第43話 コミーズ村
ミリアの案内によりコミーズ村の近くに来た時には俺の体力が既に限界だった。それもそのはずで、内臓を取り除いたとは言えクソ重い熊の肉を乗せた荷車を引いてきたのだ。
流石のエリーナも荷車には乗らず、隣りを一緒に歩いてくれているのだが、手伝ってくれる事は無かった。
「あのー、本当に私はお手伝いしなくて良かったのでしょうか? 非力ではありますが多少のお力にはなれたと思いますし」
「なに、構わぬ。これはコヤツの鍛錬も兼ねておるでの。それにの、コレの体力を下手に残しておくと夜が大変なのじゃ。わっちの身体がもたん」
「ぜぇ、はぁ……そ、それは師匠が魅力的過ぎるんだから仕方無いでしょ……」
ふと、反対側を歩くミリアの顔を見ると頬を赤らめ俯いていた。
おやおや、お可愛い事で。初々しくて良い反応じゃあありませんか。
「あっ、村が見えてきました。あそこが私の住むコミーズ村です」
気まずそうに俺達の会話を聞いていたミリアが顔を上げ前方を指差す。
そこには丸太で高く組み上げられたバリケードが集落の周りをぐるりと囲ってる小さな村だった。そのまま村の入口まで行くと村の住人であろう男性が数人何やら真剣な顔で話をしていた。
「ただいま戻りました」
門番らしき男性にミリアが声を掛ける。
「おぉ、ミリア! 何処に行ってたのだ! 皆心配していたのだぞっ!」
「ごめんなさい、ちょっと森の方へ山菜を採りに……」
ミリアがそう答えると、奥にいた別の男性が彼女の目の前へ歩み寄って来たかと思うといきなりミリアに対して平手打ちを与えた。
「馬鹿者っ! 何故、勝手に村の外へ行ったのだっ!」
予想外の展開で一瞬、唖然としてしまったが、俺はミリアの元へ向かい彼女の手を取り引き寄せると庇うように男性との間に割って入る。
「ちょっと待ちなよ、どんな事情があるかは知らないけど女の子に手を挙げるのはマズイでしょ」
「ん? 君は誰だね?」
「俺は旅をしているクライドって者だ。この子が熊に襲われそうになってたのを助けてここまで送って来たんだ」
「なっ! 熊に襲われただと……? ミリアっ! お前は自分の役目がどれほど重要なのか分かっているのかっ!!」
「もちろん分かっています。ただ……村が苦しい時に私だけ何もしない訳にはいかないと思って……少しでも何か村の為にお役に立ちたいと思って……」
「いいのだ、ミリア……お前は村の事は何も心配する必要は無いんだ……」
えっと……なにこの状況? 俺どうしたらいい? エリーナの方へ視線を向けるがエリーナは首を竦めるのみであった。
まぁ、そりゃそうか。
「えぇっと、クライドさんと申されましたかな? ミリアが危ない所を助けて頂いたそうで、ありがとうございます。それとお見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありませんでした」
「あー、いや気にしないで下さい。あと助けたのも女性を守るのが男として当然の役目だし、当たり前の事をやっただけですから」
「えっ、えぇ……そうですね……」
ん? なんだ? なんか歯切れの悪い返事だな。
「あの、村長っ、クライドさん達は今夜泊まれる場所を探してるそうで、この村の空き家にお泊めする事は出来ませんか?」
ほう、このおっさんが村長だったのか。歳は50代後半といった所か? 服はボロボロで体格はかなり痩せているように見えた。
「そういう事ならミリア、お前の家の隣の空き家を使うと良い。案内してさしあげなさい。それと話があるからその後、私の家まで来るように」
「はい、分かりました。ではクライドさん、案内しますのでこちらへどうぞ」
「ありがとうございます村長さん。あっ、泊めてもらえるお礼にさっき狩った熊の肉を良かったら村の皆さんで食べて下さい」
「おぉ! これは助かります。しかし、本当に頂いてもよろしいのですか?」
「あぁ、構わないさ。自分達で食べる分は取り分けてるし、俺達だけじゃこんな食べ切れないしね」
「では有り難く頂戴するとします」
そういう村長達の前に熊の肉を下ろすと、ミリアの案内のもと、今夜の寝床へと案内してもらった。
ミリアの案内の元、村を歩いていると村人が次々とミリアに対して声を掛けて来る。
「おぉ、ミリア、無事だったんだな」
「良かった、心配してたんだぞ」
「はい、ご心配お掛けしました」
といった感じで皆ミリアの事を心配していた様だった。
ん……あれ? なんか違和感が……気のせいかな?
その後、案内された空き家は多少ホコリっぽさはあったものの、家具等も揃っており寝泊まりするには十分なものだった。
「シルフィー、もう出てきていいぞ」
「ぷはぁー! 苦しかったぁー! てかなんでボクは隠れてなきゃいけなかったのさ」
「お前出てくると色々面倒くせぇんだよ。あー、あと出てきたついでにこの家の埃をお前の風魔法で吹き飛ばしてくんねーかな」
「はぁ? そんなのクライドも魔法使えるんだから自分でやってよー」
「そう言わずに頼むよー、俺の魔法は細かい風の操作は苦手なんだよ、こういう繊細な使い方はお前の方が得意だろ」
「もーっ、仕方ないなぁー」
とぶつぶつ言いながらも魔法を使い、部屋の空気を入れ替えてくれた。
「ありがと、シルフィー助かったよ。あとは軽く拭き掃除すれば良さそうだな」
「あっ、あのクライドさん、私は村長に呼ばれていますのでこれで失礼します。あと私の家は隣なので何かありましたら何時でもお呼び下さい」
「うん、ミリアちゃんありがとね」
「いえ、そんな、お礼を言うのはこちらの方です。今日は本当に色々とありがとうございましたした」
そう言って深々と頭を下げると村長の元へ向かって行った。
「師匠、どう思います?」
「どうとは何がじゃ?」
「さっきの村長さんとミリアのやり取りですよ」
「まぁ何か問題を抱えておるようじゃったのぅ。気になったのであれば直接聞けば良かったでは無いか」
「確かにそうなんですけど、部外者の俺たちが事情も知らずに首を突っ込むのもどうかと思いまして」
「賢明な判断じゃ。率先して厄介事に巻き込まれに行く必要もあるまいて」
「うーん、でも、困っている様なら助けてあげればいいじゃん」
とシルフィーが会話に混ざってくる。
「辞めておけ」
「えー、どうしてさー」
「話を聞いて主らの力ではどうにもならん事であった場合はどうするのじゃ? 聞くだけ聞いて力になれませんでは余りにも無責任であろう?」
「うーん、そしたらエリーナが助けてあげればいいじゃん」
「最初から他人の力を借りる事が前提で首を突っ込むなど論外じゃ、話にならんな」
エリーナの言う事はもっともであり、俺もエリーナの力を借りてどうこうするつもりも無い。
「でも、確かに俺には大した力は無いですけど、それでも出来る事があれば助けになりたいじゃないですか。それにエリーナもこの旅で俺がどんな事するか見たいんじゃないですか?」
「ふぅ……まぁ、好きにすれば良い。但し、一度関わると決めたのであれば最後まで責任を持たねばならんぞ?」
「ええ、勿論そのつもりですよ」
一見冷たい対応の様に思えるエリーナの言葉は、俺の事を思っての発言なんだろう……たぶん……
「本当に分かっておるのかのぅ……」
ボソリとエリーナがそう呟いた。
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