第15話 ドラッヘンフェルス
「新藤さん! 今日は息抜きに、上に行きましょう!」
俺の能力研究や魔導研究にも限界が見えつつあった37日目の朝に、マリーさんは唐突にそんなことを言い出した。
「上って……地上のことですか?」
「はい♪」
まさか研究所を出られるのか……? いや、あくまで息抜きだろう。この事実上の軟禁生活は終わることは無いはずだ。
貴重な検体を、アスムリンは手離さない──。
であれば、何の目的で行くのか気になる。まさか本当にリラクゼーション目的で俺の外出を許可するという訳でもあるまいし。
「アスク・シンドウ。思考が表情に出ているぞ」
「あら! 新藤さんは楽しみじゃないんですか~?」
デューズ博士はコーヒーを飲みつつ俺の隙を指摘して、それを聞いたマリーさんが揶揄ってくる。──この二人とも随分と打ち解けたな。マリーさんは最初からこんな感じだったが。
「いえ……でも、外でしか出来ない研究のために外出が許可されたのでしょう?」
「その通りだが、そう億劫になるな。むしろ君にとっては楽しめるものだと思うぞ」
おっと。アスムリンにしては随分と俺に優しいな。ちょっと違和感もあって怖いのだが……。
「これは、わたし達からの新藤さんへのプレゼントのようなものなので、楽しんできてくださいね」
「マリー女史の言う通りだ。元々、君の精神健康上こういう機会は用意したかったのだが漸く申請が下りたのが今日だったのでね」
「ご配慮ありがとうございます……」
「私は研究に必要だからそう手配したまでだよ」
「も~そう言って~デューズさんもお優しいんですよね!」
「何度言ったらわかるんだね、博士を付けてくれ給えよマリー女史。──さて、時間だ。行くぞアスク・シンドウ」
「あ~待ってくださいよ~デューズさん♪」
椅子から立ち上がった二人が歩き出す。デューズ博士は、自分の優しさを否定はしなかったな。それも、俺への配慮なのだろう。
ここは有難く、久々の娑婆の空気を堪能してくるか──と頭を下げながら重ねて礼を言って俺も二人の後を追ったのであった。
最初にここに来たときは、下りの階段で30分も掛かってしまった。そうなると、明らかにインドアタイプなこの二人が上るには一時間掛かるんじゃないかと心配していたが、どうやら外出許可が下りたのは俺一人だけで、二人は見送りのためについて来たのだと言う。
なるほど、普通の研究員にしてもこうも地上から隔絶されると外に出ようという気すら起きないのだな……だがやはりどこかに物資搬入エレベーターはあるだろうとツッコミながらも、無言でひたすら階段を上っていく。
どのくらいでゴールなのかは以前の感覚を思い出せばわかるが、上りは流石に辛い。興味本位で足腰に魔力を通す感覚──という名の気合でイメージするも、特に脚力に変化は無く少し落胆する。まだまだフィーラのデフォルト・アップには程遠いな。
この分ではゾディアックとの戦いに参加出来ないぞ……
今後の事を憂いながらも淡々と上り詰めて数十分。
漸く、元の建物内の頂上に辿り着く。そこで俺を待っていた最初と出会った兵士の人と会ってからフォローミーの状態になり、そしてついに屋外に出ることが出来た。
──燦々と照りつける本物の日光に目を細める。人工の調整疑似日光とは比べ物にならないな。あそこに長らく居たら精神を病みそうだ。
久しぶりに外の様子を見ながらも、兵士の先導で
ヘリコプターのローター音も心地いいな……と訓練時代やレナ達との激動の日々を懐かしみながら機体の揺れに身体を合わせていると、ものの10分ほどで着陸態勢に入る。あそこと大して離れていないことから、結局はアスムリンの研究施設の一つか。どちらにせよ、エリア51からは出られないんだなと少し残念に思いながらも、現場の兵士はただ仕事しているだけなので不満を態度に出さずに素早く降りる。
目の前には一つの建物。簡素な四角い形状で、これも砂漠に溶け込むためのデザートカラーの迷彩が施されている。
「……ここは、何をする場所なんですか」
隣に居た兵士にダメ元で聞いてみるも、無言のままだ。俺と話す許可は無いのだろう。
あの二人以外と関わる資格が無い疎外感を味わっている時にポツリと一言だけ呟かれた。
「Drachenfels……ドラゴンが住む、根城だ……」
急に喋られたのに加えて最初の発音はドイツ語か何かだったのでよくわからなかったが、後の話からして物騒な場所だと分かる。
なんだよ、
もう本当に
だが、少し拍子抜けなことに建物の中にはほとんど何も無く、だだっ広い空間が広がっている。唯一、物が集まっているのは中央床だけだ。
明かりもあまり無いので判別しづらいものの、近寄っていく内にその全容がわかっていく。
そこには、老人らしき丸まった背中と……そして鎮座するアレは──まさか──!
