第14話 スカーレット・ベルベイン
アーノルド中将はマイリンゲン空軍基地から
しかし、幸運なことに彼のもとには作戦成功の朗報が届く。フィーラ達精鋭部隊が敵指揮官級を撃破、並びに多数のレベル4を撃破。さらに、ビーコン設置での地対地ミサイル及び長距離砲弾の誘導攻撃が可能になり、これらで司令陣地を破壊。敵魔獣軍の指揮系統を崩壊させ、敵魔獣軍全体に混乱を与えることに成功する。
そのまま、チューリッヒ駐屯師団が戦線を押し返しつつあり、勝敗は決したとの報告が入った。
「やりましたね、閣下」
同行していた秘書官が声を上げる。チューリッヒが陥落すれば、今後の作戦遂行が困難になりフィーラ達を呼んだ意味が無くなるばかりか、欧州戦線が崩壊していたかもしれないほどの窮地だったからだ。
さすがの中将も、今回の作戦成功の知らせには頬が緩む。だが、中将は気になる点が一つあった。
「ああ、精鋭部隊が良く頑張ってくれたな。──新藤特佐についてはどうかね?」
「閣下の期待以上の結果でした」
そう言ってタブレットに出したのは司令陣地で戦っている三人の戦闘映像。
地面から1mもない視点から撮影されたと思わしきそれは、鮮明に彼らの健闘ぶりを映していた。
「あのビーコン、本当の目的は内蔵された全方位カメラによる新藤特佐の監視でしたのですね。誘導電波発信機能を後付けしたから半自動になってしまったとロドリゲス大佐が嘆いていましたよ」
「大佐は完璧主義のきらいがあるからな。──監視、ではないよ。あくまで確認のためだ。彼が『
「……現在、映像を解析中ですが速報によれば診断結果は『
映像を見る限り、魔獣側からの新藤特佐への忖度はなされていないように見える。
「そうか。では、魔導級魔力耐性能力の方はどうかね?」
「そちらは『
「承知した。引き続き、詳細な分析に努めるように」
中将は作戦室に詰めている誰にも気づかれないよう、小さく深呼吸をする。
これで彼は自身、人類にとって大きな価値を手にしたということになるからだ。
単なる魔力への耐性というだけであれば、実はいくつかの例は各国上層部と軍上層部にだけ公式に報告されている。
つまり、隠されている報告も含めればそれほど貴重な代物ではないということになる。
だが、これはレベル1魔力やレベル2魔力といった低級魔力での話だ。
レベル4魔力耐性能力の例は1、2件程度しか公式な報告は上がっていない。
そして、レベル5魔導級魔力耐性ともなれば公式、非公式問わず一例も居なかっただろう。
レベル5であるゾディアックが魔導による攻撃を行うだけでレベル5魔力が撒き散らされて高濃度魔力残滓となる。
魔力の毒性としては、残滓の付近に居るだけでも即死の可能性があるほどのものだ。ゾディアックが最強の存在として恐れられている一つである。
そして、この危険性はフィーラにも当てはまる。
フィーラが魔導による全力戦闘を行えばそれだけ高濃度魔力が撒かれる。そのような環境下では生身の兵士と一緒には戦えない。だからこそ、フィーラという存在は秘匿されている。
だが、新藤特佐はフィーラと一緒に戦っても何も問題はないとのことだ。
フィーラ・レオからの報告によれば日本ですでに一緒に戦ったらしいが、そこから長時間のフライトで疲労困憊になっている中で体調急変もしないということは確実にレベル5魔力耐性を持っているということになる。
マイリンゲンでの彼への説明で、彼は気付いていないようだったがフィーラと共に戦うということは生身の兵士にとってみれば命を捨てるのと同義だ。
誘導回答で魔力への耐性があるから今後はフィーラと共に戦う可能性があると私は言った。だが、レベル4魔力耐性だけではそれは許可できない。許可を後押ししたのは、インフィニット・メテオの破片の直撃にすら耐えた事例が大きい。
