第4話 十二宮の怪物
地球に落着した彗星群から未知の生命体が出現したとの情報は世界中に知れ渡ることになった。
緊急で開かれた国連の会議にて、未知の生命体に関する情報が以下のようにまとめられた。
『各地に落着した彗星から出現したと思わしき未知の生命体について、個体差が認められるものの、全ての個体が人類に対して攻撃的であり、交渉の余地は無いものとされる。そのため、当生命体を人類に対する敵対生物と決定し、今後これを『魔獣』と呼称する。』
『魔獣が使用する戦闘手段について、主な攻撃手段は未知の粒子を圧縮して撃ち出す『砲撃』である。また、主な防御手段は未知の粒子を壁状に展開して身を護る『防壁』である。魔獣は未知の粒子を使用すると思われるが今後これを『魔力』と呼称し、同様に二つの戦闘手段を『魔力砲撃』『魔力防壁』として呼称する。』
彗星落着の混乱も収まらない中、各地の落着地点から出現した魔獣と戦うのは悪夢と言えた。
さらに、国連の会議で諸々が決定された数日後、人類にとって最悪な情報が判明する。
魔力は人類にとって猛毒となりえることが判明したのだ。
すぐさま対策会議が開かれ、この数日間での魔獣との戦闘で集まった情報が分析され、以下のようにまとめられた。
『魔獣は個体差と体格差の二つの点で様々なタイプが確認されている。個体差に関しては各魔獣によって特徴があるものの、概ねの戦闘行動には差がないため特筆しない。一方、体格差に関しては重要である。基本的に大型であればあるほど魔力の毒性も強くなり、より戦闘力も高くなる。魔力の毒性を段階的な指標にするため、従来より使用されていた『急性毒性』の指標を参考にしつつ、人類が使用する武器兵器で殲滅できるかを基準として以下のように整理し、これを魔獣が持つ人類への脅威度、延いては戦闘力の指標とする。』
レベル1 拳銃弾で殲滅可能。魔力毒性:軽症
レベル2 ライフル弾や手榴弾で殲滅可能。魔力毒性:重症
レベル3 戦車や戦闘機などで殲滅可能。魔力毒性:酷い重症か死亡
レベル4 対艦ミサイルなどの命中複数で殲滅可能。魔力毒性:死亡
指標を決めたところで、魔力に対する治療方法は不明なままだった。そのため、人類は対魔獣戦闘の戦術を考案せざるを得なかった。
各国にある軍隊の参謀たちが考えた多くの案が実戦で試されることになった。逆効果であり部隊が全滅した時もあれば、効果的ではあったがそれ以上の魔獣軍の大軍勢によって磨り潰される時もあった。
これらの被害により、何千人もの犠牲が発生するも一定の効果を出せる戦術案の構築に成功する。
魔力の毒性によって生身で戦えないのであれば、何かの『壁』で距離をとるしかない。
分厚い装甲を持つ戦車や装甲車はもとよりNBC防護能力を持っていたため、主戦力となった。
遠く離れた地点から砲撃ができる榴弾砲は空間的に距離を取れるため、集中運用された。
大空からミサイルや爆弾で攻撃できる戦闘機は上空数千m単位での空間的装甲を持っていると見なせるため、火消し部隊として重宝された。
これらの兵器類を集中運用する
人類は少しずつ前線を押し上げていき、やがて彗星落着地点である魔獣軍の本拠地にまで到達する。
勝利の希望が見えたのは、彗星落着より三ヶ月も経ってからだった。
アメリカ東海岸沖からおよそ1400km──「Point One」とされるバミューダ諸島近海にある彗星落着地点にアメリカ海軍が集結していた。
魔獣軍の集結基地と化したバミューダ諸島を攻略するためである。
100隻を超える駆逐艦と20隻の巡洋艦。艦隊の主戦力として5隻の航空母艦で編成された陣容は、当時地球上に展開されていた戦力の中で最高クラスの代物だった。
