第9話 Advanced Science Magic Research Institute

 霧煙るサンフランシスコから脱出しておよそ1時間。眼下に見える景色は砂漠の荒野を代表する茶色一色デザートブラウンとなっている……はずだ。

 今の時間は完全に夜になっているので、辺りは一面暗闇に包まれている。そのため、地上の様子は一切わからない。機内灯を除く唯一の光源は空にある月明りムーンライトだけだ。

 砂漠なだけあって建物が一切無い以上、人工的な光も一切無い。機体の下に広がる暗闇が、実は海面なんじゃないかと思えてしまうほどだな。

 ──上空で待機していたヘリコプターらしき機体は、日本でも乗ったオスプレイであった。

 あの時は武山分屯基地で乗って、京都に着いたと思ったらすぐさま舞鶴港で護衛艦くらまに乗艦するという慌ただしい乗り換えトランジットだったが、今回はもう後は一直線で研究所ゴールに行くだけである。

 蓄光機能がある腕時計を見て移動速度と経過時間から計算すると、既にネバダ州には入っている頃合いだと思うが暗闇でまったく研究所の気配がわからない。勝手なイメージでは、大企業らしい研究所施設群があると思っているのだが流石にそういった重要拠点を目立つようにライトアップしているはずも無いか。

 オスプレイに乗り込んだ直後はアルカトラズ島での緊迫した状況も合って張りつめていたのだが、サンフランシスコを脱出すれば脅威はほとんど無くなるので多少リラックスは出来ている。

 しかし、到着する直前までやることが無いな……と少し手持ち無沙汰になっていると、俺達より先に同乗していたオスプレイの乗員から何かの装置を手渡された。機内灯で詳細を確認すると、どうやら暗視ゴーグルのようだ。それも4眼レンズの高性能のタイプである。基本的には有名な特殊部隊──陸上自衛隊特殊作戦群やアメリカ陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊デルタフォース等の戦闘部隊──が使うような装備だ。

 俺に渡してきた乗員は必要情報以外の会話をする権限が与えられていないようで、今も無言のままだ。表情もヘルメットのバイザーによって読み取れないので何を考えているのかわからない。それでも、俺達の様子をじっと見ていたり、揺れる機体の状態や外を確認していたので一応の仕事はしているようなのだが、同じように俺も状況偵察をやれと言うのか。

 ……彼の真意はわからないものの、有難く装備を貰って窓から外の様子を伺って見る。

 流石は高性能の暗視装置ナイトビジョンなだけあって、肉眼ではまったく見えなかった砂漠の様子がハッキリと見て取れた。

 微光暗視装置スターライト型と熱線映像装置サーモグラフィ型のハイブリッド式のモデルなのでかなり見えやすい。

 自衛校の訓練で一度だけ使わせて貰った『近距離照準用暗視装置』は赤外線方式だったのを思い出す。しかも、かなりやつだったので目に当てて照準するのも大変だった。こういうヘルメットに装着するウェアラブルタイプの方が実戦では使いやすいのかもしれない。

 モノは違えど、訓練で習った使用方法コツを思い出しつつ、外の様子を見ていく。

 全体を俯瞰するように周囲を探っていくと、目を凝らした先に建物施設のような白い影が見えた。暗視装置を渡してくれたタイミングからして、あそこが目的地の研究所のようだな。

 遠くから見ていても建物群……あとは傍に長い滑走路があるとしか把握出来ないので一旦、別の方向を見てみる。

 建物群の手前に視線を向けると、多くの……巨大なクレーター群も確認出来た。まるで、ファンタジーゲームの魔法使いが隕石を大量に落としたかのような惨状に思える光景だ。何かの資料で見覚えがある光景なのだが……

