第一章 出会い

第1話 プロローグ

 俺は今、長い長い行列に並んでいる。


 ここはどこか? そう、死後の世界だ。


 俺の名前は「桃瀬ももせ 公彦きみひこ」享年43歳独身のごくごく普通のサラリーマンだったと思う。


 ただ、他人とちょっとだけ違った所があるとすれば人より少しだけ女好きだったと言う事ぐらいだろうか?


 幼い頃より女性に興味を持っていた俺は小学校の高学年になる頃には親の財布からお金をくすね取っては大人の本を買いに走ったりする様な、そんなちょっとおマセさんな子供だった。


 その大人な本がいつの間にか親父の書棚の裏に保管されているのを知ってはいたが、そこは男同士、墓場まで持っていく秘密だった。そして実際に墓場まで持って来た俺は偉いと思う!


 初体験は中学生になってからで、相手は近所に住む、自分が幼い頃より優しくしてくれていた女子高生のお姉さんだった。


 そしてこの近所のお姉さんが俺を狂わせた。いや、狂っていた俺を加速させた。


 女性の身体を覚えた俺は猿にでもなったのかと思う程に身体を合わせまくった。若かった……


 自分が高校生になるとお互い環境の変化に伴い、その子とは疎遠となってしまったが女性の身体を知った俺は街行く女性に声を掛け口説き回った。所謂ナンパに走りまくった。


 だが、そう簡単に上手くは行か無かった。そこで俺は女性が好みそうな事を調べ回り如何にすれば女性に興味を持って貰えるかの研究に没頭した。なんて勤勉なんだろうか。


 その成果もあってか学校中の可愛いと言われる女の子は一通り頂戴した。


 当然、周りの男からは嫌われていた。トラブルも度々起こった。校舎裏や公園等に呼び出され顔面ボコボコになるまで殴られたことが何度もあった。めっちゃ痛かった。


 また女性同士が自分を巡ってトラブルを起こし、片方の女の子が刃物を出してきた。流石に刃物はマズイと思い、それを仲裁しようとした結果、自分が刺されたなんて事もあった。無関係な自分を巻き込まないで欲しいと思った。


 結局入院する羽目になったのだが、そこは天国だった。白衣の天使が飛び回っていたのだ。


 勿論、天使さん達を口説きまくり関係を持っていったのだが、漏れ出す天使さんの歌声に他の入院患者から苦情殺到。病院側から強制的に退院させられたなんて事もあった。


 大学に入り親元から離れて一人暮らしになると更に女遊びが加速した。多分この頃が人生一番のピークだった様に思う。


 ちなみに俺は勉強はかなり頑張っていた。馬鹿はモテないという俺の研究成果があったからだ。運動はやればそれなりに出来る方ではあったがモテる為には効率が悪いと感じていたので学生時代に運動系の部活に入らなかった。


 社会人になるとそんな生活からは少し落ち着いた。そこそこ待遇が良い会社に入社出来たし、変なトラブルでクビになりたく無かったので会社の女性にも少ししか手を出さなかった。


 その代わりでは無いが、俺は風俗にハマった。変なトラブルに巻き込まれる事もないし、俺の欲望を充分に満たしてくれる技術。お金さえ出せば自分が理想とする関係が作れるそのシステムにはとても満足していた。


 そんな俺に一つの出会いが訪れた。ランチをとるために会社近辺の定食屋を巡っていたのだが、とある一つの店で一人の女性に目を奪われた。


 容姿は際立って美人と言う訳では無いが笑顔がとても可愛らしく、生まれて初めて恋をした。彼女の名前は真奈と言った。

 今まで出会った女性の中にはもっと美人で、もっと笑顔が可愛い女性はいたのだが何故かその子は他の女性と違っていた。


 彼女の前に立つと緊張で上手く言葉が出て来ず、常に心臓の鼓動は高鳴っていた。


 俺は彼女に心を奪われていた。運命と言う物を信じた。


 ランチタイムの短い時間、相手も接客に追われ忙しく働き、こちらも短い休憩時間内で食事を済ませ会社に戻らなければ行けない立場。当然、ゆっくり会話する時間など無く、ただそれでもオーダーを取りに来た時などに交わすほんの僅かな何気無い会話のやり取り。それだけで心が踊った。