最強の戦闘部隊から繰り出される最後の総攻撃が行われようとしたその時、巨大な魔獣が出現する。
他の魔獣とは一線を画す巨大な姿。
青白い肌を持つ人型の超大型魔獣とも呼ぶべき威容。
未知の魔力によるものか、物理法則を無視して海面に二足で立っている。
悪魔のような貌から放たれた猛烈な咆哮によって海面が大きく揺れる。
バミューダ諸島攻略作戦に参加していたすべての海軍兵士は恐怖した。
そして、たった一体の魔獣へ半狂乱になった海軍の総攻撃が行われる。
100機以上での戦闘機の航空爆撃や、200発以上にも及ぶ
次第に艦隊との距離が近づいていき、止む無く艦砲射撃での砲撃や対潜魚雷での雷撃に切り替えるも、やはり無傷。
ありとあらゆる火力が撃ち込まれるも、その魔獣は侵攻を止めることはない。
一切の攻撃を意に介さずに海岸へと向かってくる超大型魔獣。
淡々と、人類の希望を打ち砕いたソレはただ真っすぐにアメリカへと近づいていく。
通常戦力での解決手段を見出せなかったホワイトハウスは、
核攻撃を決断したのであった。
太平洋戦争以降、86年間行われていなかった敵性勢力に対する核攻撃が今、行われる。
W87核弾頭を搭載した
着弾までの三十分間、アメリカ合衆国で暮らすすべての人が祈り、願った。
主よ、どうかあの怪物を殺してくれと。
そして、広島に投下された
一切合切を吹き飛ばす衝撃波が近隣に展開していたアメリカ海軍の艦艇を揺るがす。
再度、艦隊の攻撃が行われたことにより、形成されたキノコ雲が晴れて核攻撃の結果が明らかになる。
怪物の影がカメラに捉えられる。
炎に包まれながらもその巨躯は、一歩、足を踏み出した。
人類が開発した禁断の叡智の炎は、ただ一つも傷をつけることはできなかったのだ。
巨大な津波の如く、魔獣軍を引き連れて侵攻して来る超大型魔獣。
最後の海上防衛ラインが突破された時、東海岸に住むすべてのアメリカ人は一斉に避難を開始した。
その中には、ホワイトハウスに居た人々も含まれる。
軍の指揮系統は完全に崩壊し、すべての秩序が失われた。
アメリカ合衆国という超大国が、世界の覇権国家という立場から降りる瞬間であった。
悪い知らせは立て続けに発生する。
すべての彗星落着地点より、超大型魔獣が出現したとの報告が入ったのだ。
国連はこの超大型魔獣を『
ゾディアックは他の魔獣とは一線を画す強さと能力を持っていることから、レベル5という指標を新たに設定する。さらに、魔力の毒性もレベル4を遥かに超えることから魔力の運用が通常とは違うと推測されたため、通常魔獣が扱う魔力運用を『魔術』、ゾディアックが扱う魔力運用を『魔導』として区別し、以降これらを魔力に関する用語として使用することになる。
ゾディアックが出現した最初の七日間。
この七日間で地球の人口は一割減少したとされる。
そして、人類への止めと言わんばかりに現れたのは数百個の彗星群。
一個一個の大きさはダースメテオより小型ながらも、尋常ではない数で現れた彗星群は世界各地に落下。
落着した彗星からは無数の魔獣が出現し、有機的な集団となって人類への攻撃を開始。彗星群は毎日毎年出現するようになったため、地球上の魔獣の数は爆発的に上昇する。
この彗星群は『
一体で国を滅ぼす戦力を持つゾディアックと無限の魔獣軍を展開させて人類を駆逐していくインフィニットメテオ。
二つの脅威は人類を蹂躙し、瞬く間に戦線を拡大させていった。
それから9年。
『魔獣戦争』と呼ばれている魔獣と人類の戦争によって、人類は限界を迎えつつある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます