第20話 汝、名誉を捨てる勿れ
クリムゾンを斬り捨てながら後方まで駆け抜けたと同時に、片膝をつく。
「ハァッ、ハァッ……」
まさしく肩で息をするという状態だ。緊張感が解けて、一気に疲労が押し寄せてくる。
恐らく、魔力身体強化の代償。体内の保有魔力が枯渇しかけているのだ。
脳内のアドレナリンも同時に切れたのか、極度の痛みも襲って来る。左肩の負傷だけでなく、今の大技による攻撃が想定以上に全身の筋肉を痛めたようであらゆる場所が千切れたかのように痛い。この辺はまだジークフリートの筋力強化に身体が慣れてないからだろう。
だが、まだ油断できない。たったの一撃で身体は限界に近いが、苦痛を堪えて後ろを振り返る。
物言わぬクリムゾンの遺骸が、無惨な姿で地に横たわる。
上手く心臓部まで斬り裂けて一刀両断にしたことで、一撃で絶命させることに成功したようだ。これで俺がレベル4並みの強さを持っているかと言われるとそうでもないだろう。明らかにクリムゾンは戦闘経験が足りなかった。最初の奇襲もアリサへの攻撃という一手だけに集中して俺の妨害を考慮していなかった。
最後の俺との攻防も、俺からの目眩ましの一手を予想していなかったかモロに喰らってしまったので、倒されてしまった。どちらも、戦闘状態では勝敗を分ける重要な判断力からの行動である。
俺は多少なりとも死地を潜ってきただけあってか特殊な一手を打てるようにもなったが、クリムゾンはそういう機会に恵まれずに、ずっと地下で生活していたのだろう。
単純に、巡り合わせが無かっただけ。俺の強さもほとんどジークフリート頼りなので、自慢も出来ない。
だがその結果は、生と死があるだけだ──。
俺は生き残った。今は、それだけ噛み締めておけば良い……。
クリムゾンの完全な死亡確認を目視検分で終えてから、ゆっくりと立ち上がって投げ捨てた拳銃を拾ってからアリサに向かう。
──まだ説得の途中だったからな。だが、言葉では無く、その行動で十分示せただろう。
レナからの受け売りの言葉にはなるが、今まで最前線の死地で戦ってきた者にとってはどんなに繕った言葉よりも、鮮明で鮮烈に伝えるものであるのだから。
俺は、アリサに死んで欲しくない。しかし、彼女自身の持つ能力によって、苦痛である戦いを強いられてしまう。
今の俺にそれを変える力は無い。アスムリンに来たときにも言った話だ。
だが、日本を発って数ヶ月。漸く、と言って良いのかこれもまた運命なのだろうか、俺自身も能力を扱えるようになってしまった。
その質や習熟度は遠く
アリサに伝えたかったことの全て。自分の身を挺して、一緒に戦うから──生きていてくれよ、と。
と、心の中で思いながらクリムゾンと戦い、その凶牙から守り抜いたは良いがどこまで伝わっているのか……。
視線に想いを込めて、じっと見つめる。
「アリサ……実は俺も、さっき研究所を脱走してきたばかりでな……」
「……そうなんですか……?」
アスクさんみたいな方が……という意外な反応を見せてくる。そうさ、俺は割と問題児達に絡まれてきたから連帯責任でやらかす──いや、それに巻き込まれるタイプなんだよ実は。
まあ、自分一人での
「そうなんだよ。
「……そうです、ね」
互いに苦笑を見せる。
アリサの……自ら望んだ失踪には触れないでおこう。
これで話はなあなあになりそうだが、その方が良い気がする。何でもかんでも明確にして、綺麗さっぱり解決なんてことはなかなか難しいものだ。
トラウマだって、それによる
アリサが……笑っていてくれるのなら。
それで、ひとまずは、良い。
「──じゃあ、行こうか。とりあえず、ここからは脱出しよう」
「はい……! ……ありがとうございます、アスクさん」
「ああ。俺も助けられた。ヘルメット投げてくれてありがとう。……何となくだが、『パンの救世主』を思い出したよ」
「何ですかそれっ教えてください……!」
「よしわかった。日本で有名な児童向け作品だけどな……」
アメリカでの日々で歩み寄れなかった分を埋める様に、互いに交流を深めようと話を始める二人であった。
