第10話 二人目の耐性者

 アスムリン研究所に着いてフィーラへの非人道的な扱いに対する啖呵を切った途端、俺は無骨な手錠によって拘束された。

 周りを取り囲むのは物々しい防護服を装備した研究員や、強化外骨格パワードスーツを装備した戦闘員である。

 後者からの半ば敵対的な視線は経験上慣れているので受け流すことは簡単だ。

 だが、前者からの……視線には流石に肝が冷える。まるで実験動物モルモットとして観察されているような感覚がするのだ。後ろに控える防護服を着ていない研究員達の中には好意的な感情を目に灯す人も居るが、それもそれで新種の生物を発見したかのような好奇の視線である。

「ジョン! これはどういうつもりかしら!?」

 完全包囲されている不利アウェーな状況に対しても一切怖じ気付かずに、怒りの視線を浴びせるレナ。

 これ以上アスクに何かすればただじゃ置かないわ、という強烈な覇気によって歴戦の研究員達を一歩下がらせる。

 しかし、その迫力にも動じることの無いホログラム映像上のジョン・ウォースパイト所長は淡々と言葉を述べる。

「落ち着いてくれフィーラ・レオ。事前の説明も無しに拘束して申し訳ないが、これは必要なことなんだよ」

「どう必要だって言うのよ、どう見ても不当な拘束でしょう! アスクはだわ。──私達フィーラのように扱わないで!」

「ただの人間? それは君の勝手な判断であって確定していない情報だろう? 彼が『人間模倣型魔獣フォルスヒューマン』でないかの調査をしなければならないんだ。今までなあなあgloss overにしていたことをここで確定させないと関係各所からの圧力が解消されないからね」

「だからってっ……! これはあんまりだわ!」

 ……レナからの配慮は有難いが……そうだったのか。結局、俺が──新藤亜須玖という人物がという疑いは解けていないのだ。

 所長の言う通り、確かに俺自身でも考えないようにしてきた面はある。

 魔獣の種類は大まかに分けて三つ。文字通りの怪物ないし怪獣としか形容出来ない異形形。地球上に生息する動物を身体形状そしてある程度の能力まで模倣した生物型。爆撃機や戦車といった人類の兵器類を模倣する兵器型。

 そして四つ目。これが現れれば人類社会の崩壊とも言われている『人間模倣型フォルスヒューマン』。

 ──この際だ。詳しく調査をやって貰った方が……良いだろう、な。

「レナ、ありがとう。だけど俺はアスムリンの調査を受け入れるよ。いい加減白黒ハッキリつけたいからな」

 それを聞いたレナは苦虫を噛み潰したような顔で、されど俺を心配する。

「アスク、あなたが思っているほどここは甘くは無いのよ。それこそたった一つの簡単な実験のためには費やして良いと判断するような場所なんだから、いつ解放されるのかもわからないわ。──もうずっと、ここで監禁されるなんてこともっ……!」

 アスムリンの人員とそのリーダーを前にしても、一切の遠慮が無い発言内容だ。その狂気をレナ自身が味わってきたからなのか、彼らへの配慮は一切無いのだろう。仮に僅かな配慮があったとしても、それを押して余りある危険性を俺に伝えたいのだ。

「わかってるさ……でも、俺自身解決したい問題だし、それに俺の研究結果が何らかの形で世界の役に立てば貢献出来てると思えるしな」

 先程の文句を言っていた姿勢とは打って変わっての塩らしい態度だが、これもまた俺の心の中の本音の一つである。

 本当に、俺は人間なのか。普通の人間ならば、何故レベル5魔力耐性なんてものがあるのか。

 レベル4までなら他にも居るという話はアーノルド中将から聞かされてはいる。

 なら俺は人間版のイレギュラーなのか? 魔力耐性以外にも、得体の知れない能力を持っているのだろうか。

 ──無知は罪だ、と俺は今までの人生でそう思っている。

 ただ漫然と、日常生活を過ごすのであれば無知は非難されるものではない。世の中には知らない方が良い情報だっていくらでも転がっている。時に、情報の方から悪意を持って接近してくることだってある。そういう時に本当に自分に必要なのかの取捨選択が大事なのは現代の情報社会を生きる上で重要だ。

 しかし、今の魔獣戦争──こと戦闘時における瞬間的な非常事態においては様々な要素から判断して行動する必要が出てくる。その時、判断材料はあればあるほど良い。時に不必要な情報がノイズとなることもあるだろうが、それがノイズなのかは他の要素から判断しなくてはならない。結果として、情報となる知識は必要となる。

 これらは極論で考えるとわかりやすくなる。

 仮に判断時間が無限だったとしても、材料が乏しければ答えとして提示出来る数は少なくなるだろう。

 逆に判断時間が一瞬でも、無限の材料を確保するまでの時間で様々な要素から考えて記憶野に取り込んでいるはずなので、事前に整然とした情報を持ってして判断が可能となる。

 だから俺はいろんな情報を持って場面に臨みたい。その時に、後悔しないように。

 俺は、己自身の事を何としてでも知る必要があるのだ。

 たとえ、悪魔にこの身を捧げたとしても──

 そういう俺の覚悟が伝わったのか、レナもこれ以上再考を求めるような発言はしてこない。代わりとして浮かび上がったその堪える表情は、俺にとっても耐え難いけどな……。

 ……ともかく、俺とアスムリンの意思は同じである。

 残る二人の少女達へ形式上の説得をするために、所長が話を再開する。

「フィーラ・レオ。それにフィーラ・アリエス。彼の身柄については諸々の確認が終わり次第、すぐにでもアメリカ軍に引き渡す予定だ。国連軍としての軍籍が今もなお有効だからね。彼がゾディアック・スコーピオン討伐に貢献したという『功績』が、彼自身を守っているベールのこちらも悪いようには取り扱えないから安心して欲しいよ」

 内心、笑ってしまうほどに信用ならない言葉だな。加えて、一切の抑揚の無い喋り方となるとこちらも無の感情を持って苦笑いしか出来ない。

 だがしかし、俺はそれを信じるしかない。それに、最初にアメリカに着いた時にアリエス討伐戦に参加するという目的で召集したとミラー少将が言ってくれたからな。今にして思えば、その『初手』がアメリカ軍にとっての最善手であったし、そういう言質や作戦計画もまた、俺を守ってくれているのだろう。

 俺が思っている以上に、軍隊からの信頼は厚いのかもしれないな……。

 ──そのような手助けがあることも知ったレナとアリサはどうするのか。

 やろうと思えば、戦闘行為だけでなくその言葉だけで世界を牛耳れるほどの特別な力を持つ──だけどもその情動はただの普通の女の子……。

 ──痛いほどの静寂が流れる。

 永遠にも感じられる一瞬が過ぎて、漸く言葉を発した。

「……わかったわ。ただし、私はここでお別れするわね? すぐにでもアメリカ軍とを取って戦いに行くわ。フィーラを遊ばせておくほど戦力に余裕は無いみたいだし。それで良いわね?」

 ……つまりは、もし俺の身柄を不当に拘束して研究を続けているとわかればそれを理由にアメリカ軍と一緒にここを襲撃して奪還するぞ、という脅しだ。

 この研究所がアメリカ軍の基地内にあるというのもそういうことだろう。

 基地内にあれば防衛力は確実に上がる分、いざという時のアメリカ軍からの介入もしやすくなる。ここに来た時はアスムリンからアメリカ軍への強い影響力によるものだと思っていたが、相互関係はそこまで非対等アンバランスという訳でも無いのかもしれない。

 レナからの反撃に対して、ウォースパイト所長は淡々と答える。

「うん、それで良いよ。本当は会わせたい人が居たしいくつかの実験予定もあったけど仕方ない。ああでも、フィーラ・アリエスはここに残って。理由はわかっているよね?」

 反撃は意外にも簡単に受け入れた。一方で、アリサはここに残れとの命令がされる。

 当然のことながら、アリサの精神面での不調は承知済みのようだな。

「……わかりました。ここに残ります」

 そしてアリサは素直に従った。その音声には辛さや諦念のようなものが含まれていたが……クソッ、俺も何とかしてやりたい。この研究所に心理カウンセラーのような専門家が居ることを祈るばかりだ……。

 アリサの小さい後ろ姿を見ながら、無能な己を呪う。

「じゃあ、そういうことで。またね」

 言うと同時にホログラムの映像がブツリと消える。呆気無い退場だったが、流石に忙しいのだろう。それか、さっさと俺の身柄を完全に拘束したいのか。

 所長が去ったのを確認した研究員達と兵士達は、それぞれの行動に移り始めた。奥の部屋に戻る者も居れば、俺に接近して連れて行こうとする者も居る。

 もうお別れか。最後に一言だけでもッ──

 既に肩を押されて強制的に歩き始めさせられている。

 何とか、顔だけ振り返って俺は言った。

「レナ。アリサ。……また会おうなアイルビーバック

 咄嗟だったのでマイクの真似パクリにはなってしまったが、何とかシリアスな場面を吹き飛ばすセリフを吐けた。

 両手が手錠に掛けられているので、例の機械人形みたいにサムズアップは出来ないのは中途半端だったが。

 それでも、最後に見れた彼女達の表情は、少しだけではあったものの、微笑んでいてくれたのであった。


 真っ白な壁に囲まれた廊下を歩く、怪しげな一団。中心に居る俺を囲むのは研究員や監視の兵士達だ。

 アルカトラズ島で護衛されていた時にも似ている状況だが、その時とは違う特異な雰囲気が俺のメンタルを少しずつ削っていく。

 こういう扱いを子供の頃にされていたら絶対耐えられなかっただろうな……それがレナやアリサに行われていたのだと思うと不愉快と共に怒りを込めながら一歩一歩リノリウムの床を歩いて行く。

 そして、数分ほど歩いたところで一つの部屋に案内されると俺一人だけ残されてあっという間に他の人達は居なくなってしまった。

 ドアも自動で閉まって戻ることも出来ない。仕方が無いので、部屋の様子を観察する。

 どうやらかなり縦にも横にも広い部屋──それも白い壁で構成された立方体形状キューブのようだ──だが、が何もない。実験装置の一つも無いとは、ここで何をするつもりなのか。

 まさかいきなりここで『孤独の耐久実験アローン・フォーエバー』でもするのかと身構えたその時、奥の壁と思っていた部分にスゥ―と切れ込みが入り、男性と女性が一人ずつ部屋に入って来る。

 男性の方はまさしく研究員という出で立ちで、眼鏡に白衣という統一された職業象徴的服装コスチュームだ。その表情は己を疑わない自信家で秀才感が溢れている。外見からして年齢は20代~30代だな。

 女性の方は白衣こそ着ているものの雰囲気としては一般人……それこそ、ここに見学しに来ましたという感じに近い。だが、何となく高貴な地位の人にも思える。

 ほとんど白に見えるような薄い長い金髪に、160cmぐらいの身長で可憐な人である。

 パッと思いついたのはどこぞのVIP──パトロン企業の御令嬢が見学しに来たのかなとも思う程、優雅な雰囲気を纏っている。まるで、白薔薇のドレスでも着飾っているかのようだ。

