第2話 転生

 そして今、死後の世界で長い長い行列に並んでいるのである。


「いやー、我ながらアホな死に方をしたもんだ……」


 自分の人生に特に後悔は無かった。あるとすればお気に入りのラノベがアニメ化決定していたのでそれを見たかったぐらいだろうか?


 あっ、いやあるな。やっぱり生身の女性との行為が無くなった事だ。二次元にハマってからは一人での自慰行為ばかりになってしまったが、本来は相手がいてこそ本当の快楽だと思っている。


 肌と肌が触れ合い相手の体温を全身で感じ、女性に優しく包み込まれているような、あの感覚が堪らなく好きだった。


「それにしてもどれくらい並んでんだろ?」


 この死後の世界は時間の流れがあやふやだった。雲の上の様な場所でこれが天界と言う物だろうか?

 ついさき程ここに来て並んでいるように思えるし、もう何百年もこの列に並んでいるような感覚もする。


「次に産まれ変わるならやっぱり魔法なんかがあるファンタジーの世界がいいな。前世の記憶を持ってチートな能力があってハーレム作ったり夢が広がるなっ! 散々読み漁ったweb小説のテンプレ来たんじゃね?」


 そう思いワクワクしながら死者の列に並んでいると突然周りにいた人達が一瞬にして消え、知らぬ間に俺は壁一面がまっ白な小さな部屋に立たされていた。


「おりょ?」


「えーっと、貴方は『桃瀬 公彦』さんで間違いないですか?」


 ふと声のした方を見上げるといつの間にかそこには立派な机があり、その向こうに人影が見える。


 よく見るとその人影は金色で長いストレートの髪の可愛らしい顔立ちの女性であった。


「あっ、はい、間違い無いですが、所で貴方は神様なんですか?」


「一応神様ですよ。とは言え、死んだ人達の生前の行いを確認して死後の魂をどう導くかを決めるだけの仕事しか出来ませんけども」


 と笑顔で返してくれた。


 (おおっ! 閻魔大王的なポジションの役職か! 見た目がゴツゴツした強面のオッサンじゃなくて良かった。と言うかめちゃめちゃ可愛いやんけっ! 金髪ロングで乳でけー! 流石女神さまだっ!あぁ、女神様っ!)


「所で俺の評価ってどうですか? 特に犯罪を犯したり悪い事した覚えは無かったはずだけど……」


「うーん? ちょっと女性を泣かせ過ぎていますね。こんなに女性と関係を持ってる人はなかなかいないですよ」


 アウチっ!! 痛いトコを付かれた!


 呆れた顔で女神様は手にしている資料に目を通しながらそう答えた。

 手にした資料には俺が今まで関わってきた人達や行ってきた行動等が書かれているのだろう。結構な厚みがあった。


「ででで、でも地獄に行くほどじゃなくないっすか?」


「そうですねー、まぁこれくらいなら地獄行きとまでは行かないですね、ギリギリ。ただ女性を泣かせ過ぎてますけどっ!!」


 (グハッ、ちょいとそこ強調しないでっ!)


「じゃあ俺、転生出来ます? 出来れば記憶そのままで魔法とかあるファンタジーの世界がいいですっ! あとなんか特殊な能力とかも下さい、無双してハーレム作りたいっす」


 無理は承知ではあったが自分が希望する事を伝えた。まぁ、特殊能力といった力は無理でも前世の記憶を所持したままでの異世界転生は絶対条件だ!


「はっ? 何言ってるんです? そんなの無理ですよ。漫画や小説じゃあるまいし……」


 (ふあっ!? 無理……だとっ……?)


「えーっと……無理って…… どの辺が……?」


「全部です」


 と満面の笑顔で女神様はそう答えた。


「嘘……だろっ……」


「まずですね、貴方はギリギリ問題を起こした訳ではないので、これから輪廻の輪の中に入って他の死者の魂と一つになって貰います。その際に前世の記憶を消させて頂きます」


(アアァァっ!!!! なんてこったい!!)


「そして輪廻の輪に入った後は順番で転生して貰う形となりますが、他の人と魂が混じりあった形ですので、貴方であって貴方では無い新しい魂となって生まれ変わるんですよ」


 嫌だ……そんな……


「あっ、魔法が存在する世界はあるので運が良ければその世界に転生することは可能かもしれませんね。まぁ、前世の記憶は無いですけど。と言う事でコレを頭に付けて下さい。その後、魂を輪廻の輪に導いてあげますから」


 そう言って彼女は机の引き出しから輪っかの様な物を取り出し、それを俺に差し出した。


「えっと……コレは……?」


「これまでの記憶を消去する神具ですよ? さぁ、これを頭に付けて下さい」


「嫌だぁぁぁああっ!! お願いします、なんでもしますから記憶は消さないで下さいいいっ!!」


 俺はその場に土下座し泣きながら女神様に訴える。


 土下座は得意だ。これまで何人もの女性をこれで口説き落としてきた。土下座だけでは無く女性を口説き落とす為には何でもしてきた。靴を舐めたり川に飛び込んだりその他、結構危ない事も数々やってきたのだ。


 ここは何としてでも特例を勝ち取り、今までの記憶を所持したままファンタジーの世界に転生させて貰わなければならない!


