第18話
領地経営とは、貴族は領地を繁栄させる為に色々としているのだ。そして税を収めさせると。
つまり私が事業を行う事は領地を繁栄させるという事になり、そもそも領地を治める貴族はその為に何かしら事業をしているものだ。裏を返せば正式に領地経営に少しだけ参加出来るというわけなのだが……やる事は今までと何ら変わりはない。それが仕事となっただけだ。なのでしっかり帳簿と言うものを付けないといけないのだけど……。
「あ~眠……」
私は部屋のソファでボーっとしていた。領民達が優秀すぎて、本当にやる事がないのだ。増えた事と言えば帳簿だけなので、元々OLのこちらとしては問題ないし、書類だって結局全部この家に集結するわけだ。
今する事と言えばカローラへのおもてなしだけれど、それも侍女達が準備をしてくれているので、カローラが着くまで私は暇を極めている。
「もう少し数量を絞っても良いかもね」
「すぐにカカオ豆が出来るわけじゃないしね~」
ポピーとそんな事を話しながらのんびりとする。
結局のところ、カカオ栽培を多量にしない限りは数量に限定があるし、輸入に頼っても黒字は出るだろうけど、なかなか手に入らないという現状から領地を有名にしたいな、なんて思って、チョコトッピングクッキーと、貴族用になるだろうガトーショコラだ。
ガトーショコラに関しては、だいぶ製作を控えてはいるけれど……じゃないと、ホールで大量に買い付ける人も居るからね……。
「これで何とか後継としての地位を確立出来そうだけど、あと二年以内でしっかり地盤を固めないと」
「学園免除とかないのかな……働いてるからって」
「それなら王太子殿下がとっくに適用されているでしょ」
言われてみれば、その通りだ。
ジルベールとはあれっきり会っていないし、セドリックにこれ以上付きまとわれないようにすれば良いと思うけれど、問答無用でこちらに魔道具を送ってくる辺り、関わらない方向性が見えない……。
カローラも焦っているようだけれど、団長クラスを止められるのって陛下だけなのでは?と言ったら王太子には会いたくないと全力で首を振っていた。
うん、おねだりとか出来なさそうだしね。頼みごとなんてしたら後々怖そうだしね。
「お嬢様!!!」
バタバタと足音が聞こえてきたかと思うと、盛大なノックが響いた。
カローラが到着したのかな、と思ったけれど、何故こんなに慌てているのだろうか?とりあえずポピーに目配せすると素早く扉を開けてくれた。
「お嬢様!カローラ様がいらっしゃいました!あと……王太子殿下も!」
その言葉に、律儀にカローラを待つなんて事をせずに、町へ繰り出して逃走すれば良かったなんて思ってしまった。
既に王太子が到着しているのに逃げ出すなんて事が出来るわけもなく、応接室へ向かうと、そのメンバーに目眩がした。カローラなんて普通に真っ白に燃え尽きて目を剥いている。
「やっと来たか」
「ご無沙汰しております。王太子殿下」
ふらつかないように気をつけて礼をする。貴族令嬢らしく振舞うのだ自分!!と気力を振り絞っていたが、王太子は私を見ていなかった。視線の先を追うと、カローラが失神しかけているのに腹立たしさを感じているのか、王太子を睨んでいるアイビーを面白そうに見ていた。
「カローラ嬢と被ったと思ったら、殿下まで居て驚いたよ」
そんな状態に気が付いていないのか、あっけらかんと言うセドリック。殿下の前だけど、こんな口調なのはゲーム設定で殿下の側近扱いになっていたからなのだろうか。既に側近であれば慣れ親しいのも理解出来る。
そして殿下が居るという事は護衛として、やはりジルベールも居るわけで、更には……。
「お初にお目にかかります。私は宰相補佐をしておりますシャルル・ギルマンと申します。以後お見知りおきを」
更に出ました攻略対象。何で入学前なのに、こんなゾロゾロと集まってくるのよ!一人だったら問答無用で足を踏み鳴らしていたところだわ!お見知りおきしたくない!よろしくしたくない!!
「リズ・ルデウルです」
苦笑しつつ、無難だろう返しをすると、少し目を潜められた。怖いって。何考えてるの本当に。
そんな事を思っていると、王太子が口を開いた。
「やっと時間が出来てカローラに会いに行ったら、ルデウル男爵の元へ向かうと言うから付いてきたんだ。チョコを作ってるんだろ?カローラもセドリックも大好きだと言うじゃないか」
案に食わせろという意味なんだろうか。私が部屋に待機していた侍女に目配せすると、一人が頷いて退室して行った。それを見届けて満足そうに王太子は口角を上げていたが……そりゃあんたの地位を考えたら、そんな事言われたら従うしかないでしょうよ!だからか!この傲慢エスがドエスに進化したのか!?物足りなくなったのか!?
「チョコが来たらカローラに食べさせてもらおうか」
そんな事を王太子が言った瞬間、気を取り戻したのか、カローラの背が伸びて肩が跳ね上がって目を見開いていた。
勿論、そんな事を許すアイビーではなく……。
「お言葉ですが、そんな無礼な事をお嬢様にさせるわけにはいきません」
「婚約者なのに?」
「万が一という事もありますから」
何か王太子が楽しそうだな、なんて思いながらも、私はカローラが慌てているのを横目に、登場したチョコが侍女の手によってテーブルに並べられていく様を温かく見守り現実逃避をしていた。
アイビーは不敬になってもおかしくない事をズバズバと言うから、こちらとしては見ていて少しハラハラする。
セドリックは笑ってるけれど、ジルベールに至っては眉間にシワを寄せているせいで、こちらの心臓はうるさく音をたてている。
そんな中で空気を一切読んでいないという感じでシャルルが口を開いた。
「リズ嬢は事業をしていると聞きました」
「えぇ……まぁ……」
いきなり話題が変わるような振り方に、思わず歯切れの悪い返し方をしてしまった私を、カローラは呆れたように見ていたが、それ以上にシャルルの目が鋭く光った方が私には気になった。
……これ、やばいやつでは?
なんて、頭の中で警報音が響くような勘が働いたが、現状相手の動きを見るしかない、と思っても、そもそもシャルルの設定が、そんなに行動派ではなかったような気がする。
むしろ今このタイミングで発言した事の方が珍しいくらいでは?と疑問符が浮かび上がる。
「あ~!美味しい!」
そんな空気を一変させるかのようにセドリックはチョコを口に含んで幸せそうな顔をして、それを見た王太子はまたカローラに言い寄って、アイビーに止められている。
「お前もどうだ?」
「いえ。俺は甘いものは苦手なので」
王太子の言葉に護衛のジルベールは断りを入れるたが、横からセドリックがブラックチョコレートを勧めた。
「じゃあこっちは?甘さ控えめというか、苦いよ」
「ほぉ……じゃあどうだ?」
「では頂きます」
王太子は面白そうに口に含むも、苦味に少し眉を潜めていたが、ジルベールは気に入ったのかご満悦の様子だ。力でねじ伏せるタイプが胃袋を掴まれてねじ伏せられれば良いのに、なんて少し思ったりもした。
とりあえず早く帰らないかな~なんて思っていたりもしたんだけど、カローラと会うのも久しぶりで正直積もる話もある。それに対してカローラの方が待ちきれなくなったのか、私の方へ身を寄せて小声で話し始めた。
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