第16話

「セドリックが来たの……?実力主義の魔術師団で最年少なのに団長になった?グノー子爵家の次男の?」


 やってきたカローラに、まずはセドリック突撃を報告したら、驚いた表情でめちゃくちゃ確認の言葉を紡いできた。てか紅茶のカップが斜めになってますよ、中身溢れますよ。

 しかし、溢れる前に手を支えて止めるのはアイビーで、しっかり言葉で確信をついてくる。


「攻略対象のセドリック・グノーですね。まさか好きになったとか言いませんよね」

「ないから!ありえないから!」

「ならば安心です。まぁ貴女の心がどうであれ、問答無用で王太子ルートにいっていただきますが」

「そのイベントをぶっ潰せば良いだけですよね」


 アイビーは相変わらず容赦がない……が、それに対してポピーもあっけらかんとして返事をした。

 アイビーの鋭い殺気のようなものが放出されていても、そもそも根っから商人なだけのポピーは一切気がつかないのか、平然そうな顔をしている。天然が恐ろしいって、こういう事を言うのかな!?

 同じ事を考えていたのか、カローラが天然って怖いよね、なんて小声で話しかけてきた。うん、私も天然の恐ろしさを初めて見たよ。

 前世では天然のフリをしたぶりっ子と呼ばれる人物なら見た事はあるけど……うん、そんなの比べ物にならないね。


 ――セドリック・グノー。グノー子爵の次男。私たちより一つ歳下になる。

 次男だから、というのもあるのか、完全実力主義の魔術師団にて最年長で団長に上り詰めたような男だ。

 一応、この世界にも魔術というものはあるのだが、ファンタジーのようなものとは少し違って、主に生活魔法だったりする。と言っても、その魔法を使える者は極わずかだったりもする。だからこそ、そんな類稀なる力を国として囲っておきたいから魔術師団というものが作られているわけだ。攻撃魔法や防御魔法で国を守る事ができて、生活魔法では民の為に使える。

 そんな中、セドリックは攻撃魔法や防御魔法、生活魔法まで使用できる希少な人物だからこそ団長という地位にまで上り詰める事ができた。というか攻撃魔法なんて危ない物が使えるなら、地位と名誉与えるから大人しくしとけという意味なんだろうな、なんて前世年齢で二十歳超えてる私は思っていたりもするわけだけど。


「……冷凍庫が魔道具で作れたら……魔術師団ならもしくは……」


 カローラが呟く魔道具を作るという技術。これが民の為に、国の為に魔術師団にかせられた主な仕事と言っても良いだろう。

 自身の持つ魔術を組み込んで道具を作り、生活を、国を便利にする。


「関わるのですか?」

「嫌よ!あんな粘着野郎!!」

「カローラ……言葉が……」


 思わず呆れる私に、ハッとしたかのように手で口を覆うカローラ。

 いくら魔道具が欲しいと言っても、あんな奴に関わるのはごめんこうむる。


「確か監禁するんだっけ?」

「ポピー……あっけらかんと言わないで」

「確か見事に周囲から固めていくんですよね」

「アイビー、そこ感心しちゃダメだと思うの」


 女性陣と男性陣の差!!と思いながらも、どこからか出てきた私のノート。もう、このノートを囲むのが恒例行事になってないか!?


「とりあえず攻略回避を!!」


 高らかに宣言するカローラに、私は力強く頷く。こういう時はしっかり協力体制となるので心強くはある。

 学園の図書室で必死に勉強するヒロインをセドリックが見つけるのが始まりだ。基本的に大雑把で適当な所があるセドリックは、細かくノートを取って勉強しているヒロインが自分とは正反対だという理由から存在に気がついた。

 そんな真面目さを見せていたヒロインだが、自然の中で居眠りする平民ならではの無防備さも兼ね備えていたりして、興味を抱いたセドリックは勉強を教えるという事でヒロインとの接点を持つわけだけど、教える場所は図書室ではなく、密室。

 つまり貴族の方々としては、はしたないとか何かあるとか噂されるのは十分なのだ。

 興味を持つ事があまりないセドリックは、興味を持つと執着してしまい、それが人であった場合に粘着するという事にまで発展する嫌な性質だったりする。

 挙句、ヒロインが自由奔放に動く為に、ずっと自分の側に置いておきたいと思ったセドリックは、教養が足りないからという理由で行儀見習いとして自分の邸に囲ってしまう。

 それだけでは理由が足りないからと、更には勤勉なところから魔術師団で補佐してもらいたいとか言い出して、ずっと自分の側に置くが、魔術師団は基本的には皆こもって仕事をする場所だ。ヒロインは誰とも会う事がなくなり、おかしいと思って逃げようとするが、見事セドリックに拘束される羽目になる。

 拘束され囚われ、既成事実の為に愛でられ。常に鎖で繋がれ、縛られる生活を送る事になるのだが……。


「いや、あのスチルは見事だった」

「見つめ合ったアップ。その下が縛られてると誰が想像するのかしら……」


 思わず脱線してしまうが、大体鎖骨から下は描かない神絵師だったので、本当にスチルは素晴らしかったのだ。スチルだけは、だが。


「今のところ興味を持っているのがチョコですが……」

「そこからリズに繋がらないように領民として説明しましたよ」


 アイビーとポピーの二人が何やら話している。

 確かにチョコから私に繋がると面倒臭い事になるわけで……。このままチョコだけへの興味で終わってくれると良いんだけどなー。


「それより王都でチョコが噂になってるのってカローラのせいなんだって?」

「黒い食べ物でしょ?皆の反応がどうなのか見てみようと思ったの」


 そもそもセドリックが来る原因となったのは、そのせいなんだけどって言うと、視線を逸らせながらもカローラが言いにくそうに言葉をポツリポツリと紡ぎ出した。

 どうやら、焼き菓子しかないし、お茶会は苦痛だしと、せめて楽しい女子会みたいにならないかと披露してしまったと。そりゃ美味しいお菓子があるだけでテンションは上がるけどさ。


「カカオ豆からチョコを作る事がもっと出来れば、いっそショコラティエみたいな人を作ると良いかもしれない」

「量産の目処と、魔道具が必要なんではなくて?」

「「ショコラティエ?」」


 私の言葉に疑問を抱いたアイビーとポピーに、チョコから色んなデザートやお菓子を作る人だと説明すると、それだ!と言われた。見事にそういう人が作れたら、セドリックはそちらに興味を抱くだろうと。


「性別は勿論男で探させてもらいますね」


 ポピーが念のためにと言った様子でそう宣言してくれたので、私達は力強く頷いておいた。そこを心配するのなら、縄を引きちぎれる程、屈強な方の方が良いのでは?というアイビーの言葉に、思わず息をのんでしまったけれど。

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