第二章 旅路の先で

第41話 旅の始まり


 俺の名は『クライド』前世は日本でそこそこ良い会社に勤めていたごくごく普通のサラリーマンだった。


 そこからついウッカリ死んでしまい、天国で女神の乳を揉んだら異世界に飛ばされてしまい、今その異世界を旅している。


「ほれほれ、歩みが遅くなっておるぞ。もっと気合い入れて引かぬかっ」


 そう言って叱り飛ばしてきたのは絶世の美女で偉大なる魔法使いであり、俺の師匠でもあるエリーナだ。


 旅の目的が何かある訳じゃない。異世界に飛ばされ、元いた世界とは違うこの世界を見て回りたいと話した所、快く承諾されこうして旅をしているのである。


 エリーナとの旅はとても快適だった。いや、むしろ快適過ぎた。


 前世でキャンプ等の際にモテる様にと磨いたサバイバルの技術が全く役に立たなかっのだ。


 前世では女の子の前で火を起こしたり水をろ過したり、テントをテキパキ組み立てたりすれば頼れる男子と持て囃されたりしたものだが、この世界ではそれ等全てが魔法で片付いてしまうのだ。なんかちょっと虚しくなってしまった。


「馬……師匠、次の街で馬を買って下さい……じゃなきゃ俺、もう泣いちゃう……」


 一つこの旅で難点があるとすれば、それは荷車を引くのが人力であると言う事だ。そう、俺が荷物とエリーナを乗せた荷車を引いているのであった。


「情けないなぁクライドは。さっき休憩したばっかじゃないか」


 そう言ったのは妖精で俺の隷属であるシルフィーだ。顔は可愛いのだが、隷属の癖に俺に対しての言葉遣いがなってない!


「お前は俺の頭の上に乗ってるだけだろっ! 叩き落とすぞっ」


「きゃー、こわーい! エリーナ聞いたぁー? 助けてー 」


 シルフィーは俺の頭の上から離れエリーナの胸の谷間に飛び込んで行った。


「きゃー、エリーナの胸柔らかーい! あったかーい! 気持ちいい〜!」


「こっ、これっシルフィー! 主は何処を触っておる! くすぐったい、やっ、やめるのじゃ……」


 服の中に潜り込んだシルフィーがエリーナの身体を触っているようだった。

 人々に『破滅の魔女』と恐れられているエリーナに対してなんて物怖じしない子だい!


「んっ! やめい、そこは……んあっ……」


 悶えるエリーナを見て俺は思った。シルフィーのヤツめなんて……なんて……うらや……いや、けしからん! けしからんぞ、もっとや……じゃなくて、これ以上のおイタは辞めさせねば……


「これ、シルフィー! あっ……悪ふざけも……んっ……そこまでに……」


 んー、早く辞めさせねば……でも、もうちょっと様子みてからでも……ダメ……ですかね?ダメですよね……


「おい、シルフィー! その乳は俺のだ! 許可なく触ってんじゃねー」


「えーっ、独り占めとかずるいよクライド。こんなに肌もスベスベなんだもん、ボクだっていっぱい触りたいよー」


「気持ちは分かるが、そこまでだ」


 エリーナの胸元からヒョイっと顔を出したシルフィーに対して微量の魔力を流し込む。


「んぎゃぴっ!!」


 俺の流した魔力にシルフィーに刻まれた隷属の印が反応し、全身に電流が流れたかの様に身を震わせ、そのままパタリと動かなくなった。


「きゅぅ……」


 エリーナが胸元で動かなくなったシルフィーを摘み、荷車の荷台にポイと投げたかと思うと、荷車から降りこちらに向かって歩み寄ってきた。


「とりあえずクライドよ、助けてくれた事に関してまずは感謝しよう」


 俺の肩に手を乗せエリーナが礼を述べた。


「いえいえ、師匠が困っているのを見たら助けるのは当然じゃないっすか」


「ほう、なるほどの……時にクライドよ、では何故困っていると知りおきながらすぐに助けようとせなんだか?」


「あっ……」


「『あっ』では無いわっ、このたわけ者がっ! 大方、わっちが悶える様を見て愉悦に浸っておったのであろう! この戯けがっ、戯けがっ戯けがーっ!」


 エリーナは俺の頭を小脇に抱えヘッドロックの要領でキリキリと締め付けてくる。


「あででっ! いで、すいません! すいません、つい見とれてしまいましたっ!」


 細身の腕からは想像つかない程の強い力で締め上げられかなり痛いのだが、こめかみ辺りにエリーナの柔らかい胸が当たり、コレはコレでご褒美なのではなかろうかと思えた。


「それにじゃ、いつからわっちの胸が主の物になった? 勝手な事ばかり言うでないっ!」


「ぐがぁあああっ!!すいません! むっ、胸だけじゃありません、全身俺の物でしたぁあ!」


「違うわっ!!」


 罰ともご褒美とも取れるエリーナの責めを受けていると


「きゃあああっ!!!」


 と森の奥の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。


「エリーナ! 魔物の気配は?」


「感じぬ。大方、狼か熊にでも襲われておるのやも知れんの」


「んじゃ、俺が行っても問題無さそうですねっ」


 今の俺であれば獣の類いに遅れをとる事も無いだろうと判断し、エリーナのヘッドロックを抜け出し悲鳴のした方へ向かう。


「師匠っ、荷物とシルフィーの事お願いします」


「待て、一人て行くつもりか?」


「大丈夫ですよ、危険と判断したらすぐ逃げますんで」


 そう、俺は一度魔獣と戦い命を落としかけエリーナを泣かせてしまった事がある。その件があってから二度と自らの命を危険に晒すような真似はしないと約束したのだった。


「全く、女子おなごの悲鳴であったからと言って張り切りおって……」


 んー、背後でエリーナが何か言ってる様だが聞こえ無かった事にしとこう。

 いや、例え男の悲鳴だったとしても助けにいっちゃう……よ?


 多分……


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