第7話 ザ・ロック
時刻は間もなく午後4時。プライベートジェット機はメキシコとの国境近く──『
直前まで西海岸のどこに辿り着くかはわからなかったが、自動で設定されていた目的地としては西海岸の大都市の一つであるカリフォルニア州サンフランシスコだった。
マイクとメキシコ湾上空で別れてから8時間弱が経過している。本来であれば6時間程度で行ける距離なのだが、通常の飛行ルートではアメリカ大陸中央の空域にかなり近いため遠回り──南寄りにして回避したためだ。南部も南部で危険なのは同じだが、中央は中央で近づくにつれて大規模に展開されている魔獣軍の戦線上空を通ってしまうし、当初からの作戦である南部の喧騒に紛れて所在地と移動情報を誤魔化すという作戦から逸脱してしまうのでこのようなルートになった訳である。と言っても俺達が考えたのではなく全て
俺達は何もせずに、ただそのまま普通の旅客機の乗客のように座って乗っていただけだ。勿論、危険な地域を通る際には地対空ミサイルの発射に備えたり、不審な航空機が近づかないか警戒していたのだが結局、平穏無事にここまで辿り着くことが出来た。
そういった緊張感は置いておいて、機内そのものの環境はプライベートジェット機なだけあって非常に快適ではあった。
……だが、心に影を落とすのはマイクの安否である。
それに、同じようなシチュエーションで仲間を置き去りにしてしまった日本の航空護衛艦『くらま』のことも思い出してそちらの安否も気になってしまった。海外に居る現状では、母国である日本の情報収集もままならない。フランスでは考えないようにしていた分、今ここになって急に不安になって来たのだ。
しかし、俺は今、レナとアリサという貴重で大事な存在──全世界で必要とされる戦力を持つ者達と一緒に居る。母国とはいえ、一つの国のことだけを考えていてはダメなのだ。その
──と格好付けて考えて言っても…………そんな簡単に生存の保証が無い別れを受け入れられる訳ではない。あの時、もっと別の解決法があったのではないか、無理矢理にでも引き留めるべきだったのか、なんて今更どうしようも無いことばかり脳裏によぎる。
心の中で頭を抱えながら俯いて座る俺に対して、レナとアリサの二人は……言い方は悪いが俺よりかは慣れているのだろう。年相応の普通の女の子のように、ショッキングな出来事を前に不安がったり取り乱したりはしない。
問題なのは俺の方であり、外面的には何とか取り繕っているものの心は動揺しまくっている。年長者であるマイクが居なくなってしまった以上、俺がしっかりしなくてはこのチームの和を乱すことに繋がりかねない。何も起きていないこの平和な状況ならまだしも、戦闘時にそんな気持ちの状態じゃあ命の危機がある。それは、俺の命だけでなく二人の少女の命にも関わって来る重大な問題だ。ワシントンの観光で散々、彼女達の保護者として在れるよう心に決めたのに…………何とか頑張るんだ俺よ。
そんな形で腑抜けた魂に気合を入れるも、そんなことはお構いなしに機体は全自動で空港に降りていく。
──いや、もう止めだ。ナーバスになっても何ら生産性は無い。反省は大事だが、後悔はしてもどうしようも無い。これだけ悩んだんだ、十分に鬱状態は味わった。
そして、これからの話。最終目的地であるアスムリンのネバダ研究所に辿り着く。これが最優先事項であり、俺達の目的である。それさえ達成すればゴールであり、後はどうにでもなると信じて。
勿論、それまでにもレナとアリサの様子も気に掛ける必要がある。
……信頼しすぎてあまり考えもせずに流すのもダメだが、と言ってもやはりレナは大丈夫だろう。先の戦闘でも、いつもと変わらずに冷静な判断力と優秀な対応力で活躍してくれた。
そして、アリサも同様に危機的な状況を乗り越えるのに活躍してくれた。が、再三の認識になるが懸念しているのはその
普通の子供のように、甘えて来ない。甘えて、来れない。いくら特殊能力を持っているとはいえ、心までは特殊では無いだろう。フィーラの精神構造は人間のそれとまったく変わらない。むしろ、達観してて大人びている──通常であれば評価される代物だ。
何事も『普通』が正しい、という訳ではない。だが、普通でない心の状態が本人にとって苦痛ならばどうにか対処すべきという話である。
