第38話
「……良いんですか?」
呆気に取られたかのようにポピーが問いかけると、二人は力強く頷いた。
「貴族の体裁など、王家が認めたというだけで保たれるだろう。血筋が途絶えるわけでもなし」
「むしろ後押ししたくらいで良いかもしれないわね。これだけの事業を平民が興したならば子爵位を授けても良いくらいですもの」
「むしろ貴族でなければ婚姻を認めないというならば、子爵位を授けるか」
「そ……そんな!」
国王と王妃の会話で、まさかの貴族入りとなるのかと思いきや、ポピーがあまりに現実味のない話に両手と首を振ってお断りの意思を示す。
「……ポピーも貴族生活しんどいと思ってる?」
「……うん」
「「…………」」
私の言葉に全力肯定したポピー。そんな私達を見て国王夫妻は言葉をなくしていたが、自由な平民と、それを導くべき教育が施された貴族など、本当に全く別な生活なのは理解している為か、ならば仕方ないと無理に授ける事はしなかった。
◇
アイビーとカローラのいちゃつきをあまり見るのも腹立たしいので、最近は疎遠になっていたサロンに足を運ぶも、案の定そこには二人の世界を築いているアイビーとカローラがいるわけだが……否、カローラは今だに照れてパニックを起こしていたりもする。
前世喪女だって言ってたもんね……三次元初めてなんだよね……うん、そうなるよね、と初々しく思わず見てしまった。
「リズ!!!」
助けがきたと言わんばかりに私の名を呼ぶカローラだが、私が居たところで無意味だ。だから何だと私の存在を完全無視しているアイビーに離してもらえる筈もなく……わかりきっていた私は二人の正面にあるソファに腰掛けて、国王達の話をした。
曰く王太子達がどこかへ行っているという話なのだが。ついでに二人の事は国王も知ってますよ~と言うのも言っておく。
「……そういえば最近見ないわね」
アイビーの膝から必死に逃れようと前かがみになっているカローラから、そんな言葉が出た。うん、アイビーとの毎日にそれどころじゃなかったのかな?アイビーはアイビーで涼しい顔をしながらもしっかりとカローラの腰に手を回して逃すまいとしている。
「……ティダル侯爵は何と……?」
ポピーの問いかけは言外にアイビーとの関係も指しているのだろう。国王の耳にまで入っている程だ。それを理解しているのか、カローラは苦笑しつつ口を開いた。
「別に何も……幼い時から色々やらかしているから……殿下が認めているならと終わりよ」
「……醜聞は……?」
「危険な事があった為に護衛を兼ねてベッタリ付きっきりになっている。という噂がどこからともなく流れたみたいね」
私の問いに対するカローラの言葉で私とポピーは思わずアイビーを見たが、相変わらずの無表情を貫いていた。絶対何かやってそう!!情報操作やってそう!!
「リズ!カローラ嬢!!」
ノックもせずに扉が開いたかと思ったら、セドリックが問答無用で入ってきた。後ろでシャルルが溜息をついていた。うん、一応貴族にあるまじきマナー違反だと言う事は理解できるよ、私でも。
「ちょっと面白い事を見つけて!!」
そんな事はおかまいなしと言わんばかりにセドリックがこちらへ歩み寄ってくる後ろからシャルルもきちんとついてくる。
「面白い事?」
「うん!そう!!だからしばらく疎遠になると思うんだ!」
ニコニコと嬉しそうにセドリックが言うも、疎遠って……そんな言葉を使う?と、思わず眉を潜めてしまったが、それに気がついたシャルルが言葉を訂正する。
「今までのように頻繁に会う事が出来なくなるだけですよ。仕事の事もありますし、いつでも会いに来てもらって良いですから」
うん、それならば納得だと思い、皆が了承を告げるように頷いた。
もうすぐ卒業パーティという断罪の場が近づいていると言うのに、カローラは相変わらずのんびりとアイビーの膝に座ってお茶を飲みながらボーっと窓の外を見て呟いた。
窓の外では放課後の賑わい以上のざわめきが聞こえているけれど、久しぶりにカローラとゆっくりする時間なのに、わざわざそんな事まで気にしていられない。
「何だか……平和ね」
「それは良い事ですね」
「ア……アアアアアイビー!!!近い!!!」
アイビーに慣れたのかと思いきや、推しの顔は凶器らしく、近づかれると真っ赤になってアイビーの胸を押し返しているカローラに対して、そのまま純情で居て!!なんて願ってしまう。
「……私はマトモに学園へ通ってなかった気がする……」
「貴族令嬢と言うよりは完全に商売人よね」
「僕としては生業に合ってるし、リズも生き生きとしてますよ」
私の言葉にカローラとポピーが返す。本当、国の特産になっただけあって、日々忙しさに殺されそうだった。既存の物だけでも十分人気なのだが、この人気を保つ為にも新しい物も定期的に作り出さないといけなくて、前世の記憶から色々引っ張り出しては作り上げるのに四苦八苦。
魔道具と言う名の家電製品はともかく、チョコと使ったスイーツなんて私の頭にレパートリーは少ないから、最近に至っては和食という物を作り出してレストランまで初めてしまったのだ。
うん、自分で自分の首を絞めた。
「残念なのはタイ米のようなお米よね。おにぎりが食べたい~!」
なかなか好みの物が見つからず、タイ米のような物とスパイスはあったので何とか調合してカレーライスもどきは作れたのだが、やはり生粋の日本人としてはおにぎりが食べたいのは納得だ。カローラの言葉に力強く頷くと、私達の様子におにぎりという物にとても強く興味を持っただろうアイビーとポピーが目を見合わせて頷きあっていた。
……この調子でシャルルに会えたら巻き込もうかな。沢山の情報網があればきっと見つかると信じている!信じたい!!
「そういえばセドリックやシャルルと会ってない気がする」
「リズがイベントをこなしていないからじゃない?」
私がそんな事を言えば、カローラはまさかの設定を思い出したかのように口を開いた。その言葉に思わず私の肩が跳ね上がって、口角が引きつる。
「……どうするの?」
「……そっちこそ」
すっかり商売にかまけて、自分がヒロインであると言う事を忘れていた私と、多分アイビーにいっぱいいっぱいで自分が悪役令嬢だと忘れていただろうカローラは、お互い示し合わせたかのように視線を外して俯いた。
私はイベントをこなしていないから好感度は上がっていないだろうし、カローラも私をいじめたりなんてしてないから、余程の事がなければ断罪なんてなさそうだけど……
なんて事をのんびり考えながら、少し冷めた紅茶に口をつけた。
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