第24話 紅茶の作り方


「さて、そろそろ昼食の準備しないとだな」


 ぐったりしたシルフィを頭に乗せ家に帰る。


「クライドのばかぁ……あほぉ……」


 と俺の頭をシルフィがポコポコ叩く。


「なんかお前が可愛くなってきたよ」


「ちょっ……えっ、は? 何言ってんのさ! そんな事言ってもボクは騙されないぞっ」


「騙しちゃいないさ、思ったまでの事を言ったまでだし」


 そう言うとシルフィは頭の上で急に大人しくなる。


(この妖精……チョロいな……)


 そして家に帰るとエリーナはいつもの様に薬品の調合を行っていた。


「魔法の鍛錬の方はどうじゃった?」


「まぁ、ぼちぼちですかね。まぁ魔法は護身程度に出来ればいいと思ってますから。それより昼食後は薬品の調合を教えて下さいよ」


「ふむ、確かにそれが本来の目的じゃったの。しかし、今の主は魔力が枯渇しかけとるし、さてどうしたもんか……」


「えっ? 魔力が無いと調合出来ないんですか?」


「うむ、薬草に他の材料を混ぜ合わせる際に魔力を込めながら混ぜ合わせねばならんのじゃ。そしてその作業こそが薬品作りにおいて最も重要なのじゃよ。それによって薬品の善し悪しが決まると言っでも過言では無い」


 薬品作りに魔力が必要だとは!


「じゃあ、今日は無理ですかね……」


 半ば諦めかけたその時、エリーナが何か思いついた様だった。


「おおっ! そうじゃ、以前言うとった紅茶の作り方でも教えるか」


「あっ、そういえば教えて欲しいと言いましたけど薬品作りと関係あるんですか?」


「大いにあるぞ。薬品を作るにあたって薬草をただすり潰して混ぜるだけではその効果は発揮せんのじゃ。それまでにより高い効能を出すための行程を踏まねばならんのだが、それが紅茶作りと共通してる部分が多いのじゃよ」


「なるほどっ! じゃ、早速教えて下さい!」


「まずは飯が先じゃの」


 おっと、そうだ。焦る必要は無いのだ。薬品の作り方を覚えるまで俺はエリーナとここで一緒に暮らしていられる。ゆっくり教えて貰えばいい。

 だが、エリーナとの関係は早めに深めたいものだ……


「そうだ師匠、何か食べたい物あります? 要望があれば出来る物だったら作りますんで」


「別にぬしと一緒に食えるのなら何でも良い」


「えっ……?」


「えっ?……あっ、いや違う! そう言う意味では無くてだな」


(俺と一緒ならって……もうそれって愛の告白じゃね?)


「師匠……ようやく俺の愛を受け止めてくれる気になったんですねっ!!」


 俺は嬉しさのあまりエリーナに抱きつこうとするが……


 ゴツンっ!


 再び鉄拳制裁を喰らう羽目になった。


(解せぬっ!)


「ええいっ、話が飛躍しすぎじゃ!! 一人で食うより相手がいた方が良いと言う意味じゃ! 別にぬしでなくとも良いのじゃ!」


(うぬぬ……エリーナの照れ隠しはどうも暴力的でいけね)


 とは言え俺と一緒に生活する事に対して不快に思ってる様子は無い。むしろ好意的に思ってるのではないかと感じられ一安心だ。


 手早く昼食を済ませ早速紅茶の作り方を教わる。前世で紅茶は勿論飲んではいたが、作り方なんて全く知らない。ティーパックかコンビニでペットボトルの紅茶を飲むくらいだった。


 そう考えるとこの世界で知識チートで無双もまた俺には無理なようだ。


「何を惚けておる? 手が止まっておるぞ」


 裏庭の茶木から茶葉を摘む手が止まっていたためエリーナから注意を受けた。


「いや、師匠は何処でこんな知識を仕入れたのかなと思いまして」


「ん? わっちの生まれた故郷は代々魔力の高い者が生まれる魔道の村でな、その村で薬品や紅茶の作り方も受け継がれておったのよ」


(それどこの紅魔の里よ?)