 ある日、会社から都内での仕事を頼まれた。自宅から二時間かけて都内の仕事場へと向かった。

 仕事を済ませ同僚と居酒屋で酒を飲んでいると風俗に行こうと言う話になった。翌日は休みと言う事もありその話に乗った。断る理由も無かった。


 そして風俗街を歩き入った一件の風俗店。同僚はどの子にするかと迷っていたが、俺は特に指名もせずに空いてる子を適当にと店員にと伝えた。

 しばらく待合室で待ち、店員に案内され部屋に入るとそこに居たのは……あの定食屋の子、真奈だった……


 正座し三つ指を付き


「本日はよろしくお願いいたします。」


 と俺に深々と頭を下げる。


 頭が真っ白になった。どう反応していいか分からなかった。


「あれっ、もしかしていつも定食屋の方に来ていらっしゃる方じゃないですか? ここで働いてる事は内緒にしといて下さいよーっ。私、夢があってお金を貯めるために……」


 彼女は俺の事を覚えていた。そして何故この仕事をしているかと話をしていたが、途中から頭に入って来なかった。


 ショックだった。初めて恋をした相手は俺の知らない所で沢山のお客を相手にしていたのだ。そう思うといたたまれなくなった。


 そしてここで俺は今まで自分がしてきた事を思い返した。

 これまで俺は欲望のままに女性達と関係を持って行った。自分の事しか考えていなかった。

 相手が自分の事をどう思っていたのか等と考えた事も無かった。

 もしかして俺は沢山の女性を傷付けてきたのでは無いだろうか?

 恋をして、人を好きになって、初めて裏切られた時の相手の気持ちと言う物を知った気がした。


 いや、別に彼女は俺を裏切った訳ではないのは分かっている。勝手に俺が好きになっただけだし、彼女は彼女の為にこの仕事をしているのだろう。


 だが、それは俺も同じで自分の為に俺は沢山の女性と関係を持った。

 その行ないにより俺の知らない所では今の俺と同じように傷付いていた女性もいたのでは無いかと思うと、ようやくそれまで俺がしてきた事の愚かさに気付いた。


 時間になり部屋を出る。


「またこっちに仕事で来た時にはよろしくお願いしますねっ。あっ、定食屋の方もご贔屓にーっ」


 そう言って笑顔で俺を見送ってくれた彼女に何と答えていいか分からず、返事をする事も無く店を出た。


 それから俺はその定食屋には足を運ばなくなった。女遊びもしなくなった。風俗にも行かなくなった。AVを観て性欲のはけ口とした。


 そんなある日、後輩の「市ヶ谷」という男が話しかけてきた。コイツがまた俺を別の方向へと狂わせた。


「百瀬さんってこういうの興味あります?」


 そう言って渡して来たのはとあるエロゲーだった。

 全く興味は無かったが普通のAVにも飽きていた頃で、ちょっと違った分野もありかな? と思い借りる事にした。


 結果としては俺はそのエロゲにハマった。エロゲだけでは無くそこからアニメや二次元の世界にどっぷりハマった。

 エロゲを薦めてくれた市ヶ谷と共にコミケを回ったり古い作品や小説、二次創作まで網羅した。


 ハマり過ぎてアニメの目のアップを見ただけで、どの作品の何と言うキャラクターか分かるようになった。

 二次元は良かった。誰も傷付けないし傷付かない。


 そんな俺でも会社ではそれなりの役職を与えられ、仕事は忙しくなっていた。


 とある年末の長期休暇前のクソ忙しい時期にトラブルが発生する。


 寝る間もメシを食う暇も無く対応に追われ、家にも帰れず、ゲームもアニメもお預け状態で我慢を強いられていた。

 溜まっているアニメ観たい、ゲームの続きをやりたい小説の新刊読みたい。そんな欲求はピークに達していた。


 なんとか仕事も片付き年末年始の長期休暇となった。俺は寝食を忘れ、溜まっていたアニメを見まくり、ゲームをやりながら過ごした。

 三度の飯よりアニメ、漫画、ゲーム三昧の休日を過ごした。


 そして俺は……


 餓死した……

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