ではこちらから何かアクションを仕掛けて安心させようか、となるとそれは難しい。一概には言えないし状況によるのだが、 このような苦しみを自分自身の奥底に隠している時に素人が無理矢理探ってアクションするというのは逆効果になる場合があるからだ。自衛校時代の衛生科コースで、そういう戦場心理系──特に、PTSD関連の特別授業で少しだけだがそう習った。かく言う俺も
アリサはどうだろうか。何かそういう心の安定剤があれば良いのだが……まさか
だが、注意しているだけ、見守っているだけでは行動しないのと変わらない。近いうちにレナにでも相談してみよう。
そんな考え事──とても大事なものだが──を出来る程、安定して緩やかに着陸したプライベートジェット機はターミナルビルまで走行した後に停止する。そして、ターミナル側からボーディングブリッジが接続されて、一般客のように乗り降り可能な状態になる。一応、秘密裏に行動しているとはいえ、マイアミで空港警察と揉めた後のように地上に直接降りる必要が無いだろう。あの時は空港全体が騒ぎになりつつあり混乱状態一歩手前なのでそういう無茶が出来たがここは普通の空港である。下手に地上に降りると逆に目立って厄介なことになりかねない。ここは普通に空港に入ったほうが良いだろう。その後、必ず居るだろう担当者の案内に従うまでだ。万が一、担当者に接触できない場合は待機しかない。最悪、事情を説明すればまた空港のVIPルームにでも逃げ込めるのだからさして問題は無いはずだ。
準備は整った。ひとまず、ここサンフランシスコの大地を踏む時がやって来た。
「──じゃあ行くか二人とも」
「ええ」
「はい、アスクさん」
素直に俺と一緒にブリッジを歩いて行く二人。今もそうだが、飛行機の中でも会話は少なかった。気まずくなっているのではなく単に時差ボケ対策で寝ていたのだが……とはいえあんな壮絶な別れ方をしたのだからチームが不和になってもおかしくは無い。──というのを全員きちんと把握しているので下手に空元気の話題も出さずに、ただ皆個人で静かに考える……飲み込む時間という形に自然となった。これは互いを思いやれるという一種のチームワークではある。リッタでもいれば逆に楽しい話題を展開していたのだろうが、この三人だとどうしても少し全体的に暗くなってしまいがちだな。
メンバーで一番明るいのはレナだろうが、込み入った状況の時は一歩引いて全体を俯瞰する性格なのでこういう時は静かに見ていることが多い。
であれば、俺が積極的に前に出る必要があるだろう。あまり得意ではないが、引っ張られる側としては多くの体験をして来たのだからそれを活かして頑張るか。
荷物も特に無いのでほとんど手ぶらのまま俺達はロビーに向かう。唯一の大荷物は
このパワードスーツはアスムリン製の秘密兵器であり、人目に付くのは避けるべきだ。だが、機内にそのまま置いておくという訳にもいかない。HMDに表示された所定の手順に従ってスーツ自体は各パーツに細かく分離しており、それを機内の小部屋に用意されていた専用のキャリーケースに入れて転がして来ている。
青年一人と少女二人という、パッと見は自然だがよくよく考えると異様なメンツのままブリッジを通り抜けてロビーに向かう。すると、待っていたとばかりに大きく手を振りながらこちらに視線を送って来る人物が居た。
「
左手にドーナツ入りの箱を抱えて現れたのは20代後半ぐらいの若い男性。外見と喋りの雰囲気からしてITベンチャー企業の若社長というイメージが第一印象。確かにここサンフランシスコ周辺はIT機器に強い大企業が集まる
「
「
話は後で、と言わんばかりに俺達を連れて行く。あまり関心が無い感じを出しているが、俺の後ろに控えていたレナとアリサに確かな一瞥を投げたのは見逃さないぞ。やはりフィーラには興味を隠せないか。
「ありがとうございます。──お名前を伺ってもよろしいですか」
「ああ、これは失礼。僕はダニエル。今はサンフランシスコ市長をやっているよ」
「──えっ!? 本当に?」
「うん、ザッツリアリートゥー」
……これは、驚いたな。『市長』だって? 誰でもわかるが普通ならあり得ないな。年齢に関しては、フランス国連軍のジュリア少将のような例があるとはいえ、軍組織と行政組織では当然ながらその運営性質は違うものだ。これが、自由たる──力ある者が成り上がる、
「随分と大物が直々に来てくれたわね。暇なのかしら?」
後ろを歩いていたレナから冷たい態度の言葉が飛び出る。が、多分反応を見ているのだ。好意を示すか、敵意を示すか。
「そうだね。僕がわざわざやる仕事はもう終わらせているし、今のところ大攻勢の予兆は確認されていないし、今日の最優先事項は君達の確保……おっと失礼、保護だからさ」
……レナのテストの結果は──残念ながら恐らく敵意寄りだろう。言い間違えなんてする訳が無いからな。逆にストレートに反応してくれた分、わかりやすい。そうやって示してくれた程度の配慮も同時に伝わって来たから反フィーラ過激派並に敵意を持っている訳では無いようだが……これはあまり信頼できそうにもないな。
そして、本音は確保という主張。そりゃそうだろうな、核兵器にも匹敵する戦力を持つフィーラ達は可能であれば何としてでも手中に収めておきたい。万が一反抗すればそれだけで大都市一つが滅びるのだから。
……俺からももう少し仕掛けてみるか。
「──俺達の最終目的地は知っていますか」
「ネバダ州でしょ? 移動手段は
「了解です、それで構いません」
間髪入れずスラスラと答えてくる辺り、当然ながら優秀な人物だとわかるが俺達と関係を踏み込みたくは無いようだな。ともかくこれではっきりした。こちらから毛嫌いはしないが、向こうの言う通りビジネスライクで生活しよう。
人気の無いVIP専用通路を歩きながらも、互いに不可視の詮索とそれで得られた考察を行っていく。
西側は『革新的な自由主義』──つまり、新時代の存在であるフィーラへの人当たりは良好だと予想していたのだが、どうやらそうでもないらしい。これがただの担当員であればそこまで主語を大きくして思わなかったのだが、相手が市長であるなら話は別だ。サンフランシスコの代表として俺達と接触しているのだから。
サンフランシスコは西海岸でも有力な都市の一つ。大本のカリフォルニア州でもあのロサンゼルスと競う程の規模である。故に、その市長の発言からなる考えは西側全体の考えと
……というのを市長の雰囲気にも察したのだろう。アリサは初対面の人間には物怖じする性格であるとはいえ、到着してからずっと口を噤んだまま。レナもあの一言以降、何も喋らない。ワシントンのようにどこから監視されているのかもわからないし、下手に喋らずに俺にチーム代表者の役目を任せてくれるようだ。それなら俺もしっかり仕事をすべきだ。そういうことぐらいでしか彼女達に貢献出来ないのだから……。
専用通路を取って空港ゲートの裏口らしき場所に出る。そこで待っていた
「僕が運転するよ。四人乗りだけど、席の希望はあるかい」
出迎えならまだしも、運転まで市長自らするのか。これはもう、自由だとかそういう次元じゃなく、単に無鉄砲な性格なんじゃないか……そもそも市長だってことも疑わしくなってきたが。それとも俺が
とりあえず、強襲された時に重要な座席配置をこちらから指定出来るのは素直にありがたい。
この提案から分かることは二つ。一つは、先程までと同じように、こちらにある程度の配慮はあること。もう一つは、市長は戦闘面──特に『戦術』には詳しくないということだ。こういう時代なのだから多少は軍政乱世に強いリーダーが台頭してくるのだが、意外な一面でもあるな。
……考察はここまでにしてさっさと車に乗り込もう。ダニエル市長と出会ってから彼とその裏側を考察するための頭を切り替えて、戦術的な思考に切り替えるか。
「そうですね──まず
「オーケー」
「はい、問題ないです」
もう遠い昔のように思えるが、レナと初めて会った時にアキラとも一緒に乗っていた座席の配置を記憶の底から戻しながら言葉を紡ぐ。運転役は変わったが、同様にあの時とは違って多くの情報を俺は知っている。一方で、知ったところでどうしようも無い事柄も、だ。
ジークフリート入りのスーツケースをトランクルームに入れてから最初にアリサが助手席に座る。続いて、後部座席に俺とレナが座る。と思ったが、後ろのドアが上手く開かない。単にドアが重かったりロックがかかっていたりする訳では無いようだ。何か違和感があるな、と思いつつ持ち前の観察力で原因を探る。
──ああ、そういうことか。単にドアの開き方が普通とは逆方向に開く構造なのか。関連して今思い出したが、ロールスロイス特有の
……この知識は自衛校同期の武器科コースに居た車好きのマニアから教えて貰ったものだが、ここにマイクが居ればより詳しく解説してくれたのだろうなと少しだけ感情が沈む。
顔には出さないよう──ちょうど順番的にも良かったから先にレナが座り、続けて俺が座る。これで三人が揃った。最後に、
