第16話 全方角に照準を向けて

 リヨンを発ってから二週間。

 国連軍は漸くオルレアンに辿り着いた。

 リヨンからオルレアンの距離は車を走らせて450km程度。何事もなければ一日以内で行ける距離にある。

 国連軍の到着がここまで遅くなった理由は二つ。

 一つ目は車ではなく徒歩を強いられる歩兵が多いということ。

 二つ目は周囲への警戒を強化して進んだため、進軍速度が遅くなったこと。

 予定ではさらに時間がかかる必要があったが、さすがにこの進軍速度では魔獣軍にと思ったアーノルド中将が急遽プランを変更。

 行軍ルート周辺の車両のほとんどを軍事徴用し、車両でのピストン輸送に切り替えたのだ。

 無理をしてでも、都市から都市に渡る長大な道のりを短時間で突破して最終目的地一歩手前のオルレアンに軍隊をなだれ込ませようとしたというわけだ。

 おかげで短縮されはしたが、フランス軍にはかなり迷惑をかけたため、国連軍の権限を越えていると現地の将軍から直々に苦情が来たレベルだ。

 防衛の要となるフランス軍を無理させた以上、どこかでひずみは発生する。その帳尻合わせで俺達が被害を受けなければ良いんだが……

 しかし、中将の考えも間違ってはいない。

 部隊の大規模展開が難しく補給もままならない道中で戦うよりかは、市街地で防衛線を敷いた方がすぐに負けることは無いからだ。

 勿論、これは国連軍が意図しているゾディアック・スコーピオンへの短期決戦計画と食い違うものであるが、作戦成功の見込みが立たずに部隊を撤退させる時に次の作戦に向けて少しでも戦力を温存させるためにやむを得ない処置として有効な考えだ。

 という思考プロセスで全軍をオルレアンに収容できたわけだが、ここからが本番だろう。

 すでに、俺達はゾディアック・スコーピオン率いる敵魔獣軍西欧攻略中核部隊の喉元まで食い込んでいる。

 ここまで見過ごされてやって来れたのは奴らもパリか、その周辺での決戦を考えているからだろう。

 結果はどうあれ、決戦意図戦域は両者共に同じというわけだ。

 参謀本部から、部隊の戦力を整える数日の休養後に作戦最終段階を発動、パリに一気に攻め込むという命令が発令され、部隊の士気は一気に高まる。

 オルレアンはパリから約130km離れた南西に位置する。この位置関係は東京の皇居から静岡市手前の位置関係と大体同じ距離感だ。他に言えば、大阪の道頓堀から和歌山紀伊半島の最南端手前と同じである。

 魔獣戦争前はパリのベッドタウンとしても機能していたらしい。

 距離としては普通の感覚だと少し遠い印象を持つが、『戦争』に置いてのこの130kmという距離はかなり短い。

 車両で進めば2時間で突破できる距離だし、ミサイルであれば余裕で届く。

 最前線と呼称しても良い距離だ。俺達は、すでにスコーピオンと相対している。

 浮足立つのも仕方が無いだろう。部隊は市内で簡易防衛ラインを展開済みであるが、いつパリに向かうのかの話で持ち切りだ。

 そのような状況下で、作戦の要となる精鋭部隊の存在はあまり公にはしたくない。ということで、俺達四人には休養という名目での市内観光が許可された。未だオルレアンに住んでいる住民に紛れて土地勘を把握して来いという任務だ。

 ずっと車両に詰められての長旅であったため、自由に歩き回れるだけでも嬉しい。決して、遊びで観光しているわけではないが今後の過酷な戦いに備えて少しでも気力を回復させておこう。


 ひとまず、オルレアンの中心部に向かうことにした俺達一行は、市内を東から西に流れるロアール川を越えて北側に入った。

 オルレアンはロアール川を境にして北部と南部に分かれており、北部の方が比較的発展している。その分、完全な市街地となっているので大規模な部隊は駐屯できない。一部の歩兵を北部に送り込んで防衛ラインを構築させて、残る大部分は広い南部での警戒に努めている。そのため、俺達と同様に休暇となって市街を散策している国連軍の面々も北部の方が少ないという訳だ。