今回の作戦は、彼がフォルスヒューマンでないかの最終確認とレベル5魔力耐性の確認。共に、我々が期待する結果をもたらしてくれた。
彼は、今後ますます貴重な戦力になるに違いない。
その戦力を自分が扱うという緊張感を隠しながら、チューリッヒの戦線押し上げを命令していたその時、血相を変えてスイス陸軍の伝令が飛び込んでくる。息も絶え絶えながら、必死に敬礼する様は文字通り、決死の重いで走ってきたに違いない。
国連軍の作戦室からスイス軍の作戦室までの距離はそこまで遠くはない。国連軍、スイス軍共に臨時基地であったため直通の電話回線は引いていないが、これほどまでに急いだ理由。察するところだが、真相を聞くまでは判断できない。予想に留めながら、伝令の言葉を待つ。
「失礼いたします閣下! ジュネーブより緊急報告です! フランスのリヨンが魔獣軍によって強襲攻撃を受けていると情報が入りました!」
「何だと!? レイノルズ大佐、すぐさまジュネーブ駐屯師団を応援に回すよう通信を送れ! 大至急だ!」
「了解です!」
リヨンはフランスの中でパリに次ぐ第二の都市圏だ。フランスは魔獣軍によって大部分が攻撃を受けており、まだら状の戦線様相となっている。フランス軍は各都市を防衛拠点とし、都市と都市を結ぶ防衛ラインでなんとか国として維持している現状だ。山々に囲まれ防衛がしやすいスイスと違って、EU最大の農業国と呼ばれるほどフランスは平野が多い。そのため、機動戦が勃発しやすく強襲されやすい
魔獣軍め、スイス後背をついた後に前線となるリヨンを攻撃するとは。これらが一連の連携作戦というのであれば、人類と同等、戦略規模で言えばそれ以上の有機的行動だ。
「ホワイト大佐、フィーラ精鋭部隊はどうなっている?」
「先程、チューリッヒ上空で待機していたオスプレイが回収したと報告が入りました」
「オスプレイ同伴担当員、無線員に伝えろ。体力・魔力を鑑みて連戦が可能であれば、リヨン救援に向かうよう要請するように」
「了解」
「アーノルド中将、フランス軍より数時間は持ちこたえられるもののその後は敵魔獣軍の規模次第との報告が」
「ギリギリだな……彼女はどこにいる? フランスの窮地なら来るはずだ」
「現在、急行中とのことです。ええ、『三人目のフィーラ』が助けに来ればリヨンも救われるかと判断します」
「私も同意見だ、レイノルズ大佐」
現在、国連軍本部はベルン駐屯師団が主軍となっている。今朝はフィーラ達を出迎えるためにマイリンゲンに行っていたが、本拠地はここだ。
リヨンが突破され、ジュネーブまで電撃戦で押し込まれた場合に備えてベルンから部隊を動かすか判断し──
中将は精鋭部隊を信じることに決めた。大規模な部隊はそう簡単に動かせるものではない。先のバーゼル応援部隊は機動力に優れた機甲部隊が中心だったため、国境付近で敵からの攻撃を食い止める火消し部隊とするか、攻勢に転じる時にフランス地方に攻め込むための先鋒部隊として両方運用できる構成として作った。バーゼルの部隊はその機動力を活かして応援部隊として送り込めたが、ベルンの部隊は歩兵が中心なので即座に戦力を送り込むことは難しい。
我々は、ただ信じるしかない。
中将は一人、顔の前で手を組みながら小さく呟いた。
「力になれない我らを許したまえ、『
チューリッヒに攻め込もうとしていた魔獣軍の司令陣地を強襲して30分後。
俺達はフランス方面に急行していた。
時刻は現在21時13分。時差に伴う体内時間ではもう5時頃といった感じだ。仮眠を挟んではいるが、徹夜状態に近い。
しかし、眠いからと言って戦いを放棄するのは一人の兵士として許されない状況にある。
魔獣軍は一連の流れで、後方を攻撃して部隊を誘引した後に前線を強襲。
見事なまでの連携作戦だが、魔獣軍がこれほどまでの作戦を展開できるとは思ってもみなかった。俺含め、国連軍は油断していた。魔獣は、明らかにこの戦争で成長を遂げている。一方、人類はジリ貧の防戦に回っているばかりだ。今、このように戦地を転々としている俺達のように。
