第32話
「その身のこなし、身体能力。とても素晴らしい!惚れ込みました。将来王太子妃となる貴女を守れる事を誇りに思います」
「……はぁっ!?」
そもそも乱暴的な言葉使いのジルベールが丁寧な言葉で!?膝をついて!?カローラに忠誠を誓うかのように、手の甲に口づけをした瞬間、カローラの口から悲鳴にも似た叫び声が漏れた。
「こんなルート知らない……」
「……暴力で支配する者が暴力で支配されたの……?」
私の呟く言葉にポピーがそう返したが、カローラはジルベールに対し暴力をふるったわけではない。むしろ、あの舞うような身体能力だろうか……。舞うように美しい撃退方法。言い換えれば、そう受け取っても良いのかもしれない。
目を輝かせて視線を向けるジルベールに、パニックを起こしているだろうカローラがこちらへ救いを求めるかのように視線を向けたが、私とポピーは完全にシンクロした動作で諦めろという意味を込めて首を横に振った。
破落戸を手際よく縛ると、街中を巡回していただろう騎士に何かを告げて、私達……というかカローラを送ろうとする。うん、私達は付いてってるだけだよね。というかカローラがしっかり私の手を握ってるから逃げられない。
ジルベールもその手を見て、小さく溜息を吐いただけで小言を言う事もないけれど。
……何だろう。忠犬っぽいよ。粗野な所が一切見られないよ。
「私、大切な用事があるの」
「ならば俺も付いて行きます」
「リズ達が居ますので平気です」
「先ほどの事があります」
押し問答が繰り広げられている気がするも、先に諦めたのはカローラの方だった。
薄暗くなりそうな空を見上げて、一つ息を吐いた後にジルベールへ向き合う。
「ならば帰ります。リズ、学園でね」
「うん。また明日」
時間は同じようにすぎて行く。今日こんな色々あっても明日はきっちり学園があるのだ。それに気がついて心が重くなる。休みは休みとしてリフレッシュしたいよー!結局ポピーとの事も曖昧なデートに終わった気しかしない!!
そんな不満を心に、ジルベールに送られるカローラを見送る。
◇
「え?アイビーが居なくなったの?」
「裏稼業ですか……少し探ってみますね」
学園で、元気のないカローラに何があったのかと疑問を浮かべるセドリックとシャルルが昼休みにサロンを貸し切って話を聞いてくれた。
まさかアイビーが、と疑いたくもなるようだが、そんな嘘をカローラがつくわけないと自分達で調べられる範囲を調べると言ってくれた。
その言葉にカローラの瞳に涙が浮かぶ。
「……ありがとうございます」
「令嬢ならば泣かない方が良いよ~?」
誂うようなセドリックの言葉に、カローラは肩を揺らした後にグッと唇を噛んで涙をこらえると、その姿にセドリックとシャルルは笑ったが……。
「それ、笑えない」
「いや、もう知られてるし?ちょっとからかっただけだよ?」
私の言葉にセドリックは更に笑った。
いやいや、貴方が言うと冗談は冗談でも悪い冗談にしかならないし、心臓に悪いわ!!
「しかし……ジルベールですか……」
話の流れ上、ジルベールの話も二人にしたのだが、シャルルは手を口に当ててしばらく考え込んでいた。
「お二人の話では……暴力で支配する性質で、拷問も得意とされているのですよね……?」
口を開いたかと思うと、確認のように問うシャルルの言葉に私とカローラは頷く。
厄介なタイプだよね、と他人事のようにセドリックは目の前にあるテリーヌを口に運ぶが、シャルルは頭を抑えながら言った。
「……そして単細胞ですよね……?」
私達はそんな事を言っていないが、今世と前世でのゲーム設定の再確認なのだろうか。
私とカローラは思いっきり頷くと、シャルルががっくりと項垂れた。
とりあえずシャルルの考察的に、支配されたい方に傾いているので現状は大丈夫なのではないかと様子を見る事になった。むしろ王太子の婚約者という立場上、ジルベールも忠犬の如く守る事はあれど、下手な手出しはしないだろうとの事だった。
婚約者という肩書きなんて要らなかったカローラは、その肩書きに守られている事に凄く居心地が悪そうだが、セドリックは相変わらず、そんなのどうでも良くない?な姿勢だった。本当に大雑把だな。
「カローラ様、こちらを」
「……ありがとう」
食が進んでいないカローラにポピーは瑞々しい果物を切って渡した。
元気がないからこそ、甘いお菓子よりも熟した果物なのだろう。それを見て、私はポピーにこっそり耳打ちした。揃えて欲しい果物があるのだ。
「アイビーがカローラから離れるとは思えないんだけどねぇ」
セドリックがポツリと呟いた言葉にカローラ以外の皆が頷く。ある意味でアイビーは執事として以上にカローラに対して盲目な感じがする。ただ側に居るだけなのに、あのオーラから執着的な何かが読み取れる。
……そもそも拾ってもらったからと、相手の推しそっくりになるなんて、一体どんな志だよ!!並大抵の事じゃないぞ!?
「意外とずっと側で見ていたりするかもしれませんね」
ガタッ!!
カローラが音を立てて椅子から立ち上がる。シャルルもセドリックのように笑えない冗談を言っただけなのかもしれないが、その言葉に皆が目を見開いた。
だってアイビーだよ?アイビーなんだ。
気配を消して物陰からカローラを見ていたとしても可笑しくない。むしろカローラに何かあってはいけないとずっと付かず離れずの距離に居そうだ。
「だとしたら昨日の破落戸事件は……」
「……カローラ様なら簡単に倒せると思って姿を現さなかった……?」
私の言葉に対し、一緒にその現場を見ていたポピーは自分の考えを口に出した。確かにあの動きをアイビーが知っているならば、その可能性は高いだろう。本当の危険が迫っていたらアイビーが出てきていたかもしれないけれど。
「でもそれならば、カローラがあれだけ号泣している時点で出てきても良いのでは?」
「殿下が自分欲しさにカローラ嬢との婚姻を願ってる事を考えたら、その程度と思えませんか?」
私の言葉にシャルルが返す。
確かにその通りだ。自分が側に居たらカローラはそれ以上に泣いて鳴き叫ぶ未来が待っていると考えたら、そこは我慢して見守るか……。
「……アイビー……っ!」
私達のやり取りを呆然を立ったまま聞いていたカローラが、そう一言口にした瞬間、駆け出してサロンから出て行ったが、この時の私達は自分の周囲にアイビーが居ないのか探しに行ったのかと思っていた。
それが大違いだったわけなのだけど……。
「どういう事!?」
私は思わず叫んだ。
授業の鐘が鳴り、午後からの授業を受けに教室へ戻るもカローラの姿がなかった……そしてジルベールまでも。王太子は朝からアイビーが居ないから相変わらずの不機嫌さだが、王太子の隣に護衛が居ないってどういう状況!?
そんな事を思いながら放課後になり、私はシャルルやセドリックに聞いていたのだが、そこへ相変わらず不機嫌そうな王太子がやってきた。
「フェリクス殿下、ジルベールはどうしたのです?」
「学園から走って出ていくカローラを追いかけて行った。アイビーはどうした?」
「ジルベール、任務放棄!?」
シャルルの問いに対し簡潔に答えた王太子だが、王太子の疑問に関してはセドリックが無視して別の問題を被せた。
おぉい。色々と問題がありすぎるー!!
思わず頭を抱えたくもなるが、私は条件反射のように王太子から距離を取る為に一歩後ずさりする。
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