第3話 出会い
(……ん?ココは……どこだっ?)
俺はたった今起こった出来事を思い返す。
確か餓死して天界の様な所で列に並んでいたら女神様が出てきて、その女神様の乳を揉んだら吹き飛ばされて……おやっ?
自分の体に違和感を感じた。天界にいた時のようなフワフワした感じがしない。なんと言うか体が重い。そして苦しい……
(苦しい? あれ? 俺生きてんじゃね?)
そう思い俺はそっと目を開ける。
見覚えのない場所だが周りには木々が生い茂っており、どうやら森の中の様だ。顔には土の感触があり身体は何故か倒れてる。起き上がろうにも体に力が入らない。
(もしかして転生したんじゃね?)
うん、そうだ! 俺は今生きている。が、今どういう状況なのだろう?
そう思い記憶を探る。すると不思議な事にこの身体の記憶が意識の中に入り込んで来た。
この身体の持ち主は『クライド』と言うらしい。歳は十六歳で田舎の村で産まれ育ち冒険者を目指して村を飛び出して冒険者となり薬草採取の依頼を受け森に入り込んだは良いものの、そこで遭難し死んでしまったようであった。
(うひょーっ! マジかよっ!! てかこいつ薬草採取で死ぬとかアホだなっ)
死因に関しては人の事は言えないのだが、俺のテンションは爆上がりした。
(冒険者っ!! 異世界!! キタコレっ!!)
しかも最もテンションが上がったのはこの身体、魔法が使えるのである。弱い風魔法ではあるが、威力が強い弱いは関係ない。魔法を使えるという事実が最も大事なのだ。
自分が求めていた転生がココにあった。
(何だかんだ言ってあの女神様、俺の希望を叶えてくれてんじゃん! ツンデレかよっ)
そう言えばあの女神様の名前聞いて無かった事が悔やまれる。もし名前聞けていたなら彼女の女神像を作り、毎日拝みたい程感謝の気持ちでいっぱいだった。
とは言え喜んでばかりもいられない。重大な問題があった。
そう、この身体……死にそうなのだ。
遭難して死んだ体に入り込んでしまったのだ。当然このままでは死んでしまう。折角、転生し希望の異世界に来たのだ。このまま死んでまた天界に逆戻りとか死んでもゴメンである!
(なんとか生きねばっ……)
兎にも角にも食い物だ。しかし、身体は動かない。
(なんでもいい、何か口に入れなくては……)
そう思いこの身体の残っている力を振り絞り一番近くにあった雑草を手に取る。
(この際、味なんかどうでもいい! なんでもいいから口に入れなければっ!)
手に取った雑草を口に入れようとしたその時だった。手にした雑草をヒョイと取り上げられたのだ。
「何をしておる? コレは毒草じゃ、食えば死ぬぞ」
頭上から女性の声が聞こえた。
(畜生っ!! 何言ってんだっコイツ! 毒草かなんか知らねーが、こっちは食わなきゃ死ぬんじゃボケっ!)
あまりの怒りに声を荒らげたくなったが言葉が出ない。声が出せなかった。
(ああああぁぁぁっ!! 死ぬぅうう! 意識が飛ぶぅぅぅぅ)
「ふむ……? とりあえず水は飲めるか?」
そう言って声の主は俺に水を飲ませてくれた。飛びかかっていた意識が再び戻った。
(いや、マジ神っ!! さっきは心の中で貴方様を汚い言葉で罵ってしまいゴメンなさい!)