その現状を打破すべく、これからフィーラを投入する特別反攻作戦を行おうという矢先に前線の鼻っ面が潰されては反撃の芽を摘まれることになる。それだけは、阻止しなくてはならない。
レナとアリサはすでに一戦闘を終えている。体内の保有魔力はまだあるようだがここから長期戦になることも考慮すると、やはり先の後方への浸透攻撃はこちらにとって嫌な作戦となった。戦力を回さざるを得ない
だが、俺達にとっての幸運もあったのだ。
オスプレイが空中待機していたのは本当に助かった。元々、地上に降りる予定であったがレナが目ざとく発見したのだ。
装備していた俺の無線機から、通りがかりではなく最初から俺達を待っていたからそのまま乗ってくれ、と機内にいる無線員が言ってきたのでそのまま乗らせてもらったわけだ。
ありがたいことに機内では担当員が米軍の
MREに最初から付属している専用の簡易加熱ヒーターの仕組みは化学反応なので使用時に水素ガスが発生する。そのため、機内では使えない。かと言って湯煎も危ないし、電子レンジも航空機では通信妨害や離発着に影響を及ぼすと忌避される。
使うのは旅客機でも使用されているスチームオーブンだ。
狭いオスプレイの機内でそこまでの設備を搭載しているのはフィーラ用だからなのか。それとも、超長距離輸送用の機体を流用したのか。
疑問はあれど、食事の完成には関係ない。適度に温まった開封済みのパックをオーブンから取り出して付属のスプーンで食べ始める。
匂いから予想できていたが、パックの中身はビーフシチューだ。口内に広がる野菜の甘みと牛肉の旨みが程よく合わさってとても美味しい。米軍のレーションを食べたのは初めてだったので口に合うか心配だったが、意外といける。
思えば、昼飯は日本の自宅で食べたがそこからはほとんど食べていなかった。緊張していたので食欲が無かったのもそうだが、タイミングが無かったのが一番大きい。本来ならばマイリンゲンで何か夕食を食べられたのだろうが、攻撃が始まったのであれば仕方ないことだ。
パックとは別に袋に入っていたパンと一緒に食べ進める。ビーフシチューの味は優しい素朴な味なので食べやすい。チリソースなども入っていたが、俺は何も足さない方が好みだな。
黙々と食べながらレナとアリサの様子も見る。少し疲弊しているようで、交わす言葉は少ない。疲れているわけではなく、この後の戦いを想定して体力を少しでも温存しておく狙いのようだ。そのためにも、本来成人男性一人分用の量をどんどん食べていく。食事で魔力の回復もできるのだろうか。今度、落ち着いたら聞いてみるか。
兵士の習慣として食事は基本早食いだ。食事中こそが人間の本能的に一番危険な時間であり、それを狙って敵から攻撃されることが多い。その時間をできるだけ少なくするための生存術ということだ。
そして、食事の時間を有効活用してリヨンの地理を頭に叩き込んでいく。担当員から渡された地図はかなり詳細なもので、フランス軍が居る各拠点の情報まで載っている優れものだ。行儀が悪いだとかはこの際気にしていられない。効率こそが、時間こそが、全てに優先される。
ビーフシチュー、パン、デザートのチョコパウンドケーキを食べ終えるとすぐさま食器類を片付けて、着陸に備える。
オスプレイの最高時速であればあと10分でリヨン近郊に到着するだろう。スイス後方からいきなりフランスとの国境を超えて前線に飛び込む形にはなるが、これも戦場の常だ。車両ではなく航空機での迅速な移動が可能で助かった。
前線は無事だろうか。
不安に駆られながら機内でじっと座るしかない。
オスプレイの速度が落ちる。戦場近くに着いたようだ。航空魔獣に襲われることもなく無事に到着できたが、本番はこれからだ。