──三日間の放浪生活でアリサが見つけた表層側に続く出口に向かいながら歩いて行く。
しかし、事はそう順調には終わらないようだった。
「アスクさん……何か変ですね……」
「ああ……揺れている、のか?」
すぐさまジークフリートの解析を始める。本体の
思考放棄をしないよう俺も同時進行で考えるが、機械は圧倒的に早い。ものの数秒で結論を出してくる。
曰く、
「ッッ! 大変だ、地下が崩れ出したらしい!」
「っ! 急ぎましょう!! こっちです!!」
周辺警戒と体力の温存で緩めていたスピードを一気に上げる。アリサも俺との合流を果たし、精神的にも回復してきたことで魔力も一部復活している様だ。病は気からとは言うが、それでも三日三晩の飲まず食わずでここまで元気なのはフィーラの力と言えるだろう。今更ながらアリサの救出任務ならば医療セットか食料や水も持ってくるべきだったなと考えが浅かったことを反省する。
対して俺も万全とは言い難い。先の限界駆動によって各部のモーターも反応が悪くなりつつある。搭載されているシステム自体も俺が周辺警戒モードや情報解析に酷使しているせいでパンク気味だ。スマホの使いすぎにも似ている状態である。いつシステムエラーで落ちてもおかしくは無い。人類の英知であるデジタル機器も諸刃の剣だ。
それでも、レーダー解析で結果を出してくるのは有難い。だが、その内容は最悪だ。
崩壊は加速度的に増しているらしい。この地下迷宮を構築する支柱の数本がいつの間にか壊されている……と提示してきたが信じがたいな。
今この瞬間に構造負荷に耐え切れなくなって壊れたのは不自然だ。かといって、俺とクリムゾンとの戦闘で壊れたと言えるほど派手な戦闘はしていない。
誰かが──他の魔獣が支柱を壊したのか?
ここを破壊するだけで崩壊の連鎖が始まるウィークポイントを予め作っていたのかもしれない。それを、今壊したのだろうか。
だがそれは
不気味なのは、何故か時間の猶予があるということ。連鎖的にと言っても、まだ始まったばかりだ。ここまでの地下迷宮を作り上げた設計担当の魔獣が、最後の最後で発動するこの仕掛けを不出来なまま作り上げるのはイマイチ筋が通らない。
俺が過大評価しすぎなのかもしれないが、やるなら一気に終わらせるだろう。これでは俺達が脱出する希望は残るぞ──
とここまで思い至って理解する。
そうなんだ、これは心中では無い。罠であることは間違いないが、それはあくまで侵攻してきた人間達を閉じ込めるためのもの。魔獣軍は地上に脱出して逆侵攻を行うための仕掛けなのだ。そもそもが地下侵攻を考えて作られたものだとすると、人類に察知された時の対応策があるのが自然である。
ならば、とさらに思考を進めて問いかける。
「アリサ。クリムゾンは、例の牢屋に居た魔獣らしいんだ」
「……なるほど」
「であれば、この地下迷宮を作った魔獣達も生き残りなんじゃないか?」
「そうですね、その可能性は高いと思います」
よし、ここまでは同じ考えらしい。ここからが俺の突拍子も無い妄想だが現状を切り崩す光になるかもしれないと語る。
「アリサに会うまでに、この地下迷宮に少し既視感があったんだ。結局確証は掴めなかったんだが、一つだけ思いついたことはあるんだ……」
走りながらの会話なので息を整えつつ、これ以上時間も無いのですぐさま結論を言う。
「ここの構造は──昔の研究所を模しているんじゃないか? 魔獣達は、昔居た研究所を再現しようとしている……その理由はわからないけどな」
俺の仮説を実証するために、ジークフリートの演算機能のほとんどを使って、地下に入る前にデューズ博士が送って来た旧研究所のデータを今までマッピングした地下迷宮のデータと照らし合わせて表示するよう指示する。流石に難易度が高いようでジークフリートを持ってしても時間がかかるようだが仕方ない。
「──理由は……わかるかもしれません……」
昔の話だけあってかあまり声のテンションが良くないが、それでも聞いてみる。
「それは……?」
「……昔と同じ環境を作り出して、彼らなりに探ろうとしているのかもしれません……何故、自分達は理不尽な目にあっていたのかって……」
アリサの分析はかなり感情的なものだ。魔獣がそこまで思い詰めるような考え方をするのだろうか……いや、当事者にしかわからないものはある。それに、研究されていたとなると普通の魔獣とは違う改造だってされているかもしれない。
……そうか、改造されているのであれば能力も相応に強化されているだろう。アスムリンが地下空間の建設能力を付与していても……不思議ではない、か。
だからこそ、最初から旧実験場跡地に地下空間が建設されていることも把握していた可能性もある。
……と、考えを巡らせている間にマッピング照合が完了したようで視界に重ねて表示される。
自分の予想ながら、かなりの精度で合致していることに驚く。いや、これは魔獣の記憶力も凄まじいものがある。これは確かにクリムゾンと同様に改造されているのが濃厚か。
ともかく良いデータだ。これがあれば迷いなく進める。
「やっぱりここは旧実験場の再現をしていたらしい。今は……B14区画の辺りのようだが、覚えているか?」
「──はい、大丈夫です。何となくですけれど、今頭の中で重ねました。昔と変わらないのであれば、このまま出口に相当する場所まで行けます!」
「流石だなアリサ。ならこのまま行こう!」
そのまま二人で揃って走って行く。俺はジークフリートからの指示を伝え、アリサはそれを受けて適宜ルートを調整する。4歳の頃の記憶なんてよく覚えているものだと本当に感心する。
アリサと合流したのが一番深い場所だったのでそこから上がるにはかなりの距離を進む必要がある。層と層を繋ぐ縦穴がそれぞれ端と端にしかないので、右往左往の繰り返しだからだ。建物ならばエレベーターか階段が正反対の場所に一個ずつあるという最悪な構造。恐らく防犯上の設計だとは思うが、何もそこまで再現しなくても良いけどな。
本来ならばマジで二次遭難する可能性も高かったが、ここは奇跡的に助かっただろう。
だが最後に不安な要素は残る。そして裏打ちするかのように現れてしまった。
「止まって下さい!」
突然アリサが叫ぶ。半分予期していたのもあって俺もすぐに足を止める。
「──魔獣か?」
「はいっ!」
ジークフリートの機能をマッピングに割いていたためこちらのレーダーには反応しなかったか。だがアリサの戦い慣れて来た嗅覚がそれをカバーする。
地下は一本道だ。崩壊もかなり進んでおり、既に俺達が戦った地下最深部は埋もれていると報告が出ている。あと一層で地上に出れる所までは来ているが、やはり最後の最後で待ち構えていたか。
数はそう多くはないだろう。多ければもっと中層で攻めてきているし、そもそも脱出路も限られているから待ち伏せも容易である。
最初の予想通り、本隊は既にどこかに移動していて今ここに居るのは残りだけ。しかも、『魔獣を喰らう魔獣』なんて化け物が居るのだから余計にその数は減らされているはず。アリサが三日間生き残った……魔獣に襲われなかったのもクリムゾンが魔獣を極限まで減らしていたか、或いはクリムゾンとアリサ両方にビビッて出られなかったのだろう。
──問題はここからだ。親玉のクリムゾンを倒しているとはいえ、二人とも消耗しているとなるとレベル1が相手でも油断大敵である。
アリサの魔力量としてはレベル2で何とか戦えるという所だろうか。俺も同様に、残り稼働時間が不安である。
「何体居るかわかるか?」
「そうですね……多分、数体です。レベルも低いかと」
「──だったらこのまま突破しよう。俺が
「了解です」
応答を聞いてから俺も特殊拳銃を右手に持って確認する。残弾は8発しかない。低レベル魔獣なら命中さえすれば数体居ても屠れるだろうが、それで撃ち止めとなってしまう。残るはバルムンクと腕にあるマイクロミサイルだけだが、どちらも遠距離攻撃は出来ないので難しい兵装だ。マイクロミサイル自体は爆発の威力は高いが貫通力に乏しいので魔術防壁を展開出来なくなった魔獣への止め用といった所である。射程もあるにはあるが、初速が遅い分避けられやすいし弾数も限られているので使用する場面を見極める必要がある。
──ジークフリートでの戦い方にもだいぶ慣れて来たので漸くわかって来た所だ。
特殊拳銃で魔術防壁を破壊しつつ、バルムンクによる近接戦闘か、マイクロミサイルによる中距離からの止め。これが基本のパターンだろう。
これから戦う魔獣達にも実践してやるぞと意気込んで駆け出す。
「行くぞッ」
「はい!」
待ち伏せに対して、逆奇襲をかけるために一気に走り出す。
距離を詰めた辺りで、ちょうど曲がり角の所から土を踏む気配──
先手を打つために左手を真っ直ぐ伸ばしてマイクロミサイルを二発発射。崩壊中の小さい洞窟で爆発物は使いたくないが、すぐに駆け抜けるし出口もあと少しなのでギリギリ大丈夫だろう。
ミサイルはそれぞれに針路を取って進む。一発目は上手く角を曲がってその先に着弾。二発目は角手前に着弾して土煙を上げる。
遠くで魔獣の悲鳴が聞こえる。即死には出来なかったようだが、これで相手の攻めを潰せたはずだ。
アリサが限定的な範囲ではあるもののフォートレスを展開しながら前を走る。万が一、さっきの悲鳴がブラフで本当は待ち構えていたとしてもこれで防げる。
俺も後ろから拳銃で援護射撃の構えだ。バルムンクはアリサが近くに居るのもあって同士討ちの危険性から鞘に納めたままである。大型刀剣なのでこういう場面では使いづらいが、すぐにでも抜刀できるようにモーションアシストのプログラムを待機はさせているので用意は問題ない。
そのまま莫大の緊張感を伴って角を曲がるも、思った以上に一発目のミサイルがクリーンヒットしていたようで、四体居た魔獣全てが地に転がって悶えている。二発目の着弾地点も良かったのか、前にも後ろにも避けきれずに爆風を喰らってしまったらしい。魔術防壁も張らずに攻撃に専念していたと見える。
止めを刺すために特殊拳銃を撃つ選択肢もあったが、残弾も少ないのでそのまま走り抜けることにする。それに、見た限りレベル1~2の小型魔獣だし例え噛みつかれようと致命傷にはならない。昔の俺とは違い、ウルフに噛まれて致命傷という心配が無いのがパワードスーツの利点だ。それに、今出来るかはわからないが俺も奇跡のフォートレスを使えるかもしれないので生身の頃との防御力とは雲泥の差だな。
昔とは違う──装備のおかげとはいえ確かに強くなっていることを実感しつつ、曲がり角の奥の坂を走り抜けて──
「光だ!」
やっと、久しぶりに本物の光が見えたことに叫ぶ。
俺が入った出口は垂直だったが、ここからは斜めのスロープのように狭いながらも緩やかに出口があるらしい。昔の研究所なら資材搬入用、魔獣達の設計意図は大部隊侵攻用だな。
そして──何とか最後の出口まで全力で駆け抜けて脱出する。
眼に差し込む光がとても眩しい。だが、ジークフリートの減衰機能は完全に抑えないで敢えてそれを感じる。肉眼でも慣れておかないと不利だからな。
横を見るとアリサはかなり光に堪えているようで、蹲りつつある。無理も無いだろう。だが、もうこれで大丈夫だ。
後ろを振り返ると、もう曲がり角の辺りは崩壊に巻き込まれて埋まりつつある。あの魔獣達も生き埋めか。
入口付近は多少頑丈に作られているしそもそも自然の岩盤が支えているような構造なのでここまでは崩れそうにも無い。
ジークフリートがアスムリンからの電波をキャッチしたのか現在位置情報が提示されるも、俺が最初に入った所からだいぶ距離があるようでかなり地形も違う場所である。巨大なクレーターも、すぐには見つけられない距離だ。
地下研究所に戻る気は無いとはいえ、であればどこに向かうか。二人とも疲労が蓄積している。アリサに至っては、最悪今からでも体調急変してもおかしくはない。可能な限り早く医療を受けさせなくては如何にフィーラといえども死んでしまう。
「アリサ、歩けるか」
「……はい……大丈夫ですっ」
と彼女は懸命に言うも無理そうだ。このままここに待機してアスムリンの救援を待つか……だがそれでは逆戻りだ、アリサが考えて何とかしようとしたこの流れの意味が無くなってしまう……とにかく、もっと安全な場所に移動しなくては。
撃たずに済んだ特殊拳銃を右腰のホルスターに納めて、両手でアリサを抱える。少女といえど、お姫様抱っこはジークフリート無しにはキツかっただろう。
アリサの顔色は悪く、俺の行動にも拒否してこない。不味いな、地上に出たのもあってか急速に酷くなっているぞ。
クソッ、ジークフリートに現状の解決を求めるも答えは地下研究所に戻るの一択だ。生みの親に頼るプログラムでもあるのか、それとも客観的に考えてももうそれしか選択肢が無いのか……俺もそれしか望みが無いのはわかっているが……。
こんな砂漠地帯に居た所で
それでも、と抱えて歩き出した瞬間──ジークフリートが警報を鳴らす。
「クソッ!」
レーダーに反応があった方角を見ると、いつの間に現れたのか小型魔獣が何体も出てくる。
何故だ、砂地に潜っていた──? いや、そこまで身を隠せるほどでもない……。
と、考えて思い至る。そうか、俺達と同じようにコイツラも地下迷宮から脱出してきたんだ。
少しタイミングがずれたとはいえ、近くに出口がまだあったのだ。それも、小型一体ずつが漸く行き来可能な程の大きさのやつが。
──完全に包囲されている状況を見て、唇を噛む。
虫の息とはいえ、抱えているアリサに警戒しているのかすぐには襲ってこないが、それでもじりじりとと包囲網を狭めつつ、常に移動しながらこちらを伺って来る。
ある意味俺が後生大事に抱えていることで、盾のような扱いをしてしまっているのだが、武装を取り出そうとして地面に降ろせばその瞬間を狙って来るだろう。
であればアリサ自ら飛び出して戦闘になるかと言われると、もうそんな体力は無いのでそうはならない。──という状況が不可解なのですぐには攻めてこないという訳か。
だがすぐにでも戦えないことはバレてしまう。膠着状態は最大でも数十秒程度だ。
だが、解決策が……ここで終わりなのかよッ……
──瞬間、猛烈な土煙が辺りを襲う。
「──ッッ!!」
反射的に身を屈めてアリサに覆いかぶさる。縦のラインで土煙が浴びせられて巻き込まれた魔獣が木端微塵になる。銃撃──いや、砲撃? 何にしても今この瞬間だけは俺達に当たらないことを祈り続ける。
突然の攻撃に驚いた魔獣が包囲網を解いて散開する。
俺も顔を上げて何事かと辺りを見渡すと同時に響いたのは強烈なジェットエンジン音と、砲撃の音。
まさかと思って空を見ると、そこには銀色に輝く翼があった。
特徴的なフォルムからすぐにわかるが、あれは
新たな脅威が現れたことで、魔獣達も対空攻撃態勢に切り替わる。小型魔獣なので低レベルの魔術砲撃しか撃ち上げられないだろうが、それでも牽制にはなる。魔術砲撃に向かないが近接戦闘に優れている残りの魔獣は俺達への攻撃を再度実行するつもりだ。
この攻撃でアリサがなおも俺の傍から自立して行動しなかったので戦闘不能状態と判断したのだろう。そしてそれは正解だ。
なおも絶体絶命の状況が続くも──いとも簡単にそれは解消された。
空から降り注ぐ、サイケデリックに輝く光線が、魔獣達の頭を貫いた。
そして舞い降りる、金髪の少女。
「──遅かった、なんて言わないでよね?」
「言うわけないさ。……助かったよ、ありがとう」
そして、レナの魔力の反応を感じ取ったのか腕に抱えながら地面に降ろしていたアリサが少し起き上がる。
「……レナさん……ごめんなさい……」
「アリサ。あなたも無事……とは言い難いようだけど、ともかく生きていて良かったわ」
会話をしながらも、レナはすぐさまアルテルフの光線やシェルタンによる自動迎撃で周囲の魔獣を倒していく。
会えてなかったのは一カ月強だったが、もう半年前かのようでその言動と、そして圧倒的な強さが懐かしく感じる。
ここぞというタイミングでいつも俺を、俺達を救ってくれるレナは、本当に頼もしい味方だと切に思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます