第10話
十一歳の誕生日を、お披露目兼ねて小さな夜会を開くとルデウル男爵は張り切っていた。だから村から帰った後はいつもの生活に加え、ドレスだの装飾品だの夜会マナーだの、やる事が少し増えただけだった。
変わらず遊びに来るカローラに暇か!と言いながらも、女子会みたいなノリでドレスや装飾品について語ったりするのも、フルーツタルトを作って騒ぐのも楽しいと言えば楽しかった。
そろそろ王都へ帰らなければいけないと言うカローラも夜会に参加すると言って楽しそうにしていたのに……。
――どうしてこうなった――
確かに招待客というのは父が全部決めているのは知ってる。知ってるけれど……。
ニコニコと満面の笑みで迎える父と母。顔面真っ青で佇んでいるカローラの後ろに控えるは変わらずアイビーで……カローラのエスコートをしているのは――。
「カローラが出席すると聞いて、是非エスコートにと来た。急にすまなかったな」
フェリクス・モンタニエ王太子殿下。
何で居るんだと叫びたいけれど、そんな事を言った瞬間に首が飛びそうだ。
王太子が居るだけでも、何故とパニックになりそうになる。そもそもカローラとの仲だって良いわけではないのに……と思ったが、目障りだと言わんばかりの顔をしているアイビーに気がつき、そっちか。と少し納得してしまう自分も居る。アイビーで遊んでいるんだろうなぁ。
アイビーはいつもと変わらない態度で接しているが、私とカローラは本当に血の気が引いた顔で、身体の震えを抑えるので精一杯だ。
問題となるのは王太子の後ろに居る人物。赤い短髪に鋭い赤い瞳。
不敬の一つでも犯せば、持っている剣で即首を切りそうだ……そこまでしなくても、床に叩きつけられるくらいはされるだろう……。
ジルベール・パキエ騎士団団長補佐。
見事に一生会いたくないと思っている攻略対象者の一人だったりする。
「どうしたリズ嬢。騎士を見るのは初めてか?カローラは見慣れているだろう?」
こいつが怖いんだよ!!と叫ぶ変わりに、ビクリと身体が揺れる。
怯える私達を面白そうに眺めていたかと思ったら、怖がっているのが騎士だと気がついたのか、不機嫌そうな顔で睨みつけながら言ってきた。
「はい……」
「騎士団長補佐ともなると、威圧感がありまして……」
当たり障りのない言葉を返しながらも、背中は汗でびっしょりだ。もう何でこれ連れてきた!?護衛か!?護衛でももっと違う人選しろよと叫びたくなる。
まだ挨拶があるので、王太子もカローラと他へ歩みだしたが、アイビーがカローラを連れ出しているのが横目に見えた。流石にフラついているし、適当に理由をつけたのだろう。病弱設定だし。
「ああああ……怖い!ホンット設定知ってるから恐怖しかない!」
「関わりたくない……関わりたくない……」
「リズは王太子ルートに行ってもらうから!何としても!!!」
「それも嫌だ!!!」
私も途中で疲れたと理由に、挨拶だけ終えて自室へ戻ろうとした時に見事アイビーに捕まった。
控え室だと王太子が来るかもしれないので自室で匿えという理由らしいが、王太子なら此処にまで来そうだぞ?なんて思いながらも迎え入れた。
「ジルベール・パキエ……暴力的な男でしたよね」
アイビーが話す設定に、私とカローラが力強く何度も頷く。てか見事にアイビーも設定を頭の中に入れてるのか。
そんなアイビーは、私の机に向かったかと思うとノート取り出して持ってきた。てか何で隠してある場所知ってるの!?それ引き出しを二重底にして隠してたんだけど!?
口をパクパクして驚いてる私に無駄だと言わんばかりに冷たい眼差しを向けたかと思うと、カローラにそれを手渡した。本当にコイツ何なんだー!?
「実力はあるけど、騎士団ともなると礼儀やマナー作法もあるから年齢的に補佐なのよね……そう、紳士のように振舞うけれど、全て力でねじ伏せるようなタイプで、拷問が得意で……悪役令嬢としても関わりたくないわ……早く婚約者やめたい……」
私のノートを読みながら頷いていたかと思ったら、カローラは思いっきり項垂れた。そりゃ王太子と一緒に居るもんな。少なからず婚約者なら接点はあるだろう。
「リズとの出会いは街での筈だけど……絶対攻略しないでね!何がなんでも王太子ルートに行ってもらうんだから!」
後半はともかく、攻略する気がない私は前半部分に対してだけは同意した。
ヒロインが街で破落戸に囲まれている所をジルベールが介入するのが出会いイベントだ。
破落戸に向かっていくヒロインを見つけ、破落戸を蹴散らした後、ヒロインまでもを腕力でねじ伏せるのだ。それに立ち向かおうとするヒロインのみぞおちを殴りつけて気を失わせるわけだけど……。
腕の部分がなく組み敷いて耳元で囁いているかのようなスチルなのに、文字は何て鬼畜!!という本当に嫌な仕様だと思う。
学園で会っても、ヒロインは暴力には屈しないと強い瞳と決意で対面するのだけれど、楽しそうに見えない場所へ痣や傷を残す暴力を振るい続け……高揚する。
良い玩具となったヒロインは、逃げるのではなくそのまま暴力に屈する……というか、暴力を受ける事がクセになってしまい、殴られないと物足りなくなると言う、とんでもない結末を迎えるのだ。
誰がそんな生活を望むかぁあああああ!!!!!!!
誕生日のお披露目を終え、もうすぐ帰らなければいけないというカローラは毎日のように我が邸に訪れるようになったのだが、その様子は見事に必死で呆れさえも出てくる。
「やはりドエムになるのが必須だと思うのですわ」
「私はノーマル。むしろ腐女子の方が耐性あるんじゃないの?……ってそこ!何そのムチのようなものは!止めてアイビー!!!」
晴れて心地いい外でのお茶会なのに、話す内容はとんでもない。
現世でも今世でも、変な方向にはこじらせず普通な私で居たいというのに、今日は強硬手段に出ようと言うのか!?しなやかに曲がっているムチのような長い紐を、試しにと言わんばかりに木の幹へ打ち付けているアイビーだが、そのムチ裁きにゾッとする。
何でそんな美しい曲線と、残像が残る程のスピードで打ち付けられるの……木の幹、ちょっと抉れてるし!?
「アイビー……ヒロインが死んでしまったら婚約破棄が出来ないわ……」
同じく、その威力を目の当たりにしたカローラも、どうしたものかと言わんばかりに首をかしげて注意をするが……うん、婚約破棄の為だけですね!見事に期待を裏切らない回答に涙出るよ私!
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