臨時で新しい作戦が伝えられたが、今回は先の作戦のような強襲ではなく防衛任務。押し込まれている友軍を助け、敵の攻勢点を各個撃破していくという火消し部隊のような戦いだ。
そのため、先程のように司令陣地にいきなり降下するのではなく、後方に降下して少しずつ様子を見ながら前進していくという作戦行動をとる。
森林を切り開いて臨時で設置されたヘリポートに着陸し、すぐさま機外に飛び出す俺達三人。
魔獣軍にばれないよう明かりもない中の着陸だったが、暗視装置のおかげもあってオスプレイはなんとか着陸できた。こればかりは、現場の腕前としか言いようがない。
着陸寸前まで瞑っていた右目を開いて、夜目として使う。
フィーラ達はそんなことしなくても
森に包まれたフェイシンヌ自然公園を抜けると、目の前には大きな川が流れている。ローヌ川だ。
リヨンにはローヌ川とソーヌ川、二つの川が北から南に市街を流れており、南部がその合流地点となっている都市だ。
この川に沿って南に進んで行けばリヨンに入れる。
魔獣軍は北西より侵攻してきたらしいので、リヨン西部を流れるソーヌ川が一つ目の防衛ラインになるだろう。突破されたとしても、リヨン中央を流れるローヌ川が二つ目の防衛ラインとなる。
二つの川は共に川幅100m~200mあり、簡単には渡河できない長さだ。
レイモン・ポアンカレ橋のふもとに辿り着いた俺達は静かに市街地の様子を確認する。
リヨンはフランスに残る貴重な防衛拠点として、都市防衛軍が居る。
第一陣、最前線部隊はソーヌ川の西部、オタール公園に展開している。第二陣、リヨン市庁舎を守る中核防衛部隊として西にあるソーヌ川と東にあるローヌ川にはさまれている中州に展開している。こちらは市街地戦専門の歩兵部隊だ。
二つの川に架かる橋を防衛するため、前線と後方を繋ぐ中間地点としても重要な場所なので、防衛部隊の中核となっている。
リヨン東部も中央と同様に市街地が広がっているため、大規模な軍の展開は難しい。
そのため、いくつかの自然公園の敷地を使って防衛軍の部隊はそこを拠点としている。
そのうちの一つ、テット・ドル湖周辺の公園群にも拠点がある。公園群は橋の目と鼻の先、というかほとんど隣接している。外周まで500mもない距離だ。
そのため、第三陣軍の様子が窺えると思ったのだが、騒音はあまりないようだ。駐屯している市が攻められているのに、この静けさは異様だな。
すでに部隊は移動し、前線に出ているのかそれとも──間に合わなかったのか。
「レナ、このままテット・ドル陣地に行くか?」
「そうね…………ええ、そうしましょう。まずは状況を知りたいわ。アリサもそれで良い?」
「はい、大丈夫です」
「よし、じゃあ行くか」
レナの言うとおり、リヨンを救援するにしてもまずは現地の状況がわからなくては無駄な戦闘になってしまう可能性がある。
必要な戦力を、必要な場所へ、必要な時に。
兵站──特に、物資輸送の格言を思い出しつつ、第三陣軍陣地に向かうのであった。
陣地には、多くの怪我人や損傷した兵器が至る所に確認された。慌ただしくなかったのは、みんな静かに呻いているだけだったのだ。
後方拠点に負傷者が集められている状況だが、この分だと前線はかなり逼迫しているだろう。
僅かな明かりに照らされた陣地の中を静かに歩いて行く。
すると、俺達に気づいた陣地の警備兵が呼び止めてきたので、救援に来た精鋭部隊だと事情を話し、高官か担当員を連れてくるようお願いする。
それでわかったのだが、兵士たちの士気は高くもなく、低くもない。奇妙な雰囲気だ。
勝勢であれば高いだろうし、劣勢であれば低い。これはどの時代、どの軍隊に関わらず共通のものだ。俺も訓練で散々、実体験している。
だが、彼らの様子はある意味で一仕事終えたような雰囲気だ。諦めからの無気力ではない。
これはつまり、魔獣軍を撃退できたというのか?
確かに、遠くはなれた川向こうの前線から聞こえる攻撃の音も散発的だ。
レナとアリサも不思議なようで三人揃って疑問の状況だ。
フィーラの戦力が無ければリヨンは陥落する見込みだったと聞いていたのに。
遠い前方にある司令陣地からリヨン防衛隊第三陣軍の高官らしき人物がやって来たのが見える。とりあえず、彼に説明して貰うか。
「遅いですわよ! 貴方達!」
急に背後から声をかけられる。
高めの甘い女の子の声。聞くだけでわかる高飛車ながらも高貴な雰囲気。
振り返るとそこには、煌びやかな紫色の綺麗な長い髪を持つ、私立女学園のような金色のラインが混ざった黒色の制服を着た一人の女の子が立っていた。
その異様な雰囲気を持つ少女と相対するのは三度目。
彼女も、フィーラだ。
「あら、お久しぶりねリッタ。しょうがないでしょ、さっきまで後方の防衛作戦に参加してたんだから」
レナがリッタと呼ぶ少女は、俺達三人を見ながら追及する姿勢のようだ。
「後方よりも前線の方が大事でなくて? 今回の作戦の最終目標をお忘れになったのかしら」
「なによ、後方からの兵站が無ければ前に進めないでしょ。補給を軽視しているのはあなたの方じゃない。っていうか、あなたこそ何をやっていたのよ」
「わたくしはリヨン救援作戦に参加してただけですわ。急いで駆けつけたら敵方はお逃げになったのですけどね。どうやら、わたくしに恐れたようですわね♪」
「すぐまた来るわよ。呑気にここの陣地に来ない方が良いんじゃないかしら? さっさと前線に行きなさいよ」
「何ですって!?」
「何よ!?」
途端に始まる二人の喧嘩。レナが年相応の無邪気な感じを見れたのはある意味嬉しいが喧嘩はあまりよろしくない。似たもの同士で仲が悪いのか……?
「なあ、アリサ。二人はいつもこんな感じなのか?」
「あはは……まあ、そうですね……」
俺の傍に立って喧嘩を苦笑いで見ているアリサの様子からして日常茶飯事らしい。これは逆に仲が良いのだろうか。
二人のバトルはさらにヒートアップしていく。ようやく着いたリヨン第三陣軍高官も突然の事態に混乱しているようだ。
すると、俺の視線に気付いたリッタが俺に気付く。食い下がるレナを躱しながら俺に近づいて来る。
「……
「ああ、そうだ。君の名前を聞かせて貰っても良いか?」
「これは、大変失礼致しました。わたくしの名前はスカーレット・ベルベイン。長いのでリッタと気軽にお呼びくださいまし」
「わかったよ、リッタ。……君は、フィーラなのか?」
「ええ、そうですわ。わたくしはフィーラ・スコーピオン。パリに巣食う忌まわしきゾディアック・スコーピオンと同じ力を持っていますわ。今回の作戦で、それを倒しに行くのがわたくし達の使命ですわね」
やはり、リッタもフィーラ。そして、薄々察していたが最終目的地パリに行く理由は、ゾディアック・スコーピオンを倒しに行くこと。
ゾディアックは魔獣戦争が始まってから9年間、一体も倒されてはいない。それほどまでに、最強の存在なのだ。だが、フィーラが三人も居ればようやく勝てるかもしれない。
「レナ、これで役者が揃ったということか」
俺に話しかけられて落ち着きを取り戻したレナが答える。
「そうね。あとはパリに向かうだけだけど……まずは一戦、反撃の序章を始める必要がありそうね」
そう言って前線を見る。
「ほら、私の言った通りすぐ来たじゃないリッタ。行くわよ」
「貴女達が来たからそれに反応して来ただけですわ! アリサも何か言ってくださいまし!」
「ええと……とりあえず向かいましょうリッタさん。兵士の皆さんを助けないと」
三人は言い合いながらも前線に向かって歩き出す。高官も慌てて無線機に呼びかけ、前線の様子を確かめているようだ。
レナの反応を見るに、リッタが応援に来て一度は引いた魔獣軍が再攻撃を始めたようだ。
「アスクもいつまで突っ立っているのよ。それとも、疲れたのかしら?」
「いや、大丈夫だ。今行くよ」
三人に遅れないよう俺も駆け出す。まずは、魔獣軍の攻撃からリヨンを助けること。これが、パリに向かう最初の第一歩だ。今度は、足を引っ張らないようにするぞ。
大きく踏み込んで、三人の後を追いかける俺。彼女たちが居る場所にはまだ届かない。だが──
俺は俺のやれることをやるだけだ。
そう心に誓ってより一層、走るスピードを上げていった。
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