第37話
謁見の間に呼ばれ……たのかと思いきや、何故か私とポピーの二人は王城にある中庭に通された。
そこは美しい庭園で、色とりどりの花に囲まれた中にテーブルが設置されており、腰掛けているのは陛下と王妃のお二方だった。
「堅苦しい事は抜きにしよう。リズ嬢はなかなか貴族としての生活に慣れないと聞いた」
「だからかしら。着眼点が面白いわね」
「ありがとうございます」
無礼講で良いという事なのだろうと思いつつ、本当に不敬として問わないよね?と疑心暗鬼の状態で私はすすめられた席につくが、もう一席あって……。
「ポピーさんでした?お座り下さいな」
「………………失礼致します」
たっぷり間があったのは考えていたのだろう。断る事が失礼になるとふんだのか、ポピーも恐る恐るといった感じで腰掛ける。
私はガッチガチに緊張して動きがぎこちないと言うのに、何故かポピーはどことなく堂々としている感じもある。……何故だ、解せぬ。これが現在も庶民という身分のせいなのか!?いやでもポピーもそれなりに教育は受けているのに!
「二人には感謝している。リズ嬢の道具やスイーツ、書式や帳簿のアイデアも勿論の事ながら、ポピー君の経営能力も素晴らしい」
「宰相の補佐をしているシャルル・ギルマン侯爵令息も褒めていたわよ。仕事量が格段に違うと」
お褒めの言葉に少し肩の力が抜けて、出されたお茶を無事に一口飲む事が出来た。
実際、国内外へ商品の売上は素晴らしく、国の特産にするというシャルルの言葉通り、見事その目標に到達出来、国王夫妻も大満足という感じだ。
本来、そうなった時は仕事が増えて仕方ないというのに、私が以前教えた書式や帳簿で統一する事により書類仕事の効率が良くなり、事務仕事への拘束時間が減り、きちんと休息を取る事によって更に仕事の集中力も増えて効率が上がるという良い循環しか生み出していないという。
当たり前だ。ブラック職場はダメだ!あれは命をすり減らすという地獄なんだから。
「まぁ……お陰でフェリクスが遊びまくっているようだが……」
「そんな事を言うものではないですよ。リズ嬢の前です…………それを言うならクロヴィスだって」
物凄く聞きたくない名前を聞いた気がして、私は何も聞いていないという感じで表情一つ変えずスルーしながら目の前にあったお菓子を一つ摘んだ。
王太子はまだ良い。まだ良いわ。クロヴィスだって?リョナ公爵の名前なんて思考に浮上させたくない!
「王城の料理人が、リズ嬢お抱えのショコラティエに教えていただいたというのよ。どうかしら」
一つ摘んだお菓子はチョコで、一口齧ると中からベリー系らしい赤いソースが溢れ出し、手を汚す前に……というか、赤く流れているのを見たくなくて、そのまま口の中へ全部放り込んだ。
公爵の名前を聞いた後に赤い液体系は見たくなかったぞ!!!
そういえば、王太子が最近カローラの周囲に現れなくなったなと思いながら、好みによりますが……と前置きした後にソースの酸味とチョコの甘さに関して口を開いた。そうしたら、どこからか男の人がやってきて必死にメモを取っているのだが、この人がその料理人だろうか。
確かにこういう細かい所はレシピだけ渡しているわけで、実際使用する果物に関してはポピーが納品していて、細かい調整はこちらが行っている。……主に貴族向けに関しては徹底して。
そういう事を口にすると料理人は驚いた顔をしているも、必死にメモを取り終わると満面の笑みを浮かべ満足そうに後ろに下がっていった。
「……なるほど、君達は二人でひと組なのだな。素晴らしい」
「支えあって協力しあっているのですね!応援しますわ!……フェリクス達もそうなれば良いのに……」
「ありがとうございます!」
まるで婚約者か夫婦へ送るかのような言葉に私も笑顔で返す。そんな私に国王と王妃は柔らかく見守るかのような優しい笑みを浮かべてくれた。
……何か王太子の名前が出た気がするけど、最近どうなってるのか全く分からない。
「王太子殿下がどうかしたのですか?」
率直に訪ねるポピーは勇者だと思う。国王と王妃はお互い視線で会話を交わすように一瞬目を合わしたのを見ると、ポピーが自分達はカローラ嬢と親しいのでと返した。その返答に国王夫妻は重い口を開いた。
曰く、今までは執務に追われ婚約者であるカローラと会って仲を深めるという事もなかったのに、近年アイビーに固執している為か、やっとカローラの元へ足繁く通うようになった王太子だが、最近は公爵と共に出歩く事が多くなったと言う。
恋愛結婚ではないにしても、国を思い、お互いを支え協力しあう関係にならなければならない二人なのに、王太子に歩み寄る気がない事が気がかりであると、そういう懸念に最近気がついたと言うのだ。……最近である辺りにゲームの悪意を感じる。思わずポピーと視線を交わすと、ポピーも小さく頷いていた。
「……まぁ、有能な方ですから」
ゲーム的には平民上がりのヒロインを選んでいるわけだし。特に何も記述がなかったけれど、それをこの二人は受け入れたからこそ、あんなエンディングが成り立ったのだろう。国が衰退したとか滅んだとかいうエピローグもなかったし……というか書かないか。それに押し付けられていたとはいえ、相当な仕事量をしていた辺りは有能だと思う。
私のこの言葉に、国王夫妻は嬉しそうに頬を緩めた辺り、親バカな所があるとも思えてしまう。
私達がこうして事業を拡大している姿を見て、少し考えを改めているという辺り、今まで本当に何も考えてはいなかったのだろうか……こんなのが国王だという事に一縷の不安さえ感じてしまうのは私がおかしいのか……?
「アイビーやジルベールと共に仲を築いてくれると良いのだが」
そんな国王の言葉に驚いたが、国王はカローラが最近執事と仲が良い事も、それを王太子が受け入れている事も知っていたようだ。そもそも王太子がアイビーに固執しているとも言ってたしなぁ……という事も思い出す。
二人としてもカローラと共にアイビーが来てくれる事は大歓迎なのだろう。暗部が喜ぶとか言ってるし…………カローラよ、推しの教育だった筈なのに見事に注目されてますな……。
「そうだ!何か褒美を授けようと思うのだけれど、何が良いかしら?」
「身分剥奪とかですかね?」
「……それは褒美なのか?」
王妃の言葉に返答すると、国王が理解できないとばかりに顔を歪ませて言った。王妃は頬に手を当てて、こんなにも貴族生活に馴染めてないのね……なんて呟いている。うん、馴染みたくありませんね!!
「……令嬢としての生活より、商品開発をしている方が楽しいので」
私のその言葉に複雑そうながらも嬉しそうに国王夫妻は頷いている。今のところ、前世で便利だなと思った物は大抵こちらでも人気を博している。……まぁ、当たり前か。便利な科学とIT世界だったのだから。
そんな明後日の方向に思考を傾けつつ、とある事を思いついた為に、ならば……と国王に口を開く。
「ポピーとの婚姻を認めて欲しいです!男爵家の事や貴族の体裁とかあるので父もなかなか認めてくれなくて婚約さえもまだですが、何とか認めさせるので!」
「認めよう」
「それで事業が拡大して国が潤うなら喜ばしい事だわ」
私の言葉に驚愕で目を見開いたポピーだが、即答で認めた国王や王妃に対し、更に驚く。二人共、そんな即決で良いんだろうか……王妃に至っては本当に国の事を考えているんだと思うけれど、国王もそうなのだろう。
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