運転席の様子を右斜め後ろから覗き見ると、いつの間にか手に抱えていたドーナツの箱が無くなっている。空港のどこかに置いて来たのだろうか。そんな動きは見られなかったが……。
こうして身動きを良く観察すると、まるで動きが見えないということがわかる。手捌き足捌きの視線誘導が上手い──何らかの武術を極めているというよりかは、単に存在感が薄い……いや、根本的な部分で主体性が無く感じる。
しかし、その中でさらに心の奥底には強い情熱を持っているような気迫もある。矛盾しているようで、それが調律したリズムを生んでいるためどことなく人を惹きつけるような魅力を併せ持っている。
──俺は探偵や警察のような人間観察の
ダニエル市長に関しては、多分、
ダニエル市長もまた、飄々としているようで隠された信念の芯を持っているのだろう。それは、役割や肩書から得たものでは無く、最初に道を志した時から持っているモノ。俺には無い、憧れる要素だ。
見れば見るほど、考えれば考えるほど、どうにも不思議な感じがするダニエル市長を見ながら、俺は横に流れていくサンフランシスコの景色に視線と意識を変えたのだった。
空港から南下していく車。左手に見えるのはサンフランシスコ湾だ。この湾と太平洋に囲まれた半島がサンフランシスコ半島である。
地形的には自衛校がある神奈川県の三浦半島(相模湾と東京湾に突き出した形)や、愛知県の知多半島や渥美半島(それぞれ、伊勢湾や三河湾、太平洋等に突き出した形)が似ている感じだろうか。
気候としては寒流であるカリフォルニア海流が傍を流れており、そして周囲を海に囲まれているため季節を通じての気温変化が少ない……はずだった気がする。地理の授業で定期試験対策として頭に叩き込んだのを何とか引っ張り出しつつ、戦う上で重要な土地勘への理解に努めていく。
主要幹線道路である
「ここで乗り換えよう」
そう言って車を降りるダニエル市長。そのまま後を追う形で歩いていくと、そこはヨットやクルーザーが置かれている船置き場の小さい港だった。
どうしても昨日のキーウェストを思い出すような
「海路ですか」
シンプルに訊ねた問いに対してダニエル市長はすぐに答える。
「そうだね。このまま船に乗り換えてカリフォルニア湾を北上して目的地に向かうよ。それで良いかな?」
「了解です」
良いかな、と言われても拒否権はこちらに無い。客観的に見て厄介な身分の自分達を案内されている身としてはただ唯々諾々と従うだけだ。
ダニエル市長の迷いない歩みをたどりながら、事前に用意されていたと思わしきクルーザーに乗り込む。これもまたどこぞの大金持ちが使いそうなクルーザーだ。内装の豪華さがアメリカンドリームのような雰囲気を醸し出す。だが、その嘘くさい光景にもいい加減慣れて来た所だ。俺達は決してお金持ちでも何でもない。勿論、
全員、言葉も無いままに静かに船は動き出して港を後にする。一応、運転は車と同じくダニエル市長自らやっているのだが、後ろから市長の手元や
また、振動するエンジンの肌感覚でわかるが、明らかに既存のモノでは無い。安定性や高速性(を実現するためのエンジン音)が軍用のボートに匹敵するかそれ以上の代物だ。メカ方面に詳しくなくてもこういう魔改造兵器に慣れてきたからわかって来た一つの進歩だろう。
自分の成長を僅かだが実感しつつ、移動時の周辺警戒を行うために配置に就く。
二階部分の見晴らし良いベランダのような場所にはどこからミサイルが飛んできても発見・撃墜できるようにレナが見張ることに。
俺とアリサはいつでもどこでも対応できるよう船体後部の外に開放されている場所で待機する。ここからでも外の様子は見やすいので警戒がしやすい。一方で、見やすいということは見られやすいということでもあるので秘密輸送作戦としては向いていない。だが、どうせどこかで素性はバレるものだ。姿を晒して所在地を公開するデメリットよりも、直近での危険性──海上で攻撃されるリスクを考えてこの見張りのフォーメーションで配置を決めた。
──という一連の行動案を実際に見張りに就く前に、一応このチームの責任者のような役割であるダニエル市長に簡潔に伝えたが、「
サンフランシスコ湾の冷たい風を感じながら、先程の俺達と同じように空港に降りていく飛行機を見上げて思いを馳せるのであった。
四人を乗せたクルーザーはサンフランシスコ湾を進む。
大型タンカーやコンテナ船が行き交うだけあって航行速度は控えめだ。
