上に、妻扱いされなくても文句言わない家を選んだわよね……?」
私とカローラの言葉にシャルルは苦笑しながらも頷いた。
卒業パーティで子爵令嬢が良いと言っていたが、王太子の婚約者なんて伯爵位以上だ。現実問題的に無理がある。しかしながらカローラにはアイビーが居る為、無碍な扱いは出来ないだろうという結論になったとか、そう押し通したとか。しかし新しい令嬢か……と思っていると、そんな考えを読んだのか、セドリックがにこやかに口を開いた。
「大丈夫だよ!生贄はもう居るんだからさ!」
素敵な笑顔で何か怖いセリフを吐いている辺り、ゲームを思い出す。一応は無事なのかと安堵の息を吐けば、それに気が付いたのかシャルルも口を開いた。
「流石に止めますよ?性癖と言えども、刃を突き刺した傷口に……」
「それ以上言わなくていいからーーー!!!」
聞きたくない行為を聞かされたくなくて、つい大声を張り上げてしまう。カローラも耳を抑えてうつむいていた。
「無事と言う事は理解しました」
ポピーが一言でまとめてくれ、こちらとしても肩の力が抜けた。
ならば公爵はどうしてるのか……とも思ったけれど……。
「平和だ……」
私は自分の立ち位置が無事な事を改めて感じて、青く澄んだ空を窓から眺めた。
そして私とカローラは同時に口を開いた。
「「この平和が続きますように」」
自分で逃げる事を選び、そして掴んだ平和が。
【完結】こんな転生は嫌なので舞台から逃げようと思いますが、逃してもらえません! かずき りり @kuruhari
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