 ──ああ、今思い出した。

 あの巨大な穴の正体は、によって形成されたクレーターだ。

 そして、ネバダ州にある核実験場は一つしかない。

 つまりあれは、『ネバダ核実験場』なのだ。

 であれば、その近くにある建物群と滑走路は……

 ──まさか、という考えが頭によぎる。

 の詳細は衛星写真ですら満足に写されていなかったため記憶には残っていないが……あそこにアスムリンの研究所があるというのか。

 我慢できずに、隣にいたレナに質問してしまう。

「……レナ、研究所はにあるか知ってるか……?」

 俺の疑問をすぐさま理解したようで、欲しかった回答を返してくる。

「ええ。アスムリン研究所ネバダ支部がある場所は、『エリア51』──アメリカ空軍ネリス試験訓練場内秘密実験場よ」

 マジか……本当にエリア51だとは……。

 あ言わずと知れた秘密基地である。知名度で言えばアルカトラズ島よりも遥かに高い。

 ありとあらゆるフィクションやオカルトではUFO研究を行っていたとか、宇宙人の研究をしていたとか言われているが、実際は米軍の新兵器開発拠点だろうという見方が強い。

 UFOの代表的な特徴である円盤飛行型だが、実用化までは至らなかったものの各国の試作兵器として様々な機体が開発されてきた。

 ナチスドイツのザック AS-6をはじめ、アメリカ海軍のフライング・パンケーキXF5U等がある。さらには、それらにはついてあったプロペラすら無くなり完全な円盤型飛行機として作られた垂直離着陸機VZ-9アブロカーというまさにUFOという機体もあった。

 アブロカーに関しては、ほんの少し浮いただけで開発が中止されたが、実際にはこれらの機体のように公開されていない完全秘密兵器というのもエリア51のような秘密基地で研究していたのだと俺は考えている。特に冷戦時代というのはそういった側面も大きいからだ。

 一般人の目には特異に見える形状も、実際には流体力学だったりステルス性能の追求で選択されたという、正当な理由がある。兵器開発というのは、時には考え付かないようなアイディアで洗練されていくものだからだ。

 既に宇宙からやって来た魔獣だのゾディアックだのが蔓延る現代社会では、UFO等の都市伝説の人気も落ちぶれて久しい。だが、いくら何でもそのままそういう怪しい噂のある基地に研究所を置くなんて……。

 馬鹿げていると言いたいが、もし本当にロズウェル事件の調査だの何だのが行われていたとするならば、経験があるそこで研究するのも可笑しくは無い。

 これは想像以上にとんでもないことになって来たな……と一人心の中で気合を入れ直したのだった。


 そして、ついに禁断の地──エリア51の空域に入る。

 一般人では基地の境界線に近づくだけで警備の兵士に警戒される極限の重要拠点だ。カメラのレンズを向けようものならお返しとして銃口を向けられるだけである。そして、最悪の場合──なんて言わずに普通に射撃してくることだってあるのだから本当にヤバい場所なのだ。

 アメリカ軍の軍事基地は日本にも多くの基地があり、馴染み深いものでもある。

 在日米陸軍の司令部を置く『キャンプ座間』。

 在日米海軍の司令部を置く『横須賀基地ヨコスカ・ベース』。

 在日米空軍の司令部を置く『横田基地ヨコタ・ベース』。

 これらはそれぞれの陸海空軍で有力な基地だ。その他にも、海軍航空機を受け入れる『厚木基地アツギ・ベース』や『岩国基地イワクニ・ベース』などの基地がある。

 俺もいくつかの基地には授業の一環で見学に行くこともあった。そこで、生の英語を喋りつつ授業を受けたこと──俺の場合は衛生科コースだったので救急技術を学んだ──は、現在進行形で非常に役立っている。そのため、彼らには今も感謝しているのだ。

 ──しかし、その在日米軍にとっては厳しい現状になっている。

 魔獣戦争が始まってからは本国との連携が取れなくなってしまったのもあって、在日米軍戦力は日本防衛のために残る部隊と、決死の覚悟で地獄の太平洋を渡って帰還しようとする部隊に分かれた。

 後者の消息は今も不明であるが、前者は今も日本のために戦い続けてくれている。

 勿論、共に来日していた家族と一緒に危険な航路で帰るぐらいなら日本に残るしかないという現実問題のために戦っているという側面もあるのは事実だ。しかし、そういうとして取り扱った方が都合が良いということで一般にはあまり知らされていない情報である。