 観光ツアーという訳でもないのでパンフレットも誘導員も無い。あるのは渡された詳細な街の地図だけだ。

「みんなはどこに行きたいか希望はあるか? ジュリア少将からは門限に間に合うならどこまで行っても良いと言われているが」

「私はどこでも良いわよ」

「私も……特に希望はありません」

 レナもアリサもあまり興味は無いようだ。二人とも、年頃の女の子らしい可愛い服装をしているが中身は歴戦の軍人のようなメンタリズムに近いのか。休暇と言われても何をしていいのかわからないらしい。

「でしたら、まずはあそこに行きましょう皆様方」

 一方、リッタは割と好意的に観光を楽しんでいる。地元という点もあるのだろうが、こういうプライベートなことに関しては自分を楽しめるタイプのようだ。

 そういう意味では、レナもアリサも戦いという『仕事』に価値を見出すタイプなのかもしれない。

 俺も割とそれに近いタイプだが、アキラのような公私を完全に分けて趣味を全力で楽しむタイプの奴らに連れられて色々な遊びの経験をしたのもあって、楽しむときは楽しむ良さというものも理解している。

 これまでの生活で三人の様子を見て来たので何となく彼女たちの人となりを理解できるようになってきたが、この中で一番気を張っているのは間違いなくレナだ。

 最強の力を持つ故に、背負っている責任感も一番大きい。自分なりに気合の所在をコントロールしてはいるようだが、いずれ破綻するかもしれないと俺は思ってしまう。

 ならば、今回みたいな機会を活用して純粋に楽しむという良さを体験させるしかない。

「よし、じゃあリッタの行きたいところにするか。レナとアリサもそれで良いよな?」

「良いわよ」

「はい、大丈夫です」

「オルレアン、と言えばの名所ですからね。期待していてくださいませ」

 ある意味、俺にとっても海外に来て初めての観光地だ。年甲斐もなく盛り上がってみるか。


 リッタに連れられてやって来たのはマルトロワ広場という場所。広場の外周にはレストランや小さいメリーゴーランドまであるが、主役はどうもそれじゃないようだ。

 リッタがおすすめする理由は何だろうと思って真ん中に行ってみると、立派な像が立っていることに気付く。

 馬に乗って右手で剣を振り上げている女性。これは恐らく──

「リッタ。これが、オルレアンの名所か」

「そうですわ! オルレアンを救いし、百年戦争の英雄。ジャンヌ・ダルクの像ですの!」

 まさにフランスの代表的存在、Jeanne d'Arcが目の前に居る。像であっても、その威厳は途轍もないものだ。

 ジャンヌ・ダルクの軍事指揮能力は卓越したものである。戦略論や作戦術に優れているというよりは、当時の基本的な戦い方──指揮系統も無く、貴族たちが名乗りを上げて戦う酷く非効率な騎士道精神の戦闘を一変させて、合理的な戦術を持ってして重要な戦いに勝利し続けた『変革』の力が彼女の武器だろう。

 これは、ジャンヌ・ダルク自身が最初は田舎出身の戦いの素人であった点も大きいが、フラットな視点から新しい価値観を携えてそれを貴族達に指摘し、実行させる確かな力は途轍もない能力だ。

 当時の戦場は完全な男社会。そのような環境下で自由自在に戦い続けてフランスに勝利をもたらした彼女の雄姿は、フランス国民の目に焼き付いたことだろう。

 このオルレアンも半年以上もの間、イングランド軍に包囲されて苦しめられてきたが、救援として到着したジャンヌ・ダルクが僅か9日間で解放したため、このようにオルレアンの市民は彼女に敬意と感謝を抱き続けている。これは、オルレアンの乙女という異名からも繋がる話で、日本風に言うならば『推し』だろうか。

 19歳でこの世を去った彼女だが、若いながらも戦うその姿にフィーラ達を重ねてしまうのは仕方のないことなのか。

 ジャンヌ・ダルクがフランスを救った英雄となったように、フィーラ達が世界を救った少女達セイヴァーガールズとして評価される時代は来るのだろうか。

 毅然と佇む像を見ながら静かに黙考している俺の横では、その当人達が和気藹々と話している。

 最初はモチベーションが低いけれど実地に来れば後からエンジンがかかるタイプなのか、レナもアリサもリッタの得意の解説を聞いて興味津々のようだ。

 こればかりは、リッタのお話が人を引き付けるほどお上手なのか、俺と同じようにその立場を自分たちに合わせて見ているのか。

 ──このご時世なのもあって周囲は閑散としており、俺達の他には数グループしか居ない。

 そのような状況で、英雄の像を前にして目を輝かせて真剣に見るその眼差しは、とても気高く、純粋で立派だ。一歩、離れた所から様子を見ながら俺は彼女たちに対して何ができるのだろうかと考えるのであった。


 30分に渡るリッタの長大な講談が終わったところで、他の場所にも行こうかという雰囲気が流れ始める。

 レナとアリサも俄然モチベが上がったようでグループに活気が出て来た。

 ここは、地元出身として色々と物知りなリッタのおススメを回ってみようということでリッタに観光案内を一任することにする。

「ありがとうございますわ。皆様、ジャンヌ・ダルクにご興味がおありの様子でしたので、次はジャンヌ・ダルクが滞在した家を再建した資料館に行ってみましょう。その後、サン・クロワ大聖堂を見学してからパストゥール公園でピクニックランチでもしましょうか。他にも色々と回ってみましょう!」

 まさにオルレアンのフルコースといった感じの行程で市内を散策する。

 建物のほとんどが白塗りの4~5階建てなので、俺にとっては見ているだけでも綺麗な街並みで新鮮だ。ちなみに、フランスでは日本のように地上階を1階とは呼ばずにそのまま地上階──rez-de-chaussée(略称でRC)と呼び、その上から1階、2階となっているため日本式に考えていると階層が一段ずれてしまう。

 途中、国連軍への報告のために寄ったフランスの情報機関組織である対外治安総局DGSEの偽装住居にあったエレベーターで、地上階RCと1階の表記を押し間違えそうになって、危うく入ってはいけない階で降りそうになったのは冷や汗をかいたが、それもまあ、経験の一つにしておきたい失態だ。

 さすがフランスと言っていいのか、俺が都会に詳しくないからなのかはわからないが、ファッションにも力を入れている店が多くあり、年頃の少女達三人と一緒にオシャレを楽しむ時もあった。尤も、俺は彼女達が着こなす華麗なセンスを褒めるだけであったが。

 男性向けのカッコイイ専門店もあったが、この観光でも着ている国連軍のシャツが割と着心地良く気に入ってしまったので、俺一人に時間を使うよりも皆で回ろうと言って遠慮した。

 代わりに、老舗のチョコレート専門店──フランス語ではショコラ専門店さんに行ってチョコ好きのジュリア少将へのお土産を買ったり、大聖堂で荘厳な雰囲気を堪能したりともう完全に観光になってしまったがこれはこれで楽しかった。


 割と満喫できたオルレアン観光。

 お土産片手に臨時拠点に戻ると、何やら難しい顔でジュリア少将が地図を前にして睨んでいた。

「只今戻りました、少将。……何かありましたか?」

「ああ、お帰り諸君。緊急事態だ、新藤特佐は今すぐ戦闘服に着替えてここに戻ってこい。あとの三人はこの場で待機だ」

 ッ!? 戦闘でも起きたか!? さすがに動揺は隠せない。だが、命令だ。

「了解です少将!」

 すぐさま敬礼を返し、お土産だけ机に置いてから一目散に割り当てられていた部屋に駆ける。

 武器の手入れは行っていたのですぐ使える状態だが、肝心の抗魔弾はリヨン防衛戦で消費したので少し心もとない数だ。通常弾に切り替えるしかないかと思って走っていたが、到着した部屋の机に置かれていたプレゼントでそれは解決する。

