第15話 お仕置き
目が覚めると周りは明るかった。体感的にお昼頃だろうか? 部屋の中を見渡すがエリーナの姿は見えず、代わりにシルフィーが本を読んでいた。
「お前、字が読めんのか?」
俺は横になったままシルフィーに声を掛ける。
「あっ、起きたんだね。字はねー、昨日エリーナに教えて貰ったー!」
「俺、どれくらい寝てたんだ? 師匠はどこにいる?」
「んー、あれから夜はそのまま眠ってて今はもうすぐお昼だよー。エリーナは薬草取りに行ってるーっ」
昨日はご褒美を堪能しそのままの勢いで押し倒そうと思った所で眠らされてしまい、不完全燃焼というか俺は少々ご機嫌斜めであった。
「クライドって昨日なんでエリーナの指舐めてたの? そんな事して何が楽しいの? 馬鹿なの? 気持ちわるーい」
(なんて不愉快な妖精だろうか!!)
「妖精には人間の崇高な営みは理解出来んだろうな。というか、お前は俺の従属なんだからご主人様と呼べっ」
「えーっ、いいじゃんクライドでっ! なんか貫禄ないし」
今すぐ鳥のエサにしてやりたい気持ちになったが、ここでシルフィーに構ってやれる程の気力が無かった。
兎に角、腹が減っていたのだ。血を流し過ぎた上に飯も食わずに眠らされたので当然の事だろう。
「メシでも作るか……」
ベットから起き上がり調理場に行こうかと思ったその時、シルフィーが話しかけてきた。
「あっ、エリーナが出かける前にご飯作っておいてくれたよ。クライドが起きたら食べさせろって」
(参ったな……)
昨日の事で少しエリーナに対して苛立ちがあったのだが、そんな気持ちも一気に吹き飛んだ。と同時にエリーナの優しさに何だか嬉しくなってしまった。
調理場でエリーナが作ってくれた料理を温め直し、食事をとる。
「うめぇ……」
薬の知識に魔法も使え、見た目も美しく料理も美味いとか、完璧超人過ぎだろと思った。
「お前は飯食わないのか?」
とシルフィに訪ねると
「ボクは人の手が加わった物は食べれないんだ」
との答え。
「ほう、じゃあいつも何食べてんだ?」
「花の蜜とか木の樹液とかだよ。ボクはそういった自然の物から生命力を分けて貰って生きているんだ」
「まるで虫だな。鳥の餌になるのも仕方ない」
「鳥の餌にしようとしたのはクライドじゃないかっ!」
と頬を膨らませ俺の頭をポコポコと叩いてきたが、全く痛くも無かった為、シルフィーの事は放置し、食事をとった。
腹一杯食べ、満足な気分になると風呂で身体を洗い、ご立腹のシルフィはほっといて家事に取り掛かる。
居候の身分なのに食事を作って貰った事が何だか申し訳ない気分になったので、その日は気合いを入れて掃除、洗濯とこなして行った。
ちなみにシルフィーは俺の周りを興味深そうにずっと飛び回って付いてきて鬱陶しかった。
家事も一段落したので今日も読書でもしようと思い、本棚から何を読もうかと考え、目に付いた薬の調合についての本を手に取ってみる。
椅子に腰掛け、手に取ったその本を読み始める。難しい文字もあったが文脈の流れでどうにか読めた。
俺が本を読み出すとシルフィーも本を読み始め、二人? で読書タイムとなった。
「ねぇ、ねぇ、コレはなんて読むの?」
「あぁ、これは……」
調合の本は難しく、集中して読みたいのだが、合間、合間でシルフィーが質問して来て段々イライラして来た。
「ねぇ、じゃあコレは?」
「ええいっ! 邪魔くさい! 俺は集中して自分の本が読みたいんだっ! 話しかけんなっ」
シルフィーの羽を摘み、とうとう怒鳴ってしまった。
「クライドは心が狭いなー、エリーナは優しく教えてくれたよ。クライドのケチー!」
(なんてムカつく妖精だっ!)
思えば目が覚めてからずっとイライラさせられていた。
そもそも主人である自分に対しこの態度は如何なものか? この機会にしっかりと躾をした方が良さそうだなと思いシルフィーの事をじっと見つめると、ふと疑問が湧いてきた。
「なぁ、お前の身体どうなってんの?」
「どう? って、作りは普通の人間と変わらないと思うよ」
「ほほぅ……」
その言葉を聞いて俺はシルフィーのスカートをめくってみる。
「きゃー!! なにするんだいっ! クライドのすけべー!」
(なんとノーパンじゃないか!)
俺はシルフィーの足を掴み、広げて観察する。 確かに人間と同じようだ。
「ちょ、ちょっと止めてっ! この変態っ! バカっ! アホっ! 離せーっ」
カチリ……
俺の中で何かのスイッチが入った。
一度シルフィーを離すと、俺は暖炉の横にある火付け用の細い木の枝を手に取る。
「ふむっ、これくらいかな?」
「そっ……それを何に使うんだい?」
恐る恐るシルフィーが尋ねてきた。
「お前の口の利き方がなってないから分からせてやろうと思ってな」
「それで叩くつもりかい!? ひどいっ! エリーナに言いつけてやるっ!」
「俺がそんな事する訳ないだろ、女性を傷付ける様な趣味は無いんだ」
シルフィーは怯えていたが、実際俺にそんな趣味は無い。例え妖精であろうとも女性には優しいのだ。
俺は手にした細い木の枝を適当な長さで折り、腰からナイフを取り出し削り始める。
「ふむっ、こんなもんか」
出来上がったのは前世で言う綿棒の様な形の細い棒だ。先端は丸みを帯びた形をしている。
更にその棒をロウソクの火で軽く炙り雑巾で表面の焦げた部分を擦り磨く。そして最後は全体的に蝋を付け、形を整えながら磨いて完全だっ!
「よし、出来たぞっ!」
「えっ? それで完成なの? それでどうするつもりなんだい?」
俺はシルフィーを掴みニヤリと笑みを浮かべた。
「お仕置きだ」
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