「
俺の気配を感じたのか、老人が呟きながら振り返ってこちらを見る。
その鋭い眼光は、歴戦の自衛官や軍人を見てきた俺でも、背筋が伸びるほどだ。
──この眼は、何かに人生の全てを捧げてきた、ある種の狂信者の眼。
研究職の人達とも違う、ただ純粋に、自分の己の手で何かを創り続けてきた、異常者。
敢えて失礼な捉え方にはなってしまうが、そこまでしないとこの道には辿り着けない、そんな凄みを感じてしまうのだ。
「アスク・シンドウです」
だが俺も、こういう圧には慣れている。負けじと、眼力を飛ばしてその威圧感に抗って名乗りを上げる。
「……オーゲルだ。座りなさい」
デューズ博士とはまたベクトルの違う寡黙さで、職人気質なのだなと察する。
招かれるままに、隣にあった椅子に座って見上げるのは鎮座した──
まさかこんな所にあるとはな。アルカトラズ島に置いてきてしまったが、回収されてここに保管されていたのか。或いは新しい二個目なのか。
ともかく、以前とは打って変わっての輝きになっている。全てが、研ぎ澄まされている金属の輝きだ。
言われなくてもわかるぞ。これは、
であれば──
「オーゲルさん。あなたが、ジークフリートの開発者ですか」
「……ああ……そうだ……」
重い声を上げながら、腰を重そうに上げて席を立つ。
そして、手振りで着ろと合図してくる。
そうか、俺がスーツのジークフリートに憧れというか思い入れがあったのをわかっていたんだなデューズ博士とマリーさんは……。
あと気になるのは……マイクだけだな。フィーラ二名と同じく彼の安否も未だわからないのだが、何とか元気で文句を吐きながらも仕事をしていると信じよう。
オーゲル氏がスーツの肩の部分を軽く叩くと、瞬く間にロボットアームが下から伸びてきて一気に分解される。各パーツが円形に配置され、即席のリングが形成された。
導かれるようにしてその中央に俺が入って直立に立つと呼応してパーツも俺の身体の元に集い──の前にロボットアームで最初に来ていた服を脱がされていく。これには羞恥感も少しはあるが別に女性は他には居ないのでそこまででも無い。
肌着や下着までひん剥かれた所で、少し冷たい感触の伸縮性ラバースーツを着用させられていく。パワードスーツの一番下の部分だ。これも、一つの人工筋肉として機能するため、出来るだけ皮膚のすぐ上に着なくてはならないらしい。
これを全て着終わった所で、中間層である内部アーマーの着用が始まる。これも人工筋肉のような部分が
そして、最後の一番外側の外装アーマー。この部分が一番強度が高いのでパワードスーツの防御力を決める大事な部分だ。身体の細かい部分を守る内部アーマーとセットで装着することで、魔獣と戦うための盾となる。
マイアミの自動運転トラックの荷台で装着していた時にマイクが教えてくれていた情報だ。
しかし、あそこで着た時よりも明らかに可動域がスムーズにかつ身体にもフィットする感覚が向上している。これが、完成品……ということか。外見の見かけだけで無く中身の性能も抜群に上がっている予感だ。まだ動かしていないのにわかるとはな。
アーマーを全て取り付けられた所で各部位の細かい調整も終わり、完全装着する。
──と思ったが、最後の仕上げと言わんばかりに、注射器らしきノズルのついたロボットアームが周りを囲むように伸びてきては、ジークフリートに突き刺さって何かを注入されていく。
身体を動かさないようその様子を見れないので判別つかないが、少し恐怖感を煽る光景ではある。
すると、皮膚の一枚上にあるラバースーツに、液体が流れ込んでくる感触が伝わって来る。その液体が身体表面に伝わってまた一枚の層が追加されたような感じだ。
全身の隅々まで浸透したのを確認した所で、何か寒気のようなものも感じる。
いや、これは……殺気……か?