サンフランシスコは、西側にある太平洋からの魔獣軍の襲撃を主戦線とする戦況であり、最前線と言える立地だ。また、周辺を山に囲まれているため浸透してきた魔獣軍のゲリラ部隊との山岳戦が行われる時もある。
海と山に囲まれている立地は横須賀を思い出すが、こういう場所は意外に戦いやすいものだ。大規模戦闘において後方となる場所が山というのは機動戦としては難しい分、守りやすく山地側からの援護も受けやすい立地である。
さらに、この広大なサンフランシスコ湾は直接外洋である太平洋に面している部分が少なく、この湾内に戦力を展開して迎え撃つという作戦も可能である。それでいて重要拠点となる市街地は内地のサンフランシスコ湾寄りに集中しているため守りやすい。基本的に大都市は防衛上の立地も考えられるものだが、幾度もの大攻勢を耐え抜いて長年魔獣戦争で戦い続けられている事実こそがその証拠にもなっている。
15ノット程度の湾内制限速度のままクルーザーはサンフランシスコ湾を進んで行く。
先程まで俺達が居たサンフランシスコ国際空港をまたも左手に通り過ぎる光景を遠目に見ながら土地勘を叩きこんでいく。
──西海岸に行くと言われていただけあって、もし希望出来るのなら俺はロサンゼルスの方に行ってみたかった。その理由は少し過激であり、自衛校時代の授業の息抜きで見ていたアクション映画──それもクライムアクションの犯罪組織VS警察組織の銃撃戦──でよく舞台になるのがロサンゼルスだったからである。治安の悪い場所だからこそ織りなされる過激だがスリリングで面白いストーリーに、日頃のストレスを無意識で発散していたのかもしれない。
あの地獄のように忙しかった日々も、何もかも全て遠い過去のように感じる。そう思えるようになったのも、この数カ月の日々が一般自衛官の数年分並に波乱万丈だったからである。
だが、まだまだ彼女達と肩を並べるには程遠い。結局の所、俺がフィーラに匹敵するのはレベル5魔力耐性だけなのだから。能力や魔力で戦えない以上、せめて足を引っ張らないようなサポートしか出来ない。スコーピオン討伐戦では限界ギリギリの戦況だったので俺も前に出ざるを得なかったのだが、次にああいう無茶をして生還出来るかは望み薄だろう。だからこそ、授業で学んだ『戦い方』の技術と知識を活かす必要がある。
そのために必要なのは戦う場所での土地勘だ──として、サンフランシスコ半島側を重点的に見ていく。
空港を通り過ぎて、小高い丘を見ているとクルーザーが少し半島側を離れて湾内深くに入っていく。その動作を見てからわかったが、多分あれが理由だ。何らかの海軍造船所らしき場所が湾内に突き出すようにしてある。
サンフランシスコに到着してから電波が入って使えるようになったスマホで軍関係者用のデータベースを漁って見ると、どうやら『ハンターズ・ポイント海軍造船所』という名前らしい。1994年に閉鎖された基地であったが、魔獣戦争の激化によって造船所機能が復活。元々、大型空母を収容できる乾ドックがある──原子力空母エンタープライズも修理していたこともある──こともあってサンフランシスコの重要な海軍拠点として今も活躍している訳だ。ここからでも十分その威容がわかる大型空母がドックに居る。魔獣戦争中に設計された量産型軽空母にしては大きすぎるので、ジェラルド・R・フォード改級辺りか。
艦艇にはあまり詳しくないのもあってイマイチ判別がつかないものの、重要戦力であることに違いは無い。そして、その船を直す基地もまた重要施設なのだからたとえクルーザーであっても接近出来ないということだろうな。
そんな風に分析していると、次第に都心部が目立つようになってくる。そして、前方には大きな巨大な橋──サンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジが見えてくる。
高層ビル街と巨大な橋という構図に既視感を覚えて、すぐに地元近くの横浜かと思い至る。少しだけ親しみを感じながら、クルーザーは橋の下を通る。
そして、船置き場から一時間近くかけて一つの島に辿り着く。
これもまた遠くから既視感があるシルエットだなあと考え込むこと数分、その全容がわかるにつれて──ああ、長崎県にある端島、通称『軍艦島』だったかと記憶の奥底から救出する。
そして、今しがた到着したこの島の事も関連記憶から同時に呼び出せることが出来た。
ここは、彼の有名な監獄島──
『
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