 ここで満を持して登場して来たということは、それなりの人達に違いない。

 ゆっくりと人間観察ウォッチングをする余裕があるほどの距離を歩いて来た二人は、俺から2m離れて止まった。

 ──そういえば、この二人は何かしらの防護服を付けていないな。

 俺に気遣っているのか、それともナニカに耐えられる理由があるのか……。

 疑問は尽きない。だが、もう考える場面では無いな。会話を始めよう。

 その気配を察したのか、男性が話し出す。

「ようこそアスムリンへ。私はトム・デューズ博士だ。に関する研究を行っている。こちらはマリー・テレサ女史だ」

 挨拶を促された女性がぺこりと頭を下げてから話し出す。

「ご紹介にあずかりました、マリーです。ご遠慮なくマリーと及び下さいね、新藤さん」

 何もわからない素人相手に話す億劫さや面倒さが抜けていない話し方をするデューズ博士。

 それと正反対に、穏やかだけれどチャーミングな要素のあるマリーさんの話し方。

 ある意味二人のセットで調和バランスが取れているのだろうが、マリーさんの方はかなり素性が気になる所だな。

 だが、まずはこちらも自己紹介をしよう。

「アスク・シンドウです。……よろしくお願いします。デューズ博士、マリーさん」

 名乗った後に、どうせ俺の素性は粗方割れているしなと頭によぎって言葉に詰まったのでとりあえずの答えで濁す形になったが、二人は気にしていない様子。

「ああ、よろしく。早速本題に入りたいのだが、その前に一つ君が知りたいことを言っておこう」

 片手を白衣のポケットに突っ込んだまま、もう片方の手でマリーさんに合図する。

 それを見たマリーさんは、おほん、と咳払いして──

「新藤さん。わたしはあなたと同じ、『耐性者レジスタンス』の一人です。対抗魔力レベルにして4.5です。数値自体は新藤さんに及びませんが、わたしもあの子たちの魔導級魔力に触れられることができるんですよ」

 と、驚愕の内容を言った。これには驚きを隠せないな。

「……つまり、4.5ということですか」

「その通りです♪」

 にっこりと微笑むマリーさん。まるで慈愛の女神のような表情だ。

「マリー女史、その説明では不十分だ。フィーラへの接触はと言っただろう」

「あら、そうでしたっけ」

「まったく、全てを把握しろとは言わないがそれぐらいは理解してくれないと困るよ」

 はぁ、と溜息をつくデューズ博士。だがすぐに切り替える。

「……という訳で、マリー女史も我々アスムリンの研究に協力して貰っている。今回、君と引き合わせたのはこのような『先輩モデルケース』が居るということを君に理解して欲しかったからだ」

「という感じなのですけど、いかがですか新藤さん」

 なるほどな。本当は魔力耐性者となった経緯であったり、発覚した状況だったりを知りたくてオウム返しパロッティングのような質問をしたのだが、それは上手く二人の会話で受け流されてしまった。この二人相手──いや、一人ずつ相手の会話だとしてもあまり俺に発言の主導権は回ってこないのかもしれない。相性というよりは、二人とも大人で俺が若造という理由が大きいだろう。であれば、素直に引き下がって『いかがですか?』の感想を言うしかないな。

「──正直に言って、驚きです。レベル4までの魔力耐性者しか居ないと聞かされていたものなので」

「うふふ、そうですよね。時系列を追えばわたしは新藤さんよりも後で発覚したので、『二人目の耐性者』になるんでしたよねデューズさん?」

「デューズ博士と呼んでくれと何度も言っているだろうマリー女史。……認識はそれで合っている。君の年齢は彼と同じ19歳、そして13歳7か月の時にアスムリンが君を発見した経歴になっている。一方で、彼は12歳頃に『無限の彗星インフィニットメテオ』の破片が撒き散らしたレベル5魔力汚染の環境下でも生き延びたのだから、現時点では彼が『一人目ファースト』なので合っている」

「ちょっとぉ! 女性の年齢を他人様に教えるなんて酷いですよデューズさん~!」

「何が酷いのか根拠から説明したまえ」

「そういう配慮が足りないんです~!!」

 研究員らしい長文早口語りラピッドロング──そして俺の経歴は全てお見通しというアピール──をしたデューズ博士。

 そして、緩やかに怒ってはいるものの本気で腹を立てているという訳では無い感じのマリーさん。

 デューズ博士との関係性はある意味で良好……? とも思ったが、単に誰にでもこういう姿勢で話しているタイプのような気もする。

 俺も二人の流れに乗るよう努力の一歩を踏み出さなくては。

も歳も同じなんて、凄い偶然ですね」

「ほんとにそうですよね! ちなみにわたしの方が誕生日一日だけ早いのでお姉さんです!」

「おっと、俺もかなり早い方だと思っていましたが負けてしまったようですね」

 ははは、と軽い談笑で雑談を終わらせる雰囲気を出していきながらデューズ博士の方を見る。

「──それで、俺が魔獣かどうか調べる方法は何ですか?」

 こちとら覚悟は決まってるんだ、早くやることやってくれよと喰い掛かる。

 『フィーラ担当』という博士に対する攻撃的な姿勢を直接押し出す訳では無い。

 だが、そろそろ沸々と怒りが再燃してきた所だ。マリーさんがある意味で防護壁になっていたのだが、ここらでジャブを撃たせて貰おう。

 そう意気込んだ詰め方だったのだが、しかし博士は拍子抜けする言葉を返してきた。

「いや、そんなことは最早どうでもいい。今それを証明したところで、これから行う実験でそれが覆されるからな」

 覆される……だって?

 ──俺が証明が覆されるってことは、俺がってことになるじゃないか。

 流石に最高峰の研究機関。言ってる内容が意味わからないものだ……。

 困惑を隠せない俺の表情から察したのか、マリーさんが補足する。

「実験をしても、それが魔獣として証明されるってことじゃないんですよ、新藤さん」

「だったら、何者として証明されるんですか」

「それは、からのお楽しみです♪」

 ……ヤバいな、これは今まで会った人の中で一番油断ならない人かもしれない。同い年タメとはいえ、これは気を引き締めなくては。

 と、俺がマリーさんにだけ注意をしているのを機に喰わないように──彼女のほんわかな空気感に呑まれるなよ、と言いたげな感じでデューズ博士が急かす。

「……そういうことだ。早く証明したいなら早く実験室に行くぞ」

 そう言うと俺達二人を残して、やって来た奥の扉の方へせかせかと歩いて行く。

 その様子を見たマリーさんは微笑みながら、俺の方に手を伸ばしてきた。

「では、わたしたちも行きましょうか」

 これは──お誘いなのか。それとも融和の象徴としてのハンド・イン・ハンドで共に歩くことを求めてきているのか。

 ずっと訓練に明け暮れていた俺にとっては、恥ずかしながら異性とのこれは初めてのやつだ。

 ……いや、レナやアリサとは戦闘時の飛行する時に何度か手を繋いだことはある。だが、こういう普通の場面では記憶に無い。

 配慮というか、好意は素直に嬉しい。

 しかし……流石に会って数分の女性と軽々しく手を繋ぐのは非常識だろう。いくら相手が心を許していたとしても、だ。

 であれば、無視して進むのが正解かと言われるとそれはもっと無礼なのはわかっている。

 この場面での最適解は何か──戦闘中と同等レベルに頭を回して答えを探る。

 本当に、我ながら笑ってしまう頭の使い方だが、古今東西こういうコミュニケーションの悩みを人類は続けて来たのだから俺にもその順番が回って来たというだけの話だ。

 ──そして、何とか思いついた策とも呼べないそれを実行する。

「ええ、行きましょうか」

 言いながら彼女の手を掴んでふわりと上に持ち上げて──ご親切にどうも、お気持ちだけ受け取りましたよ、という意思を込めてから、ゆっくりと手を離して、それでも共に歩きましょうかと歩行のリズムを取る。

 ……ああ、畜生、難しいな本当に。

 正解のわからない──正解など無いのかもしれない──状況というのはどうしようもない。それこそ、判断材料となる『異性との交流経験』が乏しいのだから仕方ないんだと言い訳しながら、チラリとマリーさんの様子を伺う。

 俺の拙い、『配慮の拒否No Thank You』を見たマリーさんは……最初に会った時のような穏やかな微笑みを見せながら俺と一緒に歩き出してくれたのだった。

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