第25話

「なるほど?」


 聞き終えたシャルルは手を顎に当てると、しばらく考え込んだままとなった。こちらとしては心臓が高鳴る時間が経過しているので、かなり長い時間待っていたかのように思える。


「性癖を知られている以上、疑う余地もないですね。それは誰にも口にしていない事ですし」


 しばらく考え込んでいたかと思ったら、いきなりそんな事を口走るので、思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。そんな私を見て、シャルルは首を傾げた。


「前世ではそれなりの年齢で遊んでいたかのように……」

「流石に、それから十年以上経ってますし、一応こちらの世界でのマナーも理解してますからね!?」


 シャルルってこんな喋る奴だったっけ!?なんて思いながらも、思わず口調も砕けて突っ込み……というか反論する。


「それに言うなれば年齢の割に耳年増なのはカローラだって……!」

「リズ!!!」


 つい口走ってしまった言葉に、ポピーが慌てて止めるも、既に時は遅く……口は災いの元というか、一度吐いた言葉は取り消せないというか……何かを言う時は、一度言葉を飲み込んでから発しましょうって言われていたなぁ……なんて前世の事を思い出しても、時間は巻き戻せないわけで……。

 あ、アイビーに殺されるのでは?と真っ青になった私の様子を勘付いただろうシャルルは


「そこも詳しく教えて頂きましょうか。協力が必要ならば手を貸しますので。書式の知識と引き換えで」


 あそこの執事は手ごわいですからね、と付け加えられたシャルルの言葉で、命だけは助かるかなぁ?というか、結局簿記が知りたいのか!と思いながら、私とカローラの出会いというか……そもそも記憶が戻ってルート回避しようとした私の行動から、カローラの邪魔が入った部分から、婚約破棄や追放を狙うカローラの目論見も全て包み隠さず打ち明ける事となった。






「では目指すのはカローラ嬢の婚約破棄と、リズ嬢の自由ですね」


 頷きながらシャルルは更に目の奥を光らせながら言う。


「非現実的で面白い。その通りの未来になるのかどうかも知りたい所ですね。ほかの方々も歪んだ性癖をお持ちで……しかし、公爵に至っては実際そんな事が起こった場合は法に則った対処が必要になりますね」


 前世やゲームの事だけでなく、公爵の弱点をも面白かったようで、シャルルは口角を上げて少し笑っている。うん、そんな事になったら本当に危険だからね。リョナなんて空想の世界だけでお願いしたい。現実に起こってたまるか!って話だわ。


「こちらから知識の教示を条件に出しましたが、他も提案して良いでしょうか?」

「……どうぞ」


 もう怖くはない気がするけれど、少し躊躇いながらも返すと、苦笑しながらシャルルは口を開いた。

 まず、将来の選択肢を広げるという意味で前世の知識を活用する事。つまり現状スイーツ作り等をしているけれど、それをどんどん行う事に対し、既にカローラやセドリックも手助けしている中で、シャルルも手助けしてくれるらしい。それが国の発展に繋がるからと。

 他にもセドリックに作ってもらおうとしていたコピー機を含め、今まで作ってもらった道具等も国の事業として取り入れられないかという事、そしてどんどんそういう魔道具を作っていく事。


「ここはカローラ嬢やセドリックにも相談しなければいけないので、二人にお話するかどうか任せますが、僕としては宰相補佐という立場上、国を発展させていきたいのです」


 まるでギブ・アンド・テイクでしょ?と言わんばかりに微笑んでいる。まぁ、確かに。こちらの希望や望む未来ばかりではなく、シャルルの国として……というのも理解できないわけではない、というか王太子がどエスな以上、この国で生活していくならば、それなりに他国と渡り合えるような特産的なものも必要となっていくだろう。


「あ、ならば特許というものはどうでしょう?」

「それは?」


 真似できず、独占的に販売出来る権利。

 それに関して、見ただけで複製してしまうような物は無理だと思うし、働く人に教えたとしても、その人が外へ情報を流してしまえば結局意味がない事だけど……そこはシャルルに考えてもらうとして、私はそれを教えた。

 チョコに関しては、ほとんどセドリックの発明あってことになっている。一見しただけでは真似出来ないし、情報が流出した所で量産するのは難しいのだ。

 だからこそ、あとは魔道具作りにかかってくるわけなのだが……。


「……セドリックの作る物が、他の人に真似できるかどうか……」


 実力で上り詰めたとは言うが、そこまでの実力だとは……。というか、継続的に特産とする事は……出来るのだろうか。






 宰相補佐として忙しいシャルルは、簿記と書式関係に関してはサラリと説明だけ聞き、そのまま一泊だけすると明日早朝に王都へ帰って行った。簿記の詳しい資産等については後日説明するという事で、簡単に掛金程度のお小遣い帳で終わらせた。

 更に言うなら、皆大雑把に計算している所もあったので、店と自分のお金を分ける、なんて事も伝えておいたし、経費や開業費もサラリとだけ伝えてみた。固定資産って面倒だし、国へ税金を払うならば猶予的な事があっても良いんじゃないかと提示だけしたのだ。

 頭脳派なシャルルならば、あとはこの国に合うように自分で帳簿を考えられるだろう。書式に至っても同じくだ。


「これで盗聴と盗撮の安全は守られたかな……お風呂入れる?」

「……あっ!」


 私の言葉に、ポピーは真っ赤になって今気がついたと言わんばかりの声を上げた。うん、分かるよ。もう恐怖が勝ってたけど、安心になったかもって思った瞬間にこういうのって思い出すよね。

 はしたない姿とか、録画されてたりしないよね?シャルルだもん…………でも、興味あるのは書式だって堂々と言っていたから、録画という機能があったとしても、それは書類な気がする変な安心感と敗北感。


「リ……リズ……」


 心配そうに涙目になりながらポピーがこちらを向くも、大丈夫と言わんばかりに私は頷く。


「全国配信されるような技術がなくて良かった!!」

「そういう問題じゃないでしょ!!」


 盛大な突っ込みが入るけれど、最悪パターンの規模がそういうものだと知っている私としては、個人に撮影されたくらいじゃ、まぁまだマシかなんて思えてしまうわけで……。

 上も下も、見れば見るだけキリがないとは良く言ったものだ。

 それに、セドリックとシャルルに至っては問題ないのでは?なんて思ってしまう部分があって……私的にそれ以上、問題と恐怖を感じているものがある。


「……カローラに話をしないと……」


 今回、シャルルに伝えた事も含めてカローラとは話す必要があるわけだけど……。


「アイビーを連れて来ないでって言っても良いかしら……?」

「憑いてくるでしょうね」


 ポピーが放った言葉のイントネーションが、今違った気がする。何か別の言葉を使った気がする。


「……セドリックにも連絡しないと……もういっそ同日にしたい……」

「身の安全の為に、問答無用で暴露する?」


 ポピーも項垂れながら、きっとマトモな思考回路が出来ていないのか、投げやりな言葉が返ってきた。

 でも……何か……何となくだけど……。


「前世のスイーツを与えていれば……黙りそう」

「むしろ全力で協力してくれそう」


 セドリックに関して、私とポピーの考えは一つになるのであった。

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