第5話 縛りプレイ
早速、俺はエリーナに食事の準備をしたいと申し出た。すると意外と素直に調理場へ案内してくれ、食材や調味料の場所等を教えてくれた。
俺は有り合わせの食材を手馴れた手付きで調理し始める。料理は得意だった。コミケや新しい漫画、ライトノベルにフィギアと何かとお金がかかっていたので食事は自炊していたのだ。
作った料理をテーブルに並べるとエリーナは感心してくれた。テーブルに向かい合いながら座り、二人で食事を取る。
「ほう、なかなか美味しいではないか」
「口に合った様で安心しました。まだこの世界の勝手が分からないので少し不安だったんですけどね」
俺の作った料理はエリーナの口に合ったようで一安心だ。
「ところでエリーナさんは破滅の魔女と呼ばれているとの事ですけど、自分の記憶だとその話はかなり昔の話だったように思うのですが?」
この体の母親が読み聞かせてくれた物語の話を思い出す。
「まぁ、そうじゃな。わっちは不老不死の薬を飲んだからな。歳を取らんのじゃ。」
(すげーっ! 驚愕の事実っ!あるんだっ不老不死の薬とかっ! 流石ファンタジーの世界だっ!! こうだよっ、やっぱこうでなくっちゃ!)
「ちなみに現在、どれくらい生きてらっしゃるのですか?」
「四〇〇~五〇〇年程かの? もう数を数えるのも面倒になって正確には覚えておらん」
「ずっと一人で暮らしてたんですか?」
「いや、昔は冒険者として世界中を旅していた時代もあったぞ。しかし、ここ最近二〇〇年程かの? その間はずっと一人じゃ」
(ここ最近二〇〇年はって、なかなかのパワーワードだわ……)
「寂しくありませんでしたか?」
俺のその質問に暫く沈黙が続いた……
「……まぁ、わっちは長く生きた分、人間の嫌な部分を多く見てきたからの……寂しく無いと言えば嘘になるが、もう人とあまり関わり合いたくないのじゃ」
「それでずっと一人で暮らしてらっしゃるのですね……」
「まぁ、大した話でも無いしこの話はここまでじゃ。そう言えばここには来客用の寝具は無いでな。寝る時はその辺で寝てくれ」
昔の話をもっと聞いてみたかっが、エリーナの様子から見るにあまり話をしたくない事なのではないだろうかと感じた。
ここでしつこく根掘り葉掘り聞くのはモテないやつのする事だ。俺は空気の読める大人なのだ。十六歳の体ではあるが。
(と言うかちょっと待て! ここで寝るのか? もうちょい慈悲が欲しい所だ)
「エリーナさん、俺ここで寝るんすか?せめて一緒に寝ましょうよーっ」
「何が一緒にじゃっ! 甘えるでないっ! 夜露が凌げるだけでも有難く思えっ! 嫌ならすぐにここから出ていけっ!」
それはマズイっ!少々調子に乗り過ぎてしまったか。確かに欲をかきすぎた感はあるし追い出されでもしたら元も子も無い。
渋々ではあるがエリーナの言う通りにする事にした。
食事の片付けを済ませると風呂に入ってすぐに就寝するとの事だった。
(……お風呂ですと?)
「よいか? わっちはこれから風呂に入るが絶対に覗いたりするでないぞ! もし覗いたりしてみ……」
「どっ……どうなりますか……?」
「死んだ方が楽と思える様な苦しみを未来永劫与えてやるでな……」
そう言い残し彼女は浴室へと消え去って行った。
(ぐぬぬっ! 何故このエリーナと言う女性はこうも俺の思考の先読みをするのかっ! なかなか手強いっ!)
しかしである、この俺がこのまま引き下がるはずが無い! 要は覗かなければ良いのだっ!!
彼女が入浴しているであろう頃合を見計らって俺は意を決し浴室へ続くドアに手をかける。扉を開けるとそこは脱衣場であった。
エリーナはその奥にある浴室に入っている様だ。
ここでの俺のミッションは覗きでは無い。そんな事をしたら未来永劫続く苦痛を味わってしまう事になる。俺の目的はそう……おぱんつ様である!
本来であれば俺はこんな布切れなどに興味は無い。がっ! しかしだっ! それを着用していたのがエリーナとなれば話は別だっ!
慎重に慎重に物音を立てないように俺は脱衣場に侵入し籠に入っているおぱんつ様に手を伸ばす。
高鳴る心臓。何とも言えないこの緊張感。
嗚呼っ!俺は確かに今生きているっ!! 生きている実感を今、正に味わっている!……と
バンッ!!
浴室に繋がる扉が開いた。
「お主……何をしておる……?」
そこには布一枚で裸体を隠したエリーナが立っていた……
「いや……覗いてませんっ! 俺は無実ですっ!! 覗きなんてやってませんっ!神に誓ってやってませんからっ!!」
「その手に持っておるのはなんじゃ……?」
(畜生っ!! 目の付け所がシャープだぜっ!)
「コレはそのっ……洗濯っ! そう! お洗濯をしなくちゃと思いましてですねっ!」
「よぉ〜けぇ〜な事は〜……せんでええわぁああああぁぁぁっ!!」
強烈なパンチを喰らい俺は吹き飛ばされた。倒れ込んだ俺に更に追撃の蹴りが容赦なく飛んでくるっ。
「出て行けっ!! 今すぐ出てゆけいっ! そして死ねっーーーーっ!」
とどまる事を知らないその蹴りに俺は
(畜生っ!!なんていうご褒美なんだコレはっ!!)
と幸せを感じていた。
散々ご褒美を頂き説教を喰らった俺はこの家を追い出される寸前であったが、泣きながら謝罪をし、なんとか怒りを鎮める事に成功した。
俺が風呂に入る事は許されずロープでぐるぐる巻きにされ、まるで下等な生き物を見る様な目で自分の事を見下した後、エリーナは寝室へと消え去って行った。
なんて素敵な目だろうと思った。
ここで第二ミッションであるベッドに潜り込むという作戦案があったのだが、これ以上エリーナを刺激してしまえば折角勝ち取った永住権を失う事になりかねないので涙ながらに諦める事となった。
(縛りプレイも悪く無いな……)
そう思いながら俺は深い眠りについた……
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