 蓋を開けると中には抗魔弾らしきものが10ダース入っていた。メモ書きには英語でDGSEと書かれている。どうやら彼らが企業経由で俺に送って来たようだ。これは有難い。

 一緒に置かれていた高速装填器具スピードローダーを使って空きの弾倉に弾丸を装填していく。初めての作業だと手間取ってしまうが、これは自衛校時代の経験が活きた。

 合計3分で武器点検と服装点検を終えた俺は、装備重量だけで20kgは超えただろう全装備状態で作戦室に向かう。

 仮設テントの外では兵士達が慌ただしく動いている。かなり切迫している様子だな。

 急いで作戦室に戻ると、お土産のチョコを食べながら少将が待っていた。

 俺の到着を確認すると、少将は立ち上がり俺含め四人の顔を見渡す。

「よし。では、作戦会議を始める。諸君が帰ってくる5分前にオルレアン外周の警戒部隊からアラートが鳴った。意味するところは魔獣軍の襲撃だが、予想襲撃位置が最悪だ」

「それは……」

だよ。我々は包囲されていたようだ」

 なるほど、確かに最悪だ。魔獣軍は、俺達をパリに近づけさせないようにオルレアンで決戦を考えたようだ。

 包囲戦となるとこちらが対応できる手段は二つ。

 一つ目は突破。一か八かの作戦になるが、相手の包囲網の脆弱な点を一気に攻撃して突破する方法だ。主に短期決戦を意図して行われる。

 二つ目は持久。相手の包囲に対してこちらも全周防衛陣を展開し、相手の攻勢が終わるまで持ちこたえる方法だ。主に長期戦闘を意図して行われる。

 どちらもメリットデメリットがあるが、選択肢の主導権はこちらにある。包囲戦というものは攻撃側が有利なように見えて、実は攻撃目標軍勢をがために、包囲という消極的な戦術になるのだ。

 包囲側の目標は相手に圧を与えて無理矢理の決戦に持ち込むか、相手が疲弊するのを待ってゆっくりと押し潰していくかのどちらかだ。

 逆に、被包囲側の目標は相手の想定以上の戦力と機動力を持ってして突破するか、補給体制と防衛ラインを盤石にして持ちこたえるかになる。

 後者に関してだが、意外と防衛側は持ちこらえられるものだ。籠城戦などが例の一つである。十分に設備が満足している防御陣地であれば、敵軍より人員が少なくても防衛可能だからだ。

 また、地上で野ざらしにされている攻撃側の人員よりも、陣地内でゆっくりと過ごせる人員の方が体力、士気共に充実できる。

 だが、今俺達が居るように十分に防衛陣地として整っていない場所だとその利点も無い。

 さらに、補給の問題もある。軍隊が戦うには、食料や武器弾薬が必要不可欠だ。十分に整っている防衛陣地とは、大砲や重機関銃陣地、塹壕や分厚い装甲で守られているという要素の他に、大量の物資が備蓄されているというものだ。

 俺達が居るこのオルレアン──都市部にこれらの要素があるとはとてもじゃないが言えない。あるのは無数の建築物だけ。市街地戦であればこれらは限定的な戦闘拠点にもなりえるので長期的な戦いが可能だが、その代償は万物が瓦礫と化す地獄を生み出す。

 つまり、国連軍に残された選択肢は一つだけだ。

「さて、我々はこの包囲網を突破する他ない。なぜなら、守りに徹したところで我々に増援は来ない一方で、魔獣側はどんどん増えるからだ。時間が経つにつれて、我々は不利になっていく」

「そうなると、突破点を決めなくてはならないわね。一つ? 複数?」

「一つだ。戦力に余裕は無い以上、ランチェスター第二法則を遵守する。──問題は突破地点だが……さて、どうするか」

 レナとジュリア少将は話をどんどん進めていく。共に、現実がきちんと理解できているからだ。

 国連軍は数万の軍勢とはいえ、近代戦に置いては少ない評価になる。

 限りある人名と物資を有効に扱うには、集中投入をしなくてはならない。それがランチェスター第二法則の内容だが、複数の突破地点による陽動や本命欺瞞ができなくなる。

「意見具申、よろしくて?」

 リッタが手を挙げる。彼女もフランスで戦い続けた歴戦の戦士だ。戦闘の土地勘に置いては、右に出る者は居ない。

「構わない。言ってみろ」

 ジュリア少将もそれを理解しているのか意見を遮ろうとはしない。

「ありがとうございますわ。突破点を一つにするならば、北側にしましょう」

「その理由は?」

「わたくし達の最終目標はパリに居るゾディアック・スコーピオンを討伐すること。であれば、パリに最短経路で向かうしかありませんわ。戦力には余裕が無いのでしょう?」

 尤もな意見だが、現実問題として反論できる余地は残されている。

「その通りだが、北を選ぶにあたって二つデメリットがある。一つは突破に成功したところで魔獣軍そのものを撃滅できる訳では無い以上、そのまま追撃を受ける可能性が高い。スコーピオン率いるパリ占領部隊との挟み撃ち状態になってしまう。もう一つは、向こうもそれを理解している以上手厚い包囲網を敷いている可能性が高いことだ。そもそも、突破は難しいかもしれない」

 俺と同じ考えだ。レナも同様のようで、どうするのよという視線を向けている。

 だが、リッタの顔は自信満々だ。

「一つ目に関しては、フランス各地の防衛軍にお任せしましょう。ここオルレアンにも防衛軍は駐屯していますし、近隣の部隊も搔き集めることが可能だとこの道中でわかりましたわ。万が一、戦力の払底でスコーピオンとの決戦を回避せざるを得ない状態になった時は、逆に国連軍とフランス軍で今包囲している大規模魔獣軍を挟み撃ちにできますわね。パリに居る魔獣軍は防衛には長けているものの、機動力は低いので国連軍は逃げられますわ」

 フランス軍の実力は確かにこの二週間で把握している。彼らも余裕は無いもののまだその戦力は一線級だった。今リッタが考えているような大規模会戦でも十分耐えられる。

 少将もレナも、今の考えには肯定のようで特に異論は挟まない。

「二つ目ですが、それこそわたくし達フィーラの本領発揮ですわね。向こうはわたくし達の存在に対して100%の確証は持っていないでしょう。この二週間、わたくし達は一切戦うことなく息を潜めて大軍勢に紛れて来ました。勿論用意はしているでしょうが、確証が無いものにそれ相応の用意はできないでしょう。もし、対フィーラ戦術を展開していても、それならば大軍勢で押し通りましょう。少数精鋭への警戒か、多数軍勢への警戒はどちらか一方しかできません」

 なるほど、ここでフィーラのメリットが活きてくるというわけか。

 フィーラという存在は、用兵の観点から見れば少女でしかない。戦艦や空母以上の戦闘力を持ちながらその維持コストは成人男性一人分にも満たないのだ。

 魔力を使えばその分を回復するために多目の食料や休息が必要にはなるが、ただ生きているだけであれば一般人と変わらない。魔獣側からすれば、フィーラ達が本当に国連軍と一緒に行動しているかはわからない。

 そして、このわからないという状況は非常に難儀なものである。今、こうして俺達が相手の布陣を必死に考えているように、向こうも向こうでフィーラ達の所在を突き止めようとしているだろう。

 もし、フィーラ達が居ないとなれば対フィーラ用として配備している戦力は遊兵になってしまうのですぐさま配置転換をしなくてはならない。だが、軍勢が大規模になればなるほどその転換作業には時間を要する。

 ジュリア少将からの指摘を全て覆して見せた。リッタの作戦立案能力はかなりのものだ。

「ふむ、スカーレット君の意見はなかなか良いだろう。レナ君はどう思う」

「そうね、私も問題は無いと判断するわ。アーノルド中将相手に持っていく案としては十分でしょう」

「レナさん、ちょっと棘のある発言ですこと!?」

「あら、何のことかしら」

 また二人のバトルが始まりかけるも、少将が手で遮る。

「いや、だが作戦案としては十分なものだよスカーレット君。中将に君の案を提出してみよう。詳細をまとめたいから一緒に来てくれないか?」

「勿論ですわ♪ レナさんはそこでお洋服でも着替えて待っていらして?」

「さっさと行きなさい。奇襲されて案がお陀仏になってもしらないわよ」

 腕を組み不満顔で追い払うレナ。だが今回は自分の方が格は上だとばかりにウフフと嗤いながら作戦室を出て行くリッタ。

 何だかんだで仲は良い二人だ。今日の観光も二人で仲良く話している場面も多く見受けられた。戦闘関連のこととなるとオフの姿とは打って変わってプライドが表出するようになるため、衝突が増えるのだろう。

 ──やはり、年頃の少女にとって戦うということはストレスなのだ。

 再三の意識にはなるが、俺は俺なりに戦う必要を認識するのであった。

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