「今、持ち合わせている食料は干し肉ぐらいじゃが食えるか?」
俺は声の主が口元に運んでくれたその干し肉に食らいついた。
美味いっ!! 俺がこれまで生きて来た中で一番美味い食べ物が口の中いっぱいに広がった。
まぁ、こっちでは生後五分ぐらいなんだが……
「あ……ありがとう……ござ……います」
俺は少しづつ戻ってきた体力を振り絞って声の主にお礼を言った。
「ふむ、なんとか死なずには済んだみたいじゃの。後はコレを飲め、わし特製の栄養剤じゃ」
三度、声の主は俺の口によく分からない液体を流し込んだ。味はイマイチだったがそんな事はどうでも良かった。その液体を飲んだ途端、身体中から体力が溢れてきた。
その効果は凄まじく、今まで身体の一部を少し動かすのもやっとだったものが翼を与えられたような……とまでは行かないが一気に起き上がれる程になったのだ。
そこで俺は起き上がり、改めて俺を助けてくれた声の主にお礼を言った。
「本当にありがとうございますっ!! お陰様でなんとかギリギリのとこで死なずに済み……まし……」
お礼を言いながら声の主を見上げると、俺は言葉を失った……
「なに、知らぬフリしても良かったのじゃがの、それはそれで寝覚めが悪いでの。助けたのもホンの気まぐれじゃ。気にする事も無い」
「うっ……う……」
言葉が出ない……
「どうしたのじゃ? まだ回復できとらんかの?」
「美しい……」
「はっ?」
声の主は驚いていたが俺はそれ以上に声の主に対して驚いたのだ。
歳は二十代前半位だろうか? 黒色の長い髪、吸い込まれそうな程に美しい青い瞳、透き通る様な白い肌、その全てが俺の目を釘付けにした。
これまで前世で様々な女性に出会い、多くの綺麗な人にも出会ってきた。しかし、そんなこれまで出会った女性が霞むほど今、目の前にいる女性は美しかった。人によっては恐怖を覚えるのでは無いかとさえ思えるほどの美しさがあった……
「ぬっ……ぬしは突然何を言い出すのじゃ!」
少し慌てたような、照れたような表情で彼女はそう言った。
「かっ、回復したのなら早う家に帰れ。わっちもぬしに構っておる程暇では無いのじゃ」
そう言葉を残し彼女はその場を立ち去ろうとする。
「待って下さいっ! えっと……あの、お名前は?」
「わっちはエリーナじゃ、あの『破滅の魔女』と呼ばれ恐れられておる魔女エリーナじゃ。分かったなら早々に立ち去れっ」
破滅の魔女エリーナとはこの身体の記憶にあった。幼い頃、母親が読み聞かせてくれた本の中に出てきた悪い魔女の事だった。
その魔女は国を滅ぼし、忌み嫌われており悪い事をすればその魔女に攫われるよとよく叱られていたようだった。
だがしかし、俺にはそんな話はどうでも良かった。どんなに悪い魔女であろうが目の前の美しい女性に俺は心を奪われてしまったのだ。
「嫌です! エリーナ様っ、私を貴方の弟子にして下さい!」
必殺の土下座を繰り出し、彼女に頭を下げる。
「はっ……? ぬしは阿呆なのか? わっちは弟子は取らんし、取る気も無い。どれだけ頼もうとも無駄じゃ、諦めろ」
「嫌ですっ! 私は貴方の美しさに心を奪われてしまいました。貴方がどれだけ悪い魔女であろうとも私は貴方に付き従います」
エリーナは先程より慌て驚いていた。が
「断るっ! 話はこれで終いじゃ!」
そう言ってまたこの場を立ち去ろうとする。
しかし俺もここで引き下がる訳には行かない。これまでの俺の女性に対しての概念を一目で覆してしまったこの人をこのまま見送る訳には行かなかった。
「お待ち下さい! では弟子にと言った事は一度取り消します。しかし私は今日寝泊まりする場所が無いのです。せめて、せめて一晩だけ夜露を凌ぐ場所を与えて頂けませんでしょうかっ」
そもそもこの身体は行き倒れていたのだ。実際このまま見捨てられてしまえば明日、生きていられるかも分からないのである。
口説く口説かない以前に生きるか死ぬかの瀬戸際であった。
エリーナは立ち止まり振り向き何かを諦めた様子で溜め息を吐き
「はぁ……一晩だけじゃぞ……付いてこい」
そう言って歩き出した。
(もらったああああぁぁぁっ!!)
いや、実際には何かを貰ったと言う訳では無いのだが、ここでエリーナと別れるのと家まで連れて行って貰えるのとでは雲泥の差があるのは明白だ。
かくして俺は魔女エリーナのご自宅へと招かれたのであった。
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