「そんな事をしても無駄ですっ! 貴方の手口は既に分かってますからっ」


(しまったぁぁ! 相手は女神っ! あの分厚い資料で俺の手口は知られてしまっているのかっ!! やるじゃねーかっ!)


 だが、異世界ハーレムの為にはココは引けない!


「早くこの輪を頭に付けて下さい!」


「いや、ちょっと待ってっ! ここは『あなたの性欲のステータスを極振りしてしまったのはコチラのミスです。お詫びに好きなスキルを差し上げましょう』的な展開でしょ?」


「はぁ? 何を言ってるんです? それは元々あなたの性格です」


 元々なのかっ!!


 彼女は立ち上がり自分の目の前まで来ると、手にした輪っかを俺の頭に付けようとしてきた。


「待って! 待って! もうちょっと話そ? ねっ? ねっ? 結論を急ぐのは良くないって! あっ、髪綺麗だね! シャンプー何使ってんの?ぼかぁ、君の事もっと知りたいなぁ」


 そう言う俺の訴えを無視し、女神は笑顔で俺の頭に神具を付けようとしてくる。

 俺はその手を掴み神具を付けようとする女神から必死に抵抗しもがく。


「いい加減、諦めて下さい! 貴方の希望する様な事には絶対なりませんからっ」


「嫌だぁああああっ!」


 そう言ってもがく俺の手にふと柔らかい感触が当たった……


 おやっ? この感触は……


 その手にあったのは女神様の柔らかい胸だった。


「えっと……違う、コレはその……不可抗力で……」


 そう言いながらも俺の手は柔らかいその胸の感触を楽しむ。

 恐る恐る女神様に視線を向けると怒りと恥ずかしさからか真っ赤になっている顔がそこにあった……


「…………っ!!嫌ぁあああァァァァっ!!!」


 俺は女神様の平手打ちを喰らい吹き飛ばされ、雲の上にある天界から叩き落とされてしまった。


「のぉぉおおぉぉっ…………」


「……」


 ◇ ◇ ◇


 女神は焦っていた。


 勢いとは言え一つの魂を地上世界に突き落としてしまったのだ。


「エルヴィナっ、どうしたの? 凄い悲鳴が聞こえてきたけどっ!」


 そう言って駆け寄ってきたのは同僚の女神のアーシェリアだ。


「あのっ、いや……今、面談していた魂が私に襲いかかってきて……思わず突き飛ばしちゃったら地上世界に落ちちゃって……」


 エルヴィナの目には涙が溢れていた。泣きながらアーシェリアにそれまでの経緯を話した。


「あー、たまにいるよね変な希望を持ってココに来るやつ。漫画や小説じゃあるまいし、そんな都合良い話あるかっての」


「私……何か罰あるかなぁ? 上位神に怒られちゃうかなぁ?」


「うーん? 今日の予定分の仕事終わったら一緒に報告するのに付いて行ってあげるよ、ちゃんと正直に話したら分かってもらえるって」


「ありがとう、アーシェリア……」


「で、その突き飛ばした魂はどこ行った?」


 そう言いながら二柱は地上世界を覗き込んだ。


「あっ! でも大丈夫じゃない? アイツが入り込んだ体は森の奥で行き倒れて餓死した体みたいだし、すぐに戻って来るわよ。んで、そいつがまた戻って来たら私を呼んでっ。一緒に説教してあげるからっ」


「ふえぇぇぇんっ、アーシェリアありがとうーっ」


「ささっ、いつまでも落ち込んでないで仕事に戻ろっ。んでこの件が片付いたら天界一のスイーツ店のパフェ奢ってねっ」


「もちろんっ! 色々本当にありがとうねっ」


 そう会話を交わした後に二柱は持ち場に戻り仕事を再開した。


「えーっと……次の魂は……『クライド・アンダーウォール』さんね。間違いは無いかしら?」


 アーシェリアの前には一人の青年が立っていた。


「はい……間違いございません。僕はやっぱり死んじゃったんでしょうか……?」


「そうです、貴方は森の奥で行き倒れて餓死しましたね……ん……?」


 天界は普段通りの日常に戻っていた……


 ◇ ◇ ◇

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