 しかし、どこかで相容れないものもあるのだろう。日本国民と在日米軍の溝は深まって行くばかりの現状だ。

 だが、協力しなければこの戦争を生き残ることは出来ない。互いに思う所はあっても、今は黙って手を組むのが互いにとってメリットがあるのだ。

 まるで、アスムリンとフィーラの関係のようだなと思いつつ、機体が着陸態勢に入ったことで暗視装置を外す。

 ついに辿り着いたエリア51。

 アメリカ本国にある軍事基地の中でも最高峰のセキュリティを誇る秘密基地であり、そしてその中にさらに隠された研究所へ俺達は向かうのだ。


 垂直離着陸場バーティポートに静かに着陸したオスプレイ。

 軍事基地であっても一切の照明が付いておらず、着陸する寸前に滑走路に進入灯ALSが点灯しただけだったので難しいランディングなのだが、流石は歴戦のプロなだけあって綺麗に一発で成功させたのはお見事だった。

 ──夜間なだけあって辺りは物々しい雰囲気に包まれている。アメリカに着いてから一番の緊張感だ。

 地上に降りると、そこには一人の兵士が待っていた。

「お待ちしておりました。ご案内します」

 それだけ言うと、足早に基地の方に歩いて行く。素っ気ない態度、というよりかは、俺達と必要最低限の会話しか認めれていないオスプレイ同乗員の人と一緒のようだな。そこまでして徹底されているのがフィーラの扱いなのだろう。

 忘れずに暗視装置を返してから、俺もレナとアリサと一緒に兵士の後を追いかけていく。

 そして、歩いてすぐの場所にある普通の建物に入った。外見を見るに、ただの事務作業用の施設としか思えないのだが……いや、そうか。こんな地表に重要な研究所を構える理由は無い。隠すとしたら、の方が適切だ。

 俺の予想通り、普通の会社のような雰囲気の建物の中を兵士の先導で進む。

 そして、『会議室AConference room A』と書かれた何の変哲も無い会議室に入る。部屋の奥の扉を開くと、そこには一つの階段があり、途方も無いほどの深さまで続いていた。

「自分はここまでです」

 兵士が一礼して、階段の手前で邪魔にならないよう待機する。見事なまでの完全直立不動アテンションだ。今から何を言われようとあなた達が階段を下りるまで一歩も動きません、ということだろう。そう、から厳命されているのだ。

 鬼が出るか蛇が出るか……意を決して入ろうと一歩踏み出そうとした時、レナが声をかける。

「アスク、言っておくことがあるわ」

「どうした」

「ここから先、『希望』は捨てないことよ。ほんの僅かでも、信じておきなさい。それが、アスクのためになるから──」

 直接的な言及は避けているので、彼女の本意は分からない。

 内容的にはあの有名な地獄の門を降りる際の一説だが、であればここは地獄に通じる門ということになる。

 ──何となくは言いたいことに察しは付く。聞くだけでも悪評が上がっていたアスムリンの非道な研究方針。これを直面するにあたって理性を持って耐えろという話なのだ。或いは、俺が研究対象として扱われるその時に最後まで乗り切るための助言なのか。

「……わかった。心に刻んでおくよ」

 今一度、壮絶な覚悟を持ってその重たい一歩を地下に通じる闇に踏み出したのであった。


 階段を降りること、なんと30分。

 どこまで続いているのか不明な階段の踊り場を何度も折り返して歩くたびにいつ着くのか緊張で余計に疲弊してしまった。流石に途中でレナに「ここはこんなに深いのか」と聞くと「また深くなったようね」と返された。以前に来た時はもっと浅かったというのか。最初からかなり深かったようでもあるが、どういう建築技術で階段の深さをさらに深くするなんて出来るのかまったく予想出来ない。だが、そういう技術力があるのは今まで目にして来たアスムリン製の新型兵器で把握済みである。

