第40話 遥か遠い過去Ⅲ


 ロイスの論文が発表されてから八年後、NASAはその論文を元に無人の探査機を作成し超高速航行にて月へ転送させる事を成功させた。

 そしてその成功をきっかけにNASAは移住可能な惑星を探す為、宇宙のあらゆる場所へと探査機を飛ばす事となった。


 二〇四三年、NASAは人類が移住可能な惑星を幾つか発見し、その中でも特に地球と環境が酷似し移住先の候補となる惑星を二つに絞り込む。

 一つは惑星「ザナドゥラ」と名付けられ、もう一つの惑星には惑星「スクエニア」と名付けられた。


 この頃になると科学技術も大幅に進化し、脳内に走る電気信号を読み取り、解析出来る技術が大幅に進んだ。これにより人々はメールや通信を携帯機器では無く脳に直接埋め込んだチップを媒介し、考えるだけで他者とコミニュケーションを取れる様になり、またチップを介してインターネットに接続し情報を得ることも可能となっていた。


 この技術は食料危機に対しても活用された。各国では配給制が多く取られ、その配給される食料も加工物の味気無い物であったが、脳内のチップから味覚に対しての部分に電気信号を送る事により、様々な味に感じ取れる様になっていた。


 とはいえ食料危機の問題は更に深刻化しており、食料を巡っての国同士の争いは頻発し、いつ大規模な世界戦争が起こってもおかしくない状況だった。

 この状況により、他の惑星への移住計画は急を要しNASAは幾度かの調査の後に二〇四八年に惑星ザナドゥラと惑星スクエニアへ向け大規模な調査船を送り出す事となる。

 それぞれの調査船には乗組員含め、万が一に備えての兵士や各国の生物学や地質学等のあらゆる専門分野の学者等、約二千人規模の大規模な調査団が乗り込み、その中には日本人も四十数名含まれていた。


 調査船には地球上のあらゆる植物や生物の種子も積み込まれ、惑星ザナドゥラへ向かう調査船を『ノーシュア』と、惑星スクエニアへ向かう調査船には『エルドリッジ』とそれぞれ名付けられた。


 人類の希望を乗せ、二つの調査船は宇宙へと旅立ったが二つの探査船の内の一つ、エルドリッジ号との通信が途絶えた……


 エルドリッジ号に起こったアクシデント。それは転移した先で隕石との接触であった。


 このような事故の危険性は前々より危惧されていた。その為、そういった事故が起こらない様に事前に探査機を飛ばし、目標地点周辺の小惑星や彗星の軌道の観測を行っていたのだが、軌道予測が難しい小型の隕石までは完全に観測する事は困難であった。

 それでも、そういった隕石と接触する様な確率は極めて低く、その確率は数万分の一と言われていた。


 不幸にもエルドリッジ号はその極めて低い確立を引き当ててしまったのだ。

 更に運の悪い事に隕石が接触し、損壊した場所は移転装置のある制御室であった。これによりエルドリッジ号は地球との交信する事が出来なくなり、また帰還する事も不可能となってしまった。


 エルドリッジ号に残された道は惑星スクエニアへの着陸のみであり、幸いにも船を航行させる為の機関室は無事であった。


 こうしてエルドリッジ号は惑星スクエニアに着陸し、乗組員達はこの地で生きていくことを余儀なくされた。

 事前の調査通り、この惑星は人が特別な装備を着用せずとも外で活動する事が可能であり、重力や大気中に含まれる元素も地球とほぼ同等であった。

 乗組員達はエルドリッジ号を拠点に居住区画を作って行くが、地球とは違いコンクリート等の資材が無いため岩場から石を切り出し、その石を積み上げ居住区画を作った。


 更に居住区画の整備と同時にこの地の本格的な調査も行なわれていた。

 その調査の結果、この惑星にも人類によく似た知的生命体がいる事が分かった。人類はこの知的生命体を『亜人』と名付ける。


 亜人は幾つかの種族に別れており、人と交流可能な知的レベルを持つ種族は四種ほど確認され、特に人間とよく似て耳の長い種族を『エルフ族』と、人間よりやや小柄で体格の良い種族を『ドワーフ族』、人間よりやや大柄で身体の表面に硬い鱗の様な物がある種族を『竜族』、青黒い肌に異形な顔立ちをしている種族を『バーバリアン族』と名付けた。


 居住地の開拓は順調に進み、地球から持ち出した種子から植物や生物を育て始めたが、唯一の問題がこの亜人族の一つ、バーバリアン族からの攻撃であった。

 バーバリアン族からしてみれば他所から来た異星人が自分達の星に勝手に住み着こうとしている事が面白いはずも無く、排除しようと思う事は無理もない話であった。


 バーバリアン族は何も無い所から炎や氷を出すという不可思議な攻撃でこの地に降り立った人類を苦しめた。だが、人類も黙ってやられる訳も無く、エルドリッジ号に積み込んであった銃火器等の兵器にて応戦した。