何か恐ろしい、獰猛な気配が全身を覆う。まるで悪霊にでも取り憑かれたかのように。
──心の中で身を震わせながらもその嫌悪感に耐えているとノズルも抜かれて、動力炉もオンになる。
これで、装着完了という訳か──と視線を送って合図を求めるもオーゲル氏は特に反応を返さない。まるで、自分の役目はここまでだ、という風に。
ジークフリートを着装したまま、もう動いても良いものかと俺が困っていると建物内の奥から若い男がこちらに走って来る。
「……! ああ、もう始めている! まったくもう……」
手を膝についてゼーゼーと肩で呼吸をする様子はインドアタイプということを意味するのか。ある意味では研究員らしいのだが、いや俺が体力的に普通の人より優れているからそんな思考にもなるのだろう。
体力が劣るのであれば、代わりに頭脳勝負で──と言わんばかりに若い男が顔を上げて話しかけてくる。
「シンドーさん! 僕の名前はジョニー・ウォーターです。そこにいらっしゃるオーゲルさんの弟子です。歳はまだ17ですが、一番弟子を自負しております!」
けっこう元気がある少年で、だが今まで目にして来た人達のように天才肌ではあるな。
「こんにちはジョニー君。えーっと、ジークフリートはこれで装着が終わったのかな?」
「はい、それで終わりです。いや~ホントは装着過程の映像も撮りたかったんですけどね……まっそれはまたの機会にということで、これから性能テストをやりたいんですけれど、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。良いよ、やろうか」
傍に師匠も居るのに特に配慮も無くやりたいことはジークフリート関連の話か。それだけ情熱をかけて取り組んでいるということなのだろう。俺もそれに応えなくてはな。
「えーっと、シンドーさんはジークフリートのお話って聞いたことありましたか?」
「マイク・ボルジェン特佐からはある程度は聞いているが、その時はまだ未完成だからってことでそこまで深くは聞いていないね。レベル3単独撃破様に作られたとか、元はフィーラ用だったとかそんな程度だ」
「なるほど! だったら今一度改めて話しておきますか!」
部活の後輩でも持ったかのようにリラックスして話せる機会はあまり無いので俺も多少ぎこちない態度ではあるのだが、これもこれで新鮮だな。自衛校時代の後輩と言うのは完全な上下関係で上意下達が当然であったのでここまでフランクには話しかけてはダメだし、俺が下っ端側の時も先輩に対してはとてもじゃないが逆らえなかった。まあ逆らう必要も特には無いのだが。敢えてのそういうグループディスカッションを組まされる時もあってあの時の緊張感は地獄に等しかったな……。
と、昔を懐かしみながらも、しっかりとジョニーの話を聞く。
「ではーまず基本的な性能から。シンドーさんの言う通りレベル3と同等の戦闘力を個人で実現するために開発されたのがジークフリートなんですが、今は色々と話が変わりましてなんと単独でのレベル4撃破を実現できるようになったんですよ」
「レベル4を一人でか……それは凄いな。人間一人に大型ミサイル並の戦闘力を持たせられるようになれば、そしてそれを量産化出来れば魔獣戦争はマジで勝てるようになるぞ」
「そうですね! ですが、それも条件がありまして……」
「それは?」
「えーっと、端的に言えば魔力耐性が必要なんです。それも、レベル4が」
「そうか……そうなると、現状俺かマリーさんと、あと世界中に少しだけって人達にしか使えないと思うのだが……」
「なので、僕はこう考えたんです。人類がみんな、魔力耐性を持てるようになれば良いんじゃないかと!」
「──!」
無邪気にそう語るそれは、だが多分他の研究員からしたら視点の変換というかパラダイムシフトに近かったのかもしれない。事実俺もそうだ。人為的に魔力耐性を獲得出来るなんて、アスムリンに来る前は想像もしなかった。何故ならその魔力によって人類はずっと苦しみ続けていたのだから。どうしようもないもの──日本人的思考の災害をやり過ごすような形でやり過ごす──的な感じで考えていた。
「まあ、僕がこれを提案するよりももっと前にそれは研究されてて、ひっそりと開発されていたんですけどね!」
そう言ってポケットから注射器を取り出して見せつけてくる。
「『抗魔ワクチン』です。これを接種することで、レベル4魔力耐性を獲得し、レベル5魔導級魔力だとしても軽症程度で済むんです! 凄いですよね!」
いや……凄いなんて代物じゃない。それこそノーベル賞レベルの発明品だ。そして、それを惜しげも無く俺に見せられる辺り、既に量産化に成功しているのかよ……!?
「──それは、もう全人類数十億人に配れる程度には量産化出来ているのか? いや、その見込みだけでも、だ。」
「出来ますよ? 多分、数年か頑張って一年程度には完了しますね。前線の戦闘部隊には既に試験的に先行量産型が配布されているはずです。ちょうどシンドーさん達がスコーピオンを倒した時ぐらいですかね?」
「なるほどな……それは、革命的だな……」
事の重大性に酷く驚いて、そんな乾いた言葉しか出てこない。俺がアメリカを回っている間に、あの地下研究所に閉じ込められている間にもう世界の流れは変わりつつあるのだ。
それも、多分、俺達が死に物狂いでスコーピオンを倒した時から……いや、例え失敗に終わったとしても人類の魔術研究や魔導研究はそこまで表面化していたに違いない。各国の国力的にももう、末期戦なのだ。今後数年で、人類が勝てるか絶滅するかの瀬戸際──
そういう状態を何とかするために、抗魔ワクチンとやらも量産化して、それを使ってジークフリートを装着して──いや、何故抗魔ワクチンが必要なんだ。
「ジークフリートと抗魔ワクチンの関係性は、何だ?」
違和感──いや、聞いてはいけない領域の話のようで少し言葉が固くなる。直感的に悟ってるのだ。それが、生理的嫌悪感に繋がっている気がして……
「ジークフリートの装着最終過程は覚えてますか? あの時、スーツの中に入れたのは『魔獣の血』なんですよ。まあ正確には高レベル魔獣の血液から精製したものを色んな物質と混ぜたものですが。僕達は『ブラッドリキッド』と呼んでいます」
……あの刺すような殺気はそういうことだったのかと納得する。同時に、ジークフリートの名前の由来もそれからだろう。邪龍ファフニールの血を浴びて無敵の身体を得たように──
しかし、魔獣にとっては怒り心頭の話だろう。人間に殺されて、遺骸を研究用に無茶苦茶に使われ、あまつさえ敵である人間に都合良く血を使われているのだから怨念は籠っている方が当然か。しかも、イメージが大事という話であれば実際にそういう呪いがあってもおかしくは無いな。
人間の、生物に対する倫理的な領域に踏み込んでいる感覚がして正直言って嫌悪感がある。だが同時に、それも仕方ないと思ってしまう自分にも吐き気がする。医療分野でも、いくらでもそういう事例はあるのだ。『クローン羊ドリー』であったり、動物の臓器を人間に移植とかをな。
だが、それについてまったくもって考えてもいないだろうこの少年に話題を出しても意味が薄いか。いや、俺も自分の考えが纏まっていないのだから下手に話す資格も無いしそもそも倫理の話は個人によって思想が違うのだからこの場では違う話題だな。
──思考を切り替えて、具体的な話をジョニーに求める。
「魔獣の血……ブラッドリキッドを使うことで、どういう性能強化でレベル4と戦えるようになるんだ?」
「えーっと、まずは抗魔金属のように、魔術の攻撃に対して防御力を得ることが出来ます。ブラッドリキッド内に含まれている高濃度魔力が魔術防壁のような振る舞いを高衝撃時にするのでそれでダメージを軽く出来るんです。まあこれはダイラタンシー流体の性質を応用したモノでもありますけどね」
で、こっからが本命なんですけれど、と続いて
「その魔力を使って『身体強化』や『魔術戦闘』を出来るようになれば、レベル4と同等になるんじゃないか、ってのが僕達の見立てですね。勿論、ジークフリートそのものの性能や抗魔武器類も加味しての話ですけど」
「なるほどな……アスムリンの研究の集大成、という訳か」
「そうですね! では、ジークフリートの性能もついでに話しても良いですか?」
「ああ、頼むよ」
ジョニーは結局はジークフリートの方の機械的な性能の方を俺に話したいようなので、マイクが説明してくれた話と二回目にはなるが再履修も大事だし、昔の話と合わせてまた聞いていこうかということになった。
──それから、二時間ぐらい話し込んでしまったので頭の中でまとめておく。俺も自分の装備とだけあって戦力の確認は大事だと思った結果、かなりの長時間になってしまった。だが大事なので致し方無いだろう。
ジョニーが説明してくれた内容は、主にジークフリートそのものの話や性能と、そしてスーツの内部に搭載されている武器と追加装備類である。
まずはそのものの話だ。既に話題に出ている話もあるが、改めて自分の中で整理しておく。これがジークフリートの全てである……。
『ジークフリート』
対魔獣戦闘用に開発されたパワードスーツ。元々はフィーラの戦闘補助のために開発されていたのだが、フィーラが強すぎて必要ない、逆に邪魔になることが判明して計画は封印されていた。
時代が下って、魔力耐性を持つ人間が確認できるようになったためその人たち用に再度開発が開始されることになる。
コンセプトは単独でのレベル3魔獣撃破。
いずれは量産することで現状レベル2戦力相当の兵士一人を、レベル3にまで底上げする目的。兵士一人で
今のところは実証段階で、いくつかのプロトタイプが実戦投入直前になっている。
さらに、極秘のプロジェクトとして魔術を使える人間の出現が確認できたことからその人達用の特別タイプも開発。こちらは、着用者本人の魔力戦闘も加味して単独でのレベル4撃破をコンセプトにしている。俺もその中の一人である。
全身鎧の材質は超抗魔金属と超硬鋼の合金。魔力による攻撃を減衰させる効果を持つ。疑似的な魔術防壁を金属物質内に展開できるためである。また、そもそもの材質からしても超硬物質なので、普通の銃弾程度では傷一つつかない。
対弾防御性能としては12.7mm弾以下を完全防御する。それ以上の攻撃及び、重機関銃による連射に関しては入射角度を変えて衝撃を受け流すことで防ぐことが出来る。一番肌に近いラバースーツは複層特殊繊維(アラミド繊維と超高分子量ポリエチレン繊維)での耐衝撃極薄チョッキも貼られているようだ。
ここに、ダイラタンシー効果を用いた『ブラッドリキッドアーマー』による防御力が加わるので、一般兵士を相手とする通常戦闘では無敵に近い。この防御力を通常兵器で突破するには戦車砲弾の直撃か、対戦車ミサイルの直撃が必要となる。が、それらの攻撃は回避か武装による迎撃が出来るとのこと。
また、各部の関節に配置された超小型マイクロアクチュエータによる膂力増加によって、成人男性の12倍の力を持つことが出来る。人工筋肉もそのサポートを行っており、目の前に攻撃が差し迫っているが意識が無い等の緊急時には電気信号で勝手に着用者の筋肉を操作して失神させるように体勢を変えてくれるのだとか。
そういう判断を自動で出来る様に補助AIによる戦闘アシスト機能も搭載されているらしく、ある程度は脳波で、補助として音声認識で俺側からもアシスト機能を使えるらしい。
ジークフリートについては以上だ。
──次に、装備類について。
まずは一番の肝であるバルムンクだ。結局ナルコスとの戦いでは一切使わずにトラックに放置だったので何となく後ろめたさもあったがこれからはしっかり使っていこう。また、他の武器類も頭の中に性能を記憶しておく。
『バルムンク』
彼の英雄、ジークフリートが所有していた魔剣の名を冠する剣。
両刃直剣の形状で、見るからにシンプルな西洋剣といった感じだが無骨な威圧感を持つ。大昔に作られた名剣とは違い、現代風の合理的なデザインで重厚な迫力があるものだ。
