第57話 魔道具
ミリアに招かれ彼女の家にお邪魔する。
「あっ、お茶入れますね。そこに座ってて下さい」
「そんな気を使わなくていいのに」
「そういう訳には行きませんよ。なんせこの村を救って頂いた恩人なんですから」
恩人か……それは俺なんかじゃなくエリーナこそがそう言われるべきだろう。
家の中を見渡してみると今座っている椅子とテーブル、そして明かりを灯している燭台以外、他にこれといった家具も無く質素な物であった。
「何も無いでしょ?」
部屋を見渡していた俺に気づいたのかお茶を運びながらミリアがそう話しかけてきた。
「この村は何処の家もこんな感じなの?」
「いえ、私は生け贄になる予定でしたから家にある物は全て他の方達にお譲りしたんです。私が居なくなればこの家も空き家になる予定でしたから……」
そう答えながらミリアはお茶を差し出してくれた。
俺がこの村に来て空き家なら有ると言っていたのもそう言う理由があったのかと納得する。
「それで話したい事って何かな?」
そう聞きながらミリアが入れてくれたお茶を一口飲む。
(あれ? このお茶……烏龍茶……?)
「あの……報酬の件で……」
おっと、今はお茶の事なんてどうでも良い。ミリアの話に向き合わねば。
「それは前にも言った事だけど、気にし無くていいよ。どうしても何かしたいのであればエリーナにしてあげればいい……」
「でも、ゴブリンを討伐して下さったのはクライドさんで……」
「討伐したのは村の人達さ。俺は気持ち悪がってそれを眺めていただけに過ぎない」
「そんな事無いですよ。そもそもクライドさんが討伐を受けて下さったからで……」
「エリーナだって俺がいなけりゃ討伐を受けたさ。口ではあんな事言ってたけど、この状況で何もしない人じゃない。あの人はそういう人だよ」
ミリアは俯き黙り込んでしまった。
「今日村を回って分かったよ。みんな礼を言うのはエリーナに対してであって俺はついでなのさ。この村を救った本当の英雄はエリーナなんだよ」
「そんな事ありませんっ!」
珍しくミリアが声を荒らげて反論する。
「そんな事あるさっ。村の女性達が救い出された時、俺は何も出来なかった。ただ、立ち尽くしているだけしか出来なかった。女性達を治療したのはエリーナとシルフィーさ。俺がやった事と言えばゴブリンの赤子殺して嘔吐して……みっともねぇだろ? 情けねぇだろ? 俺はその程度の男なんだよっ! ミリアからの報酬を受け取る資格なんて俺には無いんだよっ」
「私はっ!!!」
一際大きな声でミリアが俺の言葉を遮る。
「私は……アナタに救われましたっ!! 貴方が掛けてくれた言葉がどれほど私を勇気付けてくれたでしょう……どれほど貴方の言葉で安心出来たでしょう……貴方が私を救ってくれたんです……」
「俺が……救えた……?」
「確かにエリーナ様はとても素晴らしい方です。私も尊敬致しております。でも……それでも、私にとっての英雄はクライド様、貴方なのです……」
嗚呼……そうか、俺は無力じゃ無かったのか……この子を救えたのか……俺は誰かの役に立てっいたのか……
頬を涙が伝う……
「報酬の件でエリーナ様に相談した所、コレを渡されました。クライド様に見せればすぐに理解するだろうと……」
そう言ってミリアが差し出して来たのは消音の魔道具であった……
本当にあの人は……
その魔道具を俺に渡すとミリアは服を脱ぎ出し、一糸纏わぬ姿となる。
「貧相な身体でクライド様を満足させられるかは分かりませんが……私を……私を受け取って頂けませんか……?」
俺は泣きながら彼女を抱きしめた。
「あぁ、分かった。受け取るよ。今日からお前は俺のモノだ」
「はい、一生お慕い致します……」
俺達は彼女の寝室に向かうと消音の魔道具を起動させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます