第17話 御嬢様の悪戯

「全員、集まったな。これより、オルレアン包囲突破作戦について説明する」

 軍の少将以上全員と俺達四人の精鋭部隊が作戦室に集められた。オルレアンを包囲し、次第に包囲網を狭めつつある大規模魔獣軍に対する攻勢作戦についての打ち合わせをするためだ。

「まず、作戦概要から。ジュリア少将、よろしく頼む」

「はい。ジュリア・ルナール少将より、作戦概要をご説明いたします」

 先程、リッタと二人で検討していた作戦案だが、無事に採用されたようだ。

 中将から大役を命じられ、ジュリア少将もかなり緊張しているようだ。無理もないだろう。自らが提案した作戦の成否如何で数万もの軍勢が全滅するかどうかの瀬戸際にあるからだ。

 周りに居る高官達からの重い視線に耐えながらも説明を開始する。

「──それでは、本作戦の作戦目標からご説明いたします。本作戦の意義は、包囲されている現状を解決するために敵魔獣軍の包囲網を突破することにあります。突破方法としては、オルレアンの北側──セルコットを突破攻勢点としつつ、追撃してくるであろう敵部隊をフランス防衛軍が食い止める作戦です。この時、我々国連軍とフランス軍の人員転換をに行うことを最重要ポイントとして行動します」

 これが、作戦の肝心のようだと一同は察する。要は、魔獣軍に気づかれずにオルレアンを脱出する国連軍とオルレアンを防衛するフランス軍とを入れ替える作戦ということだ。

 平野部であれば、大軍勢の陣地転換は簡単に見抜かれるだろう。だが、民間人も避難で行き来する市街地、都市部であれば雑多な人混みとなってわかりにくい。さらに、建物群も障害物となるので余計にその不明瞭さが増す。

 空から見れば多少はわかるかもしれないが、包囲されていると判明してからは都市内部を偵察しに来る航空魔獣はほぼ全て撃墜している。

 つまり、向こうからは俺達の動向がわからないということだ。

 しかし、この作戦は難しい戦闘行動だ。具体的にどのように実行に移すのだろうか。失敗すれば、身動きの取れない市街地で多くの人員が立ち往生となり、遊兵となってしまう。これが露見すれば、間違いなく魔獣軍は一斉攻撃を仕掛けてくるぞ。

「ジュリア少将、質問宜しいかね」

「はい、バルツァー少将。どうぞ」

 もとはジュネーブ駐屯師団を率いていた少将だ。つまり、同師団の副指揮官であるジュリア少将の上司ということになる。

 直属の上司を前にしてもジュリア少将は一歩も引かない。さすがに、肝は据わっている。

「では一つ尋ねるが、流動的に人員交換を行うと言っても現実的に可能なのか疑問だな。最初から都市に備え付けの大砲や重機関銃陣地はそのままで良いとして、今後の戦闘で必要になるモノはどうやって持っていく? 車両での移動もそれぞれの軍同士で混雑し、難航するのではないかね?」

 俺の──いや、先の話を聞いて全員が疑問に思ったことを質問するバルツァー少将。ある意味で、身内からの追及質問は手助けなのかもしれないが面倒なのは事実だ。勿論、兵士の命を預かる指揮官として作戦の粗は徹底的に潰さなくてはならないが。

 俺の思考とは裏腹に、ジュリア少将は想定済みのようで一切の不安を感じさせないポジティブな微笑を見せている。まさかとは思うが、口裏合わせプロレスだったのかもな。

「ご指摘ありがとうございます、バルツァー少将。その問題につきましては、オルレアンが長年に渡って研究してきた『第三種避難誘導計画』──通称トルポ計画を流用することで解決できます」

「トルポ計画とは? お聞かせ願おうか」

「はい。トルポ計画は全部で五種類からなる民衆の避難想定計画及び都市防衛隊の迅速な部隊展開計画を統合したものです。第三種は両計画の実行優先度が同等である状況の時に用いられます。つまり、私が提案した国連軍とフランス防衛軍の流動的同時部隊展開に応用できるという訳です」

「成程、民衆と軍隊が同レベルに入り乱れる際の人員車両誘導計画を使うということだね?」

「左様でございます。バルツァー少将」

「しかしまあ、そんな都合の良いものがオルレアンによくあったな」

「私もフランス防衛軍から提供された作戦計画資料を見たときは驚きましたが、どうもこの都市の歴史に関係があるようです。──ベルベイン君、説明を頼む」

承りましたわC'est entendu.

 そう言ってリッタが立ち上がる。確かにリッタが助言をしたとはいえ、正式な作戦会議にフィーラが口を挟めるものなのか。

 気づかれないように高官達の顔を伺うも、皆揃ってポーカーフェイスだ。感情は読み取れない。

 身内同士の質問と回答を続けていても不自然であるが、そのスパイスとしてフィーラを混ぜるのは余計に不自然になってしまう。ジュリア少将がここまでリッタを立てるということは、トルポ計画の発見者本人だからか。

「ここオルレアンには、有名な戦いと有名な英雄のお話があります。皆様、ご存じの方は居らっしゃいますか?」

 説明役を与えられたのに、のっけから将校陣に質問とは勇気の行動だ。流石の高官達も苦笑している。だが、雰囲気を悪くさせるものではなく少女の微笑ましい行動を見守る形だ。

 少女の献身を無駄にしないため、一拍置いてアーノルド中将が手を上げて答える。

「戦史、となれば軍人がわからないとは言えないな。オルレアン包囲戦で活躍したジャンヌ・ダルクの話だろう?」

「正解ですわ! その戦いの構造とジャンヌ・ダルクが指示した作戦内容を分析し、機動力が失われる市街地戦での有機的な行動様式を考案したのがトルポ計画でございます。第二次世界大戦で作戦計画は失われてしまいましたが、魔獣戦争が始まってから再び見直されるようになったのですわ。以前、ここで戦った際にフランス軍の皆様に防衛計画の一つとして教えて下さり、今日までわたくしが覚えていたものをジュリア少将に進言しましたの!」

 内容を聞き流せば祖父と孫の微笑ましい会話劇だが、話していることは軍事というアンバランスなものだ。これが、戦う少女フィーラとしての日常なのだろうか。

「説明ありがとうベルベイン君。彼女の優秀な記憶力とジャンヌ・ダルクへの信愛で本作戦計画を立案できました。──他にご質問はありますか」

 流動的に部隊を動かすという点については以前より考案されていたトルポ計画によって行うことがわかった。

 他のメンバーも作戦の本筋に関しては問題ないと判断したようで、発言は上がってこない。

 中将が様子を確認し、話を一旦まとめにかかる。

「よし、質問が無いようであればトルポ計画を基にした国連軍の動きとフランス軍の動きについて説明する。なお、本作戦では精鋭部隊の面々は二つの部隊に分ける。フィーラ・レオが我々国連軍と一緒に行動し、北側で突破作戦の援護。残りは南側で特別作戦だ。別室で説明を受け給え」

 レナは単独で一番火力の高い戦力だ。突破火力として是非欲しいのだろう。

 一時的に別れることになるがすぐ会えると信じて未練無く席を立つ。

「了解です閣下。──レナ、暫しのお別れだ。無茶するなよ」

「レナさん、お気を付けて」

「わたくしの案を無駄にしないためにも、頑張ってくださいませ」

 三者三葉の別れを告げられたレナは心配ないという風に腰に手を当て胸を張る。

「私は大丈夫よ。あなた達こそ、一番危ないんだから気をつけなさい。──アスク、何かあったらすぐに二人に頼るのよ。私は一緒に行けないんだから」

「ああ、わかった。レナこそ、一騎当千ワンマンアーミーではなく、国連軍の人達と協力するんだぞ」

「善処するわ」

 孤独になってしまうレナを気に掛けながらも、俺達は作戦室を後にするのであった。


 案内された別室は建物内に用意された格納庫らしき場所だった。

 こちらに背を向けて誰かと話している人物は……俺の知っている人だ。

 当人も俺達の気配を察して振り返る。

「おお! お久し振りです皆様」

「ご無事でしたかロドリゲス大佐!」

 階級の差を忘れてつい素の反応が出てしまったが、本当に無事で良かった。

「皆様へのご報告が遅れて申し訳ありません。あの後、輸送機が対空攻撃を受けて不時着してしまったのです。友軍に回収されてからも付近の航空管制に努めており、先日やっと国連軍本隊と合流できたのです。まあ、こうして包囲されてしまったのですがね……ハハ……」

 力無く笑う様子からして、相当にしんどいスケジュールだったようだ。別れてから数週間も経っているが、あの空挺作戦エアボーンは俺もしんどかった。今もなお、しっかり記憶に焼き付いている。

「おう、ロドリゲス。コイツらが例のエリートチームか」

 大佐の後ろからこちらの様子を怪訝そうな目で見ているのは作業服姿の大柄の男性。まさにメカニックという出で立ちだが、やや粗暴な雰囲気だな。

「そうですよ。皆様、こちらはマイク・ボルジェン特佐です。主に特殊機械の調整を依頼しております」

「おう、俺がマイクだ。苗字はオリジナリティが無いから嫌いでね。名前で呼んで欲しい」

「アスク・シンドウ特佐だ。よろしく、マイク特佐」

 今更ではあるも海外式に名乗りながら、両者共に歩み寄って固い握手を交わす。手のゴツさも整備員特有のものだ。自衛校時代に居た武器科Ordnanceの面々と同じ感じだな。

 俺の手を握りしめ、じっと顔を見つめるマイク特佐。

「ほう、面構えは立派だな。産毛は剃ったと見える。おい、ロドリゲス。コイツもなのか?」

「違いますよ特佐。彼はフィーラのような能力を持っていません。私達と戦闘能力は変わらないです」

「じゃあ何が違うんだよ。プリンセス二人と一緒に行動するなんて自殺行為ハラキリと変わらないぜ」

 なかなか物を言う人だ。だがまあ、こういうタイプの軍人も一定数居る。それに、言動はともかく腕は確かなようだ。一瞬で俺が普通の兵士だと見抜いた。その疑問を一番に確かめようとしているのだ。

「ああ、もう。それ以上は特秘なので特佐相手でも言えないのですよ。ご容赦下さい」

「ふん、どうせアーノルド中将のお抱えってことだろ。まあいい。とりあえず作戦を説明するから三人ともこっちに来い」

 そう言い放つと、ドシドシと重たい足音でブルーシートの方に向かっていく特佐。

「彼はちょっと気難しい人でして……出向で国連軍に来ているのでまだ馴染んで居ないのです。皆様も仲良くしてやってください。一応、ああ見えて私の訓練校同期ですので」

 ロドリゲス大佐も同期のカバーをしてはいるが、それよりも驚きなのは大佐と同い年という事実だ。実年齢に反して老けまくってる。40代かと思ったぞ。

「なんか嫌味な方ですわね。わたくし苦手です」

「ちょっと怖いですね……悪い人ではなさそうですけど……」

 少女二人からのコメントはやや低評価だ。俺も似た教官をモロに思い出してやや気分が沈むが、同時に引き締まる思いも出てくる。ある意味で、俺に気合いを入れてくれたのだろうか。

 怒られる前にさっさと移動し、一同でシートに包まれた謎の物体の前に並ぶ。

「お前たちの作戦はこれに乗って南側を爆進、魔獣どもの陽動を行って北側で突破している国連軍のご支援を行う。以上」

「以上じゃないでしょう特佐。作戦内容は先程説明しましたよね? 特佐も前線に出るんですよ」

「しょうがねえだろロドリゲス、俺は作戦畑オペレーション出身じゃないんだから。南はコイツらに任せるとして、北の話は正直言ってよくわからん。こーんな狭い都市で車両群を移動できる訳ないだろう常識的に考えてよお」

 この発言は不味いと思ってリッタをチラと見るも、ギリギリで耐えているようだ。彼女のプライドはレナと同レベルでかなり高いと俺は見ている。レナは冷静さも入り混じる『静かな王』という感じだが、リッタは『我儘な御嬢様』の側面を持っていると思う。今のところは『マイク特佐はこんなこともわからないのですね、まあ大変』という気持ちと『わたくしの推しのジャンヌを侮辱なさりましたね!』の気持ちが均衡状態の様子だ。

 なんとか流れを変えるために俺も矢面に立たなくては。

 大佐がそれとなく示したマイク特佐の好きそうな話題に持っていくぞ。

「それでマイク特佐。コレは何ですかね。見たところ小型車両という感じですが」

「おう、まあまずは見て貰わなくちゃな」

 大きくシートをめくり上げて隠されたその姿を晒す。

 中身は巨大なバイク──いや、ただのバイクではない。随所に武装が取り付けられている。まるで世紀末の暴走族バイクの外見だ。カラーリングは真っ白だが、もし黒ならアメコミの蝙蝠男が乗るやつにも似ていただろう。

重武装二輪車アーマード・バイク。俺が乗りたかったぜ、畜生めfxxk

 名の通り、重厚な装甲に覆われた大型のバイクだ。日本を出た日に乗ったオートとは格が違う。

「武装の紹介だ。7.62mm重機関銃が前部に二挺。六連装マイクロミサイル発射機が二基でこれも前部に搭載。他に、加速用機能としてNOSニトロpocket-RATOミニロケットも搭載しているからな、直線なら時速600kmは出るぞ」

 バイクになぜそこまで機能を盛り込む必要があるのか疑問だが、もっと重大な弱点が対策されていないな。俺の知識と観察力を試しているのか?

「──武器は十分ですが、鈍重すぎて機動力に関しては問題あるのでは?」

 加速能力としての機動力はあるが、それだけではバイクという踏破力が高い能力を活かせない。特に、この機体は重すぎて乗っている俺の体重移動だけでは満足に動かせないはずだ。

 俺の見込みは正しいようで、マイク特佐はニヤッと笑う。

「良い指摘だが心配するな。ジャンプ機構とサブタイヤ、その他あらゆる補助運転機構によって最高速度を維持しつつの急ターンも可能だ。限定的な超信地旋回や障害物の飛び越えなども問題なくこなせるぞ」

「なるほど……ユニコーン並みの高性能機体という訳か……」

 搭載されている全ての機能が高性能ということで例の9時間飛行トラウマの記憶が蘇る。しかめっ面になりそうになる顔を、顎に手を当てて感心している風に誤魔化すしかない。

「おっと、その名前で思い出したがコイツの名前はペガサスだ。お前がスイスまで乗ってきたユニコーンと同じ企業が作ったバケモン車両だよ。まあ俺もその企業から来てるんだけどな。アスムリンって言うんだけど──」

「ストップ!! それはまだ彼には早い!!」

 今まで静かに聞いてきたロドリゲス大佐が大声を出して静止する。

 アスムリンと言えば、何回かニュースで聞いたレベルで記憶している。確か、前線に支給物資を届ける企業だったはずだが……。当時の認識はただの新しく出来た民間の兵站専門企業ロジスティクスだろうと思っていたが、今までの情報を整理すると抗魔金属の開発やユニコーンやペガサスなどの高性能機体の開発を行っているのか。

「早かったか? どうせ後で知らされる情報だろ」

「物事には手順というものがあるんですよ!! 新藤特佐も今のは聞かなかったことにして下さい! どうかお願いします!!」

 ほとんど土下座レベルに地に頭を下げる大佐の様相はさすがに異常だ。

 マイク特佐の言う通り、そこまでして隠すような情報でもあるまい。つまり、まだ何か俺の知らない線が隠されている。

「ロドリゲス様。もし、誰かに言ったら?」

 ここでまさかのリッタが笑顔で口を挟む。意外と、厄介事が好きなのか……。いや、これは後続の発言を期待してのものだ。さっきの怒り顔から一変、チェシャ猫が嗤うような不気味な微笑を見せている。

「機密情報の口外が発覚したら私とそこの馬鹿が首を切られます。ええ、それはもう物理的に」

「あら、怖い」

 リッタの予想通りだったのか、嬉しさの声音が混じる。不躾なマイク特佐が首を撥ねられる事態になるのが狙いなのか……!?

「マジかよ……No problem.いや大丈夫ですから。Don't worry.誰にも言いませんよ。……アリサは大丈夫だとして、リッタも頼むぞマジで」

 機密漏洩に対する処刑とリッタへの不信感。二重の意味で素が日本語で零れる。

「わたくしの信頼度が低いなら、確約いたしませんわ」

「すまん、聞いた俺が馬鹿だったな。リッタも口が堅いよな。俺は信じている」

「フフ、御冗談ですわ、ご安心くださいませ……♪」

 本気では無かったようだが、御嬢様の悪戯は厄介なものだと痛感する。リッタの扱いをもう少し丁重に上方修正する必要があるようだ。

 だが、今のマイク特佐の失言で重要なことを知れた。一兵士として今までずっと振り回されっぱなしだったが少しは事の真相を知りたかったからな。

 僅かながら感謝の念を送りつつ、視線で話を進めてくれと合図を送る。

 会った時と同じく怪訝そうにしながらも、マイク特佐は口を開く。

「あー茶番コメディは終わりか? じゃあ三人でペガサスに乗って出撃だ。シンドウ、これを着けろ今。それもアスムリン製だぞ」

 そう言って俺にヘルメットを投げてくる。これもまた真っ白で、アスムリンは白色が好きなようだ。戦場で目立つ最悪のセンスは如何にも新鋭の企業らしい。

 またサラッと企業名を言ってロドリゲス大佐が無言で憤慨する。もう彼の失態には諦めているようだ。まあ、今のはわざとらしいイントネーションだったが。

 装着するとその軽量さに驚く。今も着けているプレート類と同じだ。最初から内側のクッションも俺の頭蓋骨にフィットしているためまるで着けていない感覚に思える。

「装着しました。次は?」

「おう、今からそいつとペガサスのリンクを同期させるぞ。これでHMDみたいに情報が視界に表示される。網膜投影レティナプロジェクションってやつだ。……というか今更な質問だがお前、免許ライセンス持ってるのか?」

軍学校スクールで二輪車免許は取りましたよ」

「そうか、なら頑張れよ。ほら、同期終わったしさっさと行ってこい」

 ペガサスをポンと手で叩くと彼は腕時計を見ながら小走りで格納庫を出て行く。自分の仕事は終わったとばかりに休憩か、別の仕事に行くようだ。やけに最後の方で急いだが、時間配分を間違えたのか……?

 言動は軍人らしくないし、色々と抜けている所はあれど、腕の立つ技術屋としては申し分ない実力を見せつけられる。自分が扱ってきた企業製品とはいえ、明らかに特注品のモノ同士を一分も掛からずに接続するのは神業に等しい。

 彼も『特佐』という権限を与えられるに等しい姿を披露した。今度は俺の番だ。

 ロドリゲス大佐もようやくマイク特佐の暴走が終わったということで、説明を始める。

「えー、まず編成と役割についてですが、エルゼン特佐は、座席先頭に乗車してフォートレスによるバイクの護衛をお願いします。新藤特佐は、やや窮屈にはなりますが座席中央でエルゼン特佐を抱くようにしての運転をお願いします。ベルベイン特佐は座席後方に騎乗し、状況に応じて迎撃やペガサスから離れての機動戦を行ってください」

「了解した。アリサ、リッタとりあえず乗ってみるか」

「はい!」

「そうですわね」

 大佐に言われた通りにペガサスに乗り込む。アリサは俺に抱え込まれる感じになり、リッタは足置き場の関係上、自転車の立ち漕ぎダンシングのような姿勢となるがこれで良い。最初は大きすぎると感じた車体も三人乗りとなれば丁度のサイズ感だ。

「すでに、アーノルド中将から準備完了次第、作戦を開始せよとのご命令が出ております。皆様、よろしいでしょうか?」

 説明が終わってから間髪入れずの出撃要請か。

 臨時拠点に到着してからすぐに着替えて全装備状態で作戦会議に参加したので、俺は戦闘準備はできている。武器弾薬も問題ない。最後のピースとなったヘルメットも快調だ。まだペガサスを本起動スタートアップしていないので網膜投影はされていないが、これからだ。

 前に抱えるアリサが俺を見上げてきて、「大丈夫です」と報告してくる。

 後ろを振り返るとリッタも「いつでも行けますわよ」と座席に仁王立ちしながら言う。半立ちよりも立ち乗りの方が良いようだ。

 二人の様子を確認し、問題ないと判断。俺も一泊深呼吸して気合を入れる。

「全員、準備完了だ」

「では、作戦を開始いたします。皆様、ご武運を!」

 ギャラクシーから飛び立った時と同じく、眼前のシャッターが開いていく。

 ペガサスのエンジンを入れて、起動。

 その怪力からなる重厚な排気音はすこぶる快調のようだ。

 アクセルをフルスロットルにしてエンジンを鳴らす。ブレーキを解除したペガサスは、地上の重力から解き放たれたかのように勢い良く飛び出すのであった。

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