「もしかして不老不死の薬の作り方もその村に伝わっってたんですか?」


「そうじゃ。じゃが作り方が分かってても問題は素材集めでの、そんな時現れたのがハイデッカだったと言う訳じゃ」


「なるほど。でも不老不死の薬の作り方が書かれた本なんて門外不出というか、誰でも見れる物じゃ無いですよね?」


「無論じゃ。ただわっちの家系は代々そういった貴重な書物を管理する一族での、その本に触れる機会があったのじゃ」


(そりゃまたどこの禁書庫ですかい?)


 そんな会話をしながらも作業を続ける。摘んだ茶葉を軽く乾燥させた後、手で揉み発酵させる。そしてしばらく時間を置いた後に熱を加え発酵を止め、乾燥させて出来上がりだ。


 ちなみにシルフィーは俺の頭の上でお昼寝中で呑気なもんだ。


「思ったより簡単ですね」


「複雑な作業なら薬品作りの合間にやったりせんわい。まぁ、あくまでこれは薬品作りにおいて基礎的な行程で、薬草の種類によって発酵時間や熱処理の有無なんかも変わってくるがの」


「覚える事多そうだなぁ」


「何を言うておる、ここまでは作業のほんの一部じゃ。これからの作業の方が覚える事は多いぞ」


「まぁ、覚える事に関しては得意な方だと思うんで別に苦じゃ無いですけどね」


「ほぅ、なら一度通しで薬品を作ってみるかの。その方が理解もしやすいじゃろ」


「はい! 是非ともお願いします!」


 それからエリーナは俺に飲ませてくれた活力剤を作り始めた。紅茶と同じように乾燥させた活力草や他数種の薬草を粉末状にし、それを計り、混ぜ合わせ、水に溶かしながら魔力を流し込み更に混ぜ合わせる。


 俺は必死に覚えようとエリーナの一挙手一投足を真剣に見つめていると


「のぅ、クライド……」


「はい、何でしょう?」


「近い……」


「大丈夫です、師匠は近くで見てもやっぱり美しいですから! だから気にせず作業を続けて下さい」


「そういう事では無い! 近すぎて集中出来んのじゃ、もうちょっと離れいっ!」


 そう言ったエリーナが俺を引き離そうと顔に手を当て押しのけよようとする。


「いいじゃ無いですか! 俺はいつでも師匠の傍にいたいんです」


 離されまいとエリーナに抱きつき必死に抵抗する。


「ええいっ!邪魔じゃっ!! 触るな! 触れるな、近寄るなっ! 燃やすぞっ!」


 そう言うと俺の顔を押しのけている左手と逆の右手に火の玉を浮かび上がらせた。


(ちょままっ、ちょっ……おまっ、その照れ隠しは洒落にならん!)


「あわわ、待った! 待った! 落ち着いてっ、離れる! 離れますから魔法はちょっと反則です!」


 二人でじゃれ合っていると頭の上で寝ていたシルフィーが床にポトリと落ちた。


「あいてててっ、あれ? 二人で何やってるのさ、相変わらず二人は仲良しだねぇー」


「別に仲良うしとった訳では無い! こやつがわっちの邪魔するで分からせてやろうと思うてな」


「待った! 俺はただ師匠の作業を真剣に見てただけじゃないっすか」


「近すぎなのじゃ!」


 俺達のやり取りを見ていたシルフィーは何かを思い出したようで


「あっ、分かった! エリーナは照れてるんだよ。だってエリーナもクライドの事す……」


 シルフィーがそこまで言うといきなりエリーナはシルフィーを掴み睨みつけた。


「ぬし……鳥の餌になりたいか?」


 シルフィーは真っ青な顔になり首を横に振る。俺は突然のエリーナの行動に唖然となった。


(なんだ? 俺の知らないとこで二人の間で何かあったのか?)


「ちょっ、師匠、落ち着きましょう……あっ、そうだ! 魔力込めながら混ぜ合わせるの俺もやってみたいです」


 駄目だ、この人をからかうのは命に関わる。雰囲気を変えようと薬品作りに話を戻す。


 するとエリーナはシルフィーから手を離し一つため息をついた後、一つ頷き


「そうじゃの、多少魔力も回復しとるようじゃしやってみるが良い。それとシルフィーよ、あまり余計な事は口にせぬ事じゃ。良いな?」


 それに対してシルフィーは両手で口を抑えコクコクと頷く。


(いや、本当に何があったんだよっ……)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る