試作段階ではあるが、刃先部分のみ超々抗魔金属で作られており、理論上はレベル5ゾディアックにすら抗魔効果による攻撃を与えることが可能。
通常の抗魔金属の有効範囲はレベル3まで。超抗魔金属でレベル4。超々抗魔金属でレベル5。
刃先以外の材質も超抗魔金属と超硬鋼の合金で作られているので非常に頑丈である。
ジークフリートの話でもあったようにバルムンクを用いて、向かってくる砲弾やミサイルを叩き落とすことで迎撃することが可能。
魔獣に対しては、相応の撃力を与えることでレベル5直接外皮装甲すらも切り裂ける。が、その撃力を生み出すことが一番難しく、全身を連動させての突進でしか成しえない。
基本は、左の腰に下げた鞘に納剣している。
『特殊拳銃』
対魔術防壁用徹甲炸裂弾を撃つことが出来る。ジークフリートと接続して、正確な射撃が可能。装弾数は8発。普通の拳銃とは機構が違い、火薬+レールガンで発射し、威力はかなり高い。レベル3魔術防壁までなら複数発射すれば貫通し、破壊できる。
レールガンとしての電力はジークフリートに接続していれば即座に充電可能である。
大きさはデザートイーグルよりも大きく、常人では持つことも難しい。
基本は右の腰に下げたホルスターに納銃している。
『その他兵装』
・手甲二連装発射機に装填されている超小型マイクロミサイル
・肩部三連装超小型擲弾発射機
これらは基本的に補助攻撃に用いるものである。マイクロミサイルの威力はレベル3程度。擲弾発射器は煙幕弾や閃光弾を発射可能。
・各種ロケットブースター(使い捨て)
肘、踵、膝、背中八か所、腰四か所につけられている。それぞれ、超高性能AIによって適切なタイミングで噴射するため身体の動きを完璧に補助する。全て使用してのバルムンクによる突進攻撃ならば、レベル5ゾディアックの直接外皮装甲やレベル5魔導防壁すら切り裂く。普通なら核攻撃すら減衰する代物を切り裂けるのはバルムンクの性能によるものも大きい。しかし、フォートレスは切り裂けない。
通常魔獣相手ならば余裕で戦えるため、基本はそれが仮想敵である。
──さて、そもそもの大前提として抗魔金属と抗魔ワクチンだが、この二つは説明されても正直良くわからなかった。勿論、どちらもアスムリンの一番重要な機密事項なので、その説明制限もあってかあやふやな説明の仕方にもなったのかもしれない。俺が知っても特に意味は無いというのもあるか。
抗魔金属に関しては、特殊な金属を魔術で生成した炎で溶融、焼尽、焼鈍し等で何らかの処理をする形で出来るらしい。
抗魔ワクチンもナノクラスター効果で体内分解可能化学物質に抗魔性質と微量魔力を入れて~等の話で俺には理解出来ない話だった。
そんなこんなでジークフリートの話を聞き終えた俺は、もう時間だということで慌てて少しの動作確認を行っただけで、あとはもう地下研究所に戻ることになってしまった。
ジョニーにお礼を言いつつ、いつの間にか消えていたオーゲル氏にもお礼を言っておいて欲しいと頼んでから建物──ドラッヘンフェルスを後にした。
帰りのヘリに乗って、またもあの地獄の階段下りを終えて──あの時レナが希望を捨てるなの発言は普通にこの足腰と精神へのダメージなんじゃないかと思いながらも──地下研究所に戻ると、そこには怒り心頭といった表情でレグナグレ博士が待ち構えていた。
……さあ、正念場ということか。かかって来いよ、MAD博士よ。
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