 バーバリアン族との戦いは攻撃してきたバーバリアン族を圧倒的な文明の差で次々と倒して行き、その攻撃を退ける事に成功するが、この件をきっかけにそれまで『バーバリアン族』と呼んでいたこの種族を蔑みや侮蔑の意味も込め『魔族』と呼ぶようになった。


 そしてこの魔族や他の亜人種に興味を持つ物達が現れる。それはエルドリッジ号に乗り込んだ専門家の内の遺伝子工学に携わるチームの者達であった。

 このチームには三人の天才がいた。その内の一人、ロシア出身の女性科学者『イリーニャ・パブロスカヤ』は魔族やこの地に住む亜人達が持つ不思議な力に興味を示し、その不思議な力を『魔法』と名付け、人間もその力を扱えるようになれないかと研究を重ねた。


 そして彼女の研究を手伝う者の中にもう一人の天才である『九條 郁朗』という日本人がいた。

 先の争いで回収した魔人の遺体を調べると寿命が人間の五〜六倍ある事が判明し、彼はそこに注目したのであった。

 そう、彼はイリーニャの研究を手伝いながら不老不死の可能性についての研究を行ったのである。


 イリーニャと九條は共に研究を進め、順調に結果を残していったが共通の悩みに突き当たる。

 それは人体に及ぼす影響が未知である事だった。その為、人体実験を行いたかったのだが、その被験者がいないのである。この地に降りたった人類の数は限られており、一人でも欠けてしまえばすぐに問題となってしまう。


 そこで二人は悪魔的な考えを思いつく。それは子供を作り、その子を実験台にしようと考えたのだ。

 そしてイリーニャは子を産み、育て、その子に二人は様々な実験を行った。その結果イリーニャは魔法についての原理を解明し、人が魔法を使える方法を構築しエルドリッジ内のホストコンピューターにそれらを記録した。


 一方、九條も不老不死を可能とする薬品の生成を成功させるが、その研究結果とイリーニャの研究結果を紙媒体にて記録を残した。


 周りの同僚達は何故面倒で手間のかかる手段を取るのかと不思議がった。エルドリッジ号に乗り込んだ調査員のほとんどが脳にチップを埋め込んでおり、思考するだけでホストコンピューターと繋がり記録を残す事が出来た。そしてそれはこの時代、誰もが当たり前の様に使用している物であった。


 それなのに九條はそれを利用しなかった。理由は二つ。


 一つはこの不老不死の研究は秘密裏に行っており、知っている人物はイリーニャと信頼出来る数名の研究員のみであった。そして不老不死の薬の素材には友好的で親しくなった竜人に提供してもらった血液を利用していた。その関係上、竜人の事がデータ上の記録に残り公になってしまうと、その血を巡り争いが起こってしまう恐れがあると危惧したのだ。


 ただでさえ魔族と敵対関係にあるこの状況で更に竜族との関係まで悪化してしまえばこの地での人類の存亡は絶望的になってしまうと考えたのである。


 そしてもう一つの理由は地球から遠く離れたこの地でエルドリッジ号頼りのこの文明は近い将来、崩壊するのではないかと予見した為であった。

 地球に非常に良く似た環境のこの惑星であったが、地球では人類にとって非常に重要であるにも関わらず、この星で発見されないもがあった。


 それは『石油』である。


 エルドリッジ号においても石油由来の部品は数多く使われており、経年劣化等で部品交換が必要となった際、暫くは予備パーツや代替品で賄えるだろうが、いずれその機能は停止するだろうと考えた。


 エルドリッジ号が将来もし機能しなくなった場合、メインコンピュータに記録された研究データやその他の貴重な記録も全て失われてしまう。故に本という形にして九條は研究結果を残したのであった。


 そして九條は自分とイリーニャの研究結果等を本にまとめ、それを息子に託した。


 両親に実験台として利用される為に生まれ、その結果不老不死と魔法の力を手に入れ、その記録を託された彼の名は『フレイ・パブロスカヤ・九條』といった。



 時は移り、惑星スクエアのゼノギア大陸南方を妖精を連れて旅する若者がいた。彼の名は『クライド・アンダーウォール』という。


 そしてその隣には長い黒髪で芸術的な程にまでて美しき美貌の女性が歩いている。


 彼女の名は『エリーナ』


 フルネームを『エリーナ・パブロスカヤ・クジョウ』という。




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 無事第一章まで完結致しましたが如何だったでしょうか?

 稚拙で拙い文章ではありますが、ここまでお読み頂き誠にありがとうございますっ!


 差し出がましいお願いではございますが、『面白かったよ』と思って頂けましたらレビューにて感想などを頂けますと中の人が泣いて喜びます。また今後の続きを書くモチベーションにも繋がりますので是非ともよろしくお願いします!


 最後に皆様の貴重なお時間を使ってここまでお読み頂き本当にありがとうございます。皆様の今後のご多幸を願って閉めさせて頂きます。


 それでは引き続き二章もお楽しみ下さい。



 中の人 きみちん




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