 そのような考え事をしている内に、やっと地の底に辿り着いた。

 そこには、何人たりとも侵入を拒む分厚い扉が鎮座していた。大きさにして10mは超えているだろう。一瞬、資材搬入用かと思ったが階段がこれではまったく意味をなさない。隠されたエレベーターでもあるのだろうか。それにしても本当に非常識な光景だな。

 だが、もう気後れすることは無い。後は流れに乗るだけだ。

 その覚悟が伝わったかのように、厳重に封印されたその扉がに開いていく──

 最初に目に入って来たのは眩しい光。

 階段が暗かったのもあって目を細める。

 広がった光景は……まるで病院の受付のような空間だった。

 全体的に白を基調とする──よく見れば研究所のような雰囲気も掴めるが、事前情報を知らされなければ何の建物なのかわからなかっただろう。

 こんな場所が地下にあるなんて忘れそうになるほど調日光のような照明光もあって普通に地上階に思えてしまうレベルだ……。

「私もここに初めて来た時は驚いたわ。……アリサもそうでしょ?」

「……そうですね」

 自然と口を開くための会話のようだが、どうにも二人とも重たい感情は隠せていない。それほどまでに、緊張する場所なのか。

 ──それとも、酷いトラウマが想起される光景なのか。

 ……しかとこの目でこの研究所の全てを見届けてやる。糾弾は、それからだ。

 歯を食いしばったその時、待ち構えていたかのように受付にホログラムビジョンが映し出される。

 それは人間の像として結んでいき──おい、この人はッ!?

ようこそ、アスムリンへ!Welcome to ASMRIN!

 俺が突っ込む前に、その男が両手を大きく広げながら一切のノイズのの無いデジタル音声で言い放つ。

 間違いない、つい数時間前に別れたばかりの……!

「随分とお早い再登場リターンね、ダニエル市長……いいえ、やっとあなたの顔が見れたわ、

 どこかで聞いた声だと思っていたわ、と呟くレナ。

「ご紹介どうもありがとうフィーラ・レオ。君とは音声通話ボイスオンリーで一度だけ話したことがあったかな。そう、僕がアスムリン研究所、ジョン・ウォースパイトだ」

 研究所入口、その受付でホログラム上のダニエル市長──改め、ジョン・ウォースパイト所長が登場する。

 何か裏があると思っていた言動だったが、最悪な答えだったな。まさかアスムリンのリーダーだったとは。

「そう怖い顔をしないでくれ。ああ、ダニエル市長自体は実在する。昨日はサクラメントで西海岸連合会議に参加していたからちょうど僕が代役変装で務めることが出来たんだ」

 久しぶりのドライビングも楽しかったよ、と飄々に語る。俺達の様子をじかに見たかったということだろう。大企業の社長が下っ端として普段の社員の仕事ぶりを確認するドッキリ企画のようなものだが、実際にそれを喰らってみるとしてやられたという痛快さよりも、困惑かそれこそ不快感の方が上回ってしまう。

 これ以上、相手のペースで物を語らせないようさっさと俺のしたい話題に切り替えるか。

「──ウォースパイト所長。色々と言いたいことはありますが、まずは一つだけお聞かせください」

 場を支配するために敢えて一拍間を置く。そして、言い放った。

「彼女達を、として生活させるには、どのようにすれば良いと思いますか」

「っ! アスク! どうして……っ!」

「アスクさん……」

 予期していなかっただろう俺のドストレートな質問に話題に挙げられた二人がたじろぐ。

 動揺させてしまって申し訳ないが、これが俺の今の一番の本音だ。

 レナ、アリサ、リッタ……彼女達に出会ってからずっと考えていたことなのだ。

 いくら、本人達が自ら望んで戦っていると言っていたとしても、俺としてはそもそもの『選択肢』は本当にあったのかということが心に引っかかる。

 最初から戦うしか無くて、それを選ぶしか無くて、それが自分の意思だと思い込むしか無くて──そういう事なんじゃないかと思えてしまうのだ。

 その疑念を直接聞くわけにはいかない。それこそアスムリンの上層部にでもぶつけられれば……と思っていた。

 だからこそ、今ここで降って沸いた機会を逃さずに直球勝負でぶつけてみた。

 ノーコメントだろうと何だろうと、何らかのを聞くまではどこまでも引き下がってやるッ。

 俺の差すような視線に、だがデジタルデータ越しでは何も感じないようで一切の感情の読み取れない笑顔を崩さない所長。

 感覚的にはどこからか中継されているリアルタイムの映像だと思っているが、まさか単なる録画の映像なり、CGで作った偽物を別人が操作しているだけなのかよ……という嫌な妄想まで考え始めてしまう態度だ。

 だが、そうではないと言わんばかりにそのホログラムの口元が開いた。

「うん。そうだね。結論から言うと、今の世界では不可能だと思うよ」

 紡がれた、どうしようもない今の現状を肯定する一言。

 クソッ、そんなことは俺だってわかっている。だから、どうやってそれをにすれば良いのかそれを知りたいだけなんだよ……!

「誤解しないで欲しいんだが、僕としてもフィーラの事は尊重したいと思っている。その上で、今のこの世界では不可能だと言っているんだ。むしろ、アスムリンがその立場を保証し生活の安全を保護していると言っても良いだろうね」

「最前線で戦わせることが、安全な生活だって言うのか」

「そういう世界なのだから致し方あるまい? それに、魔獣戦争を人類勝利の形で終わらせるだけでは変えられないと思うよ。戦争が終結すれば、膨れ上がった軍事戦力のバランスが崩れてまた戦争になるし。後はそうだね。フィーラが纏う、魔力という未知の物質。そして更なる未知の現象を解き明かして『世界の法則』を解読し、それを都合の良いように変えなくては君の望みは達成できないだろうと僕は考えるよ」

 そこまで言ってから、意趣返しのように一拍置いてまた話し出す。

「以上でアスムリン所長としての返答を終えるが、これで満足かい?」

 ……最後は研究所らしい内容だったが、その回答に納得は出来ない。だが、現状ではどうすることも出来ないのは俺も承知している。それでも、時代の最先端を走るアスムリンであれば或いは……と思っていたんだけどな……。

 フィーラの非道な扱いとして憎む気持ちと同じぐらい、その技術力に俺自身が助けられてきた事実が感謝の気持ちも生んでいる。どのような形であれ、魔獣戦争を戦うために人類に貢献しているのもまた、ここの功績なのだ。

「……わかりました」

 ──まあ、ひとまず良いだろう。溜飲は少しだけだが下がった。

 感情をぶつけて悪かった、もう気は済んだからここからは建設的な話をしよう。

 そう、視線の感情を読み取ったのか──装置で分析でもしたのか──ウォースパイト所長がニッコリと大きな笑顔を見せる。

「それでは、当研究所についての紹介を始めよう──と言いたい所だが、物事には然るべき手順というものがあってね。ここまでの君の言動を保証し自由を与えた3分間は僕からのサービスということを理解してくれ」

 不穏な発言をしたと同時に、正面奥の扉から何十人もの研究員らしき人達と武装した兵士が登場してくる。

 一部の研究員は爆破処理装備隊員のような分厚い防護服を着装しているし、兵士に至ってはあのジークフリートに似ているパワードスーツを装備して見たことも無い形状の銃火器らしき武器を構えている。

 その光景に面食らっていると、至近距離まで近づいて来た兵士の一人が俺の両手を持ち上げてガチャン、と無骨な手錠を嵌める。

「では、改めて名乗っておこうか」

 最初の挨拶のように、再び両手を大きく広げてウォースパイト所長が宣言する。

「ここは、先端科学魔法研究所Advanced Science Magic Research Institute……ようこそ、ASMRINアスムリンへ」

 ──君も、単なる研究対象の一つなんだよ、という立場を突きつけられる状況。

 唐突に、思い知らされた俺自身の扱い。そして、現実。

 俺はただ茫然と立ち尽くすことしか出来ないままで居たのだった。

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