第22話
「とりあえず高位貴族相手だから緊張で震えているという事にして……」
「王太子殿下相手では震えてませんよね」
「……平民らしい姿を見せず」
「スイーツ作りをおおっぴらに行ってますよね」
私の対策にアイビーは問答無用でダメだししてくる。うん……言われてみればそうなんだけどね!?もう泣きたくなってくるというか、時間が戻せるなら生まれ変わる前に戻して欲しい!こんな世界選ばないからー!!
「むしろ婚約を持ちかけられないようにしなければいけないのでは?」
ポピーがノートを見ながら、そんな事を口にするとアイビーも頷いた。
「そうですね。王太子ルートが潰されてしまいますから。最終的には亡き者にしてしまえば良いですね」
「アイビー!?」
「全てはカローラ様の幸せの為に」
シレっと危険な発言をしたアイビーを咎めるようにカローラが声をかけるも、この身は全てカローラに捧げていると言わんばかりに言葉を返す。
忠誠心、凄いなーなんて思わず感心してしまう。ある意味で危険人物なアイビーの手綱を握るとは、本当にカローラは凄いと思う反面……その調子ならば王太子の手綱も握れるのでは?と淡い期待も抱きたくなってしまう。
……考えが読めるのか、アイビーに思いっきり睨まれてしまったけれど……。
結局、公爵に興味を持たれない方法……というより、婚約を打診されない方法を考える事になったが、そんな方法があるならむしろこちらが聞きたい。
アイビーを除く全員で頭を唸らせていたけれど、答えなんて出るわけでもなく……そうこうしている内にノックの音が響いた。
「カローラ様、ルデウル男爵夫妻がお見えです」
「通してちょうだい」
カローラの返事があってから、扉がゆっくりと開き、両親が入ってきた。
「リズ?大丈夫??」
「挨拶は終わった。チョコはお披露目できたし、もう帰ろうか?」
「帰ります!」
即答した私に両親は苦笑する。
私の誕生日パーティで、私が主役なのに、パーティを拒否しまくった挙句、始まる前は死にそうな顔をしていて、更には体調不良で抜けた上にとっとと帰る事に喜びを見出しているのだ。あ、こう考えると本当に最悪なやつじゃない?
でも王城なんて頼んでない。出席したがった高位貴族の面々が悪いと思う。私の誕生日なのに喜びじゃなく苦痛をもたらすとは……そう思うと憎々しさも込み上がってきてしまう。
「本当、もう貴族って嫌だ……」
思わず呟いた私の言葉に、両親の顔が引きつる。
「どうかされましたか?」
その表情に気がついたアイビーが声をかけると、母は悲しそうな顔をしただけだが、父の視線は彷徨っている。その様子を皆がジーっと眺めていると、観念したかのように口を開いた。
「……陛下が……学園へ入って王都に住むようになったら、事業を王都にも広げられないかと……」
「は?」
そもそも男爵家にタウンハウスなどなく、ヒロインは学園の寮に住んでいた筈だ。そして学園の勉強もそれなりで、ヒロインは必死に勉強しながら赤点だけは回避していたような……。
「……王都のタウンハウスを用意してくれると……一部学科も免除してくれるとも言ってくれてな……」
歯切れ悪く父が言うも、私はもうそんな事を聞きたくない!
「うわぁああああ!!!!ポピー!!結婚しよう!私を平民にしてー!!」
「リズ!?」
「それはいかん!!」
色々と周囲が固められている気がして、私はポピーに抱きついてそんな事を言うと、ポピーは顔を真っ赤にしつつも私を抱きとめてくれた。父は顔を真っ赤にして怒っているようだが、母はあらあらまぁまぁ、と言った感じで口に手を当てている。正直、こんな光景は昔からあったようなものだし。
カローラとアイビーは、静観していてくれたのだが、そこへ扉から別の声が響いた。
「……え?どういう事?リズ、平民になりたいの?チョコは?」
開いていたのだろう扉から、セドリックがそこに立っていた。
ズカズカと入り込んできたセドリックは、挨拶もそこそこに私の前に立つと、またも同じ言葉を繰り返した。
「平民になってどうするの?チョコは?貴族が嫌だからって逃げるって事??チョコはもう作らないの??」
何回チョコって言うんだ、こいつ。本当にチョコしか頭にないのか。私の心を代弁するかのようにカローラが呟いた。
「セドリックの執着はチョコへ。そのうちお菓子の家でも作るのでは?」
「ありえる」
「ありえそう」
「ありえますね」
「お菓子の家って何?チョコで家が作れるの?」
私とポピー、そしてアイビーまでもが同意すると、やはり案の定セドリックは食いついた。本当、どんだけチョコなの!?この人!!
「いや、事業は平民になっても行っていいのなら行いたいですけど……私的にはポピーと結婚して平民になりたいですね。ポピーの許可は貰ってませんが強行突破しようと思ってます……」
「強行突破!?」
「私の!父親の許可も必要だろう!?」
私の言葉に慌てふためくポピーと父。父の許可……?いやもう逃げる気しかない場合は許可云々必要ないと思う……とは言わないでおく。何か悲しそうな顔をしているけれど気にしたら負けだ。母も申し訳なさそうにしているけれど、この二人は、やはり王道恋愛パターンなので引き裂くような事はしたくないし……。
手を口に当ててしばらく考え込んだセドリックが口を開く。
「なら別に王都で事業展開しても良いんじゃない?商人のようになれるわけだし。高位貴族が面倒だと言うなら表立って立つ人間を雇えば良いし。あ~……会いたくないって言うなら王太子筆頭に止めとくよ?」
まさかの味方!?いや、そこで安心して良いのか!?いや、でも自分の邸に住めば良いとか、囲ってこようとしない辺りまだ大丈夫なのか!?自分以外と会わさないようにしているわけでもないし……。
色々警戒しつつもセドリックの言葉に耳を傾ける。何かここまで警戒していると自意識過剰なんじゃないかと思えて不安にもなるけど……ヒロイン、めんどくさい。
「あ~でもシャルルは難しいかな。あの帳簿、書き方教えて欲しいって言ってたし……」
「……教えたら、関わってこなくなりますかね……?」
「……どうだろう?あいつは読めないからな~」
いきなりの爆弾。教えたら終わりではないなら怖いんですけど。てか今もどこからか覗いていたりしないよね?
そう思うと思わず背筋が震える。
「それより!王都で事業を始めるならって、色々魔道具作ろうと思って相談にきたんだけど!王都でも買えるようになるなんて最高だし!」
うん、セドリックはやはりセドリックな気がする。そして執着はきっちりチョコに向かった気がする。
チョコに負けたとは思わないよ?色んな意味で残念そうな目をしないで、カローラ。これは喜ばしい事なんだ。
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