第15話

 そしてチョコを作る時間と力仕事に料理長含む料理人達や、細かな作業に侍女や従者達に手伝ってもらいつつも……今や街中にも広がってしまった。砂糖を大量に使うけれど、バターを代用したり、苦味が好きな人はそのまま使ったり。牛乳に溶かし入れたりと用法は様々で、とても大人気商品になってしまったのだ。


 言ってしまえばカローラも、大量に取りに来るし……ある意味、街で人手を確保している部分もあるのだけど……。


 まぁ頻繁にカローラが来るというのは嬉しい気持ちもあるし、その分、砂糖を持ってきてくれたりするのは嬉しいのだけど……最近に至っては、頻度が増えたせいか、アイビーと二人馬で来るという暴挙に出ているのは如何なものかと。

 貴女、侯爵令嬢ですよね!?と言いたくなる。豪華な馬車はどうした!!荷物用として後から追いかけてくるって何!?


 なんて、ここ半年程の事が頭の中に駆け巡る。

 えぇ、現実逃避です。思いっきり現実逃避です。


 だって何故か今、私の目の前に攻略対象の一人で魔術師団団長のセドリック・グノーが居るのだから――。


 いきなりのお宅訪問とは、こういう事なのだろう。

 しかし男爵家としては魔術師団団長で次男とはいえ子爵家ご令息に無礼があってはならない。悔しいかな爵位問題。


「うん!このチョコって美味しいね!珈琲にも合う!」


 表情をさらけ出さない貴族としては珍しく、にこにことご機嫌さを隠す事なく、目の前にあるチョコを一つ一つ確かめるかのように食しているのだが、その食べ方も貴族としては躊躇いがないのか?と思わずにはいられない程、容赦なく手づかみだったりする。

 私やカローラが前世の記憶があって手づかみで食べるのは理解できるも、それを父や母に出した時は、これ何で食べるの?という表情をしていた。フォークは刺せず、スプーンにのせにくく、ナイフで切りにくいとなればそうなるのも理解出来る。

 その為、最終的に両親は牛乳にチョコを溶かしたり、クッキーにかけたりというような調理法で食べているのだが……。


「ありがとう……ございます?」


 唖然としてしまった私は、思わず疑問形で答えてしまった。

 いやしかし油断するなかれ!コイツは要注意人物だ!むしろ関わったら終わる!!

 思わず俯いて視線が合わないように下を向く。今はチョコに夢中で気がついてない事を必死に願うも、セドリックにはしっかり観察されていたようだ。


「そんな怖がらないでよ。僕はただ、カローラ嬢が頻繁に砂糖を持ち込んでいる上に、この領地で爆発的に人気になったお菓子を食べようと思って調べただけなんだから」


 むしろそれが怖いんですが!?

 興味持たれたくなんかないんですが!?

 食べたい物を食べようとした結果がこういうことかー!!!


「他にはないの?」


 楽しそうに笑って言うセドリックに恐怖を覚える。

 いやいやいや、ここで本当に興味を示されても困るんだけど!


「……ありません……」

「……へぇ……?」


 本当の事を言っただけなのに、何故か不審者に語りかけるような威圧的低音ボイスが響いた気がする!


「差し出がましいようで申し訳ございませんが、発言させて頂いてよろしいでしょうか」

「良いよ、何?」


 扉の側に控えていてくれたポピーが発言してくれた。天の助けか!?助けなのか!?

 確かに私が発言するよりは良い気がする!ポピーもセドリックのゲーム設定にある危険さを理解しているから、こんな突撃さえなければ会わせないように計らってたって言ってくれてたもん!……アイビーと協力して、とか言ってたけど……。


「このチョコと言うものは製作に苦労を伴う為に領民達の仕事ともなっております。暖かければ溶ける為に王都へ持っていく事も難しいでしょう。そして冷やせば固まります。温めるのはお湯を使えば良いのですが、冷やす事を自在にする事が出来ない為に、これ以上皆で考えて更なるお菓子を作り出す事が出来ないのです」

「ふむ……」


 セドリックはポピーの言葉を聞いて、顎に手を当てて考えている。

 領民達が、領民達で、という複数形であれば確かに私一人への興味は薄れてくれるだろう。いや、あったとしても、この領地に居る男爵家の令嬢程度で済むかな!?

 そして冷蔵庫がー冷凍庫がーと言っていたのは紛れもない私とカローラで、チョコの製作過程も含めてポピーなりにこちらの言葉で説明したのだろう。

 むしろあれば助かる!アイスまではいかないにしろ、冷やして固まらせたものを食べる事が出来るのだ!プリンとかどうだろう!?


「それがあれば出来るんだな?」


 つい他のレシピに思いを馳せていたら、そんな威圧するような低音ボイスが聞こえてきて、思わず顔をあげてしまった。そこには鋭い目線でこちらを見ているセドリックが居た。

 青い髪に青い瞳って、ただでさえ若干冷たさが滲み出ているんですけどー!?その睨みつけるような視線やめてー!?


「……分かりません。領民達が、そう言っていただけで、試す事すら出来ていませんから」


 半分嘘で半分本当。実際、前世での知識通りにやった所で今世も上手くいくとは思っていない。とりあえずやってみたいだけだったりもするのだ。原材料から作るって、本当に大変なんだーー!!


「なるほど、ここは領民一体となっているのか……領地ごと……というのも違うんだろうな……ルデウル男爵の人望か?」


 何やらブツブツ言っているが、聞こえる単語に思わず背筋が凍る。うわーん、セドリックの設定が怖いー!


「製作過程を見せてもらう事は?正直、王都でも手に入れたいという者は多くて。唯一カローラ嬢のお茶会で出された事があるそうだけどね。」

「構いません。領民のほとんどが手伝っているようなものですから。……カローラ嬢の場合、従者達が馬を走らせて頑張っているのでしょう……」


 セドリックはポピーに質問しつつ、私に挨拶をすると二人してチョコを作っている工場的な場所へ向かっていった。

 後はポピーに任せれば大丈夫だと、緊張が一気に緩んで、ソファの背もたれに倒れこむとそのままズルズルと浅く座ってしまう。

 確かにカローラの場合、出来上がったチョコを大量に持って帰ったりはしている。溶けたら溶けた時の事!と言いながら、馬に縛り付けていくのだ。

 一応、馬の体温的な温度で溶けないようにと木の板は一枚噛ませているけれど……。それを出したんだろうなぁ……。


「カローラに聞かないと……」


 そろそろこちらに来るという手紙があった為、色々とカローラに話す事が出来たなぁなんて思いつつ、お行儀が悪いかもしれないが、